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63歳の親との「実家じまい」で得た意外な気づき

3/6 15:01 配信

東洋経済オンライン

 2020年から続くコロナの感染拡大も重なり、誰もがいつも以上に実家を遠く感じている。実家が地方にある場合、顔を合わすのはせいぜい年1度という人も多いことだろう。

 今度はいつ両親に会えるだろうか?  もし両親が体調を崩したら、何がしてあげられるだろうか?  そんな悩みの、1つの解決策として「いっそ”実家じまい”(=実家を売却すること)をして両親を身近に呼び寄せる」という手もある。もちろん金銭面の不安や、都心であればコロナの罹患(りかん)者が多いことなど、懸念点はある。

 しかしそもそも、実家がいつかは空き家になるという問題を、日本では潜在的に多くの人が抱えているのだ。総務省が2019年に発表した住宅・土地統計調査によれば国内の住宅総数に占める空き家の割合は過去最高の13.6%。特に地方の空き家問題が深刻だ。

 子どもたちが都心で独立し、実家を引き受ける人がいない場合、両親の死後は家を売却せざるをえないことがほとんど。それならば親が健在なうちに実家を処分し、親子で一緒に過ごす時間を長く持とうと考えるのも、合理的ではないだろうか。なぜなら、年に1度両親に会うとして、今両親が65歳だったとしたら、あと20回程度しか会えないかもしれないのだ。

■実家を売却し、若いうちに親を東京に呼び寄せる

 エッセイ漫画『両親が元気なうちに“実家じまい“はじめました。』(大井 あゆみ(文)、二平瑞樹(漫画))の筆者の大井あゆみさんは、2017年に両親が暮らす故郷大分の一軒家を“実家じまい”した体験を、漫画化した。

 大井さんは当時37歳のフリーランスの編集者。両親は当時63歳だった。”実家じまい”と両親の移住は弟も含めて家族みんなで協力した結果だが、以前から準備を進めていたわけでもなく、資金も潤沢ではなかったそうだ。

 「上京を決心した当時の両親は、自営業で退職金もなく、貯金も多くありませんでした。大分の郊外にある実家が高値で売れるとも思えませんでしたし……。それでもやってみればなんとかなるもので、私たちが金銭的な援助をするまでもなく、両親の東京暮らしが始まったのです。

 それから4年経ち、新型コロナウイルスが流行する不自由な時代になりましたが、それでも”実家じまい”をして両親と近くに暮らすメリットを感じています」(大井さん)

 親と離れて暮らす多くの人が無縁ではない実家の問題。体験者である大井さんに、そのメリットや、行動するなかで知った意外な事実、壁となって立ちはだかったことなどを聞いた。

 大井さんによれば、“実家じまい”をすることで3つのメリットがあったという。1つ目は、実家の“負動産”化問題の解決だ。思い出の詰まった実家も、子どもが家を出て自立した後の夫婦2人暮らしには広すぎる。

 両親にとっては日常の掃除や経年劣化の修繕などが負担になっているケースも多い。住人が年をとるごとに家が荒れるというのはよくあることで、管理されていない家は価値も下落してしまう。

 親が元気で家も荒れていない頃に手放せば、思わぬ高値がつくこともある。実際大井さんの大分県の実家は最寄駅から徒歩44分という郊外だったが、1150万円という値で売却できた。正直なところ大井さんは、築30年以上で駅からも遠い実家の売却価格は、せいぜい300万円程度と見積もっていたそうだ。

■元気なうちに家を整理したほうがいい

 ところが、両親がDIYが好きで家をきれいに保っていたのが、思わぬ高評価のポイントだったとのこと。売却するなら両親が元気で家がまだ整理されている状態のほうがよさそうだ。

 2つ目は高齢者ドライバーの問題だ。警察庁の集計によれば、2018年の交通死亡事故を起こした75歳以上のドライバーで、直近に認知機能検査を受検した人を調べたところ、49.2%にあたる204人が「認知症の恐れ」か「認知機能低下の恐れ」との判定を受けていたという。

 若いころの運転のうまい下手にかかわらず、高齢になると認知能力が低下して運転適正が下がってくる。しかし地方の郊外住まいでは日常生活に自家用車が必須。事故の恐れを感じながらも、高齢者は自分で運転せざるをえない。その点交通の便がよい都会であれば公共交通機関を使えるし、徒歩圏内で日常の用事を済ますことも可能だ。

 大井さんの父は運送関係の自営業で、ドライバーとしてはプロともいえるが、だからこそ運転の危険も熟知している。高齢になったら運転せずとも暮らしていける生活を、本人が望んでいたという。

 3つ目は遠距離介護問題の解決だ。親に介護が必要になったときの遠距離介護は介護する側の心身、金銭面の負担が大きい。とはいえ介護が必要な年になってから親に移住してもらうのは、介護される側の負担が大きいものだ。

