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プロ野球「無観客キャンプ」で起きた沖縄の異変

2/28 15:01 配信

東洋経済オンライン

 近年、プロ野球の春季キャンプは沖縄県への一極集中が進んでいる。温暖で、練習試合の対戦相手が多く、移動が容易であることから、宮崎や高知からキャンプ地を移転したり、2次キャンプ地として利用したりする球団が増えたのだ。しかし、今季は新型コロナ禍で様相が一変した。

 沖縄県は1月19日に独自の非常事態宣言を発出、2月4日には2月28日まで宣言を延長すると発表した。当然、春季キャンプは無観客での実施となる。プロ野球キャンプは沖縄県では2月最大の観光イベントの1つだったが、今年は球団関係、報道関係を除いては、ほとんど売り上げが期待できないこととなった。

■影響が深刻な離島のキャンプ

 とりわけ深刻なのが、沖縄県の離島で行われているキャンプだ。石垣市の千葉ロッテマリーンズキャンプは例年通り行われたが、もちろん無観客。飲食店などの出店もなかった。

 ロッテキャンプと言えば、台湾の楽天モンキーズ(2019年まではLamigoモンキーズ)との練習試合が有名だった。シーズンでいちばん早い対外試合であり、例年、注目の新人選手がデビューすることからメディアも大いに注目していた。

 また台湾側は観戦ツアーを組んで、フェリーや飛行機で台湾のファンも詰めかけた。台湾野球名物のチアガールも帯同し、球場外に設けられたステージではロッテのチアガールとの競演が行われ、それが目当ての日本、台湾のファンが詰めかけた。しかし今季は、台湾勢も来日せず、キャンプ地は静寂に包まれていた。

 まだ春季キャンプが行われただけ石垣島はよかったといえるかもしれない。久米島(久米島町)では2005年の創設以来、東北楽天ゴールデンイーグルスの一軍、二軍が春季キャンプを行っていたが、今年は小さな離島で大人数がキャンプをすることのリスクを考慮して、一軍は、昨年までの2次キャンプ地だった沖縄本島の金武町で実施。二軍は沖縄本島中部の具志川球場(うるま市)でキャンプを行った。

 受け入れ先の久米島町商工観光課の担当者は「球団関係者、メディア、観光客が宿泊するホテル、レンタカーおよび飲食店は大きく売り上げを落としています。今回、楽天球団は当地におけるキャンプ実施を見送りましたが、これは、キャンプによるコロナ感染拡大を防ぐことに配慮したものと理解しています。観光業へのダメージはありますが、現在のコロナの状況、島の医療体制を考えると、致し方ないといった反応が大半です。今後はコロナ禍におけるキャンプのあり方について検討を重ね、引き続き、関係機関と協力し、再びキャンプができるよう取り組んでまいります」と回答した。

 離島のキャンプ地は、練習環境としては恵まれているが、練習試合の相手がいないために、キャンプ中盤以降は沖縄本島に移動してしまう。その不便さがあるために、球団は本島への移転を志向しているといわれている。オリックスは1993年から2014年まで宮古島で春季キャンプを行っていた。イチローもここで始動したが、2015年に宮崎市に移転した。ロッテや楽天も今年をきっかけに移転するのではないかと島民は危惧している。

 石垣市の商店主は「ロッテがキャンプをしてくれたおかげで、球場や周辺設備も整備され、子供たちが野球をするようになった。球団がいなくなれば、運動公園が廃れてしまうのではないか」と話した。

■姿を消したプロ野球解説者

 今年の春季キャンプでは、プロ野球解説者の姿をほとんど見なかった。特定の球団にはりついて動静を伝える新聞、テレビなどのメディアの記者やカメラマンとは異なり、解説者は各キャンプ地を回ってコメントをする。

 しかし今年はすべてのキャンプ地で入場の際に、PCR検査の陰性証明の提示を求められる。来場時には48時間から数日以内の日付の証明書が必要だ。筆者もそうだがそのために3~4日おきにPCR検査をする必要があった。また解説者は球団関係者と会食をして意見交換をすることで情報を得るのが常だったが、それも不可能だった。そういうこともあって、解説者の姿がめっきり減ったのだ。

