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惜しい!「伝え方が残念」で人生損する人の盲点

3/5 13:01 配信

東洋経済オンライン

「社会人になってから長い間『暗黒時代』が続きました。そこから抜け出せたのは、『生きる知恵としてのマーケティング』のおかげです」
数々のグローバル企業でマーケターとして活躍している井上大輔氏は、自らの経験を振り返って語る。
「マーケティングのエッセンスを『生きる知恵』として人生に活かせば、仕事・キャリア・プライベートのすべてで『求められる人』になれると気づいたんです」
そんな「生きる知恵」を解説する書籍『マーケターのように生きろ:「あなたが必要だ」と言われ続ける人の思考と行動』を上梓した井上氏に、あらゆるコミュニケーションにおいて参考になるマーケティングの英知を解説してもらった。

■「愛の告白」を考えるのにどれだけ時間をかけたか? 

 「夏目漱石が『I love you』を『月が綺麗ですね』と訳した」――SNSで定期的に話題となり、その度に大きな反響を集めている有名な話ですが、そういう事実はないそうです。ただ、誰が言い出したかは別として、この逸話は現代の日本人に広く受け入れられています。

 たしかに、この言葉は日本人の感性をとてもよく表現しています。好きな人に「愛してる」なんて、私たち日本人はなかなか言えたものではありません。「奥手」であることの後ろめたさを肯定してくれる感覚と、何よりそんな繊細な感性への共感が、この逸話が支持され続ける理由なのではないでしょうか。

 さて、記事を読み始めたばかりで恐縮ですが、ここで一呼吸ついて、あなたが初めて「愛の告白」をしようとしたときのことを思い出してみてください。

 相手は誰でしたか?  その人とは今もSNSでつながっていたりするでしょうか?  どんな伝え方をしましたか?  それを考えるのに、どれくらいの時間をかけましたか?  何日も何日も思い悩んだあげく、結局何も伝えられなかった。そんな人だっているかもしれません。実は私もその1人です。

 人はなぜ、これほど時間をかけて「愛の告白」を考えるのでしょうか。それは、その気持ちを「どう伝えるか」が、その後の人生を大きく変えるとわかっているからです。好きではなかったけど、想いを打ち明けられて交際を始めた。それが今のパートナーだ。そうした例は、私の知り合いだけでも数えきれないくらいあります。

 別の見方をすると、この場合「何を伝えるか」は極めて明確です。自分がその人を愛していて、その思いを伝えたい。それは確かで、そこには迷う必要も、考えを整理する必要も一切ありません。問題はそれを「どう伝えるか」だけなのです。

■仕事では「何を伝えるか」にばかり時間をかける

 ここで話題を一変させましょう。自分が世界でいちばん入りたい会社の、最終面接に運よく漕ぎ着けたとします。そこで自分の魅力を伝える、3分間の「自己紹介」を考えてみてください。

 これまでの経験、受賞歴や表彰歴、持っている資格や学歴、秀でているスキル、あるいは独自の仕事観や仕事哲学。伝えたいことはたくさんあるはずです。3分のスピーチに整理するには、「何を伝えるか」をよく考えなくてはいけません。

 このような場合、面接までの準備時間が1週間あるとしたら、多くの人がその大半を、「何を伝えるか」の整理に使うのではないでしょうか。

 一方で、それを「どう伝えるか」の準備にはほとんど時間を使いません。例えば自分の「仕事観」を伝えるのに、それをそのままストレートに伝えるという方法もありますが、自分の生い立ちや、そのきっかけとなったストーリーを通じて伝えるという手もあります。「突然で恐縮ですが、祖母の話をさせてください」と自己紹介を切り出してもいいわけです。

 愛の告白ではあれほど時間をかけて準備をした「どう伝えるか」ですが、ことビジネスとなると、とかくないがしろにされがちです。しかし、人と人が言葉を使ってコミュニケーションする、という点では、愛の告白も面接の自己紹介も同じです。自分のことを好きではなかった異性に想いが通じ、その人が生涯のパートナーとなることがあるように、「どう伝えるか」は時に人生を大きく変える力を持つのです。

 もちろん、本質は「何を伝えるか」で、それをしっかりと整理できていることが大前提です。「ただ口だけがうまい人」になっても仕方ありません。

 しかし、伝える内容に真実がある、だけでは不十分なことが多いのです。そのうえで、「その真実をどう伝えるか」にも全神経を集中させる人がいたら、勝利の女神がそちらにほほ笑むのは疑うまでもありません。生涯のパートナーを選ぶにも「どう伝えるか」がものを言うのですから、その場その場のビジネス判断に「どう伝えるか」が影響を与えるのは、半ば必然です。

 ビジネスパーソンは「どう伝えるか」に惑わされず「何を伝えるか」で公平に判断するべきだ、という意見もあるかもしれませんが、人と人とのコミュニケーションには必ずギャップが発生します。同じ言葉や事柄に対して、それぞれが別の先入観や前提知識を持っているからです。

 相手が社長なら部長より専務、相手が専務なら課長より部長、など、立場が近しい人が持っていくと話が通りやすいのはそのためです。そうであれば、「何を伝えるかで公平に判断する」ことはシンプルに不可能なのです。それは能力や資質の問題ではありません。

 「突然で恐縮ですが、祖母の話をさせてください」で始まる自己紹介は、実は実際に私が面接で使ったものです。

 私は就職・転職における面接試験が比較的得意で、その通過率に驚いた転職エージェントに「秘訣」を聞かれたことがあります。答えは「どう伝えるか」をしっかり準備する、です。1週間の準備期間があったら、「何を伝えるか」の整理のみならず、少なくともその半分を「どう伝えるか」の準備に使います。

