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「新卒で専門職」採用に急激に傾く企業のホンネ

3/2 11:01 配信

東洋経済オンライン

 新型コロナの影響で、新卒採用戦線に異変が起きています。2022年に卒業予定の大学生の新卒採用数が前年よりも減ると答えた企業が11.6%にのぼり、リーマンショック以来、増えると答えた企業を上回りました(ワークス研究所調べ)。

 新型コロナの影響で、採用を抑制せざるをえない企業が多いことがよくわかるデータです。業界別でみると、最も深刻な影響を受けたのが飲食店・宿泊業。新卒採用の見通しは「増える」が5.9%に対し、「減る」が21.6パーセントと、15.7%ポイントものマイナスです。

 次に差が大きかったのは卸売業でマイナス6.1%ポイント、そして製造業(機械以外)がマイナス5.8ポイントでした。逆に「増える」が上回ったのが、建設業・医療・福祉でした。

 このように大きく増減する業種もありますが、これまで新卒採用を行ってきた企業の半数は採用数が変わらないとも回答しています。景況感が厳しい状況に陥っても採用数を減らさない――そんな経営努力が垣間見えます。

■それでも新卒採用を維持する理由は? 

 これまで新卒採用は、自社へのロイヤルティーの高い幹部社員の育成につながり、企業の成長に少なからぬ貢献をしてきました。筆者がコンサルティングで関わる企業でも、経営陣の大半が新卒組という会社によく遭遇します。

 その1社である専門商社では、役員の過半数が新卒採用組で、各現場を牽引する人材も同様に新卒組でした。この構成で業績が伸びてきたので、「景気が悪くても新卒の採用数は減らさない」ことが経営陣の中で暗黙のルールとなっていました。

 同じように過去の成功体験から、コロナのような経済危機につながる状況が起きても新卒採用を維持する努力をしている会社が多いのかもしれません。

 ただ、採用数を減らさないものの、内訳には変化が出ています。決められた特定の期間に採用を集中して行う、一括の総合職採用だけでなく、職種別採用を増やす傾向が出てきているのです。この変化は会社経営にもインパクトを与える可能性ありそうです。では、どのようなインパクトなのか?  みなさんと理解を深めていきたいと思います。

 2022年卒で大学3年生のDさん。就職活動をスタートした彼が目指しているのは、総合職としてメーカーに入社すること。営業や人事や経営企画などたくさんの部門を経験してから、自分に適した仕事を見つけたいとのこと。新卒で総合職として入社した特権を最大限に活用して自分の可能性を広げたいのでしょう。

 そもそも総合職とは、管理職となることを期待された幹部候補の正社員のこと。仕事は流動的で、いかようにも変わる可能性があります。仮に営業職としての経験が長く、本人が職種転換を希望していなくても、人事異動で違う職種に変わる可能性があります。さらに言えば、若手社員のうちに何職種も経験させて、適職を見いだすローテーションが組まれることもよくあります。

 幅広い経験によって視野を広め、一方で会社の意思でいつ何時に異動を言い渡されるかわからないという不安も抱えます。こうして、管理職としての能力や、会社へのロイヤルティー意識を育て、「会社が求める人材」へ長期間かけて育て上げられてきました。

■企業は専門性が高い人材を求めるようになったが…

 ところが、会社が求める人材というものに、変化が生まれてきました。管理職がすべてではなくなり、専門性が高い人材です。

 例えば、エンジニアとしてスキルが高く、プレイヤーとしての知見を背景にプロジェクトがまわせる。あるいは、戦略立案ができ、変化の多い現場でのリーダーシップにたけた人材などです。総合職として管理職になった延長線ではできない仕事をする人材が、組織でたくさん必要な時代になってきたのです。

 そのような専門性の極めて高い人材を中途採用してしのぐのも手段の1つですが、転職市場に豊富にいるわけではありません。

 例えば今、プロジェクトマネジメントができるエンジニアを中途採用しようと思えば、破格の年俸を提示し、さらに採用コストも必要になります。でも、そんな努力をしたからといって採用できるとも限りません。

 ある小売業の会社のケースです。ECサイトを強化するためDX推進室を立ち上げました。ところが、社内にはDXの推進をリードできる社員が1人もいません。外部コンサルティング会社に必要な人材を見立ててもらったところ、最低3人はプロジェクトマネジメントができる社員を採用すべきと報告書があがってきました。

 そこで人材紹介の会社に依頼して探したところ、候補者の希望年収は1500万円を超えており、社内の報酬テーブルに合わない破格な条件をオファーしなければ候補者の検討テーブルにさえのぼらないことが判明しました。しかも、入社が確定した場合に支払う手数料は500万円以上。3人採用するためにかかる費用を計算すると、ちょっと頭が痛くなる金額です。

