仕事の「スピード」と「質」は出来る限り上げたいもの。
『マッキンゼーで叩き込まれた 超速フレームワーク』では、コンサルティングの現場で実際に使われている、実用性・汎用性が高いフレームワークが紹介されています。本稿では同書から一部抜粋しお届けします。
■「多忙な上司」の時間を押さえようとしたら…
自分の主張をもっとうまく相手に伝えたい。程度の差はあれ、多くのビジネスパーソンが抱える悩みかもしれません。
たとえば、繁忙期なうえ、クライアントからのクレーム対応で忙しそうな上司に、どうしても判断してもらわなければいけないことがある。そんなとき、あなたはどのように伝えるでしょうか。
あなたは大事なクライアントに提出する企画書を作成していて、明日の午前中には下書きが完成しそうです。しかし、内容に関して何点か上司の判断を仰がないと、完成させることができません。
「午前中は難しそうだが、昼食後の午後2時くらいなら、相談できるかもしれない」と相手の事情を考え、上司が席に座った瞬間、次のように話しかけました。
「課長、明日の午後2時に時間をいただけませんか?」
それを聞いた課長は「ムッ」とした表情になり、厳しい言葉が返ってきました。
「いま、それどころじゃないことは君もわかっているだろう。こっちが落ち着いたら、時間はいくらでもとるから、また今度にしてくれ」
あなたは途方に暮れてしまいます。クレーム対応でいくら忙しくても、10分程度の時間がとれないはずはありません。
では、上司はどうして冷たく拒否したのでしょうか。
あなたはここで、少なくとも3つの失敗を犯しています。
第1に、あなたの都合で、上司の時間を押さえようとしたことです。これがもっとも大きな失敗です。
ビジネスではクライアント優先で対応を求められることが多くなります。ましてや上司はクレーム対応で忙しく、相手に合わせた対応をとらざるを得ない状況で余裕がありません。
実際、明日の予定もわからず、場合によっては突然、クライアントから呼び出しがあり、即座に応じなければいけない可能性も考えられます。そのため、簡単にはほかの予定を入れられない状況です。そこへ、あなたが一方的に時間を予約しようとしたのですから、上司が怒るのは当然です。
第2に、どれくらいの時間が必要なのかがわからないことです。
相談は5分で終わるのか、30分以上かかりそうなのか、この話し方では上司は判断ができません。
この場合、時間を指定するのは、ある程度の時間を割いてほしいという意味だと受け取ったため、上司は拒否反応を示したのです。
第3に、そもそも要件が何かわからないことです。
いきなり「明日、時間がありますか?」と部下に聞かれたら、上司は「ひょっとして退職を考えているのか?」「私生活で困った問題でも抱えているのか?」などと身構えてしまいます。
多忙なときは、1人でも欠員が出ると業務に支障が出るため、そうしたやっかいな問題は先伸ばししようとして、けんもほろろな対応をしたのかもしれません。
せめて最初に仕事の相談であることを伝えなければ、上司に余計な心労を与えることになります。
■「要件は何か」「何分かかるのか」を同時に伝える
では、どのように話しかければよかったのでしょうか。
一番いいのは、「課長、〇〇の件で、いま5分だけお時間をいただけないでしょうか?」と話しかけることです。
「要件は何か? (→○○の件)」「何分かかるのか? (→5分)」を最初に伝えることで、上司も「その件か。手短に報告してくれるのなら、いいよ」と、その場で耳を傾けてくれたかもしれません。
あるいは、「いま、急がしいので30分後にしてくれ」「とりあえず、デスクに企画書を置いておいてくれ」などと、上司のほうから代案を示してくれたかもしれません。
もちろん、「5分だけ」は、あくまで上司に「時間はかかりません」と安心感を与えるための方便であって、必ず5分で終わらせなければいけないわけではありません。
当然、あなたは簡潔かつスピーディーに要点を述べる必要がありますが、往々にして上司は話を聞き始めると、自分が納得できるまで説明を続けさせようとするものです。つまり、上司が聞き始めてくれればこちらのもの。相手から止められるまでは、何分でも話し続けられます。「5分」と最初に伝えることで、相手が断りにくい状況をつくっているのです。
