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乙武洋匡「万人に求められる人になる必要ない」

2/26 14:01 配信

東洋経済オンライン

「普通って何?」
「優秀って何?」
小学校低学年向けの学習教室「花まる学習会」代表で、“メシが食える大人に育てる”をモットーとする高濱正伸氏と、早稲田大学在学中に上梓した『五体不満足』が600万部のベストセラーとなり、その後はスポーツライター、小学校教諭などを経て現在はタレントなどとしても活動する作家の乙武洋匡氏。
2人が「ひとつのモノサシで子供たちを評価しない教育」について語り合った対談をまとめた『だから、みんなちがっていい』から一部を抜粋、再編集してお届けします。

■子どもの状況は家庭によって簡単に変わる

 高濱 正伸(以下、高濱):乙武さんは早稲田の政経を卒業した後に教員免許を取って教職を務めていた経験がありますよね。そのなかで、やりながら感じたこととか、壁とか、現実的な組織の問題とか、教員としてのこれならやれるなぁとか、何かエピソードはありますか? 

 乙武 洋匡(以下、乙武):まずは子育て・教育というところで言いますと、ひとつ悔しさがありました。学校の教師がいくら知恵を絞って奮闘しても、子どもの状況というのは、ご家庭の状況によって簡単に変わってしまうんだということでした。

 高濱:本当にそうだよね。

 乙武:ちょっと学校で問題行動が見受けられるようになった子がいたとして、どうしたんだろうと思って本人やご家族に聞いてみると、じつはご家庭で何らかの変化があったというケースが非常に多いんです。

 例えば、それまでは「ただいま」と家に帰れば「おかえり」と迎えてくれていたお母さんが、おじいちゃんの入院によって毎日病院に行く必要ができてしまい、家に帰っても誰もいなくなってしまった、とか。これは誤解のないように言うと、お母さんがずっと家にいることが必要だという話ではなく、子どもにとっては変化がキツかったという話です。

 大人からすれば「えっ、そんなことで!?」と思うようなことでも、子どもは家庭状況に変化があるとメンタルを崩しやすい。やっぱり家庭が安定していてこそ、新しいことに挑戦してみようとか、勉強やスポーツを頑張ろうという力が芽生えてくるんですよね。ちょっと悔しかったですね、

 教員としては。あとは学校内の話で言うと、職員室というのはとにかく前例主義。チャレンジをしたがらない組織でしたね。ただ、これは教員たちが悪いのかというと、一概にそうとも言えなくて。抱えている仕事量とそれに取り組める時間とのバランスが悪すぎるので、新たなチャレンジをするにはリスクが大きいんですよ。前例を踏襲して過去の資料どおりにやれば、短時間で効率よく進められますから。

 あの膨大な業務の量を考えたら、そういう思考になるのも無理はないですよ。だから、学校を、職員室をチャレンジに前向きな組織に改革していくなら、「子どもたちのために頑張ろう」みたいな根性論ではなく、どうやってムダな業務を減らしていくかという改革が先決だと思いますね。例えば校務分掌といって、授業を教えたりする以外に、学校経営をしていくうえで教員が分担で請け負う仕事というのがあるんですね。

 私は学校のホームページを更新する担当だったんですけど、それが1日1時間くらいかかるんです。子どもたちが帰った後、職員室でほかの学年の先生のところを回って、「今日は何かトピックスあります?」と聞いて、「こういうのがありますよ」と言われたら、そのときの写真をいただいたり、取材して数行の文章にまとめたりして短い記事にする。

 その作業も教員に支給されているパソコンはイントラネットなので、インターネットにつながっていないんですよ。だから、2階にあるパソコン室の鍵を開けてパソコンを起動し、更新作業をして、副校長に確認してもらうために、わざわざ1回プリントアウトして職員室に持っていく。一発OKが出ればいいですけど、ちょっとでも修正を指示されれば、また2階に行って、パソコンで修正して、プリントアウトして――。

■一概に教師を責めるのも間違い

 最低でも1時間、下手すると2時間近くかかることもあるわけです。これ、教員がやる必要ありますかね。例えばこれを業務委託で外部の方にお願いするとか、地域のボランティアの方にお願いするとかできれば、その分の2時間、教員は授業準備や子どもたち、保護者のみなさんと向き合う時間に充てられるのです。なので、一概に教師を責めるのも間違いで、仕組みを変えていきましょうという話ですね。

 高濱:仕組みづくりの問題ですね。僕は17、8年、外から公立学校を見てきましたけれど、結局政治マターだなって思うんですよね。

 乙武:おっしゃるとおり。結局、予算がなければ、仕組みも変えづらい。

 高濱:仕組みをしっかり変えるほうが、絶対に早い。先生たちが、「どんどんやらなきゃいけないんだな」っていう仕組みになっちゃえば、やる人たちだと思うんです。いまは「やらないほうがいい」っていう仕組みですもんね。

 乙武:まさに、おっしゃるとおりです。

 高濱:そういう経験を踏まえて、最近の教育の世界に対して言いたいことって、山ほどあると思うんですけど。

 乙武:めちゃくちゃありますね(笑)。

 乙武:私からのメッセージって、おそらく日ごろから高濱先生が口を酸っぱくしてみなさんにお伝えしていることと重なると思うのですが、せっかくの機会なので、私なりのエピソードでお話をさせていただきますね。

