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欧州は主要国の政権が弱体化、政策停滞の懸念

1/23 8:01 配信

東洋経済オンライン

 2020年の欧州は新型コロナウイルスの猛威に襲われ、厳しい経済調整を迫られた。EU(欧州連合)の加盟国間では不協和音が高まった1年だった。各国は前例のない規模の大幅なマイナス成長に見舞われ、巨額の財政出動や大規模な金融緩和にもかかわらず、経営難にあえぐ企業や生活苦に苦しむ家計が増加した。

■EUはギリギリのところで危機を回避

 春の第1波ではEUとして一体的なコロナ危機対応に取り組むことができず、欧州復興基金の創設をめぐって、債務共有化を求める南欧諸国と厳格な規律を求める北欧諸国との間の対立も表面化した。厳しい行動制限と都市封鎖で感染封じ込めに成功したかにみえたが、秋に入ると感染第2波が欧州を襲い、各国は都市封鎖の再開を余儀なくされた。EUの基本価値に対する違反を繰り返すハンガリーやポーランドの反対で、EU予算の成立や復興基金の稼働が危ぶまれた。

 年末が近づくと、英国・EU間の通商協議が難航し、合意なき移行期間終了の不安も広がった。このように昨年はEUの結束が危ぶまれるリスクイベントも多かったが、今回も危機バネが働き、ギリギリのところで難局を回避することに成功した。

 欧州各国では年明け以降も感染拡大が続き、行動制限の強化や延長を余儀なくされている。とりわけ英国では変異ウイルスが猛威を奮っており、感染者や死者が急増している。

 ただ、今のところ第1波に比べて欧州各国の景気の落ち込みは軽微で、世界景気の底入れ期待にも支えられ、企業の業況判断は意外に底堅い。昨年末には英国やEUで集団免疫の獲得に向けたワクチン接種が開始された。危機からの復興に充てる財政資金を提供する欧州復興基金も近く正式に稼働する。2021年の欧州はコロナ危機からの克服を目指す1年と位置づけられよう。

 重要な政治日程としては、5月の英国スコットランドの議会選挙と秋のドイツ連邦議会選挙があげられる。前者はスコットランドの民族主義政党が圧勝する見通しで、選挙結果を受けて、英国からの独立の動きがどのように展開されるかに注目が集まる。後者は政界引退を示唆するメルケル首相の後継者と連立の行方が焦点だ。ポスト・メルケルは今年の欧州の最大のテーマとなろう。

 年明け早々、エストニアで与党の汚職疑惑で首相が引責辞任したほか、3月に総選挙を控えるオランダで育児給付の不当返還問題で連立政権が崩壊した。イタリアでも連立政権内の主導権争いから小政党が連立を離脱するなど、各国で政治リスクがくすぶっている。だが、ポピュリストによる政権奪取が不安視される選挙や英国のEU離脱問題のような大型のリスクイベントは見当たらない。

 2010~15年の欧州債務危機、2015~16年の難民危機、2016~2020年の英国のEU離脱危機、そして昨年のコロナ危機といった具合に、過去10年余り、欧州にはさまざまな危機が切れ目なく襲い、EUの結束を揺さぶってきた。現時点で判明している経済・政治日程をみる限り、今年は久しぶりに一息つけそうな気配だ。

 だが、目に見える事象ばかりがリスクイベントではない。筆者が考える今年の欧州が直面する最大の問題は、重要な政治日程を控える主要各国で政治が内向き志向を強め、必要な構造改革や政策議論が停滞するとみられることだ。変異種の感染拡大とワクチン接種の遅れでコロナ危機の克服が遅れる場合、こうした傾向が一段と強まることが予想される。

 ドイツでは昨年12月に商店や学校を閉鎖するなど行動制限を強化したが、19日には変異種の感染抑制に向けて少なくとも2月中旬まで都市封鎖を続ける方針を明らかにしている。EUは夏までに成人の7割のワクチン接種を目指すが、一部の国では接種の遅れが伝えられる。以下、欧州の主要国を取り巻く政治環境を確認する。

■ポスト・メルケルの迷走はまだ続く

 ドイツでは9月の連邦議会選挙をにらみ、ポスト・メルケルの動きがいよいよ本格化する。保守系与党キリスト教民主同盟(CDU)は16日の党大会で、メルケル路線の踏襲者とみられる中道穏健派でノルトライン=ヴェストファーレン州首相のラシェット氏を新たな党首に選出した。

 当初、メルケル首相の後継者と目されたクランプ=カレンバウアー国防相が、2018年末の党首就任後に失策を重ねて首相候補から脱落。コロナ禍で二度にわたって党大会が延期されたこともあり、後継党首の選出が選挙イヤーにずれ込んだ。CDU内にはメルケル時代に中道化した党を保守に回帰させたいと訴える層も厚い。中道維持と保守回帰で揺れる党内をどうまとめるのか、ラシェット新党首の手腕が問われる。

