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ネズミは「チーズが好き」は人間の思い込みだ

1/22 17:01 配信

東洋経済オンライン

ネズミが笑うのをご存じですか?  ネズミだって、仲間のためなら、自分の大好物を我慢することもあるのです。
人間関係、いじめ・ストレス、恋愛など、あなたの悩みや心配を解決するヒントは、ネズミが教えてくれるかもしれません。新刊『ネズミのおしえ ネズミを学ぶと人間がわかる!』より、一部を抜粋しお届けします。

■無節操?  賢い?  ネズミの異性選び

 多くのネズミは異性のタイプに対して無頓着だ。

 なぜなら、非力で小さく寿命の短いネズミにとってのたった1つの武器は、増えることだからである。

 マウスの場合は、約2カ月で妊娠が可能になる。妊娠すると、ハツカネズミの名前の由来となったように、約20日間の妊娠期間を経て5~12匹程度の子供を産む。まさにネズミ算式に増えてゆくのだ。もちろん、ネズミの天敵は多いので生まれたネズミすべてが次世代に子孫を残せるわけではないが、地球上にいる哺乳類4000種のうち、2000種がネズミの仲間であることを考えると、ネズミの戦略は成功したと見ていいだろう。

 ネズミは次世代に残す遺伝子に関して質より量の戦略をとっているため、慎重に相手を選ぶ必要があまりないと言える。いくら質より量とはいっても、メスは妊娠や子育てに相応のリスクを背負うため、気に食わないオスを拒む行動もある程度見られるが、ネズミのオスに関しては一切異性を選ぶ必要がないと言える。

 私たち人間は、パートナーとなる相手を選ぶことにかなり強いこだわりを持った動物だ。一夫一妻制をとっている場合が多く、男女で共同して役割分担し、少数の子供を長い期間育てる生態を持っているからである。

 もっとも、それだけであればほかの動物にも例がないことはないが、人間の生態は時代が進むごとに複雑になっている。

 多くの動物ではせいぜい、見た目のよさや体の丈夫さ、力の強さや群れの中での権力、遺伝子の相性くらいを気にしていればいいのだが、人間の場合は性格や価値観、家庭環境や人間関係のしがらみに年齢、生活スタイル、浮気性か否か、など気にすることは果てしない。

 人間のカップルは単なる生殖関係にとどまらず、最小単位の群れとしての側面も持つため、子供を持つか否か、どちらが稼ぐか、同性か異性かまで、かぎりなく自由にカスタマイズする選択肢がある。もちろん、結婚するかしないかまでも自由だ。

 もちろん、人気を集めやすいタイプは存在するけれど、人によって求めるものが違うため、誰にとっても好ましい究極のパートナーのタイプは存在していない。

 強気にアプローチしてくるAさんは怖いから好きじゃない。B君が心惹(ひ)かれているCちゃんは、守ってくれるようなD君が好きだけど、そんな彼は自立したAさんがタイプ。そんな話は珍しいものじゃない。

 それぞれが欲するものと、それぞれが提供できるものが食い違う物々交換の時代を経て、効率よく需要と供給を一致させるために貨幣ができたけれど、恋愛市場だけは今日まで不器用にすれ違い続けている。

 そもそも自分の好みを正確に把握できている人がどれほどいるだろうか。だから好みのタイプを問われた際に、このように言ってお茶を濁す人も多いのである。

■「好きになった人がタイプ」

 好きになった人がタイプの究極系が、プレーリーハタネズミだ。ネズミには珍しい一夫一妻制を貫くこのネズミは、なんと独身の間はそれぞれのメスを見分けることができないのである。

 極端に悪い言い方をすれば、「女なら誰でもいい」状態であるのだが、ここからが彼らの素敵なところだ。

 つがいになると、自分のパートナーのメスを大好きになるのだ。結婚した途端にメスたちの匂いや見た目、行動の違いを区別できるようになり、そのうえで一夫一妻制を貫くのだ。家庭を脅かすほかのネズミが来たら、オスはもちろんのこと、メスだって容赦なく攻撃する。

 案外、人間も似たようなものではないだろうかと思う。

 はっきり言って、私たちもほとんどの人間を見分けているとは言えないだろう。限られた人生の中で、よく知ることができるのは全体の中のわずかな人にすぎない。個を見分ける能力によって、ある個体を特別なものと認識することが、愛の始まりなのかもしれない。

 もちろん、人間の場合は容姿やら性格やら学歴やら財力やら趣味やら、さまざまな要素を重視して相手を選ぶと皆口にはするが、条件が最もいい人に全員が群がるというわけでもない。

 自分のパートナーだからこそ愛するというケースは決して珍しくないだろう。

 自分に恋い焦がれているハンサムな石油王だろうが、性格のいい美人モデルだろうが、それよりもパートナーのほうがいいという人もたくさんいる。

 もちろん、そうでない人もいるからこそ修羅場というものが生まれるのであるが。

 基本的には誠実な生態を持つプレーリーハタネズミにも浮気をする不届きものがいて、この研究でも、メスを見分けられることによって子育てを手伝うよき夫となる可能性のほかに、メスを見分けることができるからこそ、効率よく浮気ができる可能性も示されており、結論は出ていない。

 人間もネズミも種としての本能の傾向はあっても一枚岩ではないようだ。

 ちなみに、この浮気をする少数のプレーリーハタネズミから浮気をする遺伝子も発見されている。この浮気遺伝子をほかのプレーリーハタネズミに入れると浮気症になり、浮気症のプレーリーハタネズミに浮気しない遺伝子を入れると浮気をしなくなるらしい。

