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2月だけで2ケタのコロナ死に面した彼女の告白

3/1 12:01 配信

東洋経済オンライン

 「2月頭のクラスター発生から1カ月でコロナ患者さんが2ケタ亡くなった。どんなに精一杯仕事をしていても人手が足りないし、他の病棟からも感染者が出てクラスターの終わりが見えない。このままでは命を救えない」

 2月末時点においても「コロナクラスター」渦中の病院で働く、看護師の鈴木良子さん(仮名)。看護師歴は20年を超えるベテランだ。彼女は取材を受けながら、静かに泣いていた。

 鈴木さんの職場は、主に非常勤の看護師で回している病棟。高齢で寝たきりの透析患者が多く、移動も自分ではほとんどしない。そんな中で起きてしまったコロナのクラスターだった。

 鈴木さんは「患者さんは外部からの接触をほとんどしていないため、医療従事者を介しての感染としか考えられない」と言う。

 原因に「病院全体の感染対策の甘さ」があった。感染防護服は正しく着脱しないといけないが、徹底できていなかったため感染源となった。さらに病棟の患者には認知症の人も多く、マスクを着けても嫌がってすぐ外してしまっていた。

 1月20日の時点で数名だったコロナ陽性者は、2月上旬に2ケタに増え、現在はさらにその2倍近くに。数十病床のうち、6~7割をコロナ陽性者が占めている。残りの患者も濃厚接触者なので、陽性となる可能性は高い。

 10都府県に発令していた新型コロナウイルス緊急事態宣言について岐阜、愛知の東海2県、京都、大阪、兵庫の関西3府県、福岡の計6府県で3月1日(2月28日まで)に解除された。首都圏の1都3県では3月8日(3月7日まで)の解除を待ち望んでいる人は少なくない。だが、医療現場は今この瞬間においても悲鳴を上げたままだ。

■1月末、看護師の不足…一般患者が急変で亡くなった

 1月下旬の時点では容体の悪くないコロナ患者よりも、「実は看護師不足で一般の入院患者の命が危なかった」と鈴木さんは言う。

 鈴木さんの担当は難病患者が多い病棟だ。常に人手が足りず、夜勤は看護師2名で回す。コロナ陽性者が出てからは「コロナ陽性者(レッドゾーン)」担当と、「濃厚接触者(イエローゾーン)やそれ以外の患者(グリーンゾーン)」の担当に分かれるため、「コロナ患者」と「残り数十名の患者」に看護師1名ずつ配置。鈴木さんは1人で、一般患者を見て回っていた。

 「気管支切開して呼吸器をつけている方、状態が悪い方がたくさんいます。寝たきりで痰を詰まらせてしまう方も多く、自分で『苦しい』と言うこともできない患者さんもいるんです。私が休憩している間に窒息してしまう可能性も考えられ、休憩はとれる状況ではありませんでした」

 「検温するだけで手いっぱい。熱が高ければ解熱剤を投与すべきなのにできない。酸素量に応じて酸素投入量を増やすだけで、マスクの種類を変えたいのにできない。ただ自分が動きを止めたら患者が危ないと思い、『患者さんが死んじゃうよ!』と心のなかで焦りながら、深夜の対応に追われていました」

 17時に勤務を開始してから朝の9時終業まで休憩はなく、常に動きっぱなしだった。

 鈴木さんの夜勤が明け、次の日の深夜、同じ病棟にいた患者の具合が悪くなり「急変で亡くなった」と聞いた。その日担当していた看護師は半泣きになり「もう何が悲しいのかがわからない」と鈴木さんに訴えた。

■感染対策用の「物資の不足」にも苦しんだ

 コロナクラスターの渦中でも、物資も十分な量がなかった。コロナ陽性者のレッドゾーンを担当するときも、鈴木さんが身につけている防護服には「医療品外」と書いてある。丈が合わないので腕や足は保護できていない状態。専用の「N95マスク」は通常空気が入らないようにフィットさせる。しかし数が足りないので、大きさが合わないマスクを着用。当然、汚染区域の空気がスカスカと入る。看護師はコロナ陽性者の咳や痰を吸い出す処置を頻繁に行うが、毎回飛沫が飛び散るので、感染を考えると非常に危険だった。

 「これでは感染を回避できるわけがない」と同僚が「このままでは感染が広がるし、患者さんの命が守れない」と訴えても、上司から返ってきた言葉は、「この状況なんだから仕方ないよね」だったという。

 「この状況なんだから仕方ない」で済まされてしまう現場、現状。鈴木さんは「自分の感染や命も辞さない覚悟、もう頭で考えていては勤まらない」と感じた。

 入院患者のコロナ陽性者が見つかった1月半ばまで、「感染を拡大させないための基本の一手段」とされているゾーニング(感染患者の入院病棟で、病原体によって汚染されている区域を分けること。汚染区域[レッドゾーン]・準汚染区域[イエローゾーン]・清潔区域[グリーンゾーン]など)ができていなかった。

 「このままではいけない」とすぐに上に伝え、何とか区域の確保をした。しかし、病棟の感染対策があいまいだったため、間もなく、「レッドゾーン」「イエローゾーン」のみとなり、清潔区域の「グリーンゾーン」がなくなってしまったのだ。