 最大与党の党首となるラシェット氏が秋の連邦議会選挙での首相候補となるのが自然な流れだが、今回はやや事情が複雑だ。ラシェット氏の人気は低迷し、各種の世論調査で首相候補の本命と目されているのが、バイエルン州首相で姉妹政党・キリスト教社会同盟(CSU)のゼーダー党首だ。CDU・CSUは春に党首間で協議し、統一候補を選定するとしている。今後の党運営や前哨戦となる3月の州議会選挙の結果が、ラシェット氏が後継首相候補としての立場を固められるかどうかの試金石となろう。

 誰が後継首相の座を引き継いだとしても、抜群の安定感と現実感覚で16年にわたってドイツと欧州政界を引っ張ってきたメルケル首相のような立ち回りは期待できない。ドイツの親EU路線や財政緊縮路線に変化が現れるわけではないが、当面は内政問題や政権基盤固めに比重が置かれることになりそうだ。

 他方、フランスはどうか。大統領選挙は2022年4月とまだ先だが、再選を目指すマクロン大統領は、早くも選挙戦をにらんだ政権の立て直しと政策の軌道修正を迫られている。2017年の就任以来、フランスでは燃料税の引き上げに反対した黄色いベスト運動だけでなく、労働市場改革や年金制度改革に反対する大規模ストライキ、警察の暴力事件や市民の監視を強化する治安関連法案に抗議する大規模デモなどがたびたび発生している。

 マクロン大統領が旗揚げした中道政党・共和国前進は、昨年6月の統一地方選で惨敗し、左派寄り議員の離党で議会の過半数を失っている。マクロン大統領の支持率は低迷し、来年の大統領選挙の世論調査では、前回同様に極右のルペン候補と首位の座を競っている。復権の機会をうかがう右派・左派の両勢力、環境政党や最左派の候補との差もそれほど大きくない。

■マクロンは内憂に負われ、EU改革は前進せず

 決選投票では反極右票が集結するため、2回投票制の大統領選挙で極右候補が勝利するハードルは高い。だが、このまま大統領の人気が低迷し、乱立する対立候補の支持が一本化していけば、初回投票でマクロン氏が落選するおそれも出てくる。支持率回復を目指し、マクロン大統領は右派・左派の双方から有権者を奪う全方位作戦を展開している。昨年7月に内政を担う首相を交代し、若者や左派を中心に国民の関心が高い気候変動対策や社会政策を重視する姿勢を示した一方、イスラム過激派テロへの厳しい対応や治安維持の強化など、右派を意識した政策も同時に採用している。

 マクロン大統領が就任した2017年は、フランスとドイツのダブル選挙イヤーだった。先に選挙を終えたマクロン大統領は、ドイツで連邦議会選挙が行われたのと同じ日に演説し、自身が描く欧州の将来ビジョンを披露した。これはドイツに対するEU改革での共同歩調の呼びかけだったと言われている。今回は先にドイツが選挙を終えるが、来年のフランス大統領選挙が終わるまでは、EU改革に目立った前進は望めない。

 イタリアでは2018年の総選挙後に誕生した五つ星運動と同盟のポピュリスト2党による連立政権が崩壊した後、五つ星運動がかつての政権与党・民主党と手を組み、連立政権を運営している。政治経験のない法学者出身のコンテ首相は、前政権で首相に担ぎ出された際は、お飾り的な存在と受け止められていた。だが、首相就任後は国内外で信頼を獲得することに成功し、2019年秋の連立組み換え後も首相に再任された。

 イタリアは第1波で感染の震源地となったが、コンテ首相はコロナ禍でもリーダーシップを発揮し、国民から高い支持を得ている。コンテ首相に中道票を奪われた形のレンツィ元首相は、連立政権内での影響力拡大とコンテ首相の退陣をもくろみ、1月13日に自身が率いる小政党の連立離脱を決断した。議会の過半数の支持を失ったコンテ首相は1月18・19日に進退をかけた内閣信任投票に臨み、レンツィ氏率いる小政党の投票棄権もあり、賛成多数で信任された。

■コンテ首相の政局に振り回される日々は続く

 議会の解散権を持つマッタレッラ大統領の任期は来年2月で、任期終了までの半年間は議会の解散権が制限される。今回の政変を乗り切ったことで、右派ポピュリストの政権奪取につながる議会の解散・総選挙が年内に行われる可能性は遠のいた。

 ただ、内閣信任投票で政権支持に回った非与党議員が、今後の政権運営に継続的に協力するとは限らない。秋の予算編成や選挙法改正など、今後も政治的にセンシティブな政策決定のたびに議会審議が紛糾しそうだ。政権の議会基盤は極めて脆弱で、政党間の主導権争いは続きそうだ。

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最終更新:1/23(土) 8:01

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