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増える特例子会社、その障がい者雇用で忘れてはいけないこと

2/22 6:01 配信

ダイヤモンド・オンライン

 厚生労働省の最新調査(令和2年 障害者雇用状況の集計結果)によれば、民間企業が雇用する障がい者の数は過去最高を更新。また、2020(令和2)年6月1日現在での特例子会社の数は542社で、前年より25社増えている。法定雇用率も来月(2021年3月)にアップし、特例子会社の存在がいっそう注目される中、“特例子会社経営”のノウハウを論じた書籍『障害者雇用は経営課題だった!特例子会社の戦略的活用による雇用・事業拡大』が昨年11月に刊行された。今回は、その編著者である、パーソルチャレンジ株式会社 シニア・コンサルタント 洪信男氏に、特例子会社における障がい者雇用の現状を語ってもらう。(ダイヤモンド・セレクト「オリイジン」編集部)

 *本稿は、現在発売中のインクルージョン&ダイバーシティ マガジン 「Oriijin(オリイジン)2020」からの転載記事「ダイバーシティが導く、誰もが働きやすく、誰もが活躍できる社会」に連動する、「オリイジン」オリジナル記事です。

● 増加する特例子会社の傾向は二極化が進んでいく

 特例子会社*1
は、2020(令和2)年6月1日現在で542社(前年より25社増)、雇用されている障がい者は、3万8918.5人(前年は3万6774.5人)となっている。 厚生労働省は、特例子会社における事業主側のメリットとして

○ 障害の特性に配慮した仕事の確保・職場環境の整備が容易となり、これにより障害者の能力を十分に引き出すことができる
○ 職場定着率が高まり、生産性の向上が期待できる
○ 障害者の受け入れに当たっての設備投資を集中化できる
○ 親会社と異なる労働条件の設定が可能となり、弾力的な雇用管理が可能となる


 といったことを挙げ(「障害」表記は原文ママ)、障がい者雇用全体の拡大に合わせて、特例子会社の数も今後いっそう増えていくだろう。

 まず、パーソルチャレンジ株式会社*2
シニア・コンサルタント 洪信男氏に、増えつつある特例子会社の現在の動向を聞いた。 *1 障害者雇用率制度においては、障がい者の雇用機会の確保は個々の事業主(企業)ごとに義務づけられている。その特例である「特例子会社」制度は、障がい者の雇用の促進および安定を図るため、事業主が障がい者の雇用に特別の配慮をした子会社を設立し、一定の要件を満たす場合には、その子会社に雇用されている労働者を親会社に雇用されているものとみなして、実雇用率を算定できることとしている。(厚生労働省「「特例子会社」制度の概要」より)
*2 パーソルグループの特例子会社として、グループの事務業務や広告制作等を担うBPO事業、官公庁受託事業、就労移行支援事業、日本最大級の決定実績を持つ障害者専門の人材紹介事業(dodaチャレンジ)など、障害者雇用にかかわる事業を総合的に展開し、「障害者雇用の成功」を目指す企業。本社・東京都港区。従業員数841人。(同社ホームページより *「障害」表記は原文ママ)

 洪 障がい者雇用のトレンドとして、特例子会社は増えてきてはいますが、現状ではまだ障がい者雇用の主流とはいえません。

 弊社刊行の書籍『障害者雇用は経営課題だった!特例子会社の戦略的活用による雇用・事業拡大』に記したとおり、全体の障がい者就労者の10%未満にすぎません。

 しかし、(1)法定雇用率は今後も上昇し続けること 、(2)雇用率上昇によって採用拡大が必要である一方、企業の採用基準が緩和されていないこと(身体障がい者など特定の層の障がい者に採用ニーズが集中し、採用競争激化・採用難が続いている)、(3)障がい者労働市場の質的拡大が大きく進んでいないことの3点から考えると、特例子会社制度を活用した雇用拡大はこれまでのスピードを超える勢いで増加すると考えられます。企業本体では現行の採用基準を維持しつつ、特例子会社を活用して採用基準を緩和し、新たな職域を創出していく選択肢がこれまで以上にクローズアップされると考えられます。

 親会社などグループ適用の対象となる従業員数「1万人以上」が特例子会社の3割以上を占めるという民間調査*3
のデータもあり、大企業は特例子会社を創立しやすいイメージがある。事業規模や業種など、特例子会社には何らかの「傾向」があるのだろうか。また、その事業方針に共通の特徴はあるのだろうか。 洪 特例子会社の拡大に業種の偏重はないように見受けますが、規模の大きな企業、専門性の高い職域の企業が(特例子会社制度を)取り入れる傾向が見られます。

