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急展開、台湾新幹線「国際入札」打ち切りの裏側 日本の価格は高すぎ、欧州・中国製を導入?

1/23 5:31 配信

東洋経済オンライン

 日本の新幹線輸出唯一の成功例、台湾高速鉄路(高鉄)が1月20日、日本企業連合の新規車両購入に関する交渉を打ち切り、第三国からの購入も含めて新たな調達を模索することとなった。高鉄の今回の決定は第2次安倍政権以降、国策として推進してきたインフラ輸出にも今後大きな影を投げ落とすこととなろう。

 高鉄はこの日、役員会を招集。日立製作所・東芝を中心とする日本企業連合の新規車両購入に関する対応を緊急討議した。高鉄は2019年2月、旅客需要の伸びから新規車両購入を決定、世界の車両メーカーに入札を呼びかけたが応じたのは日立・東芝を中心とした日本企業連合だけ。この時、入札価格と高鉄側希望価格の間に大きな隔たりがあったため、昨年8月に再度入札を行ったが、価格差は埋まらずこの決定に至った。

■「なぜN700Sよりも高いのか」

 高鉄は12両1編成で12編成の新規購入を予定。このうち8編成を入札にかけた。現地報道によれば日本連合が高鉄に提示した1編成当たりの価格は50億台湾ドル(約186億円)。一方で、高鉄の関係者は日本連合の入札価格は8編成で233億台湾ドル(869億円)、つまり1編成当たり29億台湾ドル(108億5000万円)としている。

 高鉄は現在使われている700T(東海道山陽新幹線700系の台湾仕様。Tは台湾のT)を2012年に4編成を追加購入しているが、この時の1編成価格45億9000万円の倍以上に相当する。しかし、今回新規購入をするのは700Tではなく、700Tの後継車両。日本メーカーが製造するとしたら、最新の東海道新幹線N700Sを台湾向け仕様に改める可能性が高い。高鉄関係者は怒気を隠さずにまくしたてる。

 「N700Sは日本では1編成16億台湾ドル(約60億円)と聞いている。それが台湾向けになるとなんでこんなに跳ね上がるんだ!」

 高鉄は日本企業連合に抜き差しならぬ不信感を抱いている。高鉄の開業は2007年。これまで12両編成34本の700Tを購入している。しかし、700Tの原型となった700系は2020年に東海道新幹線から退役。これに伴って700T用のパーツも製造停止となり、高鉄は新型車両の購入を模索しなければならなくなった。

 「日本から購入した700Tはまだまだ使えるのにパーツは提供してもらえなくなった。新規車両購入に追い込まれたあげく、応札してきた価格は倍以上。日本の古き良き商道徳はどこへ行ったんだ。これではもはや話のしようもない!」(同)

 日本企業連合はN700Sに若干の台湾仕様を施すものの、基本はフルスペックでの購入を譲らないという。日本では台湾高速鉄道を日華親善協力の象徴と受け止められているが、台湾の受け止め方は決して日本とは一致しない。特に高鉄の日本に対する不信感は開業のはるか前まで遡ることができる。

 台湾が高速鉄道建設を決めたのは李登輝が初の民選総統となった翌年の1997年のことだった。BOT(一括事業請負後譲渡)方式で民間会社が建設、運営して投下資本回収のための一定期間の後、政府が高速鉄道そのものを回収するというプランである。

 これに応じたのが李登輝の金庫番と言われた劉泰英率いる中華高速鉄道連盟と、台湾実業界立志伝中の人物であるエバーグリーングループの総帥、張栄発とゼネコン女性経営者、殷琪(伯父は日中戦争時、国民党から対日協力に走り、北京郊外に冀東防共自治政府を建てた殷汝耕。日本の敗戦後、漢奸として銃殺)ら台湾財界が結集した台湾高速鉄道連盟の2社で一騎打ちとなった。

■鉄道車両と戦闘機がバーターに

 台湾高鉄は独シーメンス、仏アルストムのヨーロッパ方式、中華高鉄は日本の新幹線方式導入を目指し、日欧の代理戦争となった。当初、日本語を流暢に操る李登輝の金庫番、劉泰英が率いる中華高鉄有利とみられていたが、ふたを開けてみれば台湾高鉄欧州方式が受注した。当時、日欧代理戦争を取材したベテラン記者は振り返る。

 「最も力があった時の李登輝ですら、その決定には口をはさむことはできませんでした。まず劉泰英自身が政府の中で疎まれていたこと。金庫番というのは国民党の党有資産を投資、管理する中華開発の責任者だったということですが、黒い金を李登輝のために集めていた。それで行政院長(首相)、交通部長(国土交通相)が支持しなかった。価格面では台湾高鉄が中華高鉄よりも圧倒的に安価ではあったが、安全保障の要因がさらに大きかった」

