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ある夫婦が「米大統領選」で激しく対立するワケ

10/31 11:01 配信

東洋経済オンライン

 新型コロナウイルスに感染しても3日で退院し、選挙集会を再開したドナルド・トランプ米大統領。激戦州に乗り込んで「20年前より元気がみなぎっている」と熱狂している支持者へ向かって叫び、敗北しても大統領選の結果を受け入れない、と宣言している。

 一方、民主党の大統領候補ジョー・バイデン前副大統領は、国内の深刻な政治的対立について、「もし大統領に選ばれたら、人種を攻撃する発言も、分断をあおる発言もしない。結束を目指す」と約束した。

■結婚や恋人関係にも悪影響を及ぼす大統領選

 この2人の戦いは、アメリカの一般家庭の夫婦にも影響を及ぼしている。夫婦で支持政党が異なるケースも少なくない。これまで喧嘩したことのなかったカップルがトランプ大統領の発言をめぐって言い争いになってしまい、別居や離婚することも増えているのだ。

 マーケティング会社のウェイクフィールド・リサーチ社が2017年、1000人を対象にした調査によると、アメリカ人の10人に1人以上(11%)、とくにミレニアル世代(1981年以降に生まれ、2000年以降に成人を迎えた世代)では、実に5人に1人以上(22%)がトランプ政権の誕生に伴う政治的な思想の違いをめぐって恋愛関係を終わらせているという。

 また、ミレニアル世代の35%、全体では5人に1人以上(22%)が、同じ理由で結婚や恋人関係に悪影響が及んだカップルを知っているとの回答結果が出ている。

 夫が共和党、妻が民主党支持という50代カップルに、リモート取材をしたところ、オバマ政権までは政治がらみの喧嘩はなかったが、トランプ政権になってからは喧嘩が絶えないという。妻が夫婦の“ある事件”について語ってくれた。

 「友人から大統領選の投票用紙が届いたという話を聞いたので、夫にどうしてウチにはまだ届いていないのと聞いたら、『選挙資格の確認のための告知の郵便物だと思って捨てたかもしれない』と言われました。確かめたところ本当に捨てていました。問いただすとただの勘違いではなく、本物の投票用紙だと知って捨てたとのことで驚きました。

 夫とは支持政党が違うので口論になることはありますが、まさか無断で捨てられるとは思いませんでした。これはトランプが郵便投票に猛反対しているせいだと気づき、余計に腹が立ちました。その後は5日間口を利かず、『これは犯罪だからね!』と糾弾し、また大喧嘩に。最後は謝ってきたので許しましたけど」

 2重投票などの不正を防止するため、再発行にはかなり面倒な手続きが必要となるが、再送してもらい、投票ボックスで投票したという。トランプ氏の発言がきっかけで、一方が共和党トランプ支持者で、もう一方が民主党バイデン支持者のカップルの場合、口喧嘩では収まらず、法を犯すほどの騒動も現実に起こっているのだ。

アメリカ女性政治センター(CAWP)がまとめている10月3週目までの男女別の支持率の追跡データを見ると、トランプ氏、バイデン氏のそれぞれの男性の支持率はほぼ拮抗しており、週によってはトランプ氏の方が支持率が高い週も見られる。しかし、女性の支持率では圧倒的にバイデン氏支持が多く、その差がそのまま現在の両者の差となっていることがわかる。

 すでに多くの州で大統領選の郵便投票や期限前投票が始まっているが、今年は新型コロナウイルスの感染防止のため、会場での投票を避ける傾向にある。例年なら当日、会場でタッチパネルやマークシート方式による投票が可能だったのだが、今年は希望者だけではなく、全有権者に投票用紙が送られている州もある。

 また、タッチパネルでの期限前投票を実施している州では、ソーシャルディスタンスの奨励や、機械の除菌が不可欠になっている。

■候補者はカニエ・ウェスト氏ら含め36人

 日本ではほとんど報道されないが、大統領候補は2人だけではない。大統領選は政党に投票する意味合いが強いため、2大政党の候補者ばかりが目立つが、今年は全米で計36人が正式に認証されている。

 各州で候補者になるための基準が違うので、全州で認められているのは、トランプ氏とバイデン氏の2人、リバタリアン党のジョーゲンセン氏とグリーン党のホーキンス氏のみだが、アメリカでも日本のようにさまざまな政党が存在する。