 しかし、残念ながら、これは私の発明でも何でもありません。広告・マーケティングの世界では当たり前のことなのです。

 洋の東西を問わず、広告代理店には大きく3つの職種があります。AE(アカウント・エグゼクティブ=営業)、ストプラ(ストラテジープランナー)、クリエイティブです。ストプラはデータやマーケティング理論を駆使して「何を伝えるか」を考えます。クリエイティブはそれを「どう伝えるか」に文字通り心血を注ぎます。ストプラとクリエイティブをキャスティングし、その全体をプロデュースするのがAE=営業です。

 広告制作の現場では、「What to say」と「How to say」という言葉が頻繁に飛び交います。「What to say」が「何を伝えるか」、「How to say」が「どう伝えるか」です。広告制作においては、この2つの議論を区別し、特に「どう伝えるか」、つまりクリエイティブのパートにより多くの時間とお金と情熱を注ぎ込みます。なぜなら、広告コミュニケーションにおいては、この「どう伝えるか」が何より大きくものを言うからです。

■コミュニケーションの「ギャップ」を最小化する工夫

 先ほども少し触れましたが、人と人とのコミュニケーションには「ギャップ」がつきものです。例えば、あなたは「大都会」と聞いて何を思い浮かべるでしょうか? 

 「クリスタルキング」「ニューヨーク」「シンガポール」「東京」「新宿」「岡山」――これらはすべて、研修でこの話をしたときに、生徒から実際に返ってきた答えです。まったく同じ言葉でも、受け手によってここまで受け取るイメージに差が出るものなのです。

 いかなるコミュニケーションにおいても、発信側と受け手側にはこのようにイメージのギャップが発生します。そのことを意識し、受け手の頭の中でそのメッセージがどう処理されるかを考えないと、伝えたいことはうまく伝わりません。改めて強調すると、「何を伝えるか」が上手に整理されていたとしても、それだけではその内容が正しく伝わらない可能性が大いにあるのです。

 広告などの「マスコミュニケーション」においては、発信側と受け手側が直接相対しないのと、前提情報を知っている・知らないの差が大きいので、このギャップは肥大化しがちです。そこで、「どう伝えるか」をとことん突き詰める「クリエイティブ」という職能が発展してきたというわけです。

 また、ビジネスにおいては、そもそも自分の話に熱心に耳を傾けるモチベーションが受け手側にない場合も多いでしょう。広告はその典型です。

 そういった場合には、まず相手の「心のドア」を開けてもらわなくてはなりません。それには笑ってもらったり、驚いてもらったり、共感してもらったり、感動してもらったりして、つまりは相手の「心を動かす」必要があります。ここでも「どう伝えるか」の工夫がものを言います。

 受け取るイメージのギャップの問題も、自分の話に耳を傾ける相手のモチベーションの問題も、広告などのマスコミュニケーションに限った問題ではまったくありません。面接やそれに先立つ書類選考をはじめ、上司や顧客への企画の提案など、あらゆる場面で発生するものです。

 であれば、広告の世界で発展してきた「どう伝えるか」の真髄を、そこに応用しない手はありません。

■「私には夢がある」が動かした世界

 1963年8月28日、マーティン・ルーサー・キング牧師は、アメリカの首都ワシントンDCで、25万人のデモ参加者を前に有名な「私には夢がある」演説を行いました。1964年の「公民権法」策定に大きな影響を与え、アメリカの、いや世界の歴史を動かしたこの名演説には、「どう伝えるか」の工夫が詰まっています。

私には夢がある。それは、いつの日か、私の4人の幼い子どもたちが、肌の色によってではなく、人格そのものによって評価される国に住むという夢である。
出所:AMERICAN CENTER JAPANのホームページより抜粋

 キング牧師は、「有色人種に対する人種差別の撤廃を訴える」というWhat to sayを、このようなHow to sayで伝えました。

 もしこの演説が、牧師のWhat to sayをそのまま表現しただけのものだったらどうでしょう。世界は今とは少し別のものになっていたかもしれません。このように、「どう伝えるか」には、時に「歴史を動かす力」すら宿るのです。「人生を変える力」は言うまでもありません。

 「どう伝えるか」の巧者になるのは、もちろん簡単なことではありません。それが簡単にできたら、誰もがオバマ元大統領やキング牧師のような歴史の変革者になれますし、広告のクリエーターたちの仕事はなくなってしまいます。

 ただ、その技術はすぐには体得できなくても、彼女たち/彼らの心がけを盗むことはできます。「何を伝えるか」を考えたら、それと同じくらいの時間と情熱をかけて、それを「どう伝えるか」を考える、という心がけです。

 広告はお客様へのラブレターだ、と言う名経営者がいます。まさに慧眼です。面接でも、企画の提案でも、営業でも、すべてのビジネスコミュニケーションは「ラブレター」であると考えるべきです。

 初めてした「愛の告白」を、ここでもう一度思い出してみてください。相手とSNSでつながっていれば、その人のプロフィールに訪れてみるのもいいかもしれません。そのとき、自分の気持ちを「どう伝えるか」に、どれだけの時間をかけて思い悩んだでしょうか?  

 来週の会議で、自分の企画を「どう伝えるか」。「愛の告白」のときと同じくらいの時間と情熱をかけて、これからそれをじっくりと掘り下げてみてはいかがしょうか。

東洋経済オンライン

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最終更新:3/5(金) 13:01

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