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日本の企業はブランドの本質を知らなさすぎる

3/5 6:01 配信

東洋経済オンライン

日本を代表するマーケッター、森岡毅氏が率いる「刀」が、新たな飛躍のときを迎えようとしている。ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)の再建を果たし、「日本をマーケティングとエンターテイメントで元気にしたい」と会社を設立したのが2017年。これまでに多くの企業のマーケティング支援を行ってきたが、昨年の2020年には大和証券グループ本社と資本業務提携。マーケティングノウハウの移植だけでなく、出資先企業の経営にも深く関与することで企業の成長スピードを加速させる体制を整えてきた。

今後、刀は何を目指しているのか。その先にあるものとは何か。同社の最高経営責任者(CEO)である森岡毅氏に、2回にわけて話を聞く。

■顧客の売り上げを創るために「一緒に汗をかく」

 ――刀を設立してから3年あまりが経ちました。

 P&Gを卒業、ユニバーサル・スタジオ・ジャパンを再建した後、「マーケティングとエンターテイメントで日本を元気にしたい」という私の想いから同志とともにこの会社を設立しましたが、この初志を曲げずにやって来ることができました。

 通常、普通のマーケティング系コンサルタントが顧客に求められる業務は「市場調査」「需要予測」「戦略構築」の3本柱です。たとえばこのうち、需要予測に絞り、1本につき「ある程度の金額」以上で請け負えば、比較的簡単に利益を生み出せます。

 手前みそで恐縮ですが、需要予測で私たちに勝てるマーケティング会社は1社もないでしょう。そのくらい、私たちはこの分野だけでも高度なノウハウを持っています。そこに特化すれば売り上げや利益率はもっと向上します。設立当初は「会社を回して行くにはこうした仕事もお引き受けして、上手に稼いだほうが得策だ」という誘惑に駆られたのも事実です。

 しかし、そうやって利益を上げた瞬間、刀を設立した目的が違ってきてしまうので、歯を食いしばってでもやりませんでした。刀は「マーケティングが自らの手でできるようになる会社をこの日本に増やしたい」という大義の下に、各分野のプロが集まって設立されたマーケティング支援会社です。

 もちろん私たちは需要予測も戦略構築も得意です。しかし、いくら需要予測や戦略だけを売っても、それを受け取った側のクライアントが実務で生かせなければ何の意味もありません。私たちが立てた需要予測、戦略をクライアントに移植し、実際に売り上げをつくるところまで実行して、初めて本当のマーケティングなのです。

■ブランドは現場で創られる

 そして最終的には、私たちが持っているマーケティングのノウハウを移管したら、私たちがいなくなってもそれが機能し続け、自分たちでマーケティングができるようになるところまで持っていきたい。実際にUSJではそれをやってきました。

 この「哲学の部分」がぶれてはいけないと、つねに自分自身に言い聞かせながら、クライアントと一緒になって汗をかき、悩み、苦しみつつマーケットシェアを上げ、売り上げを立てて利益を出してきました。

 たとえば今、私たちは西武園ゆうえんち(埼玉県・所沢市)のリニューアルプロジェクトに携わっています。これについても、もし私たちが「こういうコンセプトで、こんなアトラクションをつくりましょう」といって、企画だけを納品して終わりだとしたら、本当に西武園ゆうえんちは甦るのだろうか、ということです。

 遊園地、テーマパークの集客の本質は、どれだけ「人の感情を揺さぶることができるか」にかかっています。確かにハードも大事な環境のひとつではありますが、それが本質ではありません。本質はそこに来たお客様が何を見て、どう感じているのかということです。ブランドは、まさに現場で創られていくものなのです。

 エンターテイメントの世界では、お客様をどれだけ「感動のるつぼ」に巻き込めるかというところにノウハウがあります。そのためには従業員という人が、どうやってお客様という人を喜ばせるか楽しませるかがキモになります。

 多くの人は経営効率と顧客満足は相反するものだと勘違いしていますが、実は顧客満足度を上げれば経営指標も、すべてよくなります。なぜなら「人は自分を喜ばせてくれるものにはお金を払うから」です。そこに刀としてのノウハウを入れたうえで、従業員のトレーニングから実際の運用に至るまで、広く関わっていきます。

 現在、新型コロナウイルスの感染拡大により、エンターテイメントなどの集客施設は全般的に不振です。しかしそういう時期であったとしても人は動きますし、食べますし、感動したいと思っています。いや、むしろこういう時期だからこそ、人は感動を求めます。西武園ゆうえんちは70年以上続いてきた歴史を持ちますが、今回のリニューアルプロジェクトを通じて、お客様を楽しませながらも、しっかり利益を上げ続けられる持続可能な遊園地をつくりあげていきたいと思います。

