IDでもっと便利に新規取得

ログイン

聖光学院はなぜ神奈川トップの進学校になったのか

2/24 6:01 配信

ダイヤモンド・オンライン

 戦後、横浜に設立されたカトリック男子中高一貫校の聖光学院は、神奈川県最多の東京大学合格者を輩出するまでに進学実績を上げている。同校OBであり、生え抜きの教員として、半世紀にわたりその成長を見つめてきた工藤誠一校長。2021年の中学入試を振り返りながら、今後目指す教育の内容についても語ってもらった。(ダイヤモンド社教育情報、撮影/平野晋子)

 工藤誠一(くどう・せいいち)聖光学院中学校・高等学校校長

聖光学院中学校・高等学校校長。学校法人聖マリア学園理事長。神奈川県私立中学高等学校連合会理事長。1955年横浜生まれ。聖光学院中学校・高等学校(第11期)卒業後、明治大学法学部と政治経済学部を経て同大学院政治経済学研究科修了(政治経済学修士課程単位取得修了)。母校で社会科の教鞭をとるかたわら、38歳から6年間、事務長も兼務。2004年、日本人として初の校長に就任。一昨年から、同じ学校法人のさゆり幼稚園の園長も兼務している。● 新型コロナ禍の2021年入試

 ――今年の入試で聖光学院は出願者を2割近く減らしました。なぜでしょう。

 工藤 2日の第1回が623人、4日の第2回が622人の出願で、いずれも前年比16%減です。新型コロナの影響なのか、東京からの受験者が減りました。

 東京での併願校は、かつては麻布でしたが、今では開成が多い。1日開成、2日は男子校ならうちで、共学校なら渋谷教育学園渋谷というパターンです。麻布は栄光学園との併願が多くなりました。

 ――在校生も東京からが多いのですか。

 工藤 毎年第1回の合格者は220人前後(2021年は221人)ですが、圧倒的に東京からの受験者が占めています。

 今年も算数の平均点は48点台でしたが、それでも90点以上取る受験生はいっぱいいる。「何でこの試験で92点とか取れるのか」と見ると、みんな東京からの受験生。それだけ地元・神奈川で聖光を希望する生徒が入りづらくなることは否めません。

 経済格差と教育格差には相関があるといわれることがあります。確かに、うちの在校生にも豊かな層が多いといわれるJR山手線内の家庭の子どもが増えてきました。

 ――その傾向は続いているのですか。

 工藤 電車の相互乗り入れなど交通の便が発達したので、県単位というくくり方ではなく、首都圏という領域の中で学校選びが行われる時代に変わってきました。

 一方で、どうしても私学というのは、ある程度のゆとりある層が子どもを通わせていることは否めないのかなと思います。特に小学校は。

 ――総務省の調査では、私立小学校に通う子どものいるご家庭の半分は世帯所得が1200万円以上でした。

 工藤 それはそうですね。夫婦2人で稼いでいると 2000万円くらいになる家庭も多いのではないですか。

 ――私立の小学校でもアフタースクールをやっているところがほとんどですから。

 工藤 私は横浜YMCAの理事長もやっていますが、青山学院横浜英和、聖ヨゼフ、横須賀学院などキリスト教系の学校など、アフタースクールを結構頼まれています。昔は「お母さまが参加する行事もたくさんございまして」なんていう感じで、私立小学校では専業主婦を前提にしていました。もう時代が変わっています。

● 国立難関大学に向かう進学校の進化論

 工藤 出願者数だけを見ると、今年はうちがかなり減ったように見えますが、受験生の質は落ちていません。在校生の兄より優秀だと前もって聞いていた弟の受験生も、今年みたいな算数の問題だと、「こんなに難しいのか」と軒並みダメでした。やっぱり、それだけ受験生の全体の質は上がっている。

 うちの学校の入試では、奇をてらうような問題は出しません。そうした問題は、一見おもしろそうに見えますが、地道に努力したことや本当の論理的思考力を測ることには向かないからです。とはいえ、記述問題に重きを置きすぎるのも、選抜試験には適さないでしょう。

 ――そういう意味では非常に入試問題をよく研究して出していらっしゃいますね。

 工藤 それはあるかもしれません。作問には割と時間をかけています。1人の先生に1分野だけを任せるとか、そういうことはせずに、科全体である程度作らせる形を取っています。

 ――ところで、私の大学の同級生が近所の県立緑ケ丘高校出身でした。当時はまだ、聖光学院はそれほど進学校でもなかったと思います。どういうことがきっかけで進学校化が進んだのですか?

 工藤 東大合格実績に関しては、現役浪人合わせてうちが県内トップ校です。少なくとも私が校長になってから、現役生実績では栄光学園を上回ってきました。県立高校との逆転は、やはり2004年度まであった学区制度の影響でしょう。また、1985年から入試を2回行うようになり、間口を広げたこともあると思います。

 進学校の進化論というものがあります。主に日東駒専(日本・東洋・駒澤・専修)に入れていた学校が、GMARCH(学習院・明治・青山学院・立教・中央・法政)になって、それから早稲田や慶應義塾へとシフトしていく。これは単純に言えば、とにかく英語の力を伸ばしていけば可能になります。

 ところが、国立の難関大学となると、それだけでは足りない。文化的な重なりというか、素養がないと無理です。6年かけて育てるものがないといけない。

 ――いったい何が必要なのでしょう。

 工藤 高校生になって、受験を意識して勉強する時に、精神的に成熟している部分がないと無理なのです。一朝一夕にはそれは身に付きません。高2・高3生の担任をしていたので、そのことはよく分かります。