 アメリカはクリントン政権時代、対中関係を重視して台湾のF16売却を拒否。台湾は仏独に代替武器を求めるほかなかった。フランスはミラージュ200-5を60機台湾に売却した。それとバーターで高鉄が日欧代理戦争に勝利することとなったというのだ。

 これにあわてたのが橋本龍太郎、小渕恵三の2人で、何とか逆転発注しなければいけないと親台派の梶山静六、佐藤信二らを台湾にお百度参りさせ、政財界要路に対する工作を開始した。当時を知る台湾政商はその熱気は凄まじいもの立ったと振り返る。

 「張栄発、殷琪ばかりか親日派財界人総なめといってもいいほどの活動でした。李登輝さんが最終的に決断したと巷間言われていますが、事実は違う。政府はすでに高鉄に受注させていたのだから、政府はもはや口出しはできない。高鉄が独自に判断した。その決定権者は最高実力者だったエバーグリーンの張栄発しかいません」

 その決断は鉄道を車両と通信システムを日本方式、そして軌道・トンネル・橋梁などを欧州方式とするというものであった。

■高鉄とJR東海のあつれき

 日本企業連合は当時の東海道新幹線の主力だった700系を台湾向け仕様の700Tとして、川崎重工業が19編成、日本車両製造が8編成、そして日立が7編成の計34編成を高鉄に納入。運行システムに関してはJR東海が技術協力をするという陣立てである。この陣立てを日本式と欧州式の“上下分離”が直撃する。上下の下に当たるプラットフォームの長さから700Tには、700系の全編成に整備されている乗務員乗降用扉が設けられず、JR東海がこれでは日本が誇る安全運行の保証はできないとクレーム。また、高鉄がフランスから乗務員を招聘するとJR東海は日本での台湾乗務員研修にノーを出す。

 「葛西さんは何様のつもりか知らないけれど、高鉄でフランスから乗務員を招聘するなど主要業務の中心的人物だった米系中国人の解雇を要求しましたよ。殷琪らが日本に視察に行った際には極めて冷淡な対応で、帰台後には台湾人は今でも植民地統治時代の2等国民なのか、どっちが客だったのか分からない、と立腹していました」(同)

 「葛西さん」とはJR東海の名誉会長、葛西敬之氏であることは言うまでもない。高鉄にとっては納入業者でもなく、運行システムの協力者に過ぎない葛西氏がなぜそれほど居丈高に台湾に臨めたのか、理解の範疇を越えていたのだろう。

 最大の納入業者だった川重は高鉄への納入後、台湾海峡の向こう側で高速鉄道を模索していた中国と車両、技術提供の契約を結ぶ。これに葛西氏は世界一安全な日本の新幹線とその運行システムが中国に盗まれると強硬に反対。JR東海自体が中国との関係を結ばなかったばかりか、川重をN700Sの開発から外してしまう。

 川重は中国に対し、単独でJR東日本のE2系をベースに3編成を完成品として納入。ライセンス契約も取得した中国は6編成分を部品として輸入した後、ノックダウンで完成させ、中国国内で51編成を製造。2005年から2015年までの間に60編成を中国にもたらした。葛西氏の懸念するように中国と川重は運行速度などでもめごとはあったものの、同時に中国はシーメンス、ボンバルディアなど世界的な車両メーカーからも車両と技術を導入。中国は日欧から導入した車両、技術を種子として独自に開発を進め、浙江省温州で重大事故はあったものの今では営業距離で3万kmを超える高速鉄道網を築き上げてしまった。

 高鉄は1月20日の役員会で今後は新たな車両調達先に第三国を挙げたが、欧州連合を念頭に置いてのことであることは間違いない。上下分離が解消されれば日本式の新幹線よりもぴったりと身の丈に合ったトンネルや橋梁などを欧州規格の車両が走り抜けていくかもしれないし、日欧からの種子をもとに独自に発展を遂げた中国製車両が海峡を越えてやってくる可能性も完全に排除することはできない。

■菅首相も官房長官時代に答弁

 「ご指摘の案件は民間企業ベースの問題ではありますが、日台の企業間に置いて適切に交渉が進んでいくことを期待しております。(中略)今後も台湾高速鉄道が台湾の経済、社会および日台関係、その更なる発展に引き続き寄与することができるように期待してまいりたいと、こういうふうに思います」

 昨年8月5日、当時官房長官だった菅義偉首相は会見で高鉄入札不調の情報を入手した記者の質問にこう答えた。そのときには宰相の座を虎視眈々と狙っていたのだろう。施政方針演説で言及した政治の師匠、梶山静六が上部逆転受注のためにどれだけの汗をかいたのか、その記憶は頭の中には皆無だろう。

東洋経済オンライン

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最終更新:1/23(土) 17:16

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