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火星にも住める?宇宙での「木材活用」の道を探る訳

1/18 12:31 配信

東洋経済オンライン

 天文学を中心とした科学者の研究テーマの1つに「テラフォーミング」がある。これは地球外惑星改造などとも称されるが、要は地球以外の惑星に人類が生命を維持し、居住可能な環境を作り出すことだ。壮大な構想であり、そのためSF・アクション作品などで設定として使われている。

 代表的なのが、貴家悠氏(作)・橘賢一氏(画)によるマンガ『テラフォーマーズ』。火星のテラフォーミングを目的に放たれたゴキブリ(人型に進化)「テラフォーマー」と、昆虫など生き物の特徴を有する人類の間の戦いを描いたドラマで、アニメ化もされている人気作(2018年末から休載中)だ。

 同作品では苔とゴキブリが最初に送り込まれている植生物だが、いずれにせよ火星をテラフォーミングする過程では、人類が定住できるようにするための複雑な過程と環境づくりを経る必要がある。科学者が指摘しているのは、大きく以下のような段階だ。

■科学者が指摘していること

 まず、火星に人類や物資などを確実に送り届ける技術の確立。さらに極寒の環境ゆえ、大気の温暖化とそれによる氷の融解と水の確保、次に原始的な植生物が生育できる環境づくりを進める必要があるとされている。

 人類が地球と同様に暮らせるようにするためには、当初から植生物の育成することが必要だ。植物は食糧自給に必要不可欠だから当然だが、住環境をよりよく整えるためには建材などとして利用ができる木材(樹木)なども必要になるだろう。

 宇宙と木材……。一見、無関係に見えるこの2つの事柄を結びつけるのには、テラフォーミングの話題が適当だろうと考えたため、冒頭で紹介したわけだが、それをイメージさせる発表が昨年末あったからだ。

 京都大学と住友林業が12月23日に「宇宙における樹木育成・木材利用に関する基礎的研究」に共同であたる研究契約を締結。「宇宙木材プロジェクト(通称:LignoStella Project)」をスタートさせた。

 京都大学は2016年、宇宙飛行士の土井隆雄氏が宇宙総合学研究ユニット特定教授に就任。

 「宇宙における木材資源の実用性に関する基礎的研究」を立ち上げ、大学院総合生存学館において研究を進めている。

 住友林業は、住宅関連事業や木材建材事業のほか、山林経営やバイオ関連などの資源環境事業など、木の利活用を柱とした事業を長年展開。木そのものに関する知見やノウハウにも定評がある企業だ。

■「木」については今まで事例がない

 両者の間で「木の価値を高める研究技術を開発して、宇宙での森林形成や木材利用の道を拓き、人類の持続的な発展に寄与するというビジョンが一致」したというから、冒頭のテラフォーミングの話はこじつけというわけではないだろう。

 以下ではどのような研究が行われるのか紹介する。まず、「宇宙環境における木材の物性、樹木の育成に関する研究」があげられている。これは、木が宇宙空間でどのような形質変化をするのか、樹木育成の方法のあり方を探るものだ。

 京大では、これまで総合生存学館において、真空中での木材の力学的性質や、低重力・低圧力下での樹木の生育に関する基礎研究を進めてきたという。

 そこに、これまでの事業の中で木に関する知見を数多く有する住友林業が参画することにより、お互いの知見や得意分野を生かし、役割分担をすることで、研究の精度やスピードの向上を図る考えがあるようだ。

 宇宙空間と植物に関しての研究は、食糧確保の側面から植物に関する研究は国内外で数多く行われており、国際宇宙ステーション(ISS)でもレタスなどの栽培が行われてきたが、木については事例がないという。そうした意味で、世界をリードするものになりそうだ。

 そのISSを活用した、「極限環境におけるストレス低減に及ぼす木の効果研究」も同プロジェクトで行われる。これは、宇宙空間における人類の居住スペースに木材を使うことを想定したものだ。