 ――コロナ禍で、エンターテイメント業界は本当に困難な状況に直面しています。再生を支援するのは容易なことではありません。

 コロナ禍ではっきり見えたのは「哲学を持っている経営者」と、単に役割としてやっているだけの「サラリーマン経営者」の違いが、残酷なまでに分かれたことです。エンターテイメントの領域でも、そこに従事する人たちの職業使命をどれだけ守る気概を持っているか、というところでリーダーの覚悟が試されています。

 例えば私たちが2018年から支援している大自然の冒険テーマパーク「ネスタリゾート神戸」(旧グリーンピア三木、兵庫県三木市)は、昨年発出された緊急事態宣言を受けて一時期、売り上げがほとんど蒸発しました。そのとき、私たちは需要予測を行う際に使っている数式を用いて、感染者数の将来動向を予測してみました。すると「夏から秋にかけては再度緊急事態宣言が発出される確率はかなり低い」という予測が出ました。そこで、ネスタリゾート神戸の運営側には「夏から反転攻勢をかけます。ここで新エリアをオープンしましょう」と進言しました。

 緊急事態宣言によって売り上げが上がらず、キャッシュフローが枯渇する恐れもあったので、とにかく新エリアを立ち上げて、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う「事故死」を回避しなければならない。そのためには「ブレーキを踏むのではなく、むしろアクセルを踏んで事故を回避するしかない」と、いくつかの根拠を示しながら説明しました。

 当然、新エリアを立ち上げれば広告費が発生しますし、従業員を増員する必要もあります。しかし、経営陣は覚悟を決めて「やりましょう」と言ってくれました。その結果、昨年の9月売り上げが前年比133%、10月が同187%、11月が同161%、12月が同151%という驚異的な結果を出すことができました。

■「哲学を持った経営者」こそ逆境に強い

 これこそがリーダーの決断なのです。私がいくら言ったとしても、受け止める経営者が決断できなければ、何も実行できません。もともと同施設は、年金福祉事業団が全国に整備したグリーンピア施設のひとつです。莫大な資金を投入して造ったものの黒字化せず、いわば民間に「払い下げられた」のです。このように、なかなか引き受け手自体が見つからないところに「蘇らせよう」と手を挙げたのが現経営陣でした。

 このような決断ができたのは、この施設を蘇らせることが地元貢献のために重要であることを現経営陣が本当に信じていて「何が何でも成し遂げたい」と思っていたからです。

 しかも、すべて自分たちの手で何とかしたいというエゴを捨て去り、私たちのような外部の人間を招聘してでも目的を達成しようとする実行力は、哲学を軸に経営を考えているからこそ、生まれるものだと思います。今回のコロナ禍のような危機に直面したときほど、哲学を持って経営にあたることの大切さを、改めて認識しました。

 ――昨年、刀は大和証券グループ本社と資本業務提携、140億円のマイナー出資を受けました。また1000億円規模で別途お金を集め、地方のレジャー施設の再生など持続可能な事業の創出も手がけることを表明しました。

 刀を2017年に立ち上げた後の昨年までの3年余りは、自分たちの哲学や将来ビジョンを曲げることなく、首尾一貫したマーケティングノウハウをクライアントに移管し、私たちがいなくなった後でもそれが機能し続け、クライアント自らがマーケティングできるようにする、ということを愚直に続けてきました。

 昨年、大和証券グループ本社から入れていただいた140億円は、こうした私たちのスタンスに対する評価だと思っています。この資金を得たことで、私たちは蝶で言えば幼虫の時期から、サナギという「次のステージ」に移ることができました。

 戦略パートナーを得たことで、刀の創業時から考えていた①マーケティングのノウハウを売る②エンターテイメントを日本の成長産業に変えていく③「直接投資によって経営に関わることで事業を成長・再生する」という「3つの事業の柱」のうち、③の形が固まってきました。この3つはすべてつながっていますから、私たちが蝶になるときには、3つが「より強固な柱」となっているはずです。

 ――「直接投資によって経営に関わることで事業を成長・再生する」とはどういうことでしょうか。

 実は、顧客側が「私たちのマーケティングコンサルテーションを通じて、首尾一貫したノウハウの移管を受ける」という意思決定をできず、残念ながら事業がうまくいかないケースが多々あります。事業そのものには高い価値があるにもかかわらず、さまざまなしがらみなどで経営の当事者が正しい判断を実行に移せなければ、どれだけ優れたマーケティングノウハウを入れたとしてもダメなのです。

 そういう場合は、マーケティングコンサルだけではなく、直接経営にも関わりながら実行に移すことも必要になると、刀を設立したときから考えていました。これについては会社設立から5年以内に実現したいと思っていましたが、実際には2年程度で実現できることになったのです。ここで「蒔いた種」が花開いたとき、刀は第3期を迎えて、いよいよ高く羽ばたくことをイメージしています(後編に続く。後編は3月6日に配信の予定です)。

 (編集協力:鈴木雅光)

東洋経済オンライン

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最終更新:3/5(金) 16:31

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