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アメリカに「団結と癒やしの時代」は来るのか

11/30 16:01 配信

東洋経済オンライン

11月3日に投開票されたアメリカ大統領選挙は民主党のバイデン前副大統領が当選確実としたが、共和党のトランプ現大統領がなかなか敗北を認めず、法廷闘争を続けていることで、アメリカ社会のしこりや分断の亀裂は一段と拡大した感もある。対立する支持者の間で激しい衝突や暴動の続発さえ懸念され、連邦議会で「ねじれ」が残れば政策の停滞も予想される。新型コロナウイルスの感染再拡大が深刻化する中、ワクチン開発や金融緩和継続をはやして株価だけは高騰を続け、所得格差が拡大している。

バイデン氏は「アメリカの傷を癒やすときだ」と国民に団結を訴えたが、混乱が続く状況下で政権交代が順調に進み、社会の安定が達成できるのか。新政権は公約した政策をどこまで実行できるのか。日本への影響はどうか。今後の見通しについて、現代アメリカ論が専門の渡辺靖・慶応義塾大学教授に聞いた。

■強大な影響力を持ち続けるトランプ氏

 ――まず今回の大統領選の結果についての受け止めは。

 アメリカの大統領の再選率はふつう7割ぐらいあり、直近の3人の大統領(クリントン、ブッシュ、オバマの3氏)も再選している。それだけに今回、1期でNOを叩きつけた有権者の判断は重い。

 とはいえ、トランプ大統領の強さもまざまざと見せつけられたのが今回の選挙だった。トランプ氏は得票率でも前回選挙時(2016年)より1%ポイントぐらいアップしている。これだけ新型コロナの逆風があるにもかかわらず、ここまでのパフォーマンスを発揮したことで、今後の共和党としても、トランプ氏が敗れたからといって一気に同氏に背を向けるわけにはいかない。

 トランプ氏は今後、新たなメディアを立ち上げるのか、2024年の再出馬を目指すのかはわからないが、共和党の中でキングメーカー的な影響力を持ち続けるだろう。共和党がこれからトランプ主義とどう向き合っていくか。党内の主流派とトランプ派の駆け引きが見ものだ。

 ――バイデン氏の大統領就任はもはや揺るがないとしても、今後は1月5日にジョージア州で予定される連邦議会上院2議席の決選投票が注目されます(現時点では非改選を含めて上院議席数は共和党50、民主党48)。

 大きな意味を持つ決選投票になることは間違いない。民主党は2議席のうち1議席は獲るかもしれないが、2議席となると微妙だ。もし民主党が2議席とも獲れば、上院での議席数は民主50、共和50となり、(賛否が同数の場合には)上院議長を兼務するハリス次期副大統領が1票を持つため、実質的にはトリプルブルー(シンボルカラーが青の民主党が大統領選を制し、上下両院でも過半数獲得)が実現する。そうなると、法案や人事を通す点でバイデン政権にとってやりやすくなる面はある。

 だが逆に上院で共和党が多数派を維持すれば、バイデン氏が実行しようとしている巨額の追加経済対策法案や環境・インフラ投資で、共和党から相当な抵抗に遭うことになるだろう。その一方で、共和党が上院で多数を占めれば、民主党左派の抑止にもなる。左派系の人事は上院で承認されないだろうし、極端な増税や規制強化、国防費削減といった左派好みの案件が出てきても、上院では通らないだろう。

 ――株式市場もそうした「ねじれ議会」のプラス面を好感している印象があります。

 ただ注意すべきは、ねじれ議会によって追加的経済対策の規模がかなり削減される可能性があるなど、ダウンサイドを見ておく必要があるということだ。最近の株式市場はいいところばかりを材料視している傾向が強いと思われる。

■ハネムーン期間が終われば党派対立が再燃

 ――トランプ大統領が選挙結果を否定し、法廷闘争に出たことで、アメリカ国内の混乱や分断がむしろ一段と強まった感があります。バイデン氏は国民が団結し、傷を癒やすときが来たと述べていますが、来年以降、新政権下で政治風土は変わるでしょうか。

 トランプ氏はアメリカ国民の大統領になるというよりは、自分の支持基盤のほうを向いて政治を行ってきた面が強い。支持基盤ではない人は敵とみなし、分断と対立を煽る手法を採ってきた。バイデン氏はトランプ氏が壊してきたアメリカ民主主義の暗黙のルールやワシントンの常識的な慣習を重んじるだけに、雰囲気は変わるだろう。

 とはいえ、(大統領就任から最初の100日間の)ハネムーン期間が終われば、共和党も2022年の中間選挙を意識してくる。議会がねじれると、政治的な駆け引きも盛んになる。雰囲気は和らぐとしても、いつも通りの党派対立に戻ると考えたほうがいいだろう。

 特に今回は1988年以来初めて、議会がねじれたままで新政権1期目がスタートする可能性がある。バイデン氏は政権運営の難しさをそう遠くない時期に気づくことになるのではないか。