 特例子会社の増加トレンドの中で、障がい者雇用においての二極化が顕著になると予測しています。

 まず、自社(グループ)の本業に資する職域で特例子会社を活用しようという傾向です。もともと、多くの特例子会社は自社(グループ)のユーティリティ業務*4
を担っていますが、それがより高度化していく方向性です。 もうひとつは、障がい者雇用を本業に資する職域ではなく、「企業の社会性」訴求に活用しようとする傾向です。こちらは「企業の社会性」として真摯(しんし)に取り組んでいる企業――言い換えれば、一般雇用の難しい障がい者に雇用の機会を与え、社会参加と自立を促したり、地域の課題と障がい者雇用を結び付けたCSV(Creating Shared Value)的な活動としての取り組みです。ただし、実体の伴わない「お題目」だけの雇用も引き続き見られること(雇用して給与は支払っているが、有意な職務をアサインしていない例など)にも留意が必要です。

 *3 株式会社野村総合研究所 コンサルティング事業本部「障害者雇用及び特例子会社の経営に関する実態調査 調査結果」(2018年12月)より
*4 ユーティリティ業務…シェアードサービス、グループ内BPO、外注業務の内製化など(書籍『障害者雇用は経営課題だった!特例子会社の戦略的活用による雇用・事業拡大』より)

● 障がいのある求職者が持つ特例子会社のイメージ

 一般的なオフィスよりも、特例子会社は障がいに配慮された設備や機器が整い、障がいのある従業員へのケアも行き届き、また、障がい種別に配慮した業務の切り出しもしっかり行われているケースが多い。しかし、その一方、特例子会社に対する入社前後でのイメージが乖離し、短い期間で離職してしまう障がい者も存在する。

 洪 弊社書籍『障害者雇用は経営課題だった!失敗事例から学ぶ、障害者の活躍セオリー』でも詳説していますが、障がいのある求職者の就労動機は「しっかり配慮を受けながら、安定して働き続けたい」「仕事を通じて成長し、キャリアアップを図りたい」など、さまざまです。就労に対する本人の志向性と特例子会社が用意している職域・職務は必ずしも一致しません。それにもかかわらず、求職者は就労優先で応募してきますので、雇用後の時間経過とともに齟齬が発生するリスクは(労使)双方で高くなります。この問題は特例子会社での離職リスクを高めます。

 一般傾向として、障がいのある求職者から見た特例子会社は、「職務が簡単=給与が低い=昇給もしない=キャリアアップはない=経済的自立もない=スキル発揮もない」というネガティブなイメージがあり、簡易な仕事でストレスなく、落ち着いて末永く働いていたいという障がい者には向いていますが、職務経験があり、一定のスキルと職務遂行能力のある障がい者からは敬遠されるという傾向は依然としてあります。

 特例子会社が、先ほどお話しした二極化のどちらを目指すのか――そのための制度や処遇はどうなっているのかなどを明示した募集採用を企業側が行い、マネジメント体制も整合性のあるものを整備しなければ、求める人材の採用と定着・活躍は難しくなると考えられます。

 職場での定着率アップは、障がい者雇用における大きな課題だ。仕事へのモチベーションが定着の有無を左右し、業務のスキルアップを目指す障がい者の中には特例子会社内での異動や親会・グループ会社への転籍を望む者もいるだろう。パーソルグループの特例子会社であるパーソルチャレンジには、本社の一般雇用部門に異動できる「キャリアチャレンジ制度」も設けられているが、スキルアップに伴うキャリアアップはどうなされるのだろうか。

 洪 弊社では、親会社またはグループ会社に異動できる制度(キャリアチャレンジ制度)も整備されていますが、希望者は多くはありません。採用時の面接やその後の定期的な面談や評価制度を通して、適時、本人のキャリアプランについての確認をして、業務変更や昇格など、通常の人事制度に沿って応えています。希望者が多くない理由として、特例子会社では目標管理制度はありますが、ハードなKPIマネジメントや目標追求を実施していないこと、親会社などに異動せずとも、親会社と同様の処遇制度による総合職(特例子会社の総合職)登用が可能なことが挙げられます。もちろん、総合職に異動するためには、本人の希望とそれまでの評価実績、昇格試験などによる適正な審査があります。総合職に登用された社員は業務グループ、またはチームの管理職的ポジションにつき、組織の運営責任の一端を担うことになります。

● 障がい者雇用における仕事の見える化と細分化

 書籍『障害者雇用は経営課題だった!特例子会社の戦略的活用による雇用・事業拡大』には、「(特例子会社の)採用戦略でやってはいけないのは、法定雇用率を達成しようと、採用人数ありきで採用を進めること」と記され、「採用戦略には、主に障害種別や能力により採用対象を限定する」手法があるという。ここで言う「能力」とは具体的にはどのようなものか――パーソルチャレンジの雇用方法とともに、洪氏に詳しく聞いた。

