365日、株主優待で暮らす株主優待生活の達人、桐谷広人さん。
桐谷さんによれば、「やっぱり株主優待がいちばん。とくに私のやり方は、少ない資金しかない人やリスキーな投資は嫌だという人にピッタリです」とのことです。
桐谷さんが株主優待生活を始めたきっかけとその日常を、最新刊『桐谷さんの株主優待のススメ』からご紹介します。
■「株主優待」の危険度はほぼゼロ
「株」と聞いただけで多くの日本人が難色を示します。
「素人が手を出したら大やけどするのでは」
「株はギャンブルですよね」
「なにもかも失ってしまったらどうしよう」
なんだか、とても恐ろしい世界だと思い込んでいるようです。
確かに、やりようによっては、株はリスキーです。過去に、山一證券や日本航空など「これ以上、堅い会社はない」と思えるような企業が倒産しました。株によって大損した人たちがいるのも事実です。
でも、それは値上がり益(キャピタルゲイン)を狙った株式投資での話。値上がりを期待して買った株が、思惑とは逆に値下がりしてしまったから悲劇は起こるのです。
一方、「株主優待」に着目した私の手法は危険度ほぼゼロ。なぜなら、そもそも優待に力を入れている企業の株は、比較的、価格が安定しているからです。
値動きの少ない堅実な株を、安い価格で済む最小単位で買い、株主優待だけはしっかりゲットするというのが私の手法です。
私の場合、優待だけで生活に必要な衣食はまかなってしまい、現金はほとんど支出しません。だから原資は目減りしないどころか増え続けています。
なお、銘柄によっては配当(企業が得た利益の一部を株主へ還元するもの)も手にできます。配当と優待を合わせた「総合利回り4%以上」を目安にするというのが、私の鉄則です。
ただ、コロナの影響で、今はあまり配当が期待できない状況が続いています。一方で、やはりコロナの影響で、株価は低迷傾向にあり、今が買いどきだとも言えます。
いずれにしても、優待目的の株は優待が受け取れていることが大事であり、あまり、世の中の状況やそれに伴う株価の変動に振り回されずにすむところがいいのです。
ただし「分散」は大事です。いくらいい株でも一極集中はリスクが高まりますから、いろいろな銘柄を少しずつ持つことをすすめます。
■優待株が私の人生を救ってくれた
実は、私がこの手法に行き着いたのは、過去に痛い経験をしているからです。
私は、プロの将棋棋士として活動していた頃から、徐々に株式投資を始めました。私には、もともと勝負師の血が流れているのでしょう。「ほどほどのところでやめる」ということができませんでした。
やがて、資産のすべてを株に費やすようになりました。しかも、当時はもっぱら値上がり益を狙っていたのです。
そんな中、2006年、堀江貴文氏や村上世彰氏の逮捕によってマザーズの保有株が紙切れ同然になりました(平均で10分の1に値下がり)。続く2007年のサブプライム問題、2008年のリーマン・ショックで東証1部の保有株も暴落しました。
リスキーな信用取引を行っていた私は、株価の値下がりによって、毎日200万円、300万円といったお金を支払わねばなりません。夜も寝られず、食事も喉を通らず、糖尿病が悪化して、医者が「生きているのが不思議だ」と驚く状態にまで追い詰められました。
あまり損失の出ていない株はすべて売り、信用取引の損失の支払いにあてました。その結果、株価が下がり、売っても大してお金にならない株ばかりが手元に残りました。
ただ、その株のなかに優待のつくものが結構ありました。現金がまったくない私は、優待で送られてきたコメやレトルト食品を食べ、優待券で買った服を着てなんとか生き延びることができたのです。
このときの経験から、私は優待株(株主優待に力を入れている企業の株)のすばらしさに目覚め、今ではもっぱら優待株専門に投資しています。
その結果、値上がり益を狙っていた頃とはまったく別の、懐も心も豊かで安定した株主生活を送ることができています。
■優待は知らない世界へ連れ出してくれるパスポート
私は優待だけで生活に必要な衣食はまかなっています。いわば、365日株主優待生活をしているわけです。
「優待に合わせて生活していると、振り回されませんか?」と、よく聞かれます。
確かに私の場合、あまりにも受け取る優待券が多すぎて、「期限までに使わなくちゃ」と焦るといういささか本末転倒にも思えるような事態に陥ることがあります。
でも、それは嫌なことではありません。私にとっては、実に楽しい作業なのです。
「○○の優待は今月末で切れるから、金曜日に行っておこう。池袋に行くんだから、ちょうどいい。駅前のドトールで優待券を使ってコーヒーでも飲んでこよう」
こうして外出の計画を立てていると、ボケている暇などありません。
それに私は、優待株をやるようになって世界が何倍にも広がりました。優待の中には、カタログから好きなものを選べるものもあります。そこには、これまでまったく買わなかった分野の品もあり、眺めているだけで興味がそそられます。
豪華エステも、優待によってはじめて経験しました。私はたいていいつも1人ですが、夫婦であれば2人一緒に仲良く同室で施術してもらえます。
