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スクープ!「スキー連盟クーデター騒ぎ」の真相

11/22 5:50 配信

東洋経済オンライン

日本のスキー競技を率いてきた全日本スキー連盟が揺れている。10月18日の理事改選で、候補に挙げられていた北野貴裕会長や皆川賢太郎競技本部長、外部有識者である星野リゾートの星野佳路代表ら中枢の7人が評議員会で否決されたのだ。結果、理事は18人に減り、定数(20人~25人)を満たせない異例の事態となった。
スキー連盟の矢舩保夫専務理事は11月15日、来る12月6日に臨時の評議員会を開催し、改めて理事を選び直したうえで新体制を発足させる見通しを示した。

1年3カ月後には2022年北京冬期五輪が控えている。このタイミングで突如として勃発した役員否決劇を「何者かによるクーデター」とみる向きもある。スキー連盟内部で、何が起きているのか。渦中の皆川氏が独占インタビューに応じた。

■ジリ貧だったスキー連盟

 ――北京冬季五輪まで、あと1年3カ月しかありません。なぜ皆川さんたちは否決されたのですか。

 正直なところ私にも真相はわからないんです。当日まで、まさかこんなことになるとは思っていませんでした。

 ただ、私たちがこの4年間で進めてきたスキー連盟の改革について、不満の声があがっていたのは承知しています。

 ――4年前、北野(貴裕・北野建設会長兼社長)さんが会長に就任し、若手の皆川さんが理事に選ばれました。外部から理事として招いた有識者たちと一緒に改革を進めたそうですが、なぜ改革が必要だったのですか。

 改革を進めたのは、組織の存続が危うい状況に差し掛かっていたからです。少しだけ時代背景を説明させてください。

 スキー総人口が最も増えたのは1980~1990年のスキーブーム時でした。バブルの影響やスノーボードの参入もあり、長野五輪が開催された1998年には1860万人に至りました。当時はスキー連盟の会員数も16万人ほどだったと記憶しています。

 ところが長野五輪後はスキーブームが去り、2000年以降、スキー人口は減少に転じました。どうやっても減少に歯止めがかからず、現在は600万人前後。ピーク時の3分の1程度です。スキー人口の減少につれてスキー連盟会員数も減り、登録料収入や会費収入はジリ貧となりました。

 そんな中でも種目数は増えました。長野五輪からモーグルをはじめ、以降ハーフパイプにスロープタイプ、ビッグエア、スキークロス、スノーボードクロスなど、新しい競技がどんどん加わった。スキー連盟の財政基盤が弱くなる一方で、種目数は増えていったわけです。

 このままでは財政的にもたないということで、一時はオリンピック種目すらコスト削減の対象になりかけた。「この種目とあの種目の強化を止めれば数千万円浮く」といったやりとりが真面目に交わされていたんです。

 弱った財政基盤のシワ寄せは選手たちにいきました。日本代表に選ばれるような選手であっても強化合宿の参加費は自己負担してもらっていたのです。このことは、世界で戦えるスキー選手を育成しなければならないスキー連盟として、とても恥ずかしいことでした。

 4年前、企業経営の手腕を持つ北野さんが会長に就任し、若手の私が理事(当時は総務本部に所属)に入ったのは、そんなスキー連盟を立て直すことをミッションとして選ばれたと感じていました。底が見えない、手の打ちようがない状況の中で、私たちは「スキー連盟再建」のための改革に着手したのです。

■「マーケティング広報員会」を立ち上げた

 ――どうやって立て直しを? 

 最初に「マーケティング広報委員会」を立ち上げました。マーケティング戦略として「SNOW JAPAN」という名称を打ち立て、ロゴを発表し、スキー連盟として初めてメインビジュアルを製作しました。選手たちの肖像権を確立してSNOW JAPANをブランディングし、協賛を集めやすい仕組みを作ったのです。狙い通り、協賛会社は集まり始めました。

 集まったお金は、選手の強化費に充てるだけでなく、次の資金獲得のための投資にも回しました。選手たちの地位向上とコンテンツ作りです。

 例えば、選手たちの記者会見もその一つと捉え、コンサートを一緒に開きました。ユーミン(松任谷由実)さんやゴスペラーズさんは私たちの活動に賛同し、「日本代表のために」と力を貸してくださいました。

 そして毎年シーズン後には、特定種目の著名選手だけではなく、全種目平等に世界8位以内入賞選手を表彰する「SNOW AWARD」を開催し、競技本部約300名の選手や強化スタッフ、協賛会社やマテリアル(用品)メーカー各社など、日本代表を取り巻く応援団のみなさんが集える場を提供しました。業界が一枚岩となって悪化する情勢を乗り切るのが狙いでした。