 私は教頭になった時から、選択芸術の講座など生徒が自由に学ぶ場を作って行きました。STEM(科学・技術・工学・数学)ではなくてSTEAM教育だということですよ。

 ――「STEAM」の「A」の部分は、芸術もしくはリベラル・アーツですね。

 工藤 カリキュラムや学年の枠を超えた体験型の学習講座である「聖光塾」をやっていくことで、生徒が自主的に学び、より考えることができるようになったと思います。

● 走りながら考え、失敗を恐れない

 ――聖光の新型コロナ対応の遠隔授業はお見事でした。

 工藤 4月から6月第1週まではウェブを活用してやりました。ただ、中学生や高校生にはやりたくないことをやらせている。みんなが目を輝かせて授業を受ける、そんなの嘘ですよ。会社の会議とか、趣味の講座というのなら話は別ですが、学校の授業をやっても、やらない子はやらない。自分の映像を外し、ヘタをしたら音声も切っている(笑)。

 結果的に、学習の定着度は高くない。学ぶというStudyの部分と生活というSchool Lifeの部分は違うじゃないですか。学校にはその両方がないといけない。必ずしもオンラインだけで豊かな教育をすることはできないなと、実感を持って分かりました。

 ――今回再び緊急事態宣言が発令されましたが、どのように思いましたか。

 工藤 対面授業をできるだけ継続するにはどうしたらいいかを考えました。とはいえ、オンラインは日常の中で活用することです。うちはG Suite for Educationを使っています。それで生徒同士が、ディスカッションしながら共同研究もできる。

 以前なら、イベントなどの告知はポスターを職員室の廊下や教室の壁に貼り、先生がホームルームで伝えていました。ところがネットで情報を流すと、参加率がものすごく上がった。全生徒に流せますし、ついでに保護者にも流してしまいます。深掘りして生徒に学んでもらいたいものはURLだけを送る。生徒はそれをクリックして、動画で見ることができる。これはすごい強みです。

 学校で契約すると安くなるというので、全生徒が自由にAdobeのソフトを使えるようにしました。生徒会の中にある「総合技術研究所」がPR用の動画を作ったりしている。個人契約だと動画編集ができるものまで入れると年に3万いくらかかかると。それが年に1人あたり1000円もかからなくなった。教職員も入れて300弱の申し込みがありました。

 ――生徒全員に端末としてChromebookを配っていますね。

 工藤 すべての生徒と保護者に対して学校としてアドレスを配布しましたので、「生徒及び保護者の皆さんへ」と書いて一瞬にして連絡がつくわけです。

 Chromebookは動画編集にはスペック不足ということで、もっと性能のいい機材を中1から高1までの生徒が申し込んだことで、一気に200人以上の生徒が動画を作れる環境にあります。これってすごいことだと思います。

 日本は、安全神話だとか品質神話が強すぎて、事故やミスが起きないように考えてしまう。でも、何かをクリエイトしていく場合、それではダメ。創造しつつ、失敗を修正していくやり方に変えていかないと、新しいものはできません。日本の産業が衰えた理由の一つに、品質だけを考えすぎ、ディテールにこだわりすぎて、そしてガラパゴス化してしまったことがあると思います。

 ある部分、走りながら変えていくことを、教育の場でも取り入れなくてはいけません。生徒は多少失敗してもやりながら変えていけばいい、と私は思うし、先生もしょっちゅう間違えているよね、と言います。

● 私学ならではの教育を考える

 工藤 日本全国どこへ行っても100円出して5円だって言えば、95円おつりですと言えるようにするのが公立学校の教育の基本です。陸軍で「撃て」「止まれ」が通用しなくては困るからというのが日本の共通語の始まりです。その求められているものの水準が、時代の進化とともに高くなっています。

 それぞれの学校で教育目標の実現が可能な私学は何をしていくべきなのか。坂本龍馬が明治維新を作ったとすれば、これからの新しい日本を切り開く志士、技術の分野だけでなく、諸国民同士も結び付けるために東奔西走できる、そういう若者を作り出すことも大事だろうなと思います。

 ――そのためにも私学ならではの教育が必要となりますが。

 工藤 理系の試験科目となっている数IIIの分野、統計や分析、コンピューターサイエンスと結び付き、一番実学に役立つものを、受験とは別の形で文系理系問わずすべての生徒にきちんと理解させることを今考えています。「探求」や「情報」という教科の中で教えていく。英語を話せる、プログラミングができる。これは読み書きそろばんと同じで、全員ができて当たり前のものです。

 ――ところで、聖光アカデミアの会というのはどういうものですか。

 工藤 卒業生の研究者の集まりで、後援会です。聖光学院医師同窓会というのもあります。

 ――キャリアを考えるにはいいですね。

 工藤 そうです。将来的に人口が少なくなり、市場も小さくなっていきます。少子高齢化社会は負の側面ばかり強調されますが、イスラエルは小さな国でもすごく豊かです。それは、世界でみんなが稼いでいるからです。

 そうした子どもたちを育てていかないと、この国の将来はないと思います。それを本当に考えてやれるのは教育だし、私学だと思います。

 教育ってなかなか変わらないものです。部活などはその良い例です。スポーツはレジャーだから海外の学校では楽しくソフトボールをやったりして遊ぶものですが、日本の場合は教育の一環と考えられている。一意専心に取り組むだけが部活の良さではありませんから。

 ※第2回(3月3日公開予定)に続く

ダイヤモンド・オンライン

関連ニュース

最終更新:2/24(水) 9:16

ダイヤモンド・オンライン

投資信託ランキング

Yahoo!ファイナンスから投資信託の取引が可能に

最近見た銘柄

ヘッドラインニュース

マーケット指標

株式ランキング