 ちなみに有名ヒップ・ホップ・アーティストで、音楽プロデューサーでもあるカニエ・ウェスト氏は12の州で正式な候補者になっている。彼の政党名は「バースデー(誕生日)党」。自身が当選する日を新しい国の誕生日として祝いたいという理由からだ。

 また、多くの州で(全米41州とワシントンD.C.)候補者以外の名前を書くことが認められているが(Write-inとある)、そのうち33州とD.Cでは、Write-in候補者として登録された名前以外は記入が認められていない。自分自身の名前など、誰の名前でも書けるのは、ニュージャージー州を含む7州だけである。

 投票項目も大統領選挙だけではなく多岐にわたっている。州によって異なるが、ニュージャージー州のある町では、大統領選挙以外にも「上院議員、下院議員の改選」「嗜好用大麻の合法化の賛否」「市長選挙」「学区の教育委員会の選挙」「退役軍人の土地の減税の賛否」など、多岐にわたっての投票項目がある。

 投票後は郵便局で仕分け機の出番となるのだが、最新の機械は封筒やはがきの表面にある切手や宛先を画像で確認するほか、コンピューターがデータベースの住所と照合し、自動的に高速で仕分けることができる。

■期限内に投票用紙の集計が終わらない可能性も

 今回の大統領選ではあらかじめ新型コロナの影響で、郵便投票の数がかなり多くなることが予想されたが、6月に郵政公社のトップになったルイス・ディジョイ総裁は、経費削減の一環という名目で雇用者を減らし、全米各地にある仕分け機械の数を大幅に削減する指示を出したのだ。そのため配達の遅滞がすでに起こっている。

 トランプ大統領は投票権の無い人が票を入れたり、郵便物が廃棄されたりして不正を招く危険があるという理由で、郵便投票の拡大には反対してきたが、本当の理由は低所得者やヒスパニック系の浮動票がバイデン氏に流れることを恐れているためだと言われる。また、アメリカの郵政公社は慢性的な赤字で、ネット通販の影響で小包の量は増えているが、封書やはがきの量は減っているという背景もある。

 「ルイス・ディジョイ総裁はトランプ大統領に近く、共和党の大口献金者でもあります。ディジョイ総裁は疑惑を否定していますが、民主党や組合などからは、トランプ大統領に忖度をしたのではないかとの疑いがかけられ、疑惑は晴れていません。また11月に入ると、クリスマス商戦もスタートするため、期限内に投票用紙の集計が終わらないのではないかということも危惧されています」(現地ジャーナリスト)

 一方、反トランプで民主党支持の有名人は、自らの名前のEメールやSNSでバイデン支持のメッセージを送り、支持を求めている。

 シンガー・ソングライターのテイラー・スウィフトがSNSで「トランプを大統領から落とす」とツイート、バイデン支持者なのは有名だが、俳優ではロバート・レッドフォード、ダスティ・ホフマン、ジョージ・クルーニー、アーティストではバーブラ・ストライサンド、キャロル・キング、シェリル・クロウなどが、民主党支持の献金者に直筆のサインが入った手紙やEメールを送って支援を求めているのだ。

 日本ではスポーツ選手や俳優、アーティストが政治的な発言をすると「歌手は歌だけ歌ってろ」、「アスリートなんだから試合に専念しろ」と言われ、スポンサーを気遣って発言を控えざるをえないのが現状だ。しかし、アメリカではアーティストやアスリートが堂々と支持者や支持政党に対する意見を主張する。

■分断を深めた選挙の行く末は

 「今回は下院議員の435の全席の改選と上院議員の3分の1も選挙となりますが、現在の上院議員の割合は共和党53名、民主党47名(内2名は『インデペンダント』といって正式な党員ではない)なので、拮抗している選挙地では州を越えて献金する人も多いのです。それぞれの党の議員の数でアメリカの政治方針が決まってしまうことが多いので、自分の州や地区以外の選挙戦も人ごとでは済まないのです」(現地ジャーナリスト)

 どちらが勝っても、すんなりと新大統領誕生とはならないだろうとの予測が多くを占めており、選挙後の暴動などの不安も隠せない。選挙が間近に迫った現在、両者の戦いは夫婦仲も引き裂き、国を分断するほどの大きな戦いになっているのが現状だ。

 はたしてどちらが声高に勝利宣言を行い、どちらが潔く敗北宣言をするのか、アメリカ国民はその瞬間まで緊迫した日々を送ることになるだろう。

東洋経済オンライン

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最終更新:11/2(月) 16:51

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