「ゆとり」とはだいぶ違う「Z世代」
(文 原田 曜平) 1990年代中盤から2000年代序盤に生まれた、「Z世代(ジェネレーションZ)」と呼ばれる世代。「団塊」「新人類」「ゆとり」「さとり」と様々な世代のキーワードが生まれては注目されてきたように、彼・彼女らもまた特徴的な文化の共通言語を共有しています。
現在10-20代前半のZ世代(約110万人)は、ゆとり世代(約120万人)に比べてさらに少子化が進んでいます。さらに、コロナ以前の2019年まで、アベノミクスによる好景気を経験してきた世代です。好景気とさらなる少子化により、人手不足・脱競争社会化が進んだのは確かです。Z世代を印象付けるひとつのキーワードです。
また、中高生の時期からスマホを使いこなしていた「スマホ第一世代」であり、ツイッターやインスタグラムをはじめ、あらゆるSNSで自ら情報を発信して成長してきました。そのため、自己承認欲求が強く、「自信はたっぷりだが脆い側面も大きい」という一面があります。
このZ世代の特徴を、筆者は一言で「チル&ミー」と表現しています。「チル」とは、過度な競争を臨まず、マイペースに居心地よく過ごす(=「チルする」というネットスラングが元になっている)ことを是とする感覚です。
一方で、「いいね」をもらうために「私を見て欲しい」という承認欲求が高い。筆者はこれを「ミー意識」と名付けました。「チル&ミー」、これがZ世代を理解するうえで重要なキーワードだと筆者は考えています。
そんなZ世代のなかでも、中高生の圧倒的な支持を受けているのは動画SNS・TikTok(ティックトック)であることは間違いありません。実際にアプリをインストールしたことない人も、若い世代が音楽に合わせて口パクしたり、ダンスしたりする動画を投稿しているということはご存知かと思います。
国内の月間アクティブユーザーはおよそ950万人(2019年)、ユーザーは10代から20代で半数を占めているとみられます。Perfumeなど人気アーティストが参入したことも人気の一因ではありますが、やはり「普通の中高生」がアップする動画に同世代のユーザーは熱狂し、模倣し、拡散しているのが大きいように感じられます。
そして、これまでYouTuberが辿ってきたように、TikTokのコンテンツも多様化し、同世代のミーム化する流れもあれば、タコツボ化するコミュニティもあるという状況にさしかかっていると言えるでしょう。
カップル共同アカウントも作っちゃう
TikTokの特徴は、先述したように「普通の中高生」が当たり前のよう顔を出して、ダンスや口パク動画をアップすることにあります。動画の下にはハッシュタグがずらりと並び、知り合いに見せるというよりは不特定多数に見てもらうことを前提に作っているのです。
筆者の元で働く学生インターン生に話を聞くと、最近流行っているハッシュタグを見ることで、「Z世代」がどのようにSNSと向き合い、自己表現しているのかがわかると言います。
細かい説明をするよりも、まず動画を見てもらったほうが早いでしょう。
ハッシュタグ「時を進めよう」で主にアップされているのは、ジャージ姿やボサボサの眉など、まったく垢抜けていなかった頃の写真と、最近の「イケてる」写真を見比べる動画です。
説明するまでもないでしょうが、ハッシュタグ「時を進めよう」とは、2019年のM-1グランプリを大いに沸かせたお笑い芸人、ぺこぱ・松陰寺太勇の人気フレーズ「時を戻そう」にかけたものです。
カップルの共同アカウントからの投稿も多く、このタグの合計再生回数はなんと全世界で16億回にも及びます。たしかに、どこにでもいるようなジャージ姿の小中学生から、さながら読者モデルのように着飾った高・大学生へのビフォーアフターにはインパクトがあり、コメント欄には、「同一人物に見えない」「素敵なカップル」とコメントが並びます。
昭和トレンディドラマのような世界がいい…
