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26年前の未解決殺人「司法解剖」から迫る犯人像

11/29 13:01 配信

東洋経済オンライン

昭和、平成、令和にわたって40年以上、監察医・法医学者として1万体以上の検死、5千体以上の解剖を担当してきた杏林大学医学部名誉教授・佐藤喜宣氏は、ドラマ化もされた漫画『監察医 朝顔』の監修者でもある。
佐藤氏の著書『生きるための法医学 私へ届いた死者からの聲(こえ)』には、世間を震撼させた重大事件をはじめ、阪神・淡路大震災、東日本大震災、新型コロナ感染症、子ども虐待等、生死をみつめてきた法医学者だからこそ知り得た実体験エピソードが数多く収録されている。

本稿ではその中から昭和に起こった未解決事件「井の頭公園バラバラ殺人事件」を振り返る。

■26年前の未解決事件

 世間を震撼させた井の頭公園バラバラ殺人事件は、1994年4月23日に発覚しました。

 被害者が付近に住んでいた男性(当時35歳)だったことは判明しているのですが、犯人も犯行動機も不明の未解決事件となっています。

 特筆すべきは、死因特定につながる人体部分は、何ひとつ見つからなかったことです。

 解剖によって死因を特定するためには、頭部と内臓を丹念に調べていく必要があります。被害者男性の手と足は発見されたのですが、ご遺体は損壊されていたため、首から上と体の中身は発見されませんでした。

 しかも身元を特定するために必要となる指紋は、ハサミで切り取られ、見つかった身体部分は血抜きされた状態で、すべて22㎝という均等な長さに切りそろえられていたのです。

 この22㎝には理由がありました。井の頭公園に設置されていたゴミ箱の円形入り口から、引っかからずに入る奥行きサイズと一致していました。

 仮に22㎝以上あれば、円形入り口で引っかかってしまい、スムーズにゴミ箱に入らなかったのです。太い大腿部も同じ長さにされた上で、円形入り口の直径内に収まるよう、皮膚を削っている程の徹底ぶりでした。

 事前に遺棄する場所の直径と奥行きを調べていたことも含め、間違いなく計画的な犯行でした。

■なぜ井の頭公園を選んだのか

 被害者の自宅近くに位置している井の頭公園は、桜の名所としても知られています。

 都民の憩いの場を入念に調べ、そこに遺棄している事実からも、見つかっても構わないという明確な意志も感じられました。

 これは何かの見せしめではないのか。もしかしたら誰かと間違われた〝人違い殺人〟なのではないかという疑いすら持ちました。

 捜査上でも、被害者には誰かに恨みを持たれていた可能性や宗教的な背景も出てきませんでした。

 実はこの事件が発覚する前、熊本県内でも似たようなバラバラ事件が起きていました。

 熊本大学の教授に電話をして、事件の特徴を確認したところ「バリを見なさい」と言われました。

 バリとは刃の特徴のことで、人間で言えば指紋にあたります。損壊にノコギリを使っているのであれば、バリの目の形が出ているはずだから、刃物の特徴を見ればどこで購入したのかがわかるということでした。

 事件当時は、オウム真理教の脱会信者に対して弁護団が組織されたことが報道され始めていた頃でした。

 捜査本部には、解剖結果の報告とともに、これは人違い殺人の可能性もあるという疑念についても話しました。

 オウム真理教の脱会を図った人がいて、それを粛清しようとした教団が、被害者を間違って殺害してしまったのではないかという仮説も含め、とにかくあらゆる可能性を考慮する必要性があると伝えました。しかし「オウム真理教はそこまでやりませんよ」と広域捜査には至りませんでした。

 その後、1995年1月17日に阪神・淡路大震災が発生。それから約2カ月後となる3月20日、地下鉄サリン事件が起きてしまったのです。

 地下鉄サリン事件後、井の頭公園バラバラ事件の話をもう一度聞かせてくれと警察庁が飛んで来ましたが、2009年4月23日午前0時に公訴時効となり、未解決事件となってしまいました。

 こんな残忍で手際の良い犯人とは、一体誰なのか? 今現在、名乗り出て来た人間はひとりもいません。

■2010年以降、凶悪重大犯罪未解決事件の時効は撤廃

 2010年4月27日に「刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律」が施行されたことにより、殺人罪などの公訴時効が廃止され、凶悪な重大犯罪未解決事件は時効が撤廃されました。そのため現在は、どれだけ時間が経過しても犯人が生存していれば、処罰できるようになっています。

 ただ、井の頭公園バラバラ事件は同法の施行前だったため未解決事件となり、迷宮入りしてしまいました。

 殺人事件、不慮の事故等には被害者と加害者だけではなく、被害者家族、加害者家族もいます。身近な人がもしもお亡くなりになってしまった場合、遺された人たちがその死をどうとらえるのか。死を受け止めた上で日常を生きていくためにはどうしたらいいのか。

 ご遺体には、これからを生きていく人たちに伝えたかったメッセージが必ずあるはずで、そのメッセージこそ、私たち法医学者が聞かせてほしいものでもあるのです。

 ご遺体から教えてもらった知識を生きている人に活用する。これを「臨床法医学」と呼んでいます。亡くなられた人の尊厳と権利を守り、生きている人たちに対して法医学の知識をフィードバックしていくことは、犯罪抑止にもつながります。

 私が子ども虐待や、ドメスティックバイオレンス(DV)の防止にも取り組んでいるのはそのためです。臨床法医学は、大規模災害等の防災対策にも役立てられていて、今後ますます重要になってくると感じています。

 人生100年時代と言われる昨今、生きている人に活用してこそ真価を発揮するのが法医学であり、法医学にはその使命があると考えています。

 構成:福山純生(雀聖アワー)

東洋経済オンライン

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最終更新:11/29(日) 13:01

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