 ――党派対立がエスカレートして、支持者同士の激しい衝突や大規模な暴動が多発するのではないかとの懸念もあります。

 世論調査では、トランプ支持者の75%はトランプ氏が勝ったと思っている。逆にバイデン氏が勝ったと思っているトランプ支持者は5%もいない。彼らが違ったアメリカを見ている構図が見て取れる。「ブラックライブズマター(黒人の命も大切だ)」の運動に対する見方も分かれているし、コロナに関しての危機認識も違う。基本的な認識すら共有しにくくなっているという、交わることのないパラレルワールド化したアメリカが残っていることを印象づける。

 トランプ支持者の一部には陰謀論的なものを信じている人がおり、そういう人たちが白人至上主義や過激な勢力と交差して、抗議活動として暴動や国内テロの形で訴えたりする可能性はあるだろう。例えば大統領就任式の1月20日前後あたりに、(バイデン氏を)新大統領として認めないというような運動が起きてもおかしくない。

 バイデン氏は国民の融和を訴えるにしても、民主党内の左派に対して配慮しつつ、かつ共和党も過度に刺激せずに政権運営していけるかは、非常に高度なワザとなるだろう。

■コロナ対策と経済立て直しが最優先課題

 ――アメリカではコロナの感染拡大が再び深刻化していますが、ワクチン開発の問題も含めて今後の政治情勢にどのような影響を与えるでしょうか。

 コロナ対策は新政権にとっての最重要課題であり、同じく最重要課題である経済立て直しと不可分の問題でもある。ここで成果を挙げれば、政権の求心力はある程度高まるだろうし、社会の雰囲気も和らぐだろう。

 その意味で、コロナの感染拡大が続く中、いかに共和党との折り合いをつけて追加景気対策を早期に実行できるかがまず問われる。そして、ワクチンが安定的に供給され、しかも安全性が確証され、感染状況が収まってくるかが注目される。

 ――NYダウが3万ドルを突破するといった株高ですが、社会的には所得格差拡大の原因にもなっています。

 今の株高は実体経済と乖離しており、格差が一段と鮮明になっていくということだと思う。アメリカではミドルクラス以上の国民は株で資産運用しているケースが比較的に多く、そういう人たちからすると悪い話ではない。結果的に、コロナ前と変わらない生活をしている人たちと、コロナ禍で不安定な状況に追い込まれている人たちとの分極化が進んでいる。

 たとえコロナが収束しても、ロボットやAIで雇用を置き換える企業も多く、雇用が元に戻るとは限らない。資産運用の余裕のない人にとってはかなり苦しい状況が続くだろう。その不満がどういう形で表れてくるかは注意しなくてはならない。

 ――バイデン氏が閣僚・高官人事の第1弾として外交・安全保障チームの人事を発表しましたが、どう評価しますか。

 いずれも実績があり、基本的に現実的な見方をしている人たちなので問題はないと思う。ただ注目すべきなのは、国防長官の筆頭候補に挙がっているミシェル・フロノイ(オバマ政権時の国防次官)という人物だ。

 彼女はヒラリー・クリントン氏の人脈で、海外に積極的に介入することも辞さないタイプの人だ。国防費の増額にも積極的と見られる。民主党は国防費を削減して社会保障に充てるという傾向が強いため、とくに左派からの理解が得られず、フロノイ氏の人事が遅れているのかが気になるところだ。

■「内向き」のアメリカとどう向き合うか

 ――バイデン新政権になって日米関係にどのような変化が見込まれますか。

 アメリカはコロナで経済も傷ついているので、短期的に見た場合、防衛費に関して日本に一定程度の負担を求めてくることも考えられる。しかし、トランプ政権のように、日米の同盟関係が不公平だという認識は持っていないので、関係は安定化するのではないか。

 中心的な課題は、米中のはざまで日本がどうバランスをとっていくかだろう。バイデン政権は中国に対して強硬だといっても、環境問題やパンデミックの対応では中国と協調せざるをえず、その分、中国に対して甘くなるという懸念はある。一方、アメリカからすると、日中が経済関係を深めていくことについては、中国が日米関係にくさびを打ち込もうとしているのではという懸念がある。そうした米中関係の中で、日本がどう舵を切っていくかは中期的に難しい課題だ。

 また、アメリカでは今、サンダース的な左派とトランプ的な右派という左右のポピュリズムが力を増している。どちらも対外関与や自由貿易に関しては批判的で、反グローバル化で共通している。世代的にも、ミレニアル世代以下の若い層は、国際協調に関しては賛成だが、軍事介入や武力の行使には非常に慎重だ。つまり、全体的にアメリカでは、イデオロギー的にも世代的にも「内向き」の傾向があるので、長期的な日米関係を考えるうえでは注視しておく必要があるだろう。

東洋経済オンライン

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最終更新:11/30(月) 16:01

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