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敏腕TVディレクターが「相撲映画」に挑んだ理由

10/31 13:11 配信

東洋経済オンライン

1500年以上もの歴史の中で日本人の暮らしに深く根付いている国技「相撲」。約半年間、境川部屋と髙田川部屋の2つの稽古場に密着した大相撲界初のドキュメンタリー映画『相撲道~サムライを継ぐ者たち~』がTOHOシネマズ 錦糸町、ポレポレ東中野ほか全国の劇場で順次公開されている。
想像を絶する朝稽古、驚きの日常生活、親方・仲間たちとの固い絆、そして本場所での熱き戦いの日々を追いかける中で、相撲の魅力を歴史、文化、競技、さまざまな角度からひもといていく。監督はTBS所属のディレクターで、「ズバリ言うわよ!」「マツコの知らない世界」などのヒット番組を手がけた坂田栄治氏。バラエティー番組で培った胆力、フットワークを駆使して、相撲界に飛び込み、貴重な映像を収めている。そこで今回は坂田監督に本作取材の裏側について聞いた。

■番組制作の能力を他のところに使いたい

 ――かなり相撲界の内側に入りこんだドキュメンタリー作品だと思ったのですが、もともと相撲はお好きだったんですか。

 僕は相撲を欠かさずに見ている相撲マニアというわけではなく、そんなに詳しくもなかった。

 TBSでバラエティー番組を作っていて、それこそ細木数子さんやマツコ・デラックスさんといった方たちと人気番組を手がけていた。自分の中ではもうテレビでやりたいことは、やり終えたなという感じがあったんです。自分で言うのもなんですが、番組を当てる技術があって、編集もうまいし、企画を立てるのも得意。そして東京でオリンピックを開催することが決まったときに、この能力を他のところに使いたいというか、オリンピックの年に日本人として日本のために何かやりたいなと思うようになったのです。

 ――それが相撲のドキュメンタリーだったと。

 その時は漠然としていました。ただ、格闘技は好きだったんで、「マツコの知らない世界」の相撲メシの回のゲストとして出演してくれた相撲漫画家の琴剣さんに、朝稽古を見たいと言った。実際に見にいって衝撃を受けたのです。朝から稽古しているからこんな体になるんだとか、強い力士と強くない力士の差はここにあるんだとか、力士は同じ部屋にこういう感じで住んでいるんだとか……。知らないことが多すぎると思ったんです。

 ――まさに「知らない世界」だった。

 そのとき「撮らなければ」と思ったんですよ。これはちゃんと記録として撮っておいたほうがいいのではないかと。

 その直後に両国国技館で相撲を見たのですが、それこそ館内のお祭り的な空気や歓声、盛り上がり、そこで力士がぶつかり合う音。そして一瞬で決着ついたときのみんなのざわめき。これは全部、相撲中継では表現されていないなと感じたんです。その時、これはきちんと大スクリーンに映すようなものに記録しなければと思って、映画を撮ろうと決めたんです。

■これだけお金をかけている人はいない

 ――完成された作品を見ると、結構採算度外視で作られた印象を受けました。

 採算で言うと、ドキュメンタリー映画でこれだけお金をかけている人はいないと思います。カメラもすごくいいものを使っています。

 琴剣さんにコーディネートしてもらって日本相撲協会と交渉したのですが、相撲ファンの裾野を広げたいという協会側と僕がお願いしたタイミングが運良く合った。たまたまオッケーが出たかもしれないのに、自分の手持ちのカメラで、地上波レベルの映像で作ったらそれは意味がないと思ったんです。

 しっかりと美しい画面で記録して、後から見ても「お相撲さんってすごいよね」というものを作っておきたかった。今後、撮れる人もいないかもしれないから、映像にもこだわったし、音にもこだわりましたし、本当にドキュメンタリー映画の金額じゃないんですよ(笑)。

