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トヨタ流「セントレア」に見えた空港経営の本質

1/17 6:01 配信

東洋経済オンライン

新型コロナウイルスの感染拡大を受けた「緊急事態宣言」の再発令など、以前にも増して移動自粛が広がっている。今、切実な危機感の真っただ中にいるのが、民営化した空港各社の経営者たちだ。渡航回復後を見据え、打つ手はあるのか。
空港会社のトップへのインタビューから、期待される「経営感覚」をテーマにした全3回の連載。第1回「南紀白浜空港が見違えるほど変わった決定要因」(2021年1月15日配信)、第2回「北海道の民営7空港、大苦境下のかすかな希望」(同1月16日配信)に続いて、最終回は中部国際空港(セントレア)の現状と、アジアのゲートウェイとして、「世界水準の拠点空港化」を目指す沖縄・那覇空港の展望を交えてお届けする。

■変わる潮流、「経営感覚」への期待

 国は、所有権を国に残したまま、滑走路などの航空系事業とターミナルの非航空系事業を民間に委託して一体経営するコンセッション方式による空港改革を推し進めてきた。

 その目的は決して、物販やレストランなど商業施設としての機能の立て直しでもなければ、単なるコスト削減の知恵比べでもないはずだ。経営的に不採算と言われる空港施設に対して、地域との経済的なつながりの中で、人の往来を活発にする施策をいかに打ち出せるか、その実現に耐えうる説得材料を持ってエアラインの就航をいかに勝ち取ってくるかという、企業としての経営手腕への期待がある。

 これまでは、拡大するインバウンド需要やLCC路線の恩恵をより広く、地方に浸透させることが民営化の戦略として生かされた。だが、新型コロナは、その潮流を大きく変えた。環境条件はより厳しく、地域経済へのダメージの深刻さを考えれば時間的猶予もない。空港経営は、時代の変化を読み解く力量と、現状にとどまらない実践、行動力こそが試されている。

 「僕らは経営感覚でしか議論していない。キャッシュフローをニュートラルにして、黒字に持っていくために何をするか。コロナ後にお客様や地域社会が求めるものが何か、ほかより先に行けるように、それを追求しながら黒字化と並行してやっていくだけ」

 中部国際空港(愛称:セントレア)の犬塚力社長は、淡々とこう語る。セントレアは、犬塚社長の就任から7カ月経った昨年1月と4月のわずか3カ月の間に、国際線の運航便数が「過去最高」と「過去最低」の両方を記録更新するという厳しい状況に直面した。

 16年前の開港以来、環境対応やカスタマーサービス、商業施設の開拓の面で常に他地域の先陣を切ってきた自負がある。だが、「ほかの空港もレベルアップし、追いつかれてしまった。着陸料の低減も、もう競争力にはならない」(犬塚社長)。

 空港敷地内には2018年以降、新たにテーマパーク「フライト・オブ・ドリームズ」や、第2ターミナル、愛知県の国際展示場などが続々と整備されたが、「もう一歩先に行けるようにいろんな軸を持ちたい」と犬塚社長は言う。

■900万人でも黒字に

 2005年開港のセントレアは、建設設計段階から民間の経営によって市場競争原理が取り入れられ、社長は5代続けてトヨタ出身者が務めている。人工島の埋め立て段階から、トヨタ生産方式にちなんだ手法で建設費を1700億円以上圧縮したことはよく知られているが、それ以外にも主要業務の管理部門を1カ所に集めて可視化する「大部屋方式」による運営体制や、商業的な儲けに力点を置く戦略などの先進性が、評価されてきた。

 これまでに赤字になったのは、リーマン・ショックによる景気後退の影響を受けた2008、2009年度の2年間。それ以降は2019年度まで10期連続で黒字を確保している。

 犬塚社長はトヨタ時代、同社が世界的な景気後退で歴史的な赤字決算に陥った2009年、総合企画部長を務めトヨタの“最悪期”を経験した。その後も、リコール問題を含め毎年、数々のリスクイベントにぶち当たったという。