 洪 弊社の障がい者雇用では仕事を見える化し、細分化して、一業務を簡素化・単純化しています。難易度のかなり高い業務もこの方法で平準化・標準化し、個人ではなく、チームとして完結される仕事に改編しています。その上で、本人の担える範囲で業務量の多寡を設定していきます。可能な限り、高度な特定スキルに依存しなくてもいいように、そして、誰かが突然休んでも安易に代行が可能なようにしています。その分、マネジメントには個を調整し、全体として質的・量的に完結する調整力が求められますが、それを実現しています。

 弊社の言う「能力」や「スキル」とは、本人の自己責任による請負的なものではなく、細分化された業務を担える程度の基礎学力や安定して継続勤務できる職業準備性*5
、チームで作業をするための最低限のコミュニケーション能力、管理者の指示の理解・受容力などを指しています。そして、弊社ではどんな職域・職務にアサインしてもきっちりとしたトレーニングと教育を実施し、キャリアパスもサポートしています。 *5 職業準備性とは「職種や障害を問わず、働く上で必要とされるものを身につけ、準備すること。働くことについての知識理解・生活習慣・作業遂行の基本的な能力・対人関係のコミュニケーションスキルなど基礎的な能力、体力、労働習慣を身につけることが求められる」(パーソルチャレンジWEBサイト[障害者雇用に関する用語集]より)

 また、同書では、障がい者の働く環境の整備とマネジメントを行う人材を「運営管理者」と定義し、その運営管理者には福祉系のスタッフではなく、自社のラインスタッフの登用を提言している。

洪 弊社においてもスタートから一定期間は、福祉系のスタッフに依存していた期間があります。その間に福祉系のケア方法と企業組織のマネジメントを融合させる取り組みを試行錯誤してきました。弊社書籍『障害者雇用は経営課題だった!失敗事例から学ぶ、障害者の活躍セオリー』では詳細な記述をしていませんが、弊社固有のラインによるケアマネジメントツールを開発し、それを活用することでラインでの両立(業務とケア)を可能にしています。その他に、特例子会社の研修制度の枠組みの中で、管理職以外にも徹底した教育を実施しています(障がいの有無を問わない、ユニバーサルなコミュニケーション教育)。

● 「不安をマネジメントする」手法でのメンタルケア

 厚生労働省の「令和2年 障害者雇用状況の集計結果」によれば、特例子会社における被雇用者のうち、身体障がい者は1万1573人(前年1万1939.5人)=前年比*6
96.9%、知的障がい者は2万552.5人(前年1万8885.5人)=前年比108.8%、精神障がい者は6793人(前年5949.5人)=前年比114.1%であり、特例子会社において、精神障がい者(発達障がいを含む)の雇用がこの先さらに増えていくのは間違いない。その一方で、精神障がい者のサポートは知的障がい者や身体障がい者に比べて難しいともいわれている*7
。パーソルチャレンジは、精神障がい者に対してどのようなサポートを実践しているのだろうか。 *6 前年比は当記事(「オリイジン」編集部)調べ
*7 参考:「オリイジン」WEBオリジナル記事 「障がい者雇用で『ジョブコーチ』に求められる役割」

 洪 弊社の場合、精神障がい者のサポートが他の障がいに比べて難しいという発想はしていません。精神障がい者を含む障がい者の(実は健常者も)メンタルケアは大きくふたつに分けられると考えています。

 ひとつが「会社生活に関するケア」で、これは仕事と人間関係に関するケアになります。弊社の場合、弊社固有の「不安をマネジメントする」*8
という手法を取り入れ、会社生活で発生する「不安」を未然に防ぐ取り組みと発生時に早急に探知・対処するという手法で安定就労を図っています。ちなみに、これらの取り組みは精神障がい者に限定していません。上司とのライン上の対応だけでは解決とはならないケースもありますので、少数ですが、非ライン系の相談スタッフも設けています。 もうひとつが「会社以外の私生活に関するケア」です。この、「私生活に関する」ことが精神障がい者の退職理由*9
として、実は隠れた最大理由だと推測しています。ただし、私生活に関する問題は会社では立ち入りできないことでもあります。弊社の場合、「不安のマネジメント」を通して、会社以外の理由と思われる体調不良に関してはナカポツ*10
や(就労中の障がい者)出身の支援機関、医師と蜜に連携し、対応してもらうことにしています。 *8 参考記事:パーソルチャレンジWEBサイト 障害者の雇用管理ポイント~雇用後のトラブルや離職を防ぎ、定着するために~
「精神障害者の雇用の取り組みから考える多様性と生産性を実現するトータルマネジメント手法」が「第7回 日本HRチャレンジ大賞」奨励賞を受賞
*9 株式会社野村総合研究所 コンサルティング事業本部「障害者雇用及び特例子会社の経営に関する実態調査 調査結果」(2017年12月)では、精神障がい者の離職理由(複数回答)の1位が「体調悪化等により、継続的な出社が困難になったため」(70.2%)となっている。
*10 ナカポツは、障害者就業・生活支援センターのこと。「障害者に対する総合的支援の充実を目的として設立された組織都道府県知事が指定する公益法人(社団または財団)、社会福祉法人、特定非営利活動法人(NPO)などが運営しており、障害者の身近な地域で就業面と生活面の一体的な相談・支援を行う。就業と、就業に伴う日常生活上の支援が必要な障害者に対し、求職相談、職場定着相談、生活相談を行う。事業主に対しては、雇用管理にかかわる助言、職場の環境改善などの支援も行う」(パーソルチャレンジWEBサイト[障害者雇用に関する用語集]より)