このように相手への声のかけ方にも配慮と工夫をするとよいでしょう。
上司の判断をもらえない限り、あなたの仕事は滞ってしまいます。その遅れは1~2日だけでなく、後々のスケジュールに影響を及ぼす場合もあるかもしれません。上手に声をかけて、うまく上司の時間を確保することを心がけましょう。
■「エレベーター移動中」に要件を伝えられるか
上司が「5分ならいいよ」と応じたら、あなたは手短に要件を伝えなければなりません。こういうときは、報告の際に有効なフレームワークを使って、スピーディーに上司に要件を伝えることを目指しましょう。
報告の際に使えるフレームワークはいくつかありますが、最初に紹介するのは「エレベーター・テスト」(ブリーフィング)です。
エレベーター・テストとは、多忙な相手(役員や上司など)からエレベーターで移動する程度のわずかな時間で、重要な報告を行ったり、承認・判断を仰いだりするフレームワークです。
ただし、「エレベーターで移動する程度」しか時間はありません。超高層ビルのエレベーターでも、1階から最上階まで、せいぜい1分程度。分速200メートルの高速エレベーターであれば、ものの30秒もあれば最上階に着いてしまいます。
エレベーター・テストではそのわずかな時間で、相手に対して問題の概要やポイントを簡潔に伝えることが求められます。多くの人は、「30秒しかないのに、すべてを説明することは無理だ」「特別な伝達技法を学ばないと不可能」と思うことでしょう。
でも、想像してみてください。30秒は15秒のテレビCMに置き換えれば2本分です。仮に30秒のCMだと考えれば、商品名や商品の効能・魅力など相当な情報量を視聴者に伝えることが可能です。
つまり、あなたが問題を的確にとらえ、要点を整理することができていれば、わずかな時間であっても、簡潔にかつ的を射た説明ができるのです。
なおエレベーター・テストは、もともと核戦争などの重大な危機が発生した際、アメリカ大統領がエレベーターで地下の司令室に降りるまでの数分間を有効に使うための手法で、マッキンゼーがアメリカ政府に提案したものです。
たとえば、某国からアメリカ本土に向けてICBM(大陸間弾道ミサイル)が発射されたと仮定します。
すると、アメリカの偵察衛星がそれをとらえ、監視員は「ミサイルが発射された」と即座にペンタゴン(国防総省)に連絡を入れます。
それを聞いた情報スタッフは、統合幕僚会議議長がエレベーターに乗って1階に降りる間にその事実を報告し、その結果、どういうことが起きるか(状況判断)を述べ、次にどうするべきかという提案・意見を出さなければなりません。
整理すると、「事実報告」→「状況判断」→「提案」という流れになります。
1.事実報告|某国がアメリカ本土に向けてICBMを発射した
2.状況判断|太平洋上で迎撃できなければ、国土の広範囲が破壊され、多くの国民が死傷する
3.提案(意見具申)|ただちに迎撃体制を整えるとともに、某国への攻撃行動を開始する
報告を受けた議長は、ただちにホワイトハウスの大統領と連絡をとり、同様の報告を行います。
大統領は、それを受けて、「ただちに迎撃ミサイルを発射し、太平洋上で撃ち落とせ」「到達が予想される地域の国民を核シェルターに避難させよ」「某国に対する核攻撃を開始せよ(核ボタンを押す)」といった命令をくだします。
地球上のどの位置から発射しても、ICBMがアメリカ本土に到達するのは数十分程度しか、かかりません。
発射後十数分で意思決定をしないとアメリカが地図から消えてしまいかねない。そうした国家の運命を背負う重圧下を想定したフレームワークですから、短時間でのブリーフィングには最適といえます。
この例は極端なものですが、エレベーター・テストは一般のビジネスパーソンにとっても大いに有益なフレームワークです。
なお、時間がないときは5W1H(いつ、どこで、誰が、何を、何のために、どのように)や起承転結にこだわる必要はありません。
東洋経済オンライン
最終更新:1/28(木) 8:31
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