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ゲームストップ騒動に重なるバブル崩壊の記憶 ブラックスワンか、それとも市場のカナリアか?

2/24 9:01 配信

東洋経済オンライン

 アメリカのゲーム小売りチェーン「ゲームストップ」の株価が、SNSを通して集まった個人投資家の「買い」によって急騰したニュースが話題になっている。ショート(カラ売り)を仕掛けていたヘッジファンドが、莫大な損切りを余儀なくされ、個人投資家がプロの投資家に勝ったと言われているからだ。

■「素人がプロに勝った」は本当か? 

 日本にはない特異な取引形態が使われたために、あまりピンとこない個人投資家が多いかもしれないが、当初報道された「素人がプロに勝った」「まったく新しい投資革命」といった論調は残念ながら当てはまらない。

 カラ売りを大量に仕掛ける投資戦略は、現在の金融市場には山のようにある。アメリカの株式市場のカラ売りランキングでは第1位が「テスラ」、第2位は「アップル」だが、テスラをカラ売りしていた投資家は、年初からの株高で350億ドル(3兆6500億円)を失ったという調査報告もある。カラ売りの世界でも桁違いのマネーが行き交っているわけだ。

 カラ売り戦略では、株価が適正な価格よりも高く評価されている銘柄に大量の売りを仕掛けて、株価を下落させて利益を稼ぐ。ところが、目論見が外れて株価が上がると、カラ売り戦略をとる投資家は、追加の証拠金を要求されるため、カラ売り解消のために「買う」ことになる。株価はさらに上昇することになり、安い株価で買った投資家には大きな利益が転がり込む。

 こうしたカラ売りされている銘柄に大量の買いを入れて株価を上昇させる投資戦略を「ショートスクイーズ」と呼ぶ。日本語では「踏み上げ」とか「カラ売り解消による買い上げ」ともいわれるが、莫大な資金を必要とするために、個人投資家にはできない投資戦略と思われてきた。

 問題は、現在がコロナによるパンデミックによって、各国政府や中央銀行が大量のマネーを放出。そのマネーが金融マーケットに集まり、巨大なバブルを形成しつつあることだ。このタイミングで「ゲームストップ・ショック」とも言われる「ブラックスワン的現象」(ブラックスワンとは、マーケットにおいて事前にほとんど予想できず、起きたときの衝撃が大きい事象)が起きたということは、バブル崩壊の可能性が高まってきたことを意味する。

 2008年に起きたリーマンショックも、その前兆は前年の大手投資銀行「ベアー・スターンズ」系列のヘッジファンドが破綻したところから始まっている。カラ売りの巻き返しから恐慌に発展した「1901年恐慌」という先例もある。ゲームストップ・ショックの背景には何があるのか……。

 仮想通貨のビットコイン(BTC)は、最近になって1BTC=5万ドルの大台を突破した。今年初めからわずか1カ月半で75%も上昇したことになる。デジタル通貨全体の時価総額は、いまや1兆4000億ドルを突破したそうだ。

 株式市場もいまやバブルの真っただ中だ。アメリカ市場を代表するニューヨークダウ、S&P500、ナスダックの株価指数はそろって連日最高値を更新している。

 つられて、日本の日経平均株価も念願の3万円台突破を30年ぶりに達成し、世界の株式市場の時価総額も、この6週間で6兆8000億ドル(約714兆円)も増加した、とブルームバーグが伝えている。

 商品市場も、金価格こそ金利の上昇でややさえないが、代わりにプラチナが買われ、ゲームストップ株同様にSNSから発信された情報を基に買われた「銀」も大きく値を上げた。とうもろこしなどの商品市場も大きく値を上げており、金融マーケットは、いまや市場全体が空前のバブル状態といっていいだろう。

■ゲームストップ・ショックを読み解くためのポイント

 そんな状況の中で起きた「ゲームストップ・ショック」。これまで詳細に報道されているため概要は省くが、いくつかポイントがある。簡単に列記すると──

ウォールストリートベッツ
 オンライン掲示板「レディット(Reddit)」の中にあるフォーラムのひとつ。個人投資家のカリスマ的な存在の人物が「ゲームストップ株」の買いを推奨したところから、今回の騒動が始まった。

