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自粛期間に「一躍有名になった料理人」の正体~「#おうちでsio」がツイッターで話題になった

12/6 11:31 配信

東洋経済オンライン

 徒弟制度など、伝統やしきたりが大切にされる料理業界。しかし近年、若手の料理人が積極的に革新を試みているほか、グローバル時代に合わせた変化も起こりつつある。そこにコロナが拍車をかけ、変化を加速化させていると言えるだろう。

 その一例として今回紹介するのが、「体感レストラン」を謳いユニークな飲食店運営を行うsio。渋谷区・代々木上原に2018年より営むフレンチレストランsioは、ディナー時間帯1万円のコースのみの高級店ながら、申し込み期間の2カ月先までが予約で埋まる “予約のとれない店”だ。

 しかし決して、気後れしてしまうという意味でハードルの高い店ではない。

 sioオーナーシェフの鳥羽周作氏は、元サッカー選手、小学校教員という異色の経歴の持ち主。運営会社であるsioでは「幸せの分母を増やす」を目標に、3種類のそれぞれコンセプトの異なる店舗経営、メニュー開発、店舗プロデュース、調味料などのプライベートブランド立ち上げなどさまざまな取り組みを進めている。

■自店で提供している料理のレシピを公開

その運営姿勢をわかりやすく示したのが、非常事態宣言下、SNSで発信し続けた「おうちでsio」だ。自店で提供している料理のほか、「どんなに料理下手でもおいしくつくれる」レシピを毎日のように投稿。大きな反響を呼び、テレビ番組で取り上げられるほか、レシピブック『やさしいレシピのおすそわけ #おうちでsio』が発刊されるまでになった。

 まず、「おうちでsio」を立ち上げたきっかけやその特徴について、sioの鳥羽氏に聞いた。

 「非常事態宣言では、会社としてテイクアウトの事業を検討した。その中で考えたのが、これからは一般の方が自炊をする時間が増えるということ。自炊しながら自分たちの料理を体感してもらえたらうれしいなと、SNSでの発信を思いつきました。私はリモートワークをしていて家にいたので、毎日レシピを考えては発信していました」(鳥羽氏)

 レシピでは「毎日しなければならない料理のハードルを下げる」「再現性が高い(料理下手でもおいしく作れる)」「家にある調理用具と、スーパーで簡単に入手できる食材で作れる」「10分程度で作れる」などをルールとして決めた。

 例えば評判になったメニューの1つが、ナポリタンだ。ナポリタンと言えば、家庭的なスパゲッティの定番ではあるが、sioのレシピでは、素人でもできる、プロならではのひと工夫が加えられている。

 ナポリタンではケチャップが味の決め手だが、普通につくるとケチャップの味が強く出すぎる。そこで具材を炒めるとき、そして仕上げと2段階に分けて投入。これにより、旨味と酸味のバランスがよくなる。また、生クリームを加えてまろやかさを出している。

 ちょっと芯が残るぐらいのほどよい硬さ(アルデンテ)に茹でるためのパスタのサイズと茹で時間を丁寧に示しているのもポイントだ。

 しかし「家で作れるのだから」と、店にお客が来なくなる心配はなかったのだろうか。

 「そこまでは考えず、困っている人が多いだろうという気持ちから始めたので。ただ、家で作っておいしい、じゃあお店に食べに来たらどんなだろうと、答え合わせをしに来てくれるお客様は増えました。結果的にお店にとって新しい層を獲得できましたね」(鳥羽氏)

■7000だったフォロワー数が5万8000に

 具体的には、7000だったSNSのフォロワー数が5万8000にふくれあがったという。

 もともとレストランsioは、SNSを活用し、ターゲットを絞った集客を行ってきた店舗だ。というのも、メニューは鳥羽氏がインスピレーションを感じた素材をもとに、戦略的に組み立てた10皿から成るコースのみ。素材についての蘊蓄から、コース設計の理論についてもあわせて味わうのがsioにおける流儀だ。

 「提供するコースではストーリーを持たせています。例えば、野球の打線で言えば、全部四番打者が出てきたり、映画ならすべてがイケメン俳優のキャストだったら面白いかという話です。いや、いろいろな役割があるだろうと。例えば最初にとても優しい味のスープを出すのですが、何も知らなければ『味が薄い』と思うかもしれない。でも、次に出す料理に合わせてあるということを知っていれば、味わい方も違いますよね」(鳥羽氏)