 こうした努力が実り、スポンサー企業は着実に増えました。4年前から支えてくださっていたSUBARUさんとバスクリンさんの2社に加え、新たにエイブル&パートナーズさん、日本管財センターさん、竹村コーポレーションさん、ANAさん、興和(バンテリン)さん、KOSEさん、八海山醸造さん、爽健グローバルさんが加わってくださった。

 スポンサー協賛金は1億1900万円(2016~2017年)から3億1300万円(2018~2019年)へと大幅に増額したのです。

 国の補助金を獲得するための戦略も練り直しました。ひと昔前のように「金メダルを取るために強化費へ使いますので協力ください」と頭を下げたら補助金や協賛金が降ってくる時代では、もうありません。強化戦略プランとKPI(Key Performance Indicator/重要業績評価指数)がなければ、補助金は執行されない。

 だからきちんとした戦略プランとKPIを設定し、国から適正に評価を受ける仕組みも整えました。その一つが、Division制の導入です。

 Division1はジャンプ、コンバインド(ノルディック複合)、クロスカントリー、Division2はアルペン、スノーボードアルペンといった形で、使用する施設や環境が類似する競技をひとくくりにし、資源(ヒト、モノ、カネ)も共有できるようにしました。補助金収入も4年間で2億8600万円(2016~2017年)から4億0880万円(2018~2019年)に増えました。

 4年前まで自己負担だった選手の合宿参加費は、今では無償化を前提に強化活動を実施できています。収入増に成功したことで、選手強化費を増やすことができたのです。

■会員数は8期連続のマイナス

 ――ただ、スキー連盟会員数の増加は実現できていません。

 会員数は現在約7万6400人で、8期連続のマイナスです。私が競技本部長に就く前からの減少傾向を変えられていません。

 減少に歯止めをかけるために、スキー連盟会員登録システム構想を3年前から企画し、理事会で議論してきました。地域連携や発展性、そして一時的な移行負担や退会者増を想定したうえで「シクミネット」を導入しました。これまで手書きで郵送での登録や申請をIT・デジタル化へ踏み切り未来への投資を理事会で決定しました。

 ――そのことで会員が減ったという指摘もあります。

 システム変更に伴い、離れてしまった人も一定数います。今回、北野会長や私を否決した理由の中には、この新システム導入と会員減少が挙げられているのも承知しています。ですがスキー連盟の将来を考えたとき、会員登録のIT・デジタル化は不可欠だったと思います。

 ペーパーレス化が進んで加盟団体、地域連盟、クラブ担当者の業務を大幅に削減することも目的の一つとし、一定の評価をいただいていました。一時的に会員が減っても、効率的なプラットフォームを構築することが会員離れに歯止めをかけることにつながると思っています。

 さらにはIT大手企業とIP連携を図ることも想定しています。多くのライトユーザーや休眠層に認知してもらって、雪の上や日本代表の応援に来てもらえれば、新規会員の増加にもつながると考えています。

 ――否決理由の中には、北野会長や皆川さんが「評議員の定数を削減しようとしている」といった声もありました。(編集部注:現在の評議員の定数は49、主に各都道府県連盟の代表者で構成されている。理事は評議員会で選任される)

 このあたりは情報がゆがんで伝わっているので訂正しておきたいのですが、理事会から評議員の定数削減を進めようとしたわけではありません。公益財団法人としてガバナンスを利かせましょうと申し上げてきました。

 いずれは国の補助金依存体質から脱却を掲げ、自主財源など自立した団体を目指すべきだという私個人の理想はあるものの、今、国からの補助金がなくなるとスキー連盟にとって死活問題になる。補助金を絶やさないためにも民主的かつ資本主義なガバナンス改革が必要不可欠なのではと思いながら理事会で議論を聞いていました。

 国は競技団体の運営指針「スポーツ団体ガバナンスコード」を策定しています。

 それには「組織の役員及び評議員の構成等における多様性の確保を図ること」「評議員会を置く NF (中央競技団体)においては、外部評議員及び女性評議員の目標割合を設定するとともに、その達成に向けた具体的方策を講じること」とある。

 ガバナンスの観点から評議員数は今のままでいいのか、外部有識者に入ってもらう必要性はないか、女性比率が低くないか、といったことを議論しましょうと評議員会に投げてきたのが真相なのに、いつのまにか「北野会長は評議員の定数を削減しようとしている」という話だけが一人歩きし、評議員に誤報が届き、その論調が報道されるようになってしまいました。

 そもそも評議員の定数をわれわれ理事が決める権限はない。基本的には評議員が自ら決めることなのです。

■お金が潤沢にあった時代とは異なる

 ――マーケティング戦略やIT・デジタル化、ガバナンス改革。どれも先進的な取り組みだとは思いますが、ものごとの進め方が「独断的」「強権的」という声も出ています。

 改革を進めるときには、必ず誰かが針路を指し示すフラッグを立てなければなりません。ジリ貧の組織を立て直すために、私は競技本部改革や強化の仕組みに関し逆風下でフラッグを立て、指揮をとってきたつもりです。

