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スラム街で一番怖い存在は「犬」という衝撃事実

12/5 9:01 配信

東洋経済オンライン

スラム街や国境裏ルートなど、世界の危険地帯を数多く取材してきた丸山ゴンザレス氏。誰もが避ける危険地帯の取材はどうして可能なのか?  世界の危険地帯に生きる人たちはどんな生活をしているのか?  海外を歩くときに私たちはどこに気をつければいいのか?  丸山氏が自身のノウハウや経験談を書き記した『世界ヤバすぎ!  危険地帯の歩き方』を基に、今回はスラム街の実態をお届けする。

■スラム街は日が暮れる前に去る

 取材に限らずスラム街に踏み込む際に絶対に守っている原則がある。それは「夜禁止」である。日本でも子どもが夜出歩くのはよくないこととして教育されているように、スラム街でも夜に出歩くのはリスクしかない。

 日中、どんなにヘヴィに取材を重ねていても日が暮れ始めたら帰り支度をする。夜はスラム街を確実に後にするようにしているのだ。これだけは、どんなにタイトな取材スケジュールであっても守るようにしている。

 フィリピンのトンド地区を取材していた時のことだ。路地裏の細い道で角材を担いで歩いている中年男性に出会った。話しかけてみると「家の増築用の資材を運んでいる。せっかくだから見に来れば」と気さくに応えてくれた。人の良さそうな顔をしているし、増築するということは家族と住んでいるはず。それならば悪い展開にはならないだろうと、彼の家におじゃますることにしたのだ。

 家に行ってみると、3階建の雑居ビルのような建物で外階段を登ったところに部屋があった。このスラムの中では立派な部類だった。男性は奥さんと子ども4人の6人家族で長女が大学に入ったのをきっかけに部屋を拡張するのだという。気になったのは部屋に入るまでの外階段に侵入防止の鍵のついた栅をつくりつけていたことだ。

 「このあたりは治安が良くないのか?」と聞いてみると、「顔見知りばかりが住んでいるので、そんなことはない」とのこと。そこで「では、なんであんなに頑丈な栅をつくっているのか?」とたずねた。すると「夜になると外から悪い連中が入ってくるので、そいつらが侵入しないようにしているのだ」と教えてくれた。さらに「夜はレイプや殺人も起きるので娘はもちろん、妻も外出はさせない」という。

 この男性が言っている外の悪い奴らというのは、スラムに土地勘のある外部の人間のこと。つまり犯罪をするのはスラムの住人ではないのだ。

 このことは、他の国のスラムでも同様だった。大きなスラムだと仕事があるので、そこで働いたことがあれば土地勘もあるし、どこの家に金があったり、若い女が暮らしているのかわかる。そうやって、狙いをつけたりして強盗や強姦をするのだ。

 私がスラムで夜を避けているのは、こうした連中と鉢合わせないようにするためでもある。もちろん、トンド地区で出会ったような家族の家ならばひと晩ぐらいごやっかいになって泊めてもらうこともやぶさかではない。

 しかし、大抵の場合にはその家から出ることなく過ごすため、密なコミュニケーションを重ねるだけで、スラムの全容を知ろうとする私の取材スタイルにはマッチしないので、宿泊のお誘いがあっても丁重に断るようにしている。

 もちろん同じ場所に通って関係性を深めていくことも重要なので、タイミング次第では、スラムで生活してみたいとも思っていたり、いなかったり。フィリピンに住んでいる友達によれば、トンド地区で起きる事件が多すぎてニュースで報じられることはほとんどなく、犯罪件数もカウントされることはないそうだ。

 犯罪統計のような資料にはあらわれてこない治安の現実というものもあるので、現地の人の声には耳を傾けておくのが得策だろう。

■人に飼いならされていない野犬を警戒

 「スラム街で一番怖いこととは?」

 私のように危険地帯を旅するジャーナリストを生業にしていると、時々、返答に時間を要する質問をされることがある。この質問もそのひとつ。これまでは、各地のスラムの怖い体験からアドリブ的に導き出した何かを提示してお茶を濁してきた。だがあまりによく聞かれるので、きちんと整理してみようと思っていた。まず、私がスラムで恐ろしく感じるものを列挙してみよう。

 犯罪(ひったくり、強盗の類)、食事(不衛生な材料を使用するもの)、ゴミ(路上に落ちているガラスなど)、糞尿(路上に放置されているもので不意に踏んでしまう)など。どれも嫌なのだが、慣れもあるので対策もすぐに浮かぶ。

 犯罪については経験を積んでいたり現地の顔役に話を通すなどしておけば、絶対とは言わないがある程度は回避できる。食事も必要に迫られなければ別に食わなければいいだけの話だ。ゴミや糞尿にいたってはそれこそ自分の注意でなんとかできる(できないほどの一面に落ちていることもあるが、この際そこはカウントしないものとする)。

 正直、どうにでもなるものばかりなのだ。だが、確実に避けようのない恐怖というのが存在している。それは「犬」である。特に警戒しなければいけないのは、人に飼いならされていない野犬である。動物番組などでは、出演タレントよりも動物に気を遣うそうだ。人間と違い演出しようにも交渉の余地がない「ガチ」な要素となるからだ。

 そんな野生を秘めた犬たちを途上国ではよく目にする。スラムに行ったならば、無警戒に寝転んでいる様子をそこら中で見ることができる。ただしそれはデイタイム限定の姿、奴らが活動するのは日が落ちてからなのだ。