 コースについての説明は、noteという媒体を使って発信。予習してくる客もいれば、食べた後に読んで答え合わせをする客もいる。

 グルメな人や飲食のインフルエンサーに向けてというよりは、体験価値を求める人、クリエイター層に向けて情報を発信し、狙い通り「面白い」と思ってくれた人が集まってきたというイメージだそうだ。

 「おうちでsio」による取り組みは、顧客の裾野を大きく広げる結果となったのだ。その分、幸せの分母を増やすという鳥羽氏の目標に近づいたわけだ。

■「バインミー」のテイクアウトが人気に

 ただし、戦略的に狙ったわけではないという。コロナへの対応にもそれが表れている。テイクアウトは3月29日というかなり初期段階から開始。ウーバーイーツをもじった「トーバーイーツ」と称し、自社の従業員が自転車や車で宅配も行った。

 「ビジネス的な計画性というよりは、目の前のお客様が求めているものを提供したいという思いから始まっていることが多いです。テイクアウトについては、毎日のように5000円のオードブルは食べられないよね、1000円ぐらいでお店の味が感じられるメニューを出そう、ということでバインミーを開発したら、これも非常に当たりました」(鳥羽氏)

 「バインミー」とはsioのヒットメニューの1つで、ベトナム発祥のサンドイッチ。奥深い味を出すために11の具材や調味料を使っている。当然、原価も高くなってしまうため、1000円でも利益が出ないほどだそうだ。今はsioの別業態の店舗である、「パーラー大箸」で提供している。

 現在もまた東京では時間短縮となり、飲食店にとっては厳しい状況が続く。どの店も、倒産の危機を間近に感じているところだ。

 「当社も緊急事態宣言下は商業施設が閉館したので、テナントとして入っている店が営業できず、かなり厳しい状況でした。でもうちはぶっちゃけ『潰れてもいい』と思ってやっている。バインミーも出前も、利益を考えたら普通はできない。そこを『お客様が求めているものは何か』を最優先するのがうちのコンセプトで、そこはぶれないから、スピーディに対応できるんです」(鳥羽氏)

 ただ、お客第一だからと言って、従業員にしわ寄せがいくような方針をとることはない。コロナで減収したときも役員報酬はゼロにしたが、従業員の雇用と給与は守ったという。

 鳥羽氏自身、飲食業界で下働きから始め、厳しい労働環境も経験してきた。sioを立ち上げたのには「働き方を新しくしたい」という思いもあった。「幸せの分母」の中には、従業員も含まれているということだ。

 高級店のsioから、丸の内で展開するo/sio、カジュアルなパーラー大箸まで、業態もいろいろだが、客単価2万円から1500~2000円と価格帯のうえでもバリエーションを持たせているのは、人件費を確保するためでもある。単価が安い店ばかりだと利益も少なくなり、人件費にあてられる分も限られてくる。高い店と安い店の両方をつくることで、人件費面は平準化、かつ底上げもできる。

■シェフには店を任せ、経営は会社がサポート

 従業員数は23~24人にアルバイトが加わる。店舗にも人を多めに配置する。代々木上原の店舗は18席程度の小さな店だが、シェフ2人のほか5~6人が働く。

 新人でも早いうちから仕事を任せるようにしている。キャリアによっても異なるが、入社3カ月で客に提供する料理を担当させることもある。また新店を立ち上げれば、シェフとして店を任せ、経営は会社としてサポートするそうだ。

 飲食の業界では、若手が独立して新しい店を立ち上げても、続けていくのが難しい。2年以内に5割がつぶれるとも言われているほどだ。

 「経営と料理の腕は違う。キャリアの選択肢を増やしてあげることで、いい料理人を増やしたいと考えています」(鳥羽氏)

 「料理の業界を変える」ことを目指しているわけではないが、自分や自分の運営する会社が、社会の中でも、従業員にとっても喜んでもらえる存在でありたいと考えているようだ。

 「これまではシェフとして自分自身がプレイヤーだったが、今は監督として幸せの分母を増やすという目標を目指していきたい」(鳥羽氏)という。

 2021年には奈良ですき焼き店、大阪で居酒屋をオープン予定。
また異なる業態において、新しい発想をカタチにしていくsio。今はその幅を大きく広げているファン層がそれをどう受け止めるか、同社はファンの声にどう応えるのか。鳥羽氏の挑戦は続いていく。

東洋経済オンライン

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最終更新:12/6(日) 11:31

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