ロビンフッド
 手数料無料のオンライン証券。2019年にアメリカのネット証券の多くが売買手数料を無料にし、個人投資家の多くが使っている。ウォールストリートベッツでゲームストップ株の買い推奨を受けた個人投資家が、ロビンフッドに通常の10倍以上の買い注文を発注したため、ロビンフッドは多額の預託金を請求され、一時的に個人投資家の売買を停止。これが市場に大きな混乱をもたらした。

HFT(高速高頻度取引)
 オンライン証券がなぜ売買手数料無料でビジネスができるのかというと、オンライン証券が受けた売買注文を「HFT(High Frequency Trading)」に委託する代わりにリベートを受け取る商習慣があり、手数料無料のネット証券の収入になっている。HFTは、売買のスプレッド(差額)で稼ぐ。ロビンフッドは、マーケットメーカーのHFT会社「シタデル」に株式の売買を委託していた。

 厳密に言えば、顧客の利益の一部を収益源とするHFTが、無料のオンライン証券を支えているという構図だ。HFTはヘッジファンドが運営しているケースが多く、ロビンフッドが売買を停止した際には、シタデル系列のヘッジファンドを守っている、と批判された。

個別株オプション
 日本にはない投資法だが、個別株を特定の価格で買う権利(コールオプション)、売る権利(プットオプション)を売買するもので、少ない金額で多額の売買ができる。ウォールストリートベッツで個人投資家にゲームストップ株の買いを推奨した人物も、コールオプションを使うことで株価の引き上げをあおったと批判される。

ヘッジファンド
 ショートスクイーズによって、カラ売り戦略を打ち砕かれたヘッジファンドだが、今後ヘッジファンドがバタバタと破綻していくようなことになれば、世界中を巻き込んだ金融危機が襲いかねない。ゲームストップ株をカラ売りしていた「メルビン・キャピタル」は27億5000万ドル(約2887億円)もの融資を受けたと報道されている。ヘッジファンドの破綻は、これまでにも数多くの経済危機や金融危機を引き起こしてきた。

 これらのキーワードを理解したうえで、今回のゲームストップ・ショックを総括すると、現在の株式市場がいかに「買い材料」に飢えた相場になっているかがわかるはずだ。材料さえあれば、実体のない企業でさえも、株価が上昇する状態になっている。

■人間はAIの高速売買に太刀打ちできない

 さらに注目したいのは、現在の機関投資家やヘッジファンドは、コンピューターのアルゴリズムを使った自動売買を使って売買している現実がある。人間が考えて投資をする従来の投資方法では、AI(人工知能)による高速売買に太刀打ちできない。

 例えば、ヘッジファンド同士の戦いを見ても、そのヘッジファンドが使うコンピューターの性能によって、運用で得られるパフォーマンスが違ってくる。処理スピードの高いコンピューターはむろんのこと、通常の光ファイバーの3分の1の通信時間で済む中空光ファイバーケーブルを使うなどマイクロ秒単位での勝負が常識になっている。技術革新についていけないヘッジファンドは負けてしまう。個人投資家にショートスクイーズで負けたヘッジファンドが、今後生き残れるかかなり疑問だ。

 いずれにしても、個人投資家が株式売買の短期勝負で勝てる時代ではないということだ。ゲームストップ・ショックは、さまざまな材料がミックスしてたまたま個人が瞬間的に勝つことができたが、そう簡単に奇跡は起きない。

 そもそもショートスクイーズ事態、そう珍しい投資戦略ではない。今回、ゲームストップ株が急騰できたのは、現在の市場が流動性の高いバブルだったからこそ成立したものであり、個人がプロに勝ったことが「ブラックスワン」だったといっていいだろう。

 問題は、バブルだとわかっているのに、なぜバブルが崩壊しないかだ。世界中の金融当局が監視の目を光らせて、バブルが崩壊しないようにコントロールしているから、といっていいだろう。今回のゲームストップ・ショックも、即座にアメリカの金融当局が動いて、株価操縦の疑いで公聴会を開催した。