 現在ではビーチリゾートとして知られるタイのパタヤ。ここに20年ほど前に訪れた時のことである。今でこそリゾートホテルが林立するエリアだが、当時は繁華街の裏手などは一面の荒野だった。私が泊まっていたホテルは、そんな場所を抜けた先のバスターミナル近く。当然ながら夜遊びして帰るときは荒野を突っ切ることになる。

 ある夜、ひとしきり遊び終えてホテルに戻るとき、夜食用に買ったハンバーガーを持ったまま歩いていた。不意に背後で生き物の気配がした。振り返るまでもなく「グゥルルル」という低い唸り声でわかる。チラっと目をやると複数の黒い影がついてきていた。狙いが私の夜食なのは間違いない(いい香りが漂っていたので)。

 結局、そのまま距離を保ったまま早歩き。徐々に距離を詰めてくる犬たちの野生の本能にビビりながらも、こちらの食い意地も負けていない。絶対に渡してなるものかと最後はホテルまでダッシュして事なきを得た。

 これは奇跡的にうまくいっただけで、本来は早々に夜食を諦めておくのが正解である。決して真似しないでもらいたい。

 なぜここまで犬を恐れるのか。犬に嚙まれてしまうことでの外傷自体が怖いのではない。本当に恐ろしいのは嚙まれて「狂犬病」に感染することである。日本ではほぼ絶滅した感染症だが、海外ではいまだ現役である。この病気、感染して発症したら致死率100%なのだ。もし野犬に嚙まれたら、現地の病院に入院してワクチンを投与してもらうしかない。

 しかも、日本にワクチンがないので、現地にとどまって約2週間も投与し続けなければならない。命も大事だし、スケジュールも崩れる。踏んだり蹴ったりである。犬に予防接種でもしていれば大丈夫だが、スラムの野犬がそんなものを受けているわけもない。しかも暗闇で襲いかかってくる野犬に対して人間が対処する手段はそれほど多くないのだ。

 狙われて回避できたとしたらそれは運が良いだけ。嚙まれることのリスクがどれほど大きいのかおわかりいただけるだろう。

■スラムのニッチなビジネス

 ニッチな市場を開拓しろ!  ベンチャー企業も大企業もこぞって参入しているニッチとは、ようするに隙間産業なんだと思う。これまで埋まっていた金脈を掘り起こしていくのは、利益を求める企業としては当然のこと。ただし、これは日本に限った話ではない。

 「そんなところにニーズがあるのか?」という商売に関しては、スラム街のほうが一枚上手のように思う。ということで、今回は私が見てきたいくつかの底辺ニッチビジネスについて紹介していこうと思う。

 まず代表的なところでは、フィリピンのスラム街の「パクパク」の仲卸だろう。パクパクはスラム街のような貧困層が食べる廃棄食品の一般的な呼び方である。これをスラムに運びこむのは、東南アジアでマクドナルドに勝利した唯一の外食企業とされるローカルのファストフードチェーン店「ジョリビー」の廃棄物運搬の運転手がやっているアルバイトだ。

 本来ならきちんと廃棄しないといけないチキンなどの食べ残しをスラムに置いていくだけでお金がもらえるのだ。これほど安易なやり方はない。ただし、これは日本でも同様のことが発覚して大問題になったので、日本では応用できないと思われる。

 次に、アジアのみならずアフリカでも見られる商売としてカット屋がある。野菜やフルーツを適当な大きさに切るだけ。顧客の多くは調理スペースが大きくない屋台などである。

 この商売、間近で見たことがあるが、お世辞にも衛生的とはいえない。そのうえカット面が露出しているので、調理で高熱処理でもされていないと高確率で腹を下すようにも思う。

 おかげで、最近では屋台の調理スペースがどうなっているのかをチラっとは確認するようになった。結局、空腹に負けてどうでも良くなってしまうのだが。

 ほかにも怪しいニッチな商売はある。これはケニアのキベラスラムで知った。世界最大規模の面積と100万人ともいわれる人口があるキベラでは、多くの人がスラム外へ働きに出る。帰宅時間もまちまちである。

■女性にとって不可欠な「送迎ビジネス」

 キベラスラムは犯罪が多いことでも知られている。人数が多いのだから比例して多くなるのも当然とは思うが、絶対数が多いので警戒の必要は当然ある。そこで行政が設置したのが街灯である。それも街の暗い場所を照らすため。

 「あれができたから暗い場所が減ったよ」

 住人たちはそんなふうに語ってくれたが、犯罪が減ったと実感できる人は少ないように思えた。というのも、大通りから路地の中を送るだけの送迎ビジネスが成り立っているからだ。キベラは大通りから一歩入ると迷路のようになっている。そこを一人で歩くのは危険なので、目的地までついていくという商売だ。

 「そんな商売成り立つの?  知り合いとかに送ってもらえば済むだけじゃない」

 意地悪くこの仕事を教えてくれた地元民に聞いてみた。「そんなことはない。特に雨の日なんかは誰も送ってくれない。一番危ないのは雨の日なんだ。叫び声も雨音で消されてしまうからな」

 特に女性たちにとっては不可欠なサービスらしい。キベラでは強盗のほかにレイプ被害も多い。狙われるのは大抵が狭い路地を歩いている女性で、複数で空き家などに連れ込んで犯してしまうそうだ。そうした被害を防ぐためにもこのニッチビジネスは活用されている。

 他にも密告や観光客のアテンド、プラスチック専門の割れ目継ぎなど、とにかく彼らは隙間を探してくるのがうまい。この姿勢は見習いたいところもあるが、なかなか一朝一夕で真似できるものではない。

東洋経済オンライン

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最終更新:12/5(土) 15:48

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