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名著ペストに学ぶ「長いコロナ禍」を生き抜く力 不条理の時代を生きるための行動のヒント

2/23 16:01 配信

東洋経済オンライン

日本でもワクチン接種が始まったものの、まだまだ収束の兆しが見えないコロナ禍に途方に暮れている人も多いことでしょう。アルベール・カミュの名著『ペスト』が、コロナ禍となってから世界中でベストセラーとなっていますが、先の見えない時代を描いた『ペスト』の登場人物から学ぶべきことは少なくありません。『マンガ&あらすじでつかむ!  60分でわかる カミュの「ペスト」』の著者である、哲学者の大竹稽氏が解説します。

■不朽の名作『ペスト』とは 

 今、私たちは、新型コロナウイルス「第3波」にさらされています。皆さんは今、どんな気持ちでおられますか?  悲しみや焦り、そして怒りなど、さまざまな感情が生まれているように感じます。まさに今、私たちは不条理なるものに貫かれています。不条理の生々しさは、ずいぶんと、骨身にこたえますね。

 さて、不条理なるものは、数学の問題のようにキレイさっぱり解決できるものではありません。不条理とは、解決すべきものではなく、乗り越えるものなのです。そうは言っても、怒りや不満では、不条理は乗り越えられません。では、私たちはどうすればよいのでしょうか?  『ペスト』の登場人物の行動から、より具体的なヒントをお伝えしたいと考えています。

 『ペスト』はノーベル賞作家であるカミュの作品の1つで、フランス統治下にあるアルジェリアの街、オランを舞台にした物語です。このオランにペストという感染症が発生。街は外部と完全に遮断されてしまいます。

 閉鎖された街に残された人々の悲劇や苦悩、一方で勇気や愛情が描かれています。いち早くペストの流行に気づき、県庁に訴えた主人公の医師リウー、そしてたまたま居合わせた意欲的な若者タルーが、街の人々、物語を引っ張っていきます。

 ご存じの方も多くいると思いますが、ペストは人類が遭遇した最大の厄災の1つと言えるでしょう。最初の記録として残る6世紀のパンデミックでは、コンスタンチノープルで1日5000人~1万人が死亡。これまでにペストの世界的大流行は3度あり、黒死病として世界史の教科書に登場するのは、14世紀から始まる第2次流行で、130年以上にわたりヨーロッパ各地を襲い続けました。このパンデミックによって、ヨーロッパの人口の3分の1が死亡したそうです。

■行動のヒントになる登場人物3人

 この『ペスト』から、私たちの行動へのヒントとなる人物3人を紹介しましょう。舞台であるオラン市の医師会会長リシャール、下級役人グラン、そしてタルーです。

 ほかの2人と違い、リシャールは反面教師です。とはいえ、彼と同じような行動をしている人に、きっと皆さんは思い当たるはずです。そうなってはいけない、ということを知らしめるのに格好の人物です。

 リシャールはペスト発生初期、同じ医師の主人公リウーと対策会議で争います。「このままだと2カ月以内に市民の半数が死亡するでしょう。これをペストと呼ぶかどうかなんて、問題ではない。これは時間の問題なのです。ためらっている場合ではない」と行動を促すリウーに対して、リシャールは「冷静になりましょう」と間の抜けた発言をします。

 リシャールと同じ側に県知事がいました。県知事は「大げさにならないようにしましょう」と、これまたトンチンカンなことを言います。リウーに向かって、「君は、これがペストでなくてもペストの際にしなければならない措置を取らねばならない、と考えているのですね」と、まるで他人事でした。

 リシャールたちの共通点は、指示待ち、責任回避、保身。この共通点がコロナ禍中にいる僕たちへのヒントになりそうです。彼らは自ら動こうとまったくしませんでした。自分たちで責任を負いたくないばかりに、自分たちより上の権威(フランス本国)に頼ろうとします。すでにタイムリミットなどない緊迫感の中で、椅子に座ったままいたずらに時間を浪費する……。

 では、彼らを反面教師にすると、どうなるでしょう?  この答えが、第1のヒントになります。

 「頼るべきは自分である。すべきことを決めるのは、ほかの誰でもなく、自分である」

■『ペスト』唯一のヒーロー

 さて、2人目はグランです。グランは、身長も低く、妻に逃げられた、地位も経済力もない下級役人でした。しかも、グランは、保健隊に参加したほかのメンバーよりも年を取っていました。体力もずいぶん、劣っています。

 そんな彼が、『ペスト』の中にいる唯一のヒーローとして、カミュから指名されたのです。彼は「自分はささやかな仕事で役に立ちたい」と保健隊入りを志願しました。患者の所在、往診の記録、患者や死者の運搬の指示など、状況の整理とデータ管理をグランが担いました。こうしてリウーやタルー以上に、グランは保健隊になくてはならない存在となっていました。

 彼の行動原理は、この発言に現れています。
「ペストが発生してしまった以上、ペストからわたしたちを守らなきゃなりません。すべきことは、これほどはっきりしているんです」

 「自分のすべきことははっきりしている」と断言する彼は、自分にできることに誠実に向き合いました。医師であるリウーやカステルのような専門的な役でもなく、タルーやランベールのような体力を要す役でもなく、彼が自らに課した役目は、ほかの誰でもできるかもしれないが、なくてはならない仕事でした。

 このグランが示すのが、第2のヒントです。

 「小さなことでもいい。無理をせず身の程に合ったことをやる」

 最後に、タルーに注目しましょう。

 ペスト発生から3カ月ほど経ったある日、タルーがリウーを訪ねます。そして、タルーが切り出しました。

 「あなたとは腹を割って話ができると思います。あと半月かひと月もすればあなた方はなんの役にも立たなくなってしまうでしょう。保健の人員がまったく不足しているのです。なぜ、志願者を募らないのですか?」

 リウーが答えます。

 「やってみたのですが、あまり集まらなかったのです。そこで、役人たちは囚人たちを使うことを検討したのです」

「自由な人間がやるべきです。志願者による保健部隊を組織するための案があります。役所など抜きにしてやろうじゃないですか。どうせ、彼らは手が回らないのですから。わたしには、さいわいにも、あちこちに友達がいます。まずは彼らを中心に活動できるでしょう。もちろん、わたしも参加します」

 こうして、保健隊が結成されました。

■『ペスト』から得られるヒント

 私は『マンガ&あらすじでつかむ!  60分でわかる カミュの「ペスト」』で、「自由な人間」について少し解説をしています。

 「囚人」は、リシャールや県知事。自由な人間は、グランやタルーたちです。指示待ち人間は「囚人」であり、「頼るべきは自分しかない」と覚悟する人間は、自由なのです。

 さて、このタルーのアクションから導き出せるヒントが、これです。

 「仲間に呼びかけよう。『一緒にやろう』と呼びかけよう」

 3人のヒントをまとめてみると、こうなります。

 「小さなことでもいい。まずは、自らを頼りにして、自ら行動してみよう。そして、行動しながら、仲間を見いだし、『一緒にやろう』と呼びかけてみよう」

 このヒントは、夢実現のための妙手でもなければ、人を選ぶような奥の手でもありません。誰にでもできる、基本的なことなのです。

東洋経済オンライン

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最終更新:2/23(火) 16:01

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