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新型ISを鍛えた「下山テストコース」本当の神髄

2/27 7:01 配信

東洋経済オンライン

 新型レクサス「IS」は、その走行性能を下山テストコース、正式には「Toyota Technical Center Shimoyama」で鍛えたとうたっている。ここはトヨタ自動車本社からクルマで30分ほどの、愛知県豊田市と岡崎市にまたがる山間部に新設された、投資額は約3000億円、総敷地面積は東京ドーム140個分にもなる約650ヘクタールと、非常に大規模な研究開発施設である。

 実際に今回のISの開発で使われたのは、そのうち2019年に運用が開始された中工区にある「第3周回路」別名カントリー路。山間の地形を生かして、約75mの高低差の中に、右に左に切り返す多数のコーナーが設けられた、全長約5.3kmの周回コースである。尚、全施設が完成しての本格稼働は2023年を予定している。

■あのニュルブルクリンクで得たノウハウを再現

 この第3周回路の開発において参考にされたのは、ドイツにあるニュルブルクリンク北コースである。ここは世界の自動車メーカーが運動性能、耐久性などのテストに用いる舞台。もちろんトヨタも例外ではなく、多くのクルマの開発、評価をここで行なっている。

 ニュルブルクリンクはまさに自然の地形を生かして、曲がりくねっているだけでなく高低差やうねりも大きく、また路面の舗装もあえて荒れたままとされているのが特徴だ。いわゆるテストコース的に、一定の速度、一定の横Gがかかり続ける“きれいな”コーナーはなく、減速しながら曲がり込んでいった先で路面にバンプがあって車体が浮き上がって……のような、あらゆる入力がいっぺんに生じる過酷な場面が、全長20.832kmにわたって続く。ここで破綻しないクルマならば、どこへ持っていっても大丈夫。ニュルブルクリンクというのは、そういう存在である。

 「Toyota Technical Center Shimoyama」の第3周回路には、そこで得た知見やノウハウがフルに投入されている。要するに、ニュルブルクリンク詣でをせずとも、優れた性能を持つクルマを開発するための施設と言っていい。筆者も国内メーカーのテストコースはおおむね経験したことがあるし、海外メーカー、タイヤメーカーのそれもいくつも走行した経験があるが、正直ここまでクルマに対して厳しいコースはほかに記憶がない。

 「このコースは奥深いですよ。まずGが長く持続するコーナーが多いので、その過程で遊べる、いろいろなことを試すことができて、『ここでの荷重移動が速すぎるな』とか、そういうことがわかりやすい。人とクルマがきちんと対話できるか、どんな状況でも安全にコントロールできるか、疲れずに運転できるかなど、新型ISの走りは、まさにここで合宿して鍛え上げました。ダンパーメーカーなどのサプライヤーさんにもトラックで来てもらって、一緒になって取り組んだんです」

 新型レクサスISのチーフエンジニア、小林直樹氏は言う。開発部隊も規模が大きくなれば、乗り心地は乗り心地、操縦性は操縦性、パワートレインはパワートレイン……のように、いわば縦割りで物事が進んでいきがちになる。単純にそのほうが効率的だからだが、実際に走行中のクルマに起きている事象は、決して縦割りではない。

 「今回の開発では、下山に性能部隊、ブレーキ屋、ハンドリング、ドライバビリティ、乗り心地など担当の皆を集めて、全員で走りながら作り込んでいきました。そうなると『自分はトラクションは関係ない』とか『コーナリング中のブレーキは担当じゃないんで』なんてことは言えなくなります。この合宿で走りを徹底的に鍛え上げたんです」

■あらゆる部署のスタッフが一堂に会して

 新しいISではこのコメントのとおり、担当ごとに分かれてではなく、あらゆる部署のスタッフが一堂に会して、一体となって開発が進められた。開発メンバー全員が、自分の担当以外のところまで含めたクルマ全体について他人事じゃなく自分事になる。それが、この合宿の狙いだったのだ。

 ちなみにこの第3周回路は、コースのすぐ脇に車両整備場が併設されていて、不具合をすぐに修理、修正し、再度走り出すことが可能。これも、ニュルブルクリンク北コースで得られたノウハウに拠る。合宿とは、走り込んで、議論して、直して、また走り込むことの繰り返しである。