 「業績的に会社が潰れるんじゃないかという思いになったとき、(豊田)章男さんだけじゃなく、キーとなる役員が何をやっていたかということが頭の片隅に残っていて、つねにそれを考えている。トヨタは儲かっているときでも関係なく、無駄を省くことをギシギシやってきた。今回のコロナは、原価低減の意識を含め、一つひとつの空港の直営事業の収益についてもういっぺん、きっちり見直すきっかけになった」と話す。

 具体的には、2009年度に旅客数900万人で赤字になった後、2011年度にはさらに890万人に減ったにもかかわらず、黒字を確保できた過去の実績にヒントがある。「目指さないといけないのは、たとえ旅客数が900万人になったとしても黒字になれる体質だ」。

 建設計画の段階から立ち上がった運営会社は、愛知県などから出向した自治体職員と企業関係者らでスタートしたが、現在は本体の約200人の社員のうち、自治体からの出向は1割程度にとどまる。設立後に新規に採用したプロパー職員が9割を占め、官民の出身母体を意識することはほとんどない。いわば「セントレア流の人材」が育ちつつあるという。

 「空港は、極めて公共性の高い事業。普通の会社の感覚では、空港のビジネスなんて成り立つわけがない。国のサポートは絶対に必要。その中で、民間経営みたいなことを取り入れながらいかに健全にしていくか。結局は、空港が好きで、会社が好きで、飛行機が好きで、みたいな人間が前向きにやっていったら、やれると感じている」

 空港会社を運営するにあたって、民間か、第3セクターか、運営形態の議論は的を射ない。仕事に携わる目的や目標を経営者と社員が共有する限り、「方向性を大きく見誤ることはない」。犬塚社長はそう強調した。

■変革に意欲ある人材の登用を

 翻って、国管理空港で第3セクターが運営する沖縄県・那覇空港。2019年の乗降客数は約2176万人で、羽田、成田、関空、福岡、新千歳に次いで全国で6番目に多い。那覇を拠点にした飛行4時間の圏内に、アジアの主要都市を網羅し、島嶼県でありながら、その“商圏”はどこよりも広い「恵まれた地域」だ。

 2020年3月に第2滑走路が供用開始されたときには、中国、台湾、マレーシア、シンガポールの航空7社から新規就航の打診があった。アジア地域において、認知度も期待度も高い。さらに、コロナ収束が見通せない現状においてもなお、GoToトラベルの需要を真っ先に引き込む吸引力は、日本経済の回復がここから始まる予感を確実なものにした。

 沖縄県は現在、今後10年間の施策方針を定める新たな「沖縄振興計画」の策定にあたり、「世界水準の拠点空港化」を1つのテーマに掲げる。隣接する那覇軍港の跡地を含めて一体整備を進め、臨空・臨港都市として、商業施設や先端医療施設を集積させるなどの「将来像」が盛り込まれる見通しだ。

 空港民営化に携わった専門家や行政関係者らは、アメリカ軍基地の存在や自衛隊との共同使用などの地域的な事情だけでなく、「放っておいてもお客さんが来る沖縄では、県や国にとって空港民営化の優先順位は必ずしも高くないのでは」との見方が大勢だ。

■「経営感覚」から見える方向性

 一方で、コロナ禍に喘ぐ地域経済の“エンジン”を自覚しながら、民営空港各社が前のめりで手を打つ「経営感覚」に照らし合わせれば、那覇空港を起点としたうえでの施策と求められるスピード感が、自ずと見えてくるはずだ。

 沖縄県が「日本経済のフロントランナー」をアピールして国に提案する壮大な空港改革の実行を、だれが、どう機能させるのか。空港民営化の是非より大事な“一丁目一番”は、経営に携わる人の「やる気」。強烈な危機感に動機づけられたリーダーの存在と、時々刻々の変化をとらえた具体的な方策の有無が、これまで以上に地域経済の回復のスピードを左右する。コロナ禍はそんな空港の役割を、くっきりと浮き彫りにした。

 外需を獲得できる唯一の公共インフラの担い手として、以前から続く天下りや縁故ではない、「やりたいことがある」という人材に変革のチャンスを託す気概と意欲があるか。空港経営において既存の運営・管理者側の「やる気」が、問われている。

東洋経済オンライン

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最終更新:1/17(日) 6:01

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