 2月18日、個人投資家によるネット掲示板での呼びかけが相場操縦に当たるかどうかを審議するために、ロビンフッドのブラッド・テネフCEOをはじめとして、関係者が公聴会で説明を求められた。テネフCEOは株価操縦の意図は否定したものの、売買を停止したことは謝罪した。

 さらに「シタデル」創業者のケン・グリフィン氏、カラ売りで莫大な損失を出したヘッジファンド「メルビン・キャピタル」のゲイブ・プロトキンCEOなどが招聘され、それぞれ「株価操縦」との指摘を否定した。

 今回のゲームストップ株暴騰によるイベントは、27億5000万ドルともいわれるヘッジファンドの損失を埋めるために、ゲームストップ株以外の株式が相次いで売られ、市場全体が大きく揺らいだことが問題となった。イエレン財務長官も即座にコメントを発表するなど、対応の素早さが目立った。

 その背景には、過去にもヘッジファンドなど莫大なポジションを運用している機関投資家の破綻が原因で、市場全体が崩れた歴史が数多くあったからだ。簡単に列記すると、次のようなケースが該当する。

■「ヘッジファンドの破綻」は市場のカナリア? 

1901年恐慌
 大陸横断鉄道のノーザン・パシフィック(NP)鉄道の株価を巡って、複雑な株式の買い占め競争が起き、当時としては破格の200ドルまで高騰。その段階で証券会社や金融機関から資金を集めた投機筋がカラ売りを開始する。

 しかし、その後も株価は上昇を続けて1000ドルまで暴騰。借金によってNP株をカラ売りした投機家は、他社の株式を売って借金返済に走ったために市場全体が大暴落。ニューヨーク証券取引所開設以来の大暴落となり、1901年恐慌と呼ばれた。ショートスクイーズによって市場全体が影響を受けた今回のゲームストップ・ショックと似ている。

LTCM危機
 1997年のアジア通貨危機や翌年のロシア財政危機が引き金となって、ヘッジファンド「ロングターム・キャピタル・マネジメント(LTCM)」が経営破綻。金融機関から集めた資金47億2000万ドルが焦げ付き、金融危機に陥る恐れがあった。LTCMが、世界中のあらゆる金融市場で鞘を稼ぐスプレッド取引を実施していたことから、世界恐慌に陥る可能性も指摘された。アメリカの中央銀行FRBが3カ月間で3回も政策金利のFFレートを引き下げるなど、国家を上げて保護した。LTCM危機は、ヘッジファンドが世界恐慌に発展する可能性を示した最初の事例となった。

リーマンショック
 2007年7月31日、サブプライム住宅ローン証券を大量に購入していた投資銀行べアー・スターンズ系のヘッジファンド2社が経営破綻。その後、リーマンショックに発展したことはよく知られているが、このヘッジファンド2社の経営破綻は、現在でも「炭鉱のカナリア」だったと言われている。

 炭鉱では、人間よりも早く酸欠や微量の毒ガスに気づくカナリアの入った籠を持って現場に向かう。ヘッジファンドの破綻は金融市場全体の「異変」を知らせる「市場のカナリア」というわけだ。

■バブル崩壊は当局の目の届かないところで始まる? 

 今回のゲームストップ株によるブラックスワン的イベントでは、いまのところ経営破綻したヘッジファンドは現れていないし、預託金不足で個人投資家の売買を一時的に停止したロビンフッドも、資金調達の道はすぐに開かれた。

 どの銀行や証券会社の“金庫”にも資金は潤沢にあるようだ。したがって、今回のゲームストップ株を巡るイベントが「市場のカナリア」になる可能性は低いのかもしれない。とはいえ、2008年9月に起きたリーマンショックを振り返っても、ベアー・スターンズ系のヘッジファンドが経営破綻してから、リーマン・ブラザーズが破綻するまで1年以上を要した。