TikTokには動画で使える7000万曲以上の楽曲と、顔の写りをよくするフィルターが他SNSよりも充実しています。「盛れた」自分の姿をアップすることに慣れたZ世代は、それ以前の昔の「ダサい」姿を公開するのはむしろ「かっこいい」「面白い」と感じているように見えます。
もうひとつの例を見てみましょう。こちらは、「昭和に憧れる」というハッシュタグです。
これは、ユーザーの両親の結婚する前の写真を集めて、ひとつのムービーとしてまとめているものです。本人が登場するのではなく、あくまで両親の「恋人時代」を、まるで昭和のトレンディドラマの再放送のような感覚でプレイバックするのです。
こちらのハッシュタグも、20万近い「いいね」がつくなど、反響がとても大きい動画が並びます。
こうした動画が人気を集めている背景について、筆者のもとで働くインターン生に話を聞くと、「写真の画質の粗さやファッションなど『昭和レトロ』ブームが来ていること、そして両親との距離が近い、仲良し親子が多いのでは」と分析します。
Z世代の女子がメインの利用ユーザーと見られるTikTokには、他SNSとは明らかに違う特徴があります。まず、プライベートを不特定多数へ積極的に公開する傾向です。
「ゆとり世代」のユーザーも多いインスタグラムは、「身バレ」を意識する人も多く、恋人の存在や所在地をできる限り隠しつつ、グルメや買ったものや旅行先の景色などをオシャレに撮るかがポイントになっています。
一方、TikTokでは両親や自らの「イケてない頃」の写真をネットに晒しつつ、それをコンテンツへ昇華するほうが「ウケる」のです。プライバシーや犯罪に巻き込まれるリスクがどうこうという話は一旦置いといて、従来の考えからは「ダサい」作りのほうが、Z世代にとっては面白いのではないか、という推論が立ちます。
「仲の良さ」アピールが重要
従来の感覚から言えば、たとえばカップル共同でアカウントを作成して動画を挙げることや、「昭和に憧れる」と直球のタイトルをハッシュタグに持ってくることは、ステレオタイプな「スタイリッシュ」「カッコいい」とは遠いように思います。まだ、インスタの方がそちらに近いでしょう。
そもそも、自分の顔を晒してネットで「イイね」をもらうことは、非常にハードルが高いようにも感じます。「時を進めよう」タグで、自分は劇的に変わっていると思っても周りからすればそれほどだったり…。ですが、投稿者は「スベる」ことについてまったく恐れていないようにも見えます。
最近のTikTokの人気動画から読み解ける、Z世代の興味関心の動向について、私は以下のように分析しました。
今回の事例から中高年が知っておくべきTikTokの特徴は「晒すメディア」だということです。これまで若者の間で主要なSNSであったインスタグラムは着飾った自分を表現し周りから憧れを得る「よそ行きメディア」。
これに対し、TikTokとインスタの1機能であるストーリーズは日常を「晒し」て、周りから共感を得るメディアだということです。
加えて、Z世代と言われる今の若者の間では、「仲の良さ」がステイタスになる、とい
うことも理解しておくべきでしょう。
カップルの仲の良さ、親の写真を載せて親との仲の良さを周りにアピールする…よく見れば、彼らの間でヒットするモノは全て周りと仲良しのものばかりです。例えば、鬼滅の刃の主人公の竈門炭治郎は、敵である鬼にまで同情する性格です。
第七世代の芸人も皆コンビ仲が良く、ぺこぱの「ツッコまないツッコミ」がそれを象徴しているように思います。NiziUもオーディションで勝ち抜いてきたメンバーで構成されていますが、ライバル同士でありながらお互いを貶めることなく、励まし合っている姿が多くのZ世代に共感を得ました。
Z世代の彼らと接する上司たちは、かっこいい自分を見せるよりも、自分を晒し、家族
や子供仲をアピールし、彼らから共感を得るのが良いかもしれません。
マネー現代
最終更新:1/22(金) 5:01
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