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準備が進むデジタル人民元、真の狙いは巨大化電子マネーの抑え込み

12/6 6:01 配信

マネー現代

(文 野口 悠紀雄) 中国の中央銀行デジタル通貨であるデジタル人民元の準備が着々と進んでいる。10月には深圳をはじめとするいくつかの都市で実証実験が行われた。12月12日には蘇州で実験が行われる。こうしたことを通じてデジタル人民元の仕組みがかなり分かってきた。

 デジタル人民元の導入は極めて大きな変化であり、場合によっては日本に対しても甚大な影響を及ぼす可能性がある。そこで、どのような仕組みになっているのかを説明することにしよう。

4大商業銀行を仲介機関とする二層構造

 デジタル人民元は二層構造になる。すなわち、人民銀行が利用者に直接にデジタル人民元を供給するのではなく、間に仲介金融機関が入る。

 これまでの実証実験では、4大商業銀行(中国銀行、中国建設銀行、中国工商銀行、中国農業銀行)が仲介金融機関になっている。

 人民銀行は、4大商業銀行にデジタル人民元を供給する。これは、現在、中央銀行から民間銀行に紙幣が供給されるのと同じ仕組みだ。ただ、物理的な存在である紙幣の代わりに、デジタル人民元というデジタル情報が供給されるという違いがあるだけである。

 デジタル人民元の利用は、4大銀行が発行するウォレット(電子財布)よって行われる。これは、スマートフォンのアプリだ。デジタル人民元を利用しようとする人は、スマートフォンにこのアプリをインストールする。

 その際、人民銀行による承認が必要とされる。本人確認の厳格さなどに応じていくつかの段階が設定され、利用可能なデジタル人民元に限度が設定される。簡単な本人確認であれば利用限度額が低くなり、本人確認を厳格にすれば利用限度額が高くなる。無制限の利用が可能になるランクがあるのかどうかは、わからない。

 4大銀行に預金口座を持つ人は、その残高を自分のウォレットに移すことができる。

コインとして流通

 ウォレットに入ったデジタル人民元は、支払いに使うことができる。この場合、デジタル人民元は、コインの型で流通する。それは、次のような意味だ。

 例えばAさんが自分のウォレットから1デジタル人民元をBさんに支払うとする。すると、Aさんのウォレットで残高が1デジタル人民元だけ減り、Bさんのウォレットで残高が1デジタル人民元だけ増える。そして、Bさんはその人民元を他の支払いに使うことができる。これらの取引は、銀行口座には反映されない。

 つまり、デジタル人民元は、それ自体で価値があるものとして機能するわけである。この点が電子マネーとの違いだ。電子マネーの取引とは、銀行口座の残高を増減させる指示に過ぎない(このため、中国の銀行に預金残高を持たない日本人には、アリペイなどを使うことができない)。

 中央銀行デジタル通貨においても、このような仕組みにすることは可能であった。しかし、デジタル人民元は、そうはしなかった。

 このような仕組みになっているため、4大銀行に預金を持たない人でもウォレットを持つことができれば、デジタル人民元を使うことが可能になると考えられる。誰かから売り上げ代金等の形でデジタル人民元を送ってもらい、それを支払いなどに使えばよいのだ。

 デジタル人民元がウォレットの間を転々流通していくのは、ビットコインなどの仮想通貨の場合と同じものだ。

 仮想通貨の場合には、ブロックチェーンを用いてこれが運営される。例えばビットコインの場合だと、Aさんのウォレットから1ビットコインがBさんのウォレットに送金されるという情報を、インターネットを通じて、複数のコンピューターのネットワークに送信する。

 これらのコンピューターは、その取引が正しいものであることを確認する(過去の記録に照らして確かにそれだけの残高を有していること、Bさん以外に2重送金をしていないことなど)。正しければ、その取引を記録していく(ビットコインなどの仮想通貨においては、誰でも取引を記録するコンピューター〈ノード〉になれる。このようなブロックチェーンの仕組みを、「パブリック・ブロックチェーン」という)。

 一定期間の取引をブロックに記録し、それを時系列的にチェーンのようにつなげていくので、「ブロックチェーン」と呼ばれる

 デジタル人民元の仕組みが具体的にどうなっているのかは、まだ公表されていない。ブロックチェーンを用いるのが自然な形だと考えられるが、そうではないという関係者のコメントもある。