洪 他社の事例を見ますと、一般的にはやはり精神障がい者のサポートは他の障がい者に比べて難しいというイメージを多く持っているようです。そして、福祉系の専門職(PSW*11
など社内外の専門家)に頼ることも多いようです。弊社の場合は数年の試行錯誤の中で経験を積み上げてきましたが、専門職に依存するのはリスクヘッジという観点からのケースもあるようです。 *11 PSW=精神保健福祉士(Psychiatric Social Worker)。精神科ソーシャルワーカーという名称で1950年代より精神科医療機関を中心に医療チームの一員として導入された専門職で、1997年に精神保健福祉領域のソーシャルワーカーの国家資格として誕生した。(参考:公益社団法人日本精神保健福祉士協会ホームページ)

● 業務を切り出し、ローテーションで在宅化する方法も

 たとえば、特例子会社に勤める障がい者は障がいのない社員との交流が十分に成し得ていないという調査結果*12
がある。新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、「交流」が減らざるを得ないテレワーク導入の特例子会社も見受けられるが、パーソルチャレンジの障がい者雇用は、現在、どのような状況にあるのだろう。 *12 株式会社野村総合研究所 コンサルティング事業本部「障害者雇用及び特例子会社の経営に関する実態調査 調査結果」(2018年12月)より

 洪 弊社の場合、「特例子会社の障がい者と障がいのない社員との交流が十分に成し得ていない」といった課題は発生していないようです。

 緊急事態宣言発令後の2020年4月から、8割を超える社員が在宅勤務に移行しましたが、在宅化しても業務はチームとして動いているため、問題があるとすると、障がい者かどうかではなく、障がい者と健常者が混在しているチーム運営の問題になります。なお、チームリーダーには障がい者も多数含まれています。弊社の場合、特例子会社ではありますが、誰にどのような障がいがあるのかを原則非公開としているため、誰に対してもユニバーサルな対応を標準としています。

 コロナ禍で解決しきれていない課題として挙がっているのは、在宅勤務可能な職務と不可能な職務の格差になります。こちらも障がい者かどうかではなく、障がい者と健常者が混在しているチーム運営の問題になります。

 在宅勤務では不可能な職務とは、主に、紙の帳票に依存する経理業務や、封入封緘や清掃などの現物・現地を前提にしている業務、仕様により在宅からアクセスできないシステムを使う業務などです。これらは、障がい者本人はもちろん、弊社単体でも解決が難しく、本来は企業グループとして解決していかなければならない課題です。現在の方針としては、業務を徹底的にテレワーク対応型に再編することと、現物・現地型の業務も一部在宅化可能な業務を切り出し、ローテーションで部分在宅化する方法を進めています。

 障がい者だけに求める課題ではありませんが、在宅勤務が増えることで、オフィス勤務よりもコミュケーション力、特に、自律性と、自らの発信力が強く求められます。オフィス勤務では、誰かが見てくれていたり、察してくれていることが多かったと思いますが、テレワークでは自らが発信していかなければ、意思の疎通はもちろん、適切なケア、配慮も受けにくくなります。

 弊社の「不安のマネジメント」やラインによる業務とケアの両立もオフィスでの出勤勤務を前提として構成されているため、テレワーク対応にアップグレードしていくことが急務になっています。

 ※本稿は、現在発売中のインクルージョン&ダイバーシティマガジン「オリイジン2020」からの転載記事「ダイバーシティが導く、誰もが働きやすく、誰もが活躍できる社会」に連動する、「オリイジン」オリジナル記事です。

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最終更新:2/22(月) 6:01

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