 さらに浮気性なオスは、そうでないオスに比べて空間記憶能力が高いことが知られている。新しい未婚のメスと出会ったのならいいが、既婚のメスに出会って、ほかのオスに攻撃されるのを避けるためにこのような能力があると考えられている。

 これだけ聞くと、不実なネズミは記憶力がいいうえに自分の子孫を残しやすいなんて得している気がしてしまうが、不実なネズミはほかのメスを求めてふらふらとうろつくため、逆に自分のパートナーをほかのオスに取られる可能性も高く、結局一夫一妻のほうが確実に自分の子孫を残せるのだ。

 浮気性遺伝子を持ったプレーリーハタネズミばかりにならず、彼らが基本的に一夫一妻の動物として生き残っているのは、そういうことなのである。

■ネズミはチーズが好きじゃない

 ネズミの好物といって思い浮かぶものといえば、チーズである。

 猫とネズミを描いた名作アニメ「トムとジェリー」でも、ジェリーはチーズに目がないし、ネズミ捕りには大抵チーズが仕掛けられている。

 ネズミの好物として描かれるチーズの多くは、エメンタールチーズという穴空きチーズである。熟成・発酵の過程で炭酸ガスが発生するために内部に大きな穴が空くと考えられているが、中世のヨーロッパでは、ネズミがかじった穴だと思われていた。

 これもネズミがチーズ好きだと思い込まれる原因の1つになったと考えられている。

 つまり、まったくの濡れ衣である。

■世界各国の猫の好物への思い込み

 人間の思い込みとは根強いものだ。ネズミの天敵である猫の好物も各国の思い込みによって作られている。例外として、ネズミが猫の好物であるというのは世界中で共通したイメージである。

 日本では猫の好物といえば、魚だ。かつお節をご飯にかけたものは「猫まんま」と呼ばれるし、キャットフードも魚フレーバーのものが多い。

 アメリカやイギリスでは、猫の好物はチキンである。キャットフードも牛やチキンなどが主流の肉食派だ。フランスでは、鴨肉やジビエなど、人間顔負けのグルメなキャットフードも数多く発売されている。野生の猫も小鳥を食べるからこの辺はあまり意外性がないかもしれない。

 うそのような話であるが、インドでは猫の好物はカレーだとされている。猫舌にスパイシーなカレーは少々厳しそうな気もするが、インドの猫は確かにカレーをよく食べるらしい。

 そして、イタリアの猫はパスタ好きだ。細長い麺も器用にすすって食べるのだとか。

 つまり、それぞれの国に住む人が自分たちの食事から適当に分け与えたものを猫が食べるから、好物だと思い込んでいるらしい。

 海外育ちの猫はたとえ種類が日本猫であっても、魚を好むようにはならないようだ。反対に、エキゾチックな見た目のシャム猫だとかロシアンブルーだとか、外国にルーツを持つ猫でも、子猫のときから日本で育てば魚を好むように育つという。思い込みから始まるとはいえ、猫は育った国によって実際に嗜好を変える。

 一方、ネズミに話を戻すと、結論としてネズミはチーズが好きではないと考えられている。単なる人間の勘違いだったのだ。

 シェイクスピア作品でもチーズのことが言及されており、その勘違いの歴史は400年以上にもなるという。古い文献にもたくさん記述が発見されているものの、いつどこで始まった勘違いであるかはまだわかっていないらしい。私もよかれと思い、チーズフレーバーのハムスター向けお菓子をネズミにプレゼントしていたが、彼らにとってはありがた迷惑だったのかもしれない。

 野生のネズミの好物は穀物や果実である。そして、チョコレートのような甘いお菓子もこよなく愛している。

 実は嗅覚の鋭いネズミにとってチーズの匂いはあまり魅力的なものではなく、とくに強い香りを持つブルーチーズが苦手らしい。嗅覚の鋭さは、嗅覚受容体遺伝子の数によって推定されているが、現在報告されている中ではトップのアフリカゾウの約2000個に、ラットの約1200個が続く。人は約400個とネズミの3分の1程度なので、われわれが心地よいと感じる匂いもネズミからすれば相当強烈に感じる可能性があるのだ。

■個々のネズミによっても、好みの違いがある

 もっともネズミはこだわりの少ない動物なので、なんでもよく食べるし、食べられるものにかぎらずなんでもかじることで知られている。ネズミの仲間の歯は生涯伸び続けるため、硬いものをかじって削らなければいけないのだ。かじるものは、くるみでも木でも電線でもなんでもよい。もちろん、チーズも例外ではない。とくに長期保存の効く硬い皮のチーズであれば歯を削るのに打ってつけだ。実際、保存していたチーズがかじられていたケースは多くあるようだ。

 個々のネズミによっても当然、違いはある。ハツカネズミのような小さなネズミは穀物を好む傾向にあるが、ドブネズミは肉や魚といった動物性タンパク質を好む傾向にある。同じ種類であっても個体差が大きく、ネズミの好物の違いを利用した実験もあるほどだ。

 ちなみに著者の飼っているドブネズミも、主食としてハムスター用のペレットとドッグフードを与えているが、断然、ドッグフードのほうが食いつきがいい。

 犬かハムスターでいったら、圧倒的にハムスター側の生き物であると思うが、不思議なものである。

東洋経済オンライン

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最終更新:1/22(金) 17:01

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