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「解決策は」と聞く上司に決定的に欠けた視点 グーグルも重視する職場の「心理的安全性」とは

1/25 5:51 配信

東洋経済オンライン

たとえ新型コロナによる緊急事態下であっても、職場ではつねに「問題解決」や「アイデア」「新たな取り組み」が求められる。そんなとき、チームメンバーの創造力を最大限に引き出すにはどうしたらいいだろうか。優れたアイデアをたくさん生み出す組織の特性を明かした『Unlocking Creativity――チームの創造力を解き放つ最強の戦略』から一部を抜粋・編集してお届けする。

 数年前、グーグルは成果の低いチームと優れた成果をあげるスターチームの調査に着手した。部分の単なる総和ではなく、それ以上の成果をあげるチーム作りはできないか、と考えたのである。

 この人員分析プロジェクトの担当者たちはまず、社内180のチームに関するデータを集めた。そのうち115はエンジニアリング、65は営業のチームだった。社員調査の結果を精査し、社員との面談も何百回と実施した。

■グーグルの社内調査でわかったこと

 その結果何がわかったか。担当者は次のように説明する。

 「完璧なチーム作りは、アルゴリズムによるところが大きいと思っていました。グーグルはアルゴリズムが大好きですから。スター社員を適切な数だけ見つけて彼らでチームを組ませればあら不思議、ドリームチームのできあがり! となるとばかり思っていました。

 ところが、現実はまったく違うと明らかになりました。調査の結果、成果に真に影響を与えるのは、チームに誰がいるかではなく、チームメンバーがどのように協力し合うかであることがわかりました」

 スター選手だけを集めても、優れたチームになるとは限らない、というのである。

 もちろん、グーグルは群を抜いて聡明な人材を雇うことに力を入れてきた。つまり、高等教育機関の上位校でのリクルート活動を積極的に行ってきたということだ。

 ところが自身の調査の結果、グーグルの優秀なチームの特性は個々の才能ではないとされた。では、いちばん重要なのは何か? 

 人員分析チームは、最高のパフォーマンスを発揮できるチームに見受けられる要素を5つ特定した(Google Partners, ”Google’s Five Keys to a Successful Team” )。そのなかでもとりわけ重要なのが、心理的安全性の状態だという。

 調査の結果にグーグルはショックを受けたかもしれないが、ハーバード・ビジネススクールのエイミー・エドモンドソンには何の驚きもなかった。

 実は彼女はその調査の20年以上も前に、「チームにおける心理的安全性」という概念を提唱しているのだ。

 彼女の定義によると、チームにおける心理的安全性とは「チームのメンバー間による、このチームでは対人リスクをとっても安全であるという確信の共有」を指す。

■ミス多発チームの看護師長はどんな人? 

 エドモンドソンは研究者になるとすぐ、2つの病院を対象にして薬に関連するミスについての調査を行った。すると、指導力の高い看護師長や良好な関係性をチームにもたらす看護師長のいるチームほど、ミスの報告が多い傾向があることがわかった。

 リーダーシップの高いチームのほうがミスが多いとは、どういうことなのか?  これは問いかけ方が間違っている。リーダーが有能なチームのメンバーは当然、安心して医療ミスの話題を持ち出すことができた。

 優れたチームのほうがミスが多いのではない。ただ単に、ミスについて話し、ミスから学ぼうとする意欲が高いだけなのだ。その結果、ミスを報告する割合も高くなったのである。

 エドモンドソンはその後も精密な調査をたくさん実施し、チーム内で意見やアイデアを出す、ミスを認める、疑問を投げかけるといったことを安心してできるとメンバーが感じていると、学習に積極的になり、チームとしてのパフォーマンスが向上することが明らかになった。

 創造力を働かせるうえで、心理的な安全性が確保されていると、常識にとらわれない策を提示できるようになる。周囲から少々おかしいと思われかねないアイデアであっても、安心して口にできる。バカにされる心配がなければ、人はさまざまな選択肢を提示する。

 創造的なことを生み出そうとする過程において、ミスについて率直に話すことは絶対に不可欠だ。端的にいって、心理的な安全性は、実際にやってみて学習する効果を高めてくれる。創造力の探求に、実際にやってみて学ぶことは欠かせない。

 試作と実験にはある程度の失敗がつきものだ。しかし、チームで作業する場合、メンバーが失敗を恐れ、満足度の低い結果しか出せずに非難されるのではないかと不安に思うケースも多い。

 そうなると、みな無難に乗り切ることだけを考えて、限界に挑もうとしなくなる。

 オールステート保険でイノベーション戦略および製品管理部門の責任者を務めるジェイソン・パークは、適切な環境を整えなければ、人は大ざっぱな試作品を周囲に見せるのをためらうという。

 ほとんどの社員が不安に思っているのは顧客の拒絶反応ではない、と彼は感じている。組織には、直属の上司や役員から厳しい批判を受けることを恐れるあまり、自らのアイデアを見せようとしない人がいる。

 だからパークは、社員がリスクをとる後押しをしている。完璧からほど遠い状態でもかまわないから、上司にアイデアを提案してほしいと呼びかけている。そういう荒削りなアイデアや漠然とした提案を促したいときは、「準備段階」や「発見の段階」などといった、社内で共通の呼び名をつけるのもひとつの手だ。

