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「酒場店主」が行きついたオンとオフをつなぐ癒しのお燗の技

11/29 18:31 配信

東洋経済オンライン

冬の始まりを迎え、お燗が恋しくなる季節がやってきた。「普段、仕事でお酒を扱っている人はオフの時間、どのようにお酒に癒されているのか」――。今まさに飲みたいお燗をテーマに、お酒の魅力をいちばんわかっているその道のプロに、おいしい飲ませ方・飲み方を聞いてみた。
 向かったのは、四谷・荒木町。小体の良店が集うこのエリアでは数年前から日本酒のイベントが行われ、日本酒好きをときめかせる町と化している。

 なかでも1986年生まれの2人、お燗番で店主の佐藤正規さんと料理を担当する北村徳康さんが開いた「荒木町 きんつぎ」は、2018年7月の開店以来、きらきらと輝き続けている。舌を悦ばせる料理と、心まで温めてくれるお燗で、連夜訪れたお客を幸せの彼方へ導いてくれるのだ。 

■大学卒業後から、お燗をつけて12年

 佐藤さんは大学卒業後、勤め先の焼鳥屋、神奈川・溝の口「遊家(ゆうや)」で地酒に触れ、日本酒が好きになった。さらに日本酒の理解を深めるべく、仕入れ先の酒販店「坂戸屋」で働くようになる。

 「“燗職人”と呼ばれる先輩や、勉強に赴いた蔵の方から、その銘柄に適したお燗のつけ方を教えてもらい、それをまねて実践を重ねていきました。坂戸屋で扱う日本酒は、食中酒のなかでもとくにお燗にしておいしくなるお酒を多く扱っていたのです」

 さらに、東京・学芸大学「件(くだん)」で料理とお燗の技を磨き、独立を果たした。社会に出て以来、佐藤さんの生活はずっとお燗とともにある。

 ある日のおまかせの料理とお燗の一部はこんな感じだ。席に着くと、まず温かいだしが供される。肩の力がすーっと抜け、自然とリラックス。この時点で胃袋も心も摑まれる。

 前菜の後に登場したのは、真鱈の白子焼。その下には白菜のすりながしが敷いてある。合わせるのは、“丹澤山 麗峰(れいほう)”。1年以上タンクで寝かせることで丸みを帯びた円熟味を生み、お燗でさらに映える酒質をめざした銘柄である。

 「だしの旨味を感じられる優しい味わいの料理なので、2回火入れをした落ち着いたタイプのお酒を合わせました。おだやかでいて、芯のある旨味も感じられるお酒です」

 続いて登場したのは、鮑の黄身味噌焼き。鮑を包む味噌から濃厚なコクと旨味が広がるではないか。ここに登場したのは““悦 凱陣(よろこび がいじん)山廃 純米酒 無ろ過生 赤磐雄町”だ。

 「生原酒のお酒は65度ぐらいの高めにつけることで、特有の香ばしさが生まれます。黄身味噌のカスタードクリームのようなニュアンスと、この香ばしさが相乗して、長い余韻が生まれます」

 佐賀牛と聖護院大根の炊き合わせには、“綿屋(わたや) 純米原酒 雄町 60”(金の井酒造)を。

 「1回火入れのひやおろしを55度位の柔らかさを感じる温度につけています。ひと夏越えているものの、あくまで穏やかな旨味です。牛肉もグリルではなく炊き上げているので、お酒の穏やかさが料理に寄り添ってくれます」

■温度違いの酒燗器2基を駆使

 登場するお燗どれもが、料理にピタッと合う柔らかさ、インパクト、香りや味わいで、もう、佐藤さんの手のひらの上でぐるんぐるん転がされっぱなしである。お燗をつける手順をたずねてみた。

 「55度までつけるのを基準に、香りと味見をして仕上げます。ツーンとしたアルコール感が出てしまうものは、デキャンタージュするように空気を含ませてして柔らかくしたり、ぬる燗をご要望いただいた場合も、一度高く上げてから冷ます“くだり燗”をすることでおいしさを引き出したり。

 銘柄ごとに決まりがあるのではなく、抜栓してからも日々味が変わっていくので、その時々の状態を確認してお客様の今の状態に合いそうな味わいに調整していきます。料理と一緒ですね」

 「料理と一緒」という言葉が新鮮に響いた。そうか、お燗はお酒を「料理」することなのか。

 「お客様が召し上がっているお料理や飲むタイミングに合わせて、お酒に最終的な火入れをして仕上げていく感覚です。あくまで僕の頭のなかのイメージなのですが。料理でも強火でこんがり焼くのか、弱火でことこと煮込むかで味わいが変わりますよね。それと同じで、今召し上がっているお料理には、急激に上げてお酒らしさを強調したほうが合うかな、だしのようにふわっと広がる味わいにしようかな、と考えたりしています」

 さらに、これからのお燗がよく出る時季には、酒燗器「かんすけ」を湯の温度違いで2基守備すると言う。

 「約80度と約60度のものです。急に熱いお湯に入れるとアルコール感が立ってしまう場合があるので、まず60度のほうで徐々に温度を上げて、仕上げに80度のほうに入れる、という感じです」

 プロフェッショナルなお燗技術でお客をもてなす佐藤さん。その佐藤さんを癒すのもまた、お燗だという。その魅力とは? 

 「試飲を除き、自分のためにつけるということはまずありません。でも休みの日の食事となるとほぼ外食で、和食なら年中お燗しか飲まないくらいです。夏場でも、です。一番は香りですかね。温めると香りが広がってより味わい深くなる感じがして好きなんです。冷酒より悪酔いしないといいますが、それはあまり考えていません(笑)。

 単純に自分の好みなんです。休日のお燗は勉強、というよりリラックスのため。あれこれ難しいことはあまり考えずに。だらだらゆるゆる飲みたいときにも寄り添ってくれます。ほっと一息つけて、温泉につかっているような気分にさせてくれます」 

 普段、心を砕いてあれだけ丁寧にお燗をつけているなら、ほかの人のお燗に疑問符を抱いてしまうことはないのだろうか。佐藤さんの答えははっきりしていた。

 「休日に誰かに付けていただいたものに関しては、自分だったらこうするのに、とは絶対に思わないですね。『これもおいしいな』ですね。銘柄もつけ方も完全にお任せしてしまいます」

■自宅で超手軽にお燗をつけるなら…

 佐藤さんは、自分のためにお燗をつけることはないと言うが、手軽に家でつけられる方法を聞いてみた。スタンダードなのは鍋に湯を沸かし、徳利ごとちゃぽん。電子レンジなら、一番低いワット数で数十秒ごとに小刻みで温めていくのも手だという。そう自宅では究極を求めるより、手軽なほうが楽に飲めるに違いないのだから。

 お猪口に関しては、広がりのある平盃がお薦めだという。

 「口に入れたときに、舌が味を広くとらえるので味わいを感じやすいですね。口が当たる部分が少し反り返っているお猪口も、口にフィットしてお燗酒に向いています」

 とはいえ、本日、いただいたお燗の酒器を前にしみじみ思う。自宅だとしたら、これだけ飲むのだけでも、何度席を立ってキッチンと行き来しなければならないか。「自分がリラックスするためのお燗はプロに任せる」。それもまた、行きついた達人の名答である。

東洋経済オンライン

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最終更新:11/29(日) 18:31

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