新しい町にも行くようになりました。松竹という映画配給会社の優待をもらえたので検索すると、MOVIXという映画館が埼玉の川口市にあることがわかりました。
しかし、私は川口には行ったことがありません。どうせならより多く元をとりたいので調べてみると、洋服や靴の買えるアルペンという企業のアウトレット店があるし、コロワイドという会社の優待が使える銀豚というおいしいとんかつ屋もあります。それ以来私は、たびたび自転車で川口を訪ね、あれもこれもと楽しんでいます。
定年退職すると、とくに男性は一気に世界が狭まります。それまで仕事関係の人とばかり付き合っていたのが、なくなってしまうからです。新しい世界に飛び込み、新しい知人を得たいと思っていても、実際には行動に移せない人が多いのです。
そんな人にこそ、優待株投資はおすすめです。優待券が使える場所に行ってみて、そこで新しい経験をすればいいのですから。
■優待で「健康維持」もできる
これからの社会は、健康がますます重要になってきます。健康でなくては日々の生活を楽しめません。
そこで、行きたいのがスポーツクラブです。でも、会員になるにはそれなりのお金が必要です。「平日だけ」「午前中だけ」というように、施設の使用制限が設けられた会員になっても、月に6000~8000円くらいかかります。
それに、実際に施設を使用してみないと、どこのスポーツクラブが使い勝手がいいか、自分のニーズに合うのか、ということがわからないのも心配です。
スポーツクラブでは、シャワーやお風呂も済ませられるし、ちょっとしたラウンジのようなコーナーもあって新聞なども読めます。会費を支払っても、毎日のように通えば、確実に元が取れる施設と言えます。
逆に、せっかく会員になっても、自分の生活スタイルに向いていなければ三日坊主に終わり、お金をドブに捨てるようなものです。
そこで、優待でいろいろ体験してみましょう。
私は、東急不動産ホールディングスの優待券で使って気に入った新宿歌舞伎町にある、東急スポーツオアシスの会員になっています。ここは、子どもが会員になれない大人だけの施設で、会員の年齢層も高いので、ゆっくりとした気分で過ごすことができます。
競泳用の室内プールと、屋外プール、大きなジャグジープールがあるのも、水泳好きの私にはぴったりです。
私は2007年にプロ棋士を引退したのですが、それ以来おかげさまで約13年間、風邪にも負けずに過ごせています。
ちなみに、私は優待券を使うために自転車であちこち出歩くことが増えました。そのおかげで脚力が強くなり、スポーツクラブのルネサンスに優待券を使いに行くという「月曜から夜ふかし」のロケで反復横跳びをやったら、なんと57回もできて「20歳の体力です」と言われました。
■優待仲間をつくれば、良質な情報が入ってくる
優待株をやっていると、新しい仲間もできます。かつては将棋の世界しか知らなかった私ですが、今は優待株投資を通して若い女性の友人も増えました。
ではどうやって知り合ったかというと、方法は簡単です。インターネットで優待株について情報発信をしている人に、コンタクトすればいいのです。
私がざっと調べた範囲では、株関係のブログをやっている人は、1万人超。うち、株主優待について書いているのは約1割。つまり1000人以上いる計算になります。
もちろん、なかには間違った情報を垂れ流している人もいますが、人気ブログランキングの上位に入ってくるようなものは読んでいて役に立ちます。
それに、SNS上に投稿しているような人は、もともと情報発信するのが大好き。タダで人にものを教えることを厭いません。コメント欄に質問を寄せたりすれば、たいてい丁寧に答えてくれます。個別にメールでやりとりしてくれる人もいます。
あなたも思い切って、そういう人たちと友だちになってみてはどうでしょう。
私は年に数回、ネットで知り合った仲間とリアルな場での飲み会を設けています。優待券を使える飲食店を選び、おいしいお酒とつまみを前に楽しく情報交換しています。
こうした場では、いろいろおトクなヒントがもらえます。例えば、優待券はものによっては金券ショップで高く売れますが、「どこの金券ショップが割がいいか」といったことも教え合っています。使い切れない優待券を交換したりもできます。
こうした仲間を増やすには、企業の投資説明会などに参加するのもいいでしょう。今、企業はどこもIR活動(投資家向け広報活動)に熱心で、個人投資家向け説明会を頻繁に開いています。たいていお土産付きで無料ですから、リタイア後で時間がある人にはうってつけです。
ネットなどで開催情報について調べ、積極的に参加し、そこで隣り合わせた人に「優待株はやっていますか」と声をかけてみましょう。「YES」であれば、すぐに会話も弾むでしょう。
つまらない遠慮はいりません。これからの生活を充実させるために、優待株投資の世界を満喫している人々に、どんどん近づいていきましょう。
東洋経済オンライン
最終更新:12/7(月) 11:52
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