 地球の住宅にはさまざまな部位に木材が活用されているが、その理由には建材などとしての使いやすさとともに、人の気持ちを癒やす効果があるためだ。今後、可燃性や重量の問題についてはクリアするべく研究を進めるという。

 余談だが、この研究が成果を上げれば、航空機の内装材などに木材を使用することもできるようになるのではないか。海外に行く際の長期フライトでプラスチックと鉄に囲まれた殺風景な環境に筆者はいつも辟易しているので是非実現してもらいたいものだと思う。

 いずれにせよ、木材が宇宙・航空分野で活用されないのは、耐火性や耐熱性、重量など数々の問題点があるからだと考えられる。人のストレス軽減も含めて、木材活用にはさまざまなメリットが期待できそうだ。

 より「宇宙」を現実的にイメージさせるトライアルも近々計画されている。それは世界初の「木造人工衛星」の開発と運用で、2023年に打ち上げられるという。

■クリーンで環境にも優しい人口衛星

 住友林業によると、この人工衛星はISSから宇宙空間に射出される小型のもので、木材が電磁波・地磁気を透過するため、木造にすることでアンテナや姿勢制御装置を衛星内部に設置でき、衛星構造を簡素化できるという。

 これはもちろん、すべてが木造というわけではないが、従来の素材の金属などと比べて、木材を使用すると軽量化に貢献でき、今後大型化を図る場合、メリットが期待できそうだ。軽量化ができれば打ち上げコストなどを低減できる可能性があるためだ。

 なお、運用終了後の大気圏突入時には、木造人工衛星は完全に燃え尽きる。このため、大気汚染の原因となる微小物質(アルミナ粒子)が発生せず、よりクリーンで環境に優しい人工衛星の開発につながるとしている。

 このほか、プロジェクトでは宇宙環境における木造建築物構築、宇宙の大気・土壌などに関する研究も行うとしている。前者については、「この分野の研究事例は国内外で確認する限りない」(住友林業)という。

 その課題として資材調達、内外圧力差、宇宙線、熱などへの対策があるが、その研究成果については、超高耐候性木質建材の開発など地球環境下での木造建築・木材利用推進に役立てられるとしている。

 住友林業では2018年、創業から350周年を迎える2041年を目標とした、高さ350mでオフィスやホテル、店舗、住宅などが入る木造超高層建築物(70階建て)を実現する構想「W350計画」を発表している。

 構想のカギとなることの1つが、木材の強度(当初計画では木材比率9割の木鋼ハイブリッド構造)や耐火・耐久性能などの向上だが、国内最高峰の研究機関の1つである京大と組むことで、より優れた異なる素材や建設手法の開発など、課題克服をさらにスピード感を持って行えるだろう。

■木造高層建築物の社会的ニーズも高まる

 なお、木造高層オフィスビルについては、三井不動産と竹中工務店が昨年9月、東京・日本橋で国内最大規模となる高さ約70m、地上17階建て(2025年竣工を計画)の建設計画を発表している。

 こうした事例から、木材が再生可能な資源であり、大規模な活用がSDGsやESG経営などに代表される、環境問題への関心の高まりに対応するものであることがわかる。今後、木造高層建築物への社会的なニーズが高まるものと見られる。

 なお、上記の構想を発表し、外部からの知見を積極的に受け入れるオープンイノベーションのかたちを取ったことが、京大の宇宙研究と、住友林業の木に関する知見やノウハウを結びつけることにつながったとも見られる。

 ところで、冒頭のテラフォーマーは2500年代後半から2600年代を舞台としたものであり、そう考えるとまだまだ先のことだ。その頃に、火星のテラフォーミングが実現しているかも正直、まったくの不透明だ。

 しかし、何事も挑戦をしなければ始まらないわけで、今回紹介した京大と住友林業の共同プロジェクトはその端緒の1つとも考えられる。

東洋経済オンライン

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最終更新:1/18(月) 12:31

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