 私の小さな友人に、小学6年生の夏休みの時点で単身バルセロナに渡り、そこでホームステイしながらサッカーの武者修行を始めたという子がいるんですよ。これね、その子もすごいけど、親御さんもすごいなと思うんです。よく送り出したなと。普通ね、もしも小6の息子が「秋からバルセロナに住んでサッカーやりたい」と言いだしたら、「なにバカなこと言ってるの。早く宿題しなさい」で終わる話だと思うんですよ。

 この件、自分ごと、自分の家庭で起こったこととしたら、「わかった、頑張りなさい」と送り出せるのか、「いやいや、ちょっと待って」と止めるのか。まあ日本の一般家庭だと、九割八分は止めると思うんですよね。

■子どもにリスクを背負わせることになるのか

 じゃあ、なぜ止めるのか。子どものことが憎いからなのか。子どもの夢を妨げたいからなのか。違いますよね、心配だからです。子どもにリスクを背負わせたくないからですよね。でも、よく考えてみてほしいのです。いまの時代、小学生のころからバルセロナで単身サッカー修行することが本当にリスクになるんでしょうか。

 まず、親が止めるケースから考えてみましょうか。たいして好きでもない勉強を無理にさせて、せめて高校まで、せめて大学まで行かせますよね。それで就職できると思います?  できるかもしれない。だけど、できないかもしれない。だっていま4年制大学を出たって就職先が見つからず、就職浪人する子たちが年間4万人いると言われているんですよ。本人が好きでもない勉強をさせたところで、就職できるかわからないわけですよ。これだってリスクはあるわけです。

 今度は、親が送り出した場合を考えてみましょう。サッカー選手になれるかは、正直わからない。まあ、なれない可能性のほうが大きいですよ。で、なれなかったとしましょう。でも、小6からスペインにいたらスペイン語はペラペラですよね。それから同じ夢を持って世界中から集まった仲間がいるので、世界中にネットワークができています。

 そして何より小6から親元を離れて異国の地で暮らすバイタリティがあるわけでしょう。もう絶対に心配いらないです。食いっぱぐれる心配もない。日本の有名企業に就職できるかはわからないですけど、世界のどこかで誰かに求められる人材にはなりますよ。大事なのは国内の有名企業に勤めることじゃなくて、自分の力でメシを食っていくことですよね。

 高濱:そうです。

 乙武:親に言われて、好きでもない勉強をして、ひとまず日本の高校を出ました、大学を出ましたという子と、好きなことを突き詰めて、やるだけやって、でもダメだった、だけどスペイン語と世界中の仲間を獲得したよという子と、どっちのほうがリスクが高いですか? 

 そう考えたときに、私は日本にとどまらせることのほうがリスクが大きいと感じてしまうんですよね。

 高濱:そうですね。

 乙武:気をつけなければならないのはわれわれが育ってきた時代と、子どもたちがこれから生きていく時代では価値観が違ってくるということです。私たちの時代は、バブルが弾けたとはいえ、まだ経済は右肩上がり、人口も伸びていく時代でした。そういう時代は、なるべくレールから外れずに、みんなと同じ道を歩いていれば安定した人生が待っていた。いい大学を出て、いい企業に入って、長年いればいただける給料が増えて、そしてマイホームが持てました。めでたし、めでたしという時代です。

 ところがこれから来る時代は、真逆なんですよ。経済は右肩下がり、人口も減っていく。仕事もAIやロボットに取って代わられていく可能性が出てきたときに、どういう人材が求められるようになっていくのか。これは絶対に基準が変わってきます。これまでは「みんなと同じ」であることが安心材料だったのが、今後は「みんなと同じ」がリスクになってくる。なぜか? 「おまえじゃなくても、別の人材でいいんだ」と、簡単に取って代わられてしまうからです。

■万人に求められる人材になる必要はない

 これからの時代、大事になってくるのは、その人にしか見えていない景色があること、その人にしかないアイディアがあること。これが強みになってきます。そういう人材に育てるには、無理に高校や大学まで行かせるのではなく、本人が望むなら早くから海外で武者修行させる。このほうが、絶対にオリジナリティが生まれるわけです。

 万人に求められる人材にはなりにくいと思いますよ(笑)。でも、万人に求められる人材になんてなる必要ないですから。私たち親世代が生きてきた時代のモノサシを子どもに当てはめないように。これは、ものすごく気をつけなければと思っています。

 高濱:お母さんが子どもに入社してほしいと思っている企業って、30年後にはつぶれているかもしれない。大体この繰り返しなんです。大企業のすべてがそうではないですが、なぜかというと、その企業には、大企業病の人ばかりが集まって、新しいものが生み出されないようになっちゃうことがあるのは、歴史的に証明されている。

 だってわれわれが子どもだったころ、みなさんとは世代が少し違うけど、例えばヤフーなんて、知らなかったじゃないですか。グーグル、意味わかんないし。ところがいまやすごいことになっている。GAFA(米国のIT企業大手、の頭文字を取って名づけられた造語)の台頭と同じように、これからも、次の世代、次の世代へと移り変わっていく。

 例えば僕たちが学生だったころには、とにかく「銀行に行きなさい」って言われていました。いま銀行はリストラをガンガンやっている。乙武くんの話を聞いて思ったのは、とにかくサッカーをやりたいって意識させることができるかが勝負ですよね。本当にやりたいと心から思っているかどうかだけが勝負です。

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最終更新:2/26(金) 14:01

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