 ――相撲を記録したいという衝動で始まった企画ということですね。

 だからまったくお金の計算もしていなかったんです。そもそも最初は配給会社も決まっていなかったですし。自分の撮る作品のイメージができていて、こう撮ったら絶対にみんなが面白がってくれるなって思って撮っていたんですけど、プロデューサーはずっと不安だったと思います(笑)。

 ――それは(所属する)TBSとは別のところで動かれたのでしょうか。

そうです。まずTBSの映画事業部に企画書を持っていったんですが、ストレートに言うと、ビジネスにならないからやらないと言われた。

 ――採算度外視の企画になるだろうというのが見えていたということですね。

 そう。だから言いましたよ。「日本のためにやるんだ」と(笑)。でもそういうことじゃないんだろうなと思って。そりゃサラリーマンだから、担当した作品が当たらなかったら自分の責任になってしまう。だったら自分で撮ろうと決めて。会社に副業申請を出して、許可をもらって。たまっていた有給と休日を使って、撮影を進めていったんです。

 ――そこまでの覚悟で撮ろうと思った? 

 いいんです。世界初の大相撲のドキュメンタリー映画を僕が撮れるなら。

 ――世界初の大相撲ドキュメンタリー映画と聞いたんですが、なぜ今まで撮る事ができなかったのでしょうか。

 過去にも挑戦した人はいると聞きましたけど、詳しくはわかりません。ただ自分はやると覚悟を決めて取り組みました。やはり撮っている最中もいろんな修羅場があるんですよ。でもそこで諦めたら、これは撮れないなと。

 やはり僕はバラエティー出身だから、できない環境で撮るということに慣れてるというか。これが駄目だと規制されたら、その中で面白くするためにはどうしようということをつねに考える。

■撮影の本気度を試された

 ――制約の中で戦ってきたからこそ、臨機応変に対応できたということですね。

 境川部屋なんてものすごい空気だし、稽古中に動くこともできない。撮れる範囲も限られている中でどうやって形にするのかということは、バラエティーをやっていたからできたと思う。

 もちろんそれだけでなく、自分が男として試されるようなハードルがたくさんあった。普通だったらみんな日和るような場面です。ただ僕は、マツコさんや細木数子さんとかと仕事をしているなかで試されることが多かった。お前、本気なのか?  と、試されるようなことをいわれる。そういうのに慣れていたからこそ、撮影することができたと思います。

 ――かなり中に入り込んでいるなというのはそうやって覚悟を決めたからだと。

 そう。本気で撮る気があるんだなとわかってもらえたから、撮らせてくれたし、みんな信用してくれたんだと思う。

 ――そもそも、境川部屋と髙田川部屋に密着しようと思ったのはどのような理由なのでしょうか。

 そもそも特定の力士に焦点を当てたドキュメンタリー映画を撮ろうと思ったわけではなく、相撲のドキュメンタリー映画を作りたかった。相撲部屋にはそれぞれの文化があって、それぞれ違うというところがある。だから複数の部屋に密着しようというのは決めていました。

 そこで琴剣さんに、古き良き時代の相撲の名残があるのはどこなのかと聞いたら境川部屋だというので見に行ったら圧倒的に空気が張り詰めている。トイレに行きたくても行けないような空気。親方も怖いし、マスコミに出ることがあまり好きじゃないという。

 でも、みんなが撮っていないからこそ逆に面白いなと思った。だからここは意地でも撮ろうと決めたわけです。さらに琴剣さんに、境川部屋とは違った個性のある部屋はないかなと聞いたら髙田川部屋を紹介してくれた。

 髙田川親方の話がものすごく面白くて、ずっと名言を言うんですよ。さらに竜電関はいわゆるお相撲さんのイメージじゃなくて。ものすごく普通に笑うし、明るい。ここはいいなと思って髙田川部屋にしたわけです。