 しかも、せっかく頭を悩ませたにもかかわらず、候補者で入社希望に至った人は1人もいませんでした。半年以上かけて誰も採用できない。いつになったら採用できるのか?  時間はかかるが新卒採用で予備軍となる人材の採用を進める必要があると痛感させられたようでした。

 こうした、専門性の高い人材の予備軍を採用するならば、新卒でも総合職ではなく専門職として採用する。こうした決断をする会社が徐々に増えてきました。

■より客観的な見極めが必要に

 では、専門職の採用方法は総合職と同じでいいのか?  すでに取り組んでいる会社に聞いてみると、従来とは違った方法を用いているようです。

 例えば、プロジェクトマネジャー予備軍として専門職で新卒採用したいという場合。総合職とは違うポテンシャルを見いだす、選考方法を選ばなければなりません。入社して、いくつもの部署を経験してからキャリアを定めていけばいい総合職と異なり、ある程度、キャリアを定めたうえで採用するのです。

 キャリアのゴールに対する適材になるかどうか、より客観的な見極め、アセスメントが必要になるでしょう。

 新卒採用の学生であれば、学歴や発言の印象ということより、問題への答え方であったり、価値観を聞き出すなど過程で、その職種に適しているかどうかといった点での評価が重要になります。総合職であれば会社に対する志望動機が主眼となるところ、専門職であれば特定の仕事に対する志望動機を聞くことになります。

 法務や会計、セールスなど専門性に応じた選考となることに伴い、総合職のように一括採用するのではなく、随時、通年採用へと変える会社が増えてきました。こうした、総合職の一括採用から専門職の通年採用への変化は、徐々に広がりをみせています。

 おそらく、年を追うごとに職種別の通年採用が増えてくるのは間違いないと思います。

■人間関係が良好でも辞める時代に

 その背景には、早期離職を防止するためという狙いも見えます。少子化が進み、20代の社員を採用することは難しくなっていく一方です。それゆえに若手社員の早期離職は極力減らしていきたいと考える会社は少なくありません。

ところが、総合職採用による配属がミスマッチとなり、早々に会社を辞める若い社員があとを絶ちません。調査によると、退職理由の1位が「自身の希望と業務内容のミスマッチ」(37.9%)ともなっています。

 若手社員の離職は10年以上前から問題視されていましたが、理由の1位はかつては希望業務とのミスマッチではありませんでした。多くの場合、1位は上司や同僚との人間関係でした。逆に言えば、人間関係が良好ならばミスマッチと感じても退職に至らなかった人がたくさんいたのでしょう。

 ところが人間関係が良好でも辞める時代になったのです。この変化の要因と考えられるのが価値観の変化です。

 現在の20代前半はミレニアル世代とかジェネレーションZ(Z世代)と呼ばれますが、仕事と私生活の双方で充実を求めつつ、将来に対する不安を抱く傾向があります。日本経済が下降を始めてから現在に至る動きを眺めてきたことも大きな要因なのでしょう。

 そのため将来につながる働き方、キャリアを重視。自分の将来につながりを感じない仕事に配属されるとミスマッチと感じて、退職、転職を決意してしまう。このような価値観に若手社員の多くが変わって、退職理由の1位に躍り出たのでしょう。

 こうしたミスマッチ退職を極力減らすためにも、職種別採用を選ぶ会社は今後ますます増えることでしょう。通信大手のKDDIが2022年度の新卒採用枠の半数を「WILLコース」と命名した職種別採用で行うことを発表していますが、同様の取り組みを行う企業のニュースを頻繁にみるようになりました。この動きは大きく拡大していくことでしょう。

■職種別採用のリスク

 ただ、企業は職種別採用を若手社員の離職防止のための効果的な一手、とだけ考えているのでは足りないでしょう。職種別採用が会社にもたらすインパクトへの対策も、講じておく必要があります。

 職種別採用はいわゆる「ジョブ型」採用なので、入社後もジョブ型でキャリア形成できる人事制度が必要になります。そこではジョブ型のリスクを享受する覚悟が必要になります。

 ジョブ型のリスクとは、ずばり、社員の会社に対するロイヤルティーの希薄化です。会社のビジョンより自分の仕事内容。組織の成長ではなく自分の報酬が優先されることを容認することになります。

 会社が優秀な社員を引き留めるには、提供できるミッションや報酬を高める努力が必要です。希少性の高い職種では、年収を上げていかなければいけなくなります。ジョブ型では明記しづらい仕事が抜け落ちるリスクも生まれます。

 こうしたデメリットがあるから職種別採用をやめるべきと言いたいのではありません。全社的な働き方の変革の機会と捉えて取り組む覚悟をもって取り組めるかどうか。そんなタイミングに来ていると捉えられるかどうかで、会社の将来が大きく変わっていくかもしれません。

東洋経済オンライン

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最終更新:3/2(火) 11:01

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