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スズキ、修会長退任後に直面する「2つの難題」

3/5 6:01 配信

東洋経済オンライン

 自動車業界の最長老が一線を退く――。

 2月24日、スズキの鈴木修会長(91)が6月の株主総会後に退任し、相談役に就くことを発表した。今後は会長の長男でもある鈴木俊宏社長(62)が名実ともに同社トップとして経営を担う。

 修会長は1978年に48歳で創業家4代目の社長に就任。その後、会長職や社長、会長兼社長など、役職を変えながらも43年にわたって実質トップを務め、強力なトップダウン経営でスズキを年商3兆円企業に育て上げた。

 修氏の存在なしに国内の軽自動車の歴史は語れない。排ガス規制導入とオイルショックで急激に需要が冷え込んだ1970年代後半、スズキは徹底的にコストを削って、47万円の「アルト」を発売して世間を驚かした。その後も車高を高くして乗り込みやすくした「ワゴンR」など新たな車形を発案し、軽市場の発展に大きく貢献した。

■インドに大きな地盤築く

 さらに、スズキの大黒柱に育ったインド事業も修氏の先見の明によるものだ。1980年代前半、インド政府は自国での自動車産業育成のため、国営企業(マルチ・ウドヨグ)の合弁相手を探して日本の自動車メーカー各社と交渉。大手がまだインドに関心を示さない中で、スズキは当時社長だった修氏自身が熱意を持って対応し、合弁先に選ばれた。

 インドの経済成長とともに、現地合弁での小型車の生産台数は右肩上がりで拡大。2002年にスズキが株式の過半を引き取って子会社化し、2006年には完全民営化された。その後、インドにおける新車販売の市場規模は1国としては世界5番目にまで大きくなり、スズキの世界販売台数の約半分を占める太い柱となった。

 これまで、修会長は幾度となく経営トップの引き継ぎを試みたが、後継者に考えていた人物の急逝や病気に見舞われ、世代交代はなかなか実現しなかった。2015年に長男の俊宏氏に社長職を譲った後も会長にとどまり、実質的なトップであり続けた。その修氏が6月をもって退き、俊宏氏に経営のバトンを完全に引き継ぐ。

 トップダウンだった修氏時代と経営スタイルは大きく変わる。修氏は自身の退任に際して、常務役員5名を専務役員に昇格させる人事も決めており、従来は1人だった専務役員を4月以降は6人に増やす。

 その中には、デンソー出身で四輪パワートレイン技術本部長の山下幸宏氏(2018年入社)、トヨタ自動車から2020年に招いた社長補佐の石井直己氏(6月からは経営企画室長を兼任)らも含まれる。俊宏社長を6人の専務役員らがサポートする「チーム・スズキ」で知恵を出し合い、自動車産業の大変革期を乗り切ってほしいとの思いが込められている。

 ようやく実現するスズキの経営の世代交代。しかし、新経営陣が乗り越えるべき壁は高い。会見の席上、俊宏社長自身が「CASE対応の遅れなど多くの課題が社内に残っている」と認めたとおり、特に電動化は最重要課題だ。

 菅義偉首相が2050年のカーボンニュートラル実現を目指すと宣言し、国として2035年までに乗用車の新車販売すべてをHV(ハイブリッド)やEV(電気自動車)などの電動車にする国家目標を設定した。日本独自の小型車規格である軽も乗用車として一律に同じ目標が課せられ、本格的な電動化対応は待ったなしだ。

■簡易型HVの限界

 スズキは軽自動車業界の中ではHV化で先行してはいるが、あくまで「マイルドHV」と呼ばれる低コストの簡易型にすぎず、燃費改善効果も小さい。国をあげて二酸化炭素の排出量削減を目指す中、登録車と同じ「ストロングHV」の導入が避けて通れないが、軽自動車や小型車を専門とするスズキならではの難しさがある。

 資本提携関係にあるトヨタからHV技術の提供を受けることは可能だが、サイズや排気量の大きな登録車用の技術の転用ではコストが高くつく。軽は車両価格の安さを売りにしているだけに、それで大幅に価格が上がれば、存在意義自体が薄れかねない。このため、軽などの小型車に最適な低コストのストロングHV技術の独自開発を目指す。また、将来のEV化に向け、トヨタとプラットフォーム(車台)の共同開発にも取り組む。

 修氏の退任発表と同時に公表した5カ年の新中期経営計画では、2021年度からの5年間で1兆円の研究開発費を投じる計画を盛り込んだ。2020年度の見込みが約1500億円なので、来年度以降は年間3割以上積み増す計算だ。

 「1兆円のほぼ全額に近い金額を電動化対応に費やす。スズキが2025年以降も生き残ることができるよう、電動化技術を集中的に開発する」と俊宏社長は危機感をあらわにした。

■インド市場の競争は激化

 もう1つの課題はインド市場での競争力維持だ。現地子会社のマルチ・スズキは新車販売で5割の圧倒的なシェアを有しているが、インドの市場成長性に目をつけた長城汽車や上海汽車といった中国勢や、韓国の起亜自動車が近年相次いで参入。足元の競争環境は以前よりも激しくなっている。 

 中でも韓国の起亜自動車は2019年に現地では高価な中型SUVでインド市場に参入し、2020年に6%の販売シェアを獲得した。同じ韓国の現代自動車も中型SUVの販売が好調だ。いずれもマルチ・スズキが得意とする小型車より値段が高いが、現地の高所得者の間で人気を集めている。

 スズキは小型かつ安価な車を売りにして、インドで現在の地位を築いた。しかし、起亜の中型SUVのヒットが示すように中・高価格帯車種のニーズも着実に増え始めており、インド市場で高いシェアを確保し続けるには、多様化する現地消費者のニーズに細かく対応する必要がある。

 俊宏社長は「今のシェアを保つのは非常に大変なこと」としつつも、「各セグメントで適切なモデルを投入し、乗用車でシェア50%を維持する」と意気込みを語った。

 修会長は会見の席上、俊宏社長に送る言葉を尋ねられ、「若手のチーム力を最大限に利用して、2030年、2050年につなげてほしい」とエールを送った。電動化の大きな波を乗り越えつつ、インド市場を死守できるかどうか――。バトンを渡された俊宏社長を筆頭とする新経営陣に、スズキの未来が託された。

東洋経済オンライン

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最終更新:3/5(金) 6:01

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