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「就職人気企業に飛びつく」日本人に欠けた視点

3/4 15:31 配信

東洋経済オンライン

新型コロナウイルスの感染拡大などにより、これまでの「常識」では解決できない問題が数多く立ちはだかっています。先が読めない時代をどう捉えて生きていけばいいのでしょうか。立命館アジア太平洋大学(APU)学長・出口治明氏の『カベを壊す思考法』より一部抜粋・再構成してお届けします。

■かつての「成功モデル」は賞味期限切れ

 毎年発表される「大学生の就職人気企業ランキング」を見ると、誰もが知っている大手企業がずらりと並んでいます。また、「新卒で入った会社に定年まで勤めたい」と考える人の割合は、それほど減ってはいないようです。

 日本は、平成の30年間で世界のなかでの地位を大きく低下させました。購買力平価で見たGDP(国内総生産)のシェアは9%から4%に低下、IMD(国際経営開発研究所)による国際競争力は1位から34位に。平成元年(1989)には世界のトップ企業20社のうち14社が日本企業でしたが、現在は49位のトヨタ自動車が最高位という情けなさです。

 こうした状況では、「よらば大樹」という安定志向が正解だと多くの学生が考えるのは無理からぬことです。就職先として公務員の人気も安定しているようです。でも、大きな組織のなかにいれば安心だ、というのははたして本当なのでしょうか?  そうであれば栄華を誇ったローマ帝国やモンゴル帝国が永く世界の覇権を握っていてもよさそうなものですが、現実はそうではありませんでした。

 それに、ランキングに入っているような大企業に首尾よく入社できたとして、その後、本当に安定した幸せな人生が待っている、といい切れるでしょうか? 

 確かに大学を卒業後、誰もが名前を知っているような一流企業に入り、安定した収入を得て家族を養い、定年後はローンを払い終えた郊外の一戸建て住宅で悠々自適に暮らす、という成功モデルが機能していた時期もありました。

 しかし、そのモデルの賞味期限はとっくに切れてしまっています。「すべてを差し出す代わりに定年まで生活の面倒をみてもらう」という会社と従業員の関係も、終身雇用が崩壊しつつある今となってはもはや幻想でしかありません。働き方にしても、上司や先輩がやってきたとおりにやればうまくいくなどと部下や後輩が考えているようなら、その会社はすぐに倒産してしまうでしょう。

 つまり、大企業に入れば安泰だとか、忠誠を尽くしているかぎり会社は裏切らないだとか、上司や先輩が答えを知っているとかいうのは、高度成長期からせいぜいバブルまでの間の短い期間にだけ通用した「常識」であって、不変の真理では決してないのです。

 結論をいえば、新卒一括採用、終身雇用、年功序列、定年というガラパゴス的なワンセットの労働慣行は、人の増加と高度成長が前提となっていたのです。そしてその前提は今やどこにもないのです。

 けれども、僕を含め、人間にはなかなかこうしたことがわかりません。今日身の回りで起こったことが明日も起こると無邪気に信じてしまう。あるいは、現在自分が善悪や正誤を決めている基準が単なる思い込みかもしれない、と疑うことができない。

■日本人が持つ「成功体験」の影響

 とくに日本人は戦後あらゆることがうまくいって、焼け野原から世界第2位の経済大国に一気に駆け上がったために、経済的に見れば自分たちもたいしたものだ、という自信をもってしまいました。いつまで経っても日本が不況から脱出できないのは、その成功体験があまりに強烈だったことも影響しています。

 以前はこれでうまくいったのだから、何かをドラスティックに変えなくてもせいぜい微調整で乗り切れる。日本人がゼロからものごとを考えることが苦手なのは、この期に及んでも心のどこかでそう思っているからではないでしょうか。だからこそ、自らの経験に基づく根拠なき精神論に固執し、グローバルな判断基準である「エビデンス、サイエンス、専門家の知見」に基づく真っ当な判断がなかなかできないのです。