 しかも、現在の金融市場はコロナによるパンデミック対策として、世界中の政府や中央銀行がバブルを崩壊させないように監視している。そんな中で、バブル崩壊が起こるとすれば、当局の目の届かない場所でのバブル崩壊であり、破綻がきっかけになると考えられる。例えば、現在もリアルタイムで凄まじいバブルを形成している投資対象が数多くある。いくつか例を挙げると──

ビットコイン
 テスラがビットコインを資産に組み入れると発表しただけで、あっけなく1BTC=5万ドルを突破。いまや10万ドルの声さえ聞こえるようになった暗号資産だ。今回のゲームストップ現象は、暗号資産の世界では日常茶飯事と言われる。オンライン掲示板など個人投資家が結託して、流動性の少ない暗号資産にショートスクイーズを仕掛ける取引が続いている。プロの投資家に打ち勝つ構図は仮想通貨が源流ではないか、とウォールストリートジャーナルも指摘している。

ドージコイン
 冗談として創られ、実用性がまったくない暗号資産「ドージコイン」は、起業家のマーク・キューバン氏が「宝くじかドージコインのどちらかを買わなければいけないとしたら、ドージコインを買う」とツイートして、その後ドージコインの価格は12時間で50%上昇。今年に入ってから1300%も上昇した。実体のないものに投機筋のマネーが集まって価格が乱高下するのは、過去にもよくあった。17世紀のオランダのチューリップ恐慌もそのひとつだ。

銀相場
 ゲームストップ株の次の標的は「銀」といわれるが、2月1日の先物市場で銀価格は11%上昇し、1オンス=30ドルに達している。しかし、ゲームストップ株の下落などで銀価格は上げ渋っている。

 銀は過去にも買い占めることで銀価格を吊り上げようという試みが何度か行われてきた。1979年、石油王H.L.ハントの息子3人が、銀を買い占めて銀価格を8倍に釣り上げた。市中に出回る銀の3分の1を買い占めたと言われるが、結局は「シルバー・サーズデー(銀の木曜日)」と呼ばれる暴落に見舞われて失敗している。

SPAC
 企業買収することだけを目的に設立された特別買収目的会社(SPAC)のことで、金融緩和によって大量のマネーが彷徨う中で、買収を目的に設立されたSPACはいまやアメリカ市場に398社も上場しているといわれる。この1月だけでも91社が上場し、250億ドルを投資家から集めたとされる。今年に入ってからだけでも、8兆円を超える資金がSPACによるM&Aによって集められた。上場する時点で、どんな会社を買収するのか公開していないために、白紙の小切手を買わされるのも同然だが、世界中からマネーが集まる。

 日本も、バブルだった1990年前後には、アメリカの超高層ビル「エンパイア・ステートビル」を購入し、ゴッホの「ひまわり」を史上最高値53億円で落札した。2000年前後のドットコム・バブルと呼ばれたころにも、実体のない会社の株が次々と買われた。

■「市場のカナリア」を誰が早く発見できるか

 コロナのパンデミックによって形成されたバブルは、遅かれ早かれ破裂する。そのときに、誰よりも早く「市場のカナリア」を発見できた人が富を形成できるのかもしれない。とはいえ、現在の金融市場はデリバティブ取引だけでもその想定元本は数十兆ドル単位とも言われる。AIのコントロールがなければ、いつ暴走してもおかしくない。

 例えば、世界中の株式市場で取引されている「ETF(上場投資信託)」は、いまや日本市場でも時価総額ランキングの上位5銘柄のうち2銘柄も入っている。日本銀行のETF買いも有名だが、このETFを支えているのが、マーケットメーカーといったHFT(高速高頻度取引)業者だ。HFTの運用はむろん人間の手ではなくAIに委ねられているが、AIの制御能力を超える売買になったとき、世界はどうなるのか。

 世界中の金融当局が、バブル崩壊を防ぐために監視を続けているとはいえ、つねにバブル崩壊は起きてきた。今回もまた、市場のカナリアは意外なところで鳴き始めるかもしれない。

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最終更新:2/24(水) 9:01

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