 コロナ陽性者担当の看護師は、このまま「レッドゾーン」とされる場所で昼食を食べるしかない状況だった。上からは「感染に気を付けて」と注意されるものの、どう注意しろというのか。「医療従事者のコロナ感染は時間の問題」とも思えた。院内感染は「想定内」と言うしかない状況だったのだ。

■2月末、コロナ陽性患者が次々と病院内で亡くなった

 そして2月末、院内感染でコロナがさらに膨れ上がった。感染から10日経過した人もいるが、カウントの方法が異なるのか数字は病院のホームページでは公開されていない。

 前述したように入院していたコロナ陽性者は2月だけで2ケタが亡くなった。数日おきに死亡者が出た。さらに、同じフロアの他の科からも、コロナ陽性者が出始めていた。新たに発覚したコロナ陽性者が次々と鈴木さんの病棟に転棟してくるため、病床は常に満床だ。

 まだまだスタッフも足りていなかった。夜勤で看護師が2名体制の場合、人数の多い、コロナ陽性者のレッドゾーン担当は激務になる。コロナ患者のなかには、呼吸状態が悪く、自力で痰が出せない人もいる。まめに痰を吸引しないといけないが、その間もナースコールが頻繁に鳴り響く。

 助手は複数いてもレッドゾーンには入れないため、イエローゾーンにいる患者のオムツ交換までしか頼めない。看護師は休憩時間でもすぐ呼び出されるため、夜勤はほとんど休むことができなかった。

 また、病棟のコロナ患者は10日経過しても血液に酸素をうまく取り込めない人が多く、急変することもあった。しかし、ナースステーション内にある酸素飽和度を監視するモニターの数は少なく、十分な観察ができない。「部屋に行ってみたら、一時的に患者の呼吸が止まっていた」という状況もあった。

 看護師の中には「患者さんの死に慣れを感じ始めている」人も出てきた。これは「看護師の極度の心の疲れが原因」と鈴木さんは言う。すでに皆、メンタルもギリギリなところを踏ん張っていた。

■「私だっていつコロナに感染するか、わからないけど」

 現場の医療従事者たちは「自分もいつ感染するかわからない」という孤独な不安が付きまとっている。しかし、現在もコロナの現場で戦う鈴木さんは、どういう心境で日々を重ねているのか。

 「『患者さんがいるから』頑張れていると思います。私なんか、ときどき更年期の症状で顔が熱くなったりすると『コロナに感染した?』と焦ったりして……。『感染したらどうなるだろう、死ぬのかな』なんてことを思うこともしょっちゅうです。そうすると急に寂しくなって、あれもしたかった、これもしておけばよかった、なんて落ち込んだりもします」

 鈴木さんは「全然前向きばかりではない」とはにかんで笑う。「うちの病院はコロナ対応だからと言って、特別給料がいいわけでもないし」とも話してくれた。

 「深く考えていたら、感染対策に不安のある職場になんて行けないですよ。あ、バンジージャンプに行く人と同じかもしれませんね。『ロープ切れて死ぬかも』なんて考えたらできないじゃないですか。私自身は日々『今日も仕事だ、行ってこよう』くらいの気持ちで出勤します」

 「今日も患者さんが待っているから、いつも通りに行く」、そうやって、鈴木さんは懸命に日々を重ねているのだ。

 「1人や2人だけでも『今つらい』など本音が言える人がいるなら、まだ大丈夫。私は気ままに一人で生きてきたけれど、やっぱり孤独に頑張るのはキツイ。でも友人でも親族でも支えてくれる人がいるなら、踏ん張れる気がします」

 そして今回、鈴木さんは、繰り返し「私はどんな状況も、明るく、楽しみながら生きたい」と、生き方の話をしてくれた。その言葉が余韻となって、ずっと心に残っている。

■予測したくはない「第4波」の可能性も考える

 今も必死にコロナクラスターの現場で働く鈴木さんだからこそ、国や県に「もっとこうしてほしい」という希望があった。

 「感染対策の設備が整っていない病院で『コロナ陽性者の対応』をする……。これ自体がコロナクラスターに繋がる可能性が高い行為であると、第1波の時点で、国の偉い人は認識しておくべきでした。これまで全国で起きたコロナクラスターの原因をしっかり分析できていれば、うちのような『感染症対策のない病院の、効果的なコロナ対策』もスピーディに確立できたのではないか。そう思ってしまうのです」

 「また、ここだけの話ですが、院内がこんな状態になっているにもかかわらず、病院の外来は普通にやっていて、新規入院も受けて入れています。経営は大切ですが、これ以上感染者数が増え続けたら、お金よりも大事なものがどんどん失われていく気がしています」

 鈴木さんたち看護師は、命を守る場所である病院で、「患者さんを守ること」に全身全霊をかけている。関わりのある患者さんに何かあれば、たとえ他人だとしても「心に大きな傷」を受けるという。その必死な人たちの努力が無駄になるようなことは絶対にあってはならない。

 コロナはまだ収束していない。医療現場はまだまだ緊迫のなかにいる。

 首都圏(1都3県)の緊急事態宣言が3月8日で解除になっても、ワクチン接種が進んでも、まだ油断はできない。予測したくはない「第4波」の可能性も視野に入れておくのが賢明であろう。コロナと戦う1人の看護師の取材を通じて、「中小規模の病院に特化した、絶対的な感染対策ガイドライン」制定など、医療従事者が安心して働ける環境作りと支援が求められることが見えてきた。

東洋経済オンライン

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最終更新:3/1(月) 14:09

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