 社員が心理的な安全性を強く実感できる環境を整えるにはどうすればいいか?  それには、リーダーが新しいアイデアや厳しい現実を歓迎する姿勢を示す必要がある。例えば次のようなことだ。

① 反対意見を歓迎すること
② 上司が自分自身の失敗について話すこと
③ 悪い知らせや正直な意見を伝えてくれた誠実さに感謝すること
 形になっていなくてもいいから提案や意見をあげてほしいと伝えるとともに、否定的なことを口にしても出世や進退に影響しないと明言するのだ。

■見苦しい事実も決断の材料だ

 経営者やリーダーのなかには「答えがすべてそろっていないなら問題を持ってくるな」という態度の人も少なくない。「解決策も示せ」というわけだ。

 ところが、優秀なリーダーは、たとえ答えがわかっていなくても問題を口にしていいという安心感を与えてくれる。

 レストラン予約サイト・オープンテーブル社のクリスタ・クォールズCEOは、「早く、頻繁に、見苦しく」というモットーを繰り返し部下に伝えている。

 「早く、頻繁に、見苦しく。それでいいのです。完璧である必要はありません。そのほうが、格段に早く修正に取りかかれます。どれだけ事実が見苦しくても、私は怖くない。しょせんは、決断を下すための情報にすぎませんから」

 部下を持つ人は、自分が心理的安全性を脅かす存在であると自覚する必要がある。上の立場の人間は、多少の弱さを見せたほうがいい。そうすれば、部下は大胆に思えるアイデアやイノベーションにつながる過ちを口にしやすくなる。やってみて学ぶという姿勢は、話しやすい雰囲気のなかで育つ。

 ピクサーは『ファインディング・ニモ』『カールじいさんの空飛ぶ家』『トイ・ストーリー3』『インサイド・アウト』など8作品のオスカー受賞アニメーション映画を製作した。

 とはいえ、彼らが作る映画は最初からすばらしいとは限らない。同社社長を長く務めたエド・キャットムルはよく、「ピクサーの映画は最初は面白くない。それを面白くするのがわれわれの仕事だ。私なりの言い方をすれば、『つまらないものからつまらなくないもの』にするんだよ」と口にする。

 彼らはどうやってそれを実現しているのか?  それは「ブレイントラスト」と呼ばれる討論のおかげだとキャットムルはいう。

 ブレイントラストは参加メンバーを固定しない会議のようなものだ。物語作りに長けた人たちが期間限定で集まって、製作途中の作品を精査し、疑問を投げかけたりアドバイスをしたり、感想を述べたりする。

 ブレイントラストはピクサー創業期から行われているが、キャットムルはときに討論が破綻する事態を経験し、野球のグラウンドルールのようなものが必要だと気がついた。

■『トイ・ストーリー3』の結末が変わった

 ブレイントラストで守るべき重要なルールは4つある。第1に、その作品の監督がいちばん優先されること。ブレイントラストの場では、力関係が排除される。要は、作品に変更を命じる権限はブレイントラストにはない。

 キャットムルをはじめとする経営陣も同様だ。その作品の監督だけが、ブレイントラストの参加者から提示されたフィードバックを精査し、次にどうするかを決めることができる。このグラウンドルールがあるおかげで、監督は、他者の意見に真摯に耳を傾けられる。

 ルールの第2は、ブレイントラストでは上層部が評価を下すのではなく、同僚どうしで評価する形をとること。ほかの映画や短編作品の製作に取り組んでいる人たちが、監督にフィードバックを送るのだ。肩書きに関係なくブレイントラストに参加し、経営者ではなく物語制作者の立場で語るわけだ。

 ルールの第3は、互いの成功に責任を持つこと。ブレイントラストが開かれれば、参加者はただ見ているのではなく、積極的に作品をよくするために協力する。ほかの作品のブレイントラストに参加すれば、必然的に信頼と仲間意識が育まれる。

 ルールの第4は、「正直な意見のやりとり」に専念すること。要するに、すべての参加者に誠実さを求め、上辺だけのフィードバックを返すなということだ。

 ブレイントラストがプラスに働いた顕著な例のひとつが『トイ・ストーリー3』だ。ブレイントラストのなかで、ピクサーの監督のひとりであるアンドリュー・スタントンは、その第2幕の結末について「この最後には納得できない」と、再考を促す意見を述べた。

 ブレイントラストの参加者が新たなプロットを思いつくことはなかったが、結局、脚本家のマイケル・アーントは参加者たちの疑問を受け入れて、そのシーンを見直し、まったく違う結末のアイデアにたどり着いた。

 ハーレーダビッドソンのCEOを務めたリチャード・ティアリンクも言っているが、リーダーのいちばんの仕事は「周囲がすばらしい仕事ができる経営環境を生み出すこと」だ。

 そこに必要なのは、安心できる環境、明確なグラウンドルール、適切に設定された業務だ。

 現状打破が求められると、組織を変えようとするリーダーは少なくない。しかし、こと創造力に関しては、組織再編という手軽な策に答えを求めるのは、もうやめる必要があるだろう。

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最終更新:1/25(月) 5:51

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