 お金が潤沢にあった時代を知る方々の中には、私が進めてきた改革について「自分たちとはやり方が違う」「昔は良かった」と受け取る方がおられるかもしれません。ですが、時代は大きく変化しています。

 私が現役だった長野五輪以降、強化環境や選手待遇は年を追うごとに悪化し、疲弊していきました。その経験から引退後はスキー連盟内部に入り、選手たちや業界に貢献したいと志を持ってきました。スキー連盟がこれからの時代を生き抜くための組織改革は必要不可欠であり、その信念を持って進めてきました。

 ――地方の加盟団体、地域連盟の中には「地方の声が反映されない」「地方が切り捨てられている」といった声もあがっています。

 そういう声があることも重々承知しています。地方の加盟団体の方々が一番求めているのはクラブチームのある地方、地域の活性化。大会やイベント、合宿地になればヒト、モノ、カネが動きますから、そういうことをやって地方を活性化させてほしいというのが加盟団体の長年の願いでした。

 北野体制で歩んだ道は、まさに(スキー場など)冬季産業の再建と強化育成の立て直しです。そのためにまず中央団体の内情や現実を把握し、施策の優先順位を決めました。最優先したのが、先ほどのマーケティングも含めた日本代表の強化環境の整備、加盟団体を含む教育や育成などです。

 その流れの中で、私は2017年から選手の強化・育成・普及を進める競技本部を担当しています。先ほど申し上げたように種目数は年々増え、かつ特殊化しています。競技が特殊化するにつれて地方のスキー場、施設では使用許可を出しにくくなっている現実もあるのです。

 ですので、スポーツ庁から認定を受ける競技別強化拠点について、従来からある札幌(北海道)・白馬(長野県)のジャンプ台に加えて、新たにアルペン拠点(長野県)、スロープビックエア拠点(宮城県)、ハーフパイプ拠点(青森県)を設置し、強化環境の整備を進めました。

 私としてはまず中央集権体制で組織の立て直しを断行し、財政が安定したところで、地方の加盟団体にも恩恵が行き渡る策を打っていきたいと考えていました。しかし、残念ながらその趣旨は伝わりませんでした。置き去りにされたという不満が地方の加盟団体に募っていたのかもしれません。

 ――改革の趣旨を説明し、理解してもらう努力が足りなかったのでは? 

 努力が足りなかったと言われれば、そうかもしれません。

 以前は会長が地方の各ブロックを回って連盟の方針を説明する行脚をしていた、と否決後に評議会で聞きました。北野体制では役割分担を重視していたので、ブロック理事が中央の方針や情報を地域の方々に伝えていると思っていました。競技本部長として甘えがあったのかもしれません。

 ――それが今回はブロック理事(地域ブロックから選ばれた理事)の中にも否決した人がいた。

 ブロック理事には改革の趣旨を理解してもらえていると思い込んでいたので、その点は北野会長と私の努力が足りなかったのだと反省しています。

 組織には新陳代謝が必要です。組織が硬直化しないためにも競技本部長という職に長く就いていたいとは思いません。スキー連盟の成長に新陳代謝は重要なことだと思います。

■真実とはまったく違う情報を流している人がいる

 しかし今回、こうして私の考えを述べさせてもらったのは、北野体制で取り組んだ4年間で進めてきたスキー連盟改革の意義、中身をしっかりお伝えし、正当に評価していただきたかったからです。

 評議員の中に、これまで北野体制でやってきたことを知っているのに、真実とはまったく違う情報を流している方がいるのは知っています。少なくとも間違った情報、ゆがんだ情報で判断することは中央競技団体として、そして公益財団法人としても問題を感じます。

 10月18日の評議員会後、私は「相互理解に欠けていたことが今回の本質的な問題であるならば、評議員に説明するために地方を回ります」を申し出ましたが、残念ながら勝木(紀昭)暫定会長や矢舩専務からは了承を得られませんでした。

 その代わりに「評議員会で集約して説明しろ」との指示がありましたが、毎年、強化選手や強化スタッフに伝えている競技本部の組織方針をまとめた資料は約80ページあります。選手やスタッフには2日間かけて伝えており、評議員会で与えられたわずか10分程度では、とても正しく伝えることができなかったのは心残りです。

 ━━11月15日に理事候補を選考する委員が選ばれました。12月6日の臨時評議員会では選考委員が理事候補を提示し、新しい理事が選ばれます。

 選考委員には約3週間、スキー連盟の発展と強化育成など幅広く議論していただき、民主的かつ公平な観点で、そして組織ガバナンスをしっかり見据えたうえで、新しい理事候補を選んでいただきたいと思います。

 また評議員の方々には、正しい情報や状況をきちんと確認する、あるいは事実関係について説明を求めていただき、信念を持ってご判断いただきたいと切に願います。

東洋経済オンライン

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最終更新:11/22(日) 8:51

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