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ケインズの「一般理論」の何が新しかったのか

3/5 6:31 配信

東洋経済オンライン

経済学史上で最も重要で影響力の大きい本と言われる『一般理論』(ジョン・メイナード・ケインズ著『雇用、利子、お金の一般理論』)。現代でも「ケインズの美人投票」など『一般理論』の内容が引用されることも多い。なぜケインズは今でも読み継がれているのだろうか。
そんな『一般理論』のエッセンスを凝縮し、現代的な意義をわかりやすく解説した『超訳 ケインズ「一般理論」』が刊行された。本書の解説も手掛けた編訳者の山形浩生氏による「はしがき」をお届けする。

■ケインズ『一般理論』が刊行された当時の状況

 時は1936年。第一次世界大戦が終わって喧噪の1920年代を迎え、繁栄を謳歌していた世界経済は、1929年のウォール街大暴落に端を発する大恐慌から一向に回復できずにいた。失業率は20パーセントを超え、その後少しは落ち着いたものの高止まりを続けていた。そして……当時の経済学は、その理由をまともに説明できなかった。

 主流の経済学は、これは大恐慌で市場の仕組みが乱れたせいなのだ、と論じていた。好況時に積もった在庫がハケれば、雇用は自然に回復するのだ、と。が、実際の在庫を見ても、別に在庫が過大というわけでもない。それでも失業は改善せず、不景気は続いた。

 一部の人は、これがバブル期に羽目をはずして騒いだ代償なのだ、と論じていた。「山高ければ谷深し」とか、説教がましいことを言って悦に入っていた。つまりは我慢しろということだ。

 でも、どう見ても代償を支払わされていたのは底辺労働者で、羽目をはずして騒いでいた人たちではなかった。そして、我慢しろといっても、いつまで? 

 意識の高い知識人たちは当時もいまと同じくそうした人の不幸を大喜びして、「それ見ろ、これは資本主義の限界を示すものであり、これからは社会主義の時代なのだ」と鼻高々だったが、なぜこんな大恐慌が起きたのか、社会主義だとなぜそれが起こらずにすむのかについては、まともな説明はできなかった。

 さらに一部の人は、もう経済の仕組みが変わってしまったのだ、と論じた。18世紀のすばらしい技術革新の時代が終わり、また人口増加率も激減してきた。だから経済成長が当然の時代は終わり、長期停滞の時代がやってきたのだ、もはや経済学はいまの不景気を新常態とする新しい理論体系へと移行すべきだ、と。が、具体的には? 

■社会科学分野史上で最も重要で影響力の大きい本

 そこに忽然と──でもなく、この本の登場はかなり前から予告されていて、なんかすごい本が出るぞ、という評判は十分に広まっていたのだけれど──登場したのが本書『雇用、利子、お金の一般理論』、通称『一般理論』だった。

 本書は経済学史上──人によってはあらゆる社会科学分野史上──で最も重要で影響力の大きい本とすら言われる。この本は、第二次世界大戦後の世界の経済政策を一変させ、そして社会における政府の役割も徹底的に変えた。

 そしてもちろん、本書は経済学という分野をよくも悪しくも震撼させた、革命的な本だ。

 前述したように、それまでの経済学は基本的に、市場が何でも解決する、と述べていた。何かが余っても値段が下がって自然に解決する、失業はすぐなくなる、と考えた。

 だが本書は失業というものが一時的な過渡期のあだ花などではなく、定常的に存在し得ることを説明し、そしてそれが金利を通じてお金の市場に左右されること、さらにそのお金の市場は将来の不確実性にビビって現金を持ちたがる人々の思惑で決まってしまうという理論を、まとまった形でほぼ初めて示した。

 そして個々の人や産業だけを考えるのではなく、ある経済を全体として考えるマクロ経済学の枠組みを初めて示した本となる。

 その理論が正しいと考えるかどうかは、人による。本書が基本的には正しく、おかげで経済学が現実的な有効性を取り戻し、世界は救われたと考える人もいる。

 その一方で、一部の人にとって本書は悪魔のささやきだ。本書によって、第二次世界大戦後の「大きな政府」が正当化されてしまい、民間の純粋な需給をまったく無視した見当ちがいの市場介入と公共投資、さらに中央銀行のへっぽこ金利操作が横行して市場の働きが徹底的に乱され、それが目先では効果を上げたように見えても、実はさらなる危機の種を蒔き、世界経済をますます大きな危機へとたたき込んでいる─―そう考える人にとって、ケインズと本書こそが諸悪の根源となる。

 そのどっちが正しいか、という話はみなさんご自身の判断にお任せしよう。『超訳 ケインズ「一般理論」』の解説では、そのための材料も提供する。ただ、いったいそこでのケインズの理屈=『一般理論』の理屈というのはどういうものなのかについては、ざっとわかっておいて損はない。

 本書はこの『一般理論』の超訳/抄訳となる。原文をかなり端折った、ということだ。が、世に出回っている、かなりいい加減でまとめ人の勝手な書き換えだらけの超訳/抄訳とは一線を画した(つもりではある)。その方針としては以下の通り:

• 原文の重要な論理の流れを重視する。それに伴う附随的な説明や脱線、引用は削る。
• なるべく原文を重視しつつも表現の現代化を図る。古い大仰な言い回しで意味がとりにくくなっている部分は現代的に書き直す。
• 小ネタや有名用語は、原文の文脈がわかるようにその部分を全部残す。
 でも、そこで言う「原文の重要な論理の流れ」とは何か?  ぼくは以下のようなものだと考えている。

1 雇用、特に労働は名目賃金が簡単に下がらない。だから価格を通じた市場での需給調整はきかない。

2 その場合、雇用は経済全体の総需要で決まる。これが経済の供給能力より低いと失業が起きる。
3 総需要は、消費と投資に分けられる。
4 消費は、かなり一定だ。だから需要が十分かどうかを左右するのは投資だ。投資が足りなければ、政府が公共投資をして補うべきだ。
5 民間の投資は、投資プロジェクトの期待収益率と金利で決まる。期待収益率が金利より高いプロジェクトが実施される。
6 期待収益率は、あまりはっきりわからない。株式市場もその評価のあてにはならない。だから投資を増やすには金利を下げるべき。

7 金利は、人々が流動性=現金を手元に持ちたがると上がる。中央銀行がお金を刷って人々に配れば、みんな満足するので金利は下がる。
8 現金をどのくらい持ちたがるかは、実体経済とは連動しない。だから失業がなくなる水準まで金利が自動的に動いたりはしない。失業があるほうが一般的で、完全雇用のほうが特殊なのだ! 

■多くの経済政策は『一般理論』に基づいている

 これ自体、特に異様なものとは思えないはずだ。というのも、アベノミクスを含め、いまの多くの経済政策は、基本的にこの理屈に沿って行われているからだ。不景気なら、中央銀行が金融緩和をして金利を下げ、投資を促進しよう。さらに政府が財政出動をして需要をかさ上げしよう─―こうした政策はまさに、このケインズの『一般理論』に基づいたものだ。

 『超訳 ケインズ「一般理論」』ではこの流れをハイライトできる部分をできる限り選び、通読して理屈が通るようにしてみた。もちろん、少し古い文だし、どこまでわかりやすくできるかは限界もある。が、まずはお読みいただこう。

東洋経済オンライン

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最終更新:3/18(木) 12:08

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