 ニュルブルクリンクといえば近頃はそのラップタイムが取り沙汰されがちであり、こうしたテストコースの開設という話にも「速さやハンドリング性能ばかりにこだわってどうするのか」という声は、いまだ噴出してくるわけだが、目指しているのは速さではない。小林チーフエンジニアはこう言う。

 「別にレーシングカーを作りたいわけじゃないんです。確かに、下山のような厳しい道だと、ちょっと間違えるとサスペンションを固める方向にいきがちですが、そうじゃない。むしろ、サスペンションをしっかり動かして入力をいなしながら路面を捉え続けるクルマを作るんだということを徹底してきました。(豊田章男)社長が今回、『FR(フロントエンジン・リアドライブ)のクルマの火を消さずにISを進化させるんだ』ということでゴーサインを出したわけですから、FRの気持ちよさが際立つクルマを目指すんだということは、開発中ずっと言ってきたんです」

 豊田社長が頻繁に口にする「道がクルマをつくる」という言葉が、この新型ISの走りにはまさに体現されている。一般道をゆっくりと走らせるだけでも、前輪が駆動を受け持たないことによる澄んだステアリングフィール、加速の際の沈み込んだ後輪が地面を蹴り出す躍動感など、FRの魅力を存分に味わえるクルマに仕上がっているのだ。

■ドライバーにも厳しいコース

 こういうコースを一度ぜひ走ってみたい。クルマ好きの方ならそう思われるかもしれない。しかしながら私の印象ではこのコース、走って決して面白くはない。クルマに厳しいということはドライバーにも厳しい。刻一刻と変化する挙動に対処し、いやらしいレイアウトに辟易していると、快感どころではないのだ。けれども、そうだからこそいいクルマが生まれるし、またいい開発ドライバーも育つのだろう。

 ところで今回、新型ISの開発拠点として「Toyota Technical Center Shimoyama」が選ばれたのは、こうしてコースでクルマの走りを磨くということだけが理由ではなかった。実は多くのメンバーが一堂に集まることができる物理的な場所を確保できるという意味合いもあったようである。

 「そうですね、今回は“IS軍団”として存在できる場があった。それは僕らとしては楽しいことでしたよね。(それぞれの担当の)上司とか、居ないわけですよ(笑)。クルマだけ見て仕事に集中できる環境になれば、皆の気持ちも方向性も一緒になる。これが大事なんですよ。結局、そうすれば進捗も速くなりますからね」

 実際のところ、こうした走りに関する部分の開発だけでなく、例えばデザインやボディ設計などのフェーズでも、今回は同じように部署を横断しての開発が行なわれたという。モノを見て、議論して、持ち帰って翌週また……ではなく、関連する部署を横断したメンバーによって、その場でどんどん決めていくというやり方だ。

 例えばシャープなキャラクターラインが特徴的なトランクリッド。これを実現するため、開発は設計も生産技術も製造も一堂に会して行なわれた。皆がデザインに惚れ込み「できない」と言うのではなく「どうやればできるか」を皆で考えていく。もちろん、そうなれば誰かに任せておくというかたちにはならず、ここでもすべてが自分事になる。ある意味、皆が重い責任を背負っての開発だ。

■次のレクサス車につなげることができた

 「『一緒にやればいいじゃん』って常々思っていたんです。そして実際、今回それができた。1台のクルマの開発のやり方としても、ひとつのモデルケースが作れたと思っています。ISを作りながら、ISだけを作っていたわけではなく、次のレクサス車につなげることができたかなと思いますね」

 レクサス車として「Toyota Technical Center Shimoyama」を開発の舞台として活用したクルマは、この新型ISが最初である。今回、あえてフルモデルチェンジではなくプラットフォームやパワートレインを従来型から継承するマイナーチェンジとしながら、入念な作り込みによって実現したエッジの効いたデザイン、そしてシャシーの軽量化や高剛性化、そして下山での走りの磨き上げによって、新たな魅力と確かな実力を獲得した新型レクサスIS。まさにそうしたハードウェアの面でも、開発手法というソフトウェアの面でも、ブランドの次につながる一歩を実現し、そして“レクサスらしさ”の次の一歩を具現化するクルマが生まれたと言ってよさそうである。

東洋経済オンライン

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最終更新:2/27(土) 7:01

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