 ――音響も主にハリウッド映画などで使われているドルビー・アトモスを採用しています。機材も相当いいものを使っているのではないでしょうか。

 機材のことはよくわからないですけど、(ミシュランで三つ星を獲得している)すきやばし次郎というすし屋を扱った『二郎は鮨の夢を見る』(デヴィッド・ゲルブ監督によるアメリカ映画)というドキュメンタリー映画を見たときに、お寿司を芸術品のように、すごくきれいに撮っていたんです。これはすごくいいなと思って、今回の映画ではお相撲さんをそれと同様にきれいに撮りたいなと意識しました。

 カメラの技術チームのトップに義理の弟がいるのですが、彼にこんなふうに撮りたいんだと相談したら、「だったらこうした機材がいいよ。ただお金はかかるよ」と。それでドルビー・アトモスを採用したのですが、音を録るのもテレビでは見たことないような特殊な録り方で、もちろんその費用も高かった(笑)。

■いい音にこだわった

 ――取組中の音はBGMもなく、力士がぶつかる音や息づかい、館内の歓声などを、しっかりと聞かせたいという意図を感じました。

 そこはやはりいい音にはこだわりたかった。海外の人にもお相撲のことを知ってもらいたかったから、両国国技館に行った事がない人にもそこの取り組みを体感できるようにしたかったんです。それができるのがドルビー・アトモスだったというのが採用した理由としてはあります。

 ――取組の場面でBGMを使わなかったことに抵抗はなかったでしょうか。テレビマンとして、BGMなどで映像を盛り上げたいという思いは湧かなかったのでしょうか。

 僕はそれをやらないから視聴率が取れたんだと思います。笑いを足すとか音楽を足すということは、必要な時には足しても過剰にはやらない。

 バラエティーってドキュメンタリーに近いと思うんです。「マツコの知らない世界」はバラエティーなんですけど、マツコさんとゲストのドキュメンタリーでもあると思っています。自分の好きなものをプレゼンしたい人がいて、初めて会ったマツコさんがそれにどう心が動いてくのか、というドキュメンタリーなんですよ。

 ――確かに「マツコの知らない世界」は、マツコさんの好き嫌いをごまかさずに、マツコさんのリアクションを真っ正面から追っているところがあります。

 細木数子さんの番組もドキュメンタリーなんです。ゲストが怒られるんですけど、視聴者は細木数子さんがいつキレるのかな、大丈夫かなと思いながら見ていく。タッキーとくりぃむしちゅーも怒られた人たちを、大丈夫?  と見ている。これもドキュメンタリーなんですよ。

 まったくそういうふうに見せていませんが、そういうふうに作っているんです。だから無理にBGMとかで盛り上げる必要はなくて、中身をちゃんと構成立てて、面白く作れば見られる。もちろんBGMが必要なときにはつけたりもしますけどね。

■海外で勝負したい

 ――結果としてお金は相当かかりましたが、それこそ海外セールスも期待できる出来となったのではないでしょうか。

 もちろん。海外で勝負したいですね。相撲ファンはもちろんですが、ファンじゃない人をいかに相撲ファンにさせるかというのは、自分の中でのミッションでしたからね。

 ――番付表の説明なども、すごくわかりやすい説明でした。

 相撲を知らない人にとっては、番付表もわかりづらいところもあると思うので、ピラミッド状にして説明してみました。よく海外のドキュメンタリーなどを見ていると、映像的にもけっこう遊びたい放題にやっているじゃないですか。そういうところは意識しました。

 ――確かに海外のドキュメンタリーには遊びの要素は多いですね。

 日本のドキュメンタリーは、不正を暴いたり、苦しんでいる真実を描き出す作品とかそういうものばかり。そっちだけにドキュメンタリーを使うのは違う気がしています。今回の映画でやりたかったことは、現実にあることをわかりやすく楽しく伝えたいということだったんです。

 ――映画を作ってみて、映画の面白さを感じたところはありますか。

 大画面と音の迫力は圧倒的ですね。それはテレビとはまったく違います。ただまた相撲を撮れと言われたら、「いやそれはちょっと大変かな」と思いますが(笑)。でも映像を作る技術で、違うことにチャレンジはしていきたいなと思いますね。

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最終更新:10/31(土) 13:11

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