 コンピューターがある種の計算問題を解き、そこで得られる値を暗号化して次のブロックに送る。この仕組みによって、記録内容を改竄できないような仕組みになっている。これを「プループ・オブ・ワーク」という。

オフライン取引も可能

 なお、デジタル人民元では、オフラインの取引も可能になっている。

 つまり、2つのウォレットを近づけると、NFCやBluetoothなどの通信が行われて取引が可能になる。今回の蘇州の実験では、この形態の取引も実験される。

 これは、災害時などインターネットを用いることができない場合においても、送金が可能であるようにするための仕組みだ。法定通貨であるから、いかなる場合でも送金が可能でなければならないわけで、そのためにこのような仕組みが導入されている。こうした取引は、直接にはブロックチェーンに記録されないと考えられる。

 デジタル人民元のウォレットとしては、ハードウォレットも作られている。これはスマートフォンのアプリではなく、人民元のウォレットに特化した装置だ。

 スマートフォンの場合はインターネットに接続されているので、アタック(サイバー攻撃)に会う機会がある。また、紛失したり、機器を壊したりする危険もある。

 ハードウォレットはウォレットの機能だけに特化しているので、普段はインターネットから切り離して安全な場所に保存しておくことができる。

 このような機器が作られるということは、巨額のデジタル人民元を資産として保有することもあることが想定されているからではないかと考えられる。

現在の電子マネーはどうなるのか?

 まだはっきりしていない点もある。その一つは、アリペイやWechatPayなどの電子マネーがどうなるかだ。

 これらが4大銀行と同列の仲介機関になるのかどうかは、いまのところ不明だ。もし排除されれば、デジタル人民元は電子マネーより様々な面で優れているので、電子マネーは競争上不利な立場に立つ。

 仲介機関になるにしても、現在の電子マネーの仕組みではなく、現在とはかなり違う形になる可能性もある。

 デジタル人民元の真の狙いは、巨大化しすぎたアリペイやWechatPayなどの力をそぐことにあるとの見方も可能だ。

 10月には、アリペイの発行元であるアントが、香港と上海の市場に上場の直前に、当局の介入で突然上場が中止になるという事件が起きた。このことも、中国当局が、アリペイに対して友好的ではないことを示すものなのかもしれない。

デジタル人民元を外国人が使えるか?

 日本人の立場から見て最大の関心事は、外国人が使えるかどうかだ。ただ、これについては、まだはっきりしない。技術的な観点だけから言えば、これまで述べて来たことから明らかなように、可能と考えられる。

 ウォレットとはスマートフォンのアプリに過ぎないので、世界中の誰でもスマートフォンを持っていれば、それをダウンロードすることができる。

 そして、デジタル人民元を持っている誰かから送金をしてもらえば、それを他の支払いに用いることができる。例えば、日本の輸出業者が中国の企業に輸出し、その代金をデジタル人民元で受け取るといったことが考えられる。

 ただし、ウォレットは、人民銀行に申請しその審査を経ないと、ダウンロードできない。つまり誰がどの程度の限度でデジタル人民元を使えるかは、人民銀行の裁量に任されている。 したがって問題は、人民銀行が外国人の利用を認めるかどうかということに尽きる。

 仮に無制限に認めてしまうと、中国の富裕層が資産を海外で保有するために用いられるかもしれない。そうしたことが行われると、中国から大量の資本流出が起きてしまう。中国当局としては、こうした事態は是非とも阻止しなければならない。

 だから、外国人の利用を無制限に認めることはないだろう。しかし、一定限度で監視付きで認めることは、大いにありうる。
 
例えば、一帯一路の参加国やアフリカ諸国に対して、利用を認めていくことは十分に考えられる。援助を与える場合にデジタル人民元の形で与え、これらの国の中でも流通を認めるということだ。

 そうなると、デジタル人民元が、国際的な通貨として流通することになる。

 では、日本はどうだろうか? 日本に迷惑を与えないという外交政策的な配慮から、これを認めないということは十分に考えられる。

 しかし、貿易取引など取引実態がある場合には、巨額であっても利用も認めることは考えられる。また、取引額が少額である場合には、そうした条件を付さずに、自由な利用を認めることもありうる。

 これは、まったく中国当局の裁量によるので、予測のしようがない。ただし、技術的には可能なことであるから、日本としては、それに備えておく必要がある。

マネー現代

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最終更新:12/19(土) 9:31

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