 今季の報道陣は「撮れ高」を確保するのに苦慮している。例年であれば、記者やカメラマンはグラウンドレベルで取材ができた。

 選手や監督、コーチに声をかけてコメントを取っていたが、今年は観客席と限られたエリアでしか取材できなくなった。そんな中で何とかして映像、コメントを取るために苦心惨憺していた。

 本来ならグラウンド、サブグラウンド、ブルペン、室内練習場と取材場所はいくつもあるのだが、今年は多くのキャンプで1カ所しか取材ができなくなっていた。

 2月10日のヤクルトキャンプでは、内野の連携プレーの練習になったとたんスタンドで、球団スタッフが「サインプレーなので、取材をご遠慮ください」と声をかけて回った。

 報道陣はぞろぞろとスタンドを出ていき、ブルペンに回った。折よく、古田敦也臨時コーチが期待の若手投手、奥川恭伸の球を受けていた。報道陣はこれに群がった。報道陣も全員、PCR検査の陰性証明を持っているが「密」が気になった。

 選手、監督の囲み取材のインタビューも中止。インタビューをする際は基本的にZoomを使用したリモートとなった。記者たちはホテルの一室などでパソコンを開き、選手や監督とZoom越しでやり取りをした。「何のために現地に行っているのかわからない」とぼやく記者もいた。

■田中将大復帰で盛り上がった楽天キャンプ

 沖縄の春季キャンプ地で最も報道陣の数が多かったのは、金武町の楽天キャンプだった。1月末にヤンキースのエースだった田中将大が復帰を発表、2月6日から春季キャンプに合流したのだ。

 今季のキャンプは1つのメディアについて取材できる人数が記者1人、カメラマン1人程度に限定されている。人数が多いということは、それだけメディアの数が多いということになる。

 こうしたメディアは田中と一緒に移動する。ブルペンはもとより、ランニング、メイングラウンドのスタンドでのストレッチなど田中の一挙手一投足に多くのカメラが向けられた。金武町キャンプには三木谷浩史オーナーも姿を見せ、楽天キャンプだけは例年以上に盛り上がっていた印象だった。

 巨人は医療法人と提携して、那覇市内にPCR検査を受けることができる「読売ジャイアンツ・スポーツ健康検査センター」を創設。4月30日まで、スポーツ関係者やキャンプ地のホテルやバス会社など関連産業の団体・法人などを対象に検査を実施している。これも地域貢献の一環だろう。

 今年のキャンプのもう1つの変化は、外国人選手がほとんどいなかったことだ。2月15日時点で6割弱の選手が来ていない。多くの外国人選手の出身地であるアメリカやドミニカ共和国、キューバなどでもパンデミックは収まっていない。出国もままならない状況の選手もいる。また入国しても2週間の隔離があるため、キャンプには簡単に合流できない。

 そんな中で、台湾籍の外国人選手6人(外国人枠を外れた選手2人も含む)は、すでに合流している。台湾は世界でも数少ない新型コロナの封じ込めに成功した地域だとされるが、それを反映しているといえよう。

 球団は、春季キャンプ中の選手の「外食禁止」を通達している。沖縄キャンプでは「夜の会食」は選手にとって大きな楽しみだったが、夜間は原則としてホテルから出ることができない。選手たちは1カ月近くもホテルに缶詰めになるのだ。選手にはこれも大きなストレスだろう。

 「若い選手はもともとあまり出歩かない。ゲームなんかで時間をつぶす選手も多いから、あまり心配していない。それよりベテランだ。那覇市内になじみの店がある選手も多い。彼らのほうが心配だ」と、ある球団のコーチは語った。

 筆者がアマチュア時代から知っているある新人選手は、「キャンプに行ったら、ファンにも囲まれるし、報道陣にも話を聞かれるから、それで浮ついたら駄目だ、と先輩からアドバイスされましたが、何にもなくて練習だけしているので、実感が湧きません」と話した。