 それから、日本人にとって「世界が閉じている」というのも、ゼロから考えることができないもう1つの理由だといっていいでしょう。学校を卒業して会社に入ったばかりのころは、誰もがネクタイを締めて出勤し、初対面の人に名刺を差し出すという毎日に違和感を覚えます。しかし、たいていの人はしばらくすると、それがふつうだと感じるようになります。つまり会社という環境に適応するのです。

 ある程度まで環境に適応することは、働くため、ひいては生きていくために必要でしょう。しかし、自分の考えをもたないままに適応すると、今度はそこで行われていることを相対化することができなくなります。会社だけで通用する特殊なルールがそれ以外のところにも当てはまる普遍的なものに見えてしまうのです。

 これは何も会社に限ったことではありません。業界のなかでそこにどっぷり浸かっている人は業界の常識を疑うことができなくなるし、さらにいえば、日本という閉じた世界に安住していて広い外の世界を見ようとしないから現状を打破する発想が出てこない、ともいえるでしょう。

■「変化がない」時代はない

 「この先も変化がない」と仮定すれば、先例にしたがったり周囲と同じやり方をしたりして知見を高めることは、確かに合理的な判断だといえるでしょう。

 しかし、実際には「変化がない」時代などありえません。新型コロナがその典型です。そして、さらに現代は、起き続けた変化の結果をまとめて引き受けなければならない大変な時代です。変化はかつてより見えやすくなり、新たな局面が次々と展開しています。何も考えずに昨日と同じことをやっていたら間違える確率が高まる。「何が正しいのか」という問いに対しては、その都度、今までのやり方をリセットして最初から考えるほかないのです。

 人間というものは、みなさんが思っているほど賢くはありません。たとえば、先ほど挙げた人気企業ランキングですが、ちょっと歴史をさかのぼってみると1945年は石炭、1950年は繊維、1955年は化学業界の企業が上位に名を連ねていました。いずれも当時の花形産業ですが、今では人気業種とは言いがたいでしょう。

 でも、よく考えたら、同じ企業や業界がずっと右肩上がりで栄えていくほうがよほど不自然ですから、ピークをつければ下がるのは最初から明らかだったともいえます。現時点の花形産業に就職すれば高値づかみになる可能性がきわめて高い。それなのに、毎年学生が殺到するのはその時点でピークを迎えているような企業ばかり。要するに、最高学府で勉強しても、10年後、20年後を見通して行動することができない人がほとんどなのです。

 こうした例は、ほかにもたくさんあります。周りがみなそうしているから何となくそれが正しいと思ってしまう。失敗が顕在化して自分が痛い目をみるまで気がつかない。人間というのはしょせんその程度の賢さしかない生きものなのです。

 これまで何かに成功したからといって自分は何事においても正しい判断が下せると思い込むのは大いなる勘違いです。僕はいつも自分にそう言い聞かせています。

■「自分の軸をつくる」のに必要なこと

 失敗しないためには、何事もゼロから自分の頭で考えなければなりません。しかし、これは口でいうほど簡単なことではないのです。

 長年慣れ親しんだものの見方や考え方を手放すためには、自分の感情を理性でコントロールしなければならないし、それに成功したとしても、今度は自分のなかに新たな座標軸をつくらなければ次の判断ができなくなってしまいます。

 「自分の軸をつくる」といっても、何からはじめればいいのか迷うのがふつうでしょう。ここでいつも僕が話しているのは「森の姿」をとらえよ、ということです。

 「森の姿をしっかりとらえなければ、木を育てることはできない」のです。森の姿を見る、というのは、つまりは今の自分、今の会社、今の日本がどんな位置にあるのか、いままでよりも一歩引いた視点で俯瞰してみる、ということです。

 どうやったら「森の姿」が眺められるのか。そのためには、見るべき木を定め、それと周りの木を比べることからはじめます。そして、個々の木にとらわれることなく、視点を全体に広げていく。かつての木はどうだったのか、隣の木はどんな様子か、そうしたことをつぶさに観察し記録をとってデータを見ていくうちに、次第に森の姿の全貌が浮かび上がってくるのです。

東洋経済オンライン

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最終更新:3/4(木) 15:31

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