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東武越生線、単なる「枝線」と呼べない実力路線

12/5 5:41 配信

東洋経済オンライン

 東武東上線といったら、首都圏を代表する通勤路線だ。起点の池袋は日本でも有数の巨大ターミナル。地下鉄にも直通して都心直結、沿線には小江戸・川越という観光地も抱えており、日々実にたくさんの人を運び続けている。

 そんな東上線を西へ西へと進んでいく。武蔵野線と交差する朝霞台も川越も通り過ぎ、目的地は坂戸駅。午前中の下り電車でも東京都内を走る区間ではそこそこ混雑していたが、坂戸までやってくるとだいぶ空いてくる。坂戸駅は東上線の川越以西の中で中核的な位置付けの駅と言っていいだろう。どことなく神殿風の立派な駅舎、駅の周りにはマンションや商店街が広がる、典型的な郊外の町だ。

■東上線から分かれる路線

 そんな坂戸駅から、東上線の“支線”のような小さな路線が分かれている。その名も東武越生(おごせ)線。坂戸―越生間わずか10.9kmの短い路線だ。

 電車は4両編成の8000系が行ったり来たりするだけの、ごくごく小さな路線である。以前は東上線直通の臨時電車が乗り入れたこともあったが、保安装置などが異なるいまではそうしたこともなくなった。

 いったい、この越生線、どのような路線なのだろうか。お客さんも少なくガラガラで、休日になるとたまに越生への観光客が乗っている――。そんなザ・ローカル線なのではないか。そう思いながらやってきた。

 「そうですねえ、基本的には通勤のお客さまが中心の路線です。昭和から平成にかけて、沿線にたくさんの戸建て団地が作られたんですよ」

 こう教えてくれたのは、東武鉄道坂戸駅管区長の栁利彰さん。坂戸駅管区では東上線鶴ヶ島―寄居間と越生線全駅を管轄している。この栁さんの言葉通り、越生線は乗ってみれば一戸建て住宅がまとまって建ち並んでいる区画が目につく。そしてもう1つ、平日の日中にもかかわらず若い人たちが電車によく乗っているのだ。東京都心からは1時間とは言わなくともだいぶ離れているのに、どうしてなのか。

 「そう、学生さんも多いんですよね。中学、高校から大学まで沿線には12くらいの学校がありまして、朝とか夕方には学生さんですごくにぎやかになるんです。朝は通勤で上りのお客さんがいて、折返しの下り電車には学生さんが乗って。夕方はその逆で」(栁さん)

■沿線には学校がたくさん

 中学生や高校生なら朝夕の通学時間帯だけに利用が限られがちだが、大学生は日中にも電車を利用することが多くなる。それが、越生線でたくさんの若者を見かけた理由というわけだ。なかでも学生の数が多いのは川角(かわかど)駅近くにある城西大学。その証拠に川角駅は坂戸駅を除く越生線7駅の中でいちばんの乗降人員(2019年度1日平均は1万4584人)を誇る。他の駅と比べれば圧倒的に多く、朝夕の通学時間帯にはかなりの学生で混雑することもあるという。

 「いまはある程度落ち着いてきましたが、昔は入学試験を大学ごとにやっていたじゃないですか。その頃は1日に7000人くらい、川角駅に来るんですよ。もうさばききれないと言いますか、駅前の踏切で誘導をしたりするけど乗り切れないお客さんも出てきて。それくらいにぎやかでした。いまでも入学試験の時期がいちばん混雑するので、応援で人員を増やしているんです」(栁さん)

 この城西大学以外では、東京国際大学のキャンパスが西大家駅のすぐ近く。その他にも坂戸西高校や武蔵越生高校などいくつもの学校が沿線に連なっている。

 「今年は新型コロナの影響で大学がオンライン授業になったりしていますが、普段は朝になると4両編成の電車がパンパンになるくらい学生さんであふれています。城西大学や東京国際大学もそうですが、スポーツに力を入れているところが多いですよね。電車の中からも見える東京国際大学のグラウンド、プロが使うみたいな立派な施設でびっくりしますよ」(栁さん)

 城西大学や東京国際大学といえば、年明けの箱根駅伝への出場を決めている。さらに東上線沿線には東洋大学や大東文化大学など、駅伝強豪校が複数あるのがひそかな特徴の1つなのである。また、武蔵越生高校はマラソンの設楽兄弟の出身校であるなど、まさに越生線は“スポーツ学校路線”の様相だ。

■昔は“やんちゃ”な学生も

 「ただね、最近の学生さんはみんな上品になってきましたよね。昭和から平成になったころは“やんちゃ”な学生さんが多くて大変でした。窓から電車に乗る学生さんもいたし(笑)。だから学校からも坂戸駅に先生が来られまして、乗車指導もしてくれていたんです。まだ“ツッパリ”という言葉があった時代ですね」(栁さん)

 と、まるで生き字引きのごとく越生線について語ってくれる栁さん。実は、1998年に東毛呂駅で助役を務めるなど、越生線沿線に縁の多いキャリアを積んできた。越生線の変化を見つめてきた鉄道マン人生でもあるのだ。

 一方で武州長瀬駅の駅長を務めている池澤孝信さんは、野田線をはじめとする“本線系統”での勤務経験が長く、「越生線には正直言ってあまり馴染みがなかったんですよ」と苦笑い。