■無観客になり幅広い業種に影響

 沖縄県のプロ野球春季キャンプを受け入れる沖縄県文化観光スポーツ部スポーツ振興課によると、新型コロナ禍の今季、NPB各球団も受け入れる自治体も「例年通り実施できるか、双方ともに不安を持っていた」という。

 そんな中でも県は、受入市町村自治体の意向を確認し、感染症対策に万全を期すため「コロナ禍におけるプロ野球沖縄キャンプ受入指針(12/16)」を定め準備を進めた。

 さらに、感染拡大が進むなか、国や県独自の緊急事態宣言が発出される状況を踏まえ、NPBや巨人軍から提案された検査スキームが沖縄県の保健医療機関と連携して機能するよう、県保健医療部や県各地区医師会の協力を求め、万が一、感染者が出た場合においてもクラスターの発生を封じ込めるための態勢構築に努めた。

 しかし緊急事態宣言の発出によって、春季キャンプはすべて無観客になった。同課の担当者は「出店を予定していた地元事業者は、キャンプイン直前で無観客の実施となったことで、準備に要した経費や多くの来客を見込んでいた収益がすべてなくなるなど非常に大きな影響を受けました。さらに、プロ野球キャンプの観覧を目的とした観光客の渡航自粛に伴う宿泊施設のキャンセルのほか、飲食店、公共交通機関、レンタカー事業者、食品関連事業者等、幅広い業種で、影響がありました」と語る。

 今季、沖縄県では一軍、二軍合わせて9球団が13カ所で春季キャンプを行っていた。5球団が5カ所で行っていた宮崎県や。2球団が2カ所で行っていた高知県よりはよりダメージが大きかったのだ。

 各キャンプ地を回ってみて、筆者は新型コロナ禍を契機として、春季キャンプのあり方を見直すべきではないかと考えた。

 NPB球団にとって春季キャンプは「収益事業」ではない。公式グッズの販売などの売り上げは多少あるが、基本的には経費をかけて選手を鍛錬するトレーニングだ。一般的には春季キャンプのコストはオープン戦の収益で賄ってきたと言われる。緊急事態宣言発出中はオープン戦は無観客になるが、解除されれば収益は上がる。春季キャンプの収支は持ち出しになるだろうが、そのダメージは限定的だ。

 しかし、受け入れ側の市町村は、春季キャンプでの飲食、物販の売り上げに加え、宿泊や繁華街での飲食などの売り上げもほとんどなくなった。今年は2月に向けて感染症対策も含め、万全の準備をしていたが、無観客によってそうした準備も含めて水泡に帰した。その損失は非常に大きかった。

 各地の自治体や観光協会は、春季キャンプの前から受け入れ態勢を整備している。キャンプが始まれば、職員を派遣しグラウンド整備や場内整理などの業務で球団をサポートしている。それだけ春季キャンプの経済効果が大きいからだ。新型コロナ禍によってそうした努力も空しいものになった。

■春季キャンプを「地元との共同事業」に

 端的に言えば、球団の春季キャンプと、受け入れ自治体のキャンプ地での物販やサービスは別個の事業であり、両者に補完関係はない。しかし地元商店街や住人は、街々にフラッグを掲げ、全力で歓迎の意を表している。その気持ちも含めて、今年、受け入れ側が喪失したものは非常に大きい。

 この状況が落ち着けば、球団側はキャンプ地でオープン戦やファンサービスイベントを行うなどのフォローを行うべきだろう。

 さらに言えば球団は春季キャンプ地を「第2のフランチャイズ」ととらえて、フランチャイズからのツアー客を誘引したり、町おこし事業に積極的に関与するなど、春季キャンプを「地元との共同事業」として再構築することを考えるべきではないか。

 災い転じて福となすではないが、NPB球団は新型コロナ禍を春季キャンプのあり方を見直す転機にすべきだと思う。

東洋経済オンライン

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最終更新:2/28(日) 15:01

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