 介護の心配のない、まだ親が元気なうちに、身近に呼び寄せれば、要介護状態になってからもお互いに大きく生活を変えずに済む。また介護以前に健康状態のチェックをまめに促すことで、要介護状態になることを遅らせられるケースもある。

 親を呼び寄せる際の心配事の筆頭は金銭面。もしも子供が都心部に住んでいれば家賃は確実に地方よりも割高だろう。

 しかし家賃以外の生活のコストを見ると、実は都心部もそれほど高くない。生鮮食品などの日用品は価格競争の激しい都心部では相当抑えられているので、地方とほとんど変わらない。また地方は移動コストがばかにならない。車を所有することは大きな金銭的負担になるし、公共交通機関の利用料も都心よりも地方のほうが高額になりがちだ。

 大井さんの両親のケースでは、持ち家から賃貸になった分の家賃が14万6250円増え、車の維持費がなくなった分、11万6350円減った。大分と東京の生活費総額の差額は約5万円の費用増になる。しかしながら大井さんの両親の東京の家賃は、都内中心部の平均値に近い。同じ都内でも周辺部の地域にすればもう少し家賃の節約ができそうだ。

■高齢者への住宅の”貸し渋り”は社会問題

 大井さん一家が”実家じまい”をして上京するなかで、いちばん困ったのが東京の賃貸住宅探しだ。上京当時両親は63歳と若く、いたって健康だったが、不動産業者に次々と断られたという。結局5つ目の不動産会社で、保証人と契約者を子どもたちにすることを条件にようやく契約がかなったそうだ。

 「我が家は堅実な職業についていた弟が保証人になったことで家が借りられましたが、もしも私が1人で両親を呼び寄せていたら、家が借りられなかったかもしれません。両親は見た目にも若々しく健康なので、それでも、まったく部屋が借りられないことがショックでしたね」(大井さん)

 高齢者への住宅の貸し渋りは社会問題になっている。65歳以上を対象とした賃貸情報サイト「R65不動産」のような取り組みもあるが、社会全体のなかでは少数派だ。

 今後は都内でも空き家率が上昇し、日本の高齢化は進んでいく。高齢者にも住宅を貸す必要性が出てくるはずだが、現状は高齢者が賃貸住宅を借りるのは非常に難しい。

 孤独死などによって事故物件と扱われ、「資産に傷がつく」ことを恐れるオーナーの心情が背景にある。オーナーの責任というよりは、自然死であっても死後長らく発見されなかったりすれば、事故物件(心理的な瑕疵ありの物件)になる可能性があるという、制度に依るものでもある。

 ”実家じまい”に成功した大井さんが今いちばん伝えたいことは「実家と親の今後をどうするかについて、まずは家族で話してみてほしい」ということだ。

 「今回メリットに感じたのは、親が当時63歳と若かったことです。まだ主体的に物事を判断でき、変化に順応できる年代。私もフリーランスという不安定な立場だったので、しっかりとサポートできるかどうかの心配もありましたが、親や自分の若さ故に乗り越えられた部分もあります。

 ”実家じまい”をするかどうかはその方の状況次第ですが、なるべく早いタイミングで、親御さんと向き合って、今後の暮らしや家について話し合うことをおすすめしたいですね」(大井さん)

■実家じまいのメリットに目を向ける必要も

 話し合いをすることによって、思ったよりも早いタイミングで両親が上京することになった大井家。結果的に満足しているとのことだが、”実家じまい”は、親にとっては長年住み慣れた地元を離れること。また子にとっては帰る故郷がなくなることでもある。話し合いの過程でセンチメンタルな気持ちにとらわれることはなかったのだろうか。

 「親は地元に根を張って自営業を営んでいたので、もっと抵抗を感じるものかと思ったのですが、わりとサバサバとしていましたね。それよりも我が子や孫の近くにいられることがうれしいようです。東京に住んでいる私や弟にとっては実家は思い出の詰まった大切な場所ですが、”実家じまい”をしたことで、実は両親はそこで暮らす不便や不安を我慢していた部分もあったと知りました。

 『親は故郷で幸せに暮らしているだろう』というのは、両親を故郷に留め置きたいという私の無意識のエゴで、私たちが故郷を恋しく思う気持ちが、逆に両親を実家に縛り付けていたのかもしれないとも思うのです」(大井さん)

 故郷は自分を育んでくれた思い出の場所であり、いざとなったら帰れる場所。そんな子どもの郷愁が、今もそこに住まう両親の思いや現状から目を背けさせてしまうことも、あるのかもしれない。

 コロナ禍で今後の先行きが不安定な今だからこそ、”実家じまい”のメリットにも目を向けて、思い切って両親と向き合ってみてはどうだろうか。

東洋経済オンライン

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最終更新:3/6(土) 15:01

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