 もともと東武鉄道では、本線系統と東上線系統がそれぞれ独立しており、東上線は鉄道事業本部に属する東上業務部が管轄。人事異動などもそれぞれの系統内のみで行われるのが通例だったという。ただ、東上業務部は2015年に廃止され、前後して本線系統と東上線系統をまたぐ人事異動も増えてきた。池澤さんはその先駆けのような存在だったのだとか。

 「野田線の車掌から東上線に来まして、一度春日部駅に戻ってまたこちらに来た。越生線の越生駅には乗務員の宿泊施設があったので、まったく縁がないというわけではなかったのですが、馴染みはなくて。あとは東上業務部の営業課にいた頃に、越生のハイキングイベントのお手伝いをしたくらい。武州長瀬駅の駅長になったのも今年10月1日なので、まだまだどんな路線なのか勉強中なんですよ(笑)」(池澤さん)

 坂戸駅を除く越生線7駅のうち、駅長がいるのは池澤さんが勤務する武州長瀬駅ただ1つ。東上線などではかつてほとんどの駅に駅長がいたこともあったというが、越生線は伝統的に同駅だけに駅長がいる体制になっている。駅長がいるだけあって駅周辺は地域一帯の中心地のような雰囲気が漂う。

 真新しい橋上駅舎と駅前ロータリーがあって、すぐ近くの踏切の脇には廃墟と化しているショーパブかキャバレーのような建物もあった。小さな路地沿いにはスナックから居酒屋、定食屋など地域密着系の個人店が並ぶ。せっかくの中核駅だし、このあたりで食事でもと思っても、どうも筆者のような一見客は入りにくい……。

 「そうですよね(笑)。ただ、その分入っちゃったらアットホームな雰囲気らしいです。私も来たばかりなのでまだまだですけど。他の駅では……知る人ぞ知るようなおいしいお店もあるんですが、ちょっと駅からは離れているんですよね」(池澤さん)

 ちなみに、越生線一帯の特産品は梅と柚子。飲食店でもこうした特産品を織り込んだメニューを出すところがたくさんあるのだとか。

■観光の目玉はハイキング

 「学生さんのご利用が多くて、言ってみれば学生さんで持っているような路線です。1993年をピークに利用者数も減少していますし……。ただ、休日になると観光のお客さまもたくさん利用していただけるんですよ。観光の目玉といったらハイキング。沿線にはいいハイキングコースがたくさんあるんです」(栁さん)

 川越ほどのインパクトはないが、越生線終点の越生町も観光地として名高い地の1つ。水戸偕楽園と小田原の曽我梅林と並んで関東三大梅林に数えられる越生梅林もそうだし、黒山三滝や太田道灌ゆかりの地など、名所は少なくない。そうした中で、越生町は起伏に富んだ地形と自然の多さを生かしたハイキングに力を入れてきた。

 「1999年から2015年まで、当社でも毎年10月にハイキング大会を主催していたんです。最大で5000人くらい来たことがあったくらいの大きな大会になりまして。完歩賞でもらえる帽子がほしいということで毎年参加するような方も多かった。いまでは当社主催の大会はやっていませんが、ちょうど2016年に越生町が『ハイキングのまち』宣言をしまして、毎月コースを変えて定例ハイキング大会をやっています」(池澤さん)

 その越生駅、越生線の終点であると同時に、JR八高線との接続駅でもある。ただ、ハイキングなど観光で越生を訪れる人の多くは越生線の利用が大半だ。というのも、1時間に1本もあるかないかという典型的なザ・非電化ローカル線。いささか不便に過ぎるので、日中でも1時間に4本の運転本数が確保されている越生線に利用が多いというわけだ。

 また、越生駅は2019年に大きな変化があった。それまでは越生線と八高線が駅舎や改札口を共有しており、JR東日本が管理していた。ところが、西口駅舎の建て替えに伴ってJR東日本が越生駅を無人化。そこで越生線側の東口に新たに駅舎を設けるとともに、新たにホーム上に東武鉄道の改札口を新設したのだ。東武鉄道の職員は越生駅に常駐しており、こちらはJR側と違って無人駅ではない。

■平日も休日もにぎわう路線

 いずれにしても、東武東上線の端っこで分かれている短い枝線の越生線、通勤のお客と若い学生たちでにぎわい、休日になると観光客たちもやってくる。もちろん沿線には畑も多くてのどかな雰囲気が色濃いが、それでも想像以上に活気のあるローカル線であった。栁さんは言う。

 「2017年に池袋からの臨時電車『寒梅号』を走らせたのが最後で、東上線からの直通電車は走っていません。いまでは運行形態が完全に切り離されているので、実現が難しいんです。ただ、個人的には越生線には越生を中心に魅力的な場所も多いですから、もっと来ていただきたいなと思うんですけどね」

 越生町にはもともと公営の温浴施設があり、いまでは民間に譲渡されてグランピング施設などとあわせて「オーパークおごせ」として営業中。コロナ禍に見舞われた今年はキャンプやグランピングが大ブームになった。おかげで越生町のオーパークも連日予約でいっぱいの状況が続いたという。さらに新年には沿線の大学が2校も箱根駅伝に出場して注目を集める。東武越生線は単なるローカル支線ではなくて、もしかするといまいちばん注目すべき鉄道路線の1つなのかもしれない。

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最終更新:12/5(土) 5:41

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