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田舎扱いされたくない、茨城のご当地鉄道事情

10/31 8:11 配信

東洋経済オンライン

 都道府県別の魅力度ランキングで茨城県が8年ぶりに最下位を脱出したらしい。一気に4県を抜き去って飛躍の42位。喜ばしいはずが「最下位であることが1つのステイタス」になっていたとかで、うれしいような寂しいような感覚なのだという。中途半端にランキング下位にいるよりも最下位のほうが“引き”があるということか。代わって最下位に沈んだのがお隣の栃木県だったりするから、いろいろとややこしい感情が湧き上がっているのかもしれない。

■全国屈指の自動車県

 そこで今回のテーマは茨城県の鉄道事情である。魅力がないと田舎扱いされる茨城県、100世帯あたりの乗用車保有台数は159.6台で全国6位(2018年度、『データでみる県勢 2020年版』より)。この順位も中途半端といえば中途半端だが、同じ北関東の群馬・栃木とともに全国屈指の自動車県だ。そうした地域において、鉄道はどのような位置づけなのだろうか。

 茨城県の鉄道を語るうえで、中心となるのは常磐線である。そもそも東京から茨城県に入るためにはだいたいの場合において常磐線に乗らねばならぬ。茨城突入の前には松戸や柏という“チバラキ”を経由、取手駅からが茨城県内だ。そこから土浦、石岡、県都・水戸、日立や高萩と通って福島県へと抜けていく。

 常磐線は、かつて多くの優等列車が走っていた全国的に見ても重要度の高い路線で、歴史的な意義で言えば、茨城県北部から福島県にかけて広がっていた常磐炭田の石炭輸送を大きな役割としていたこともある。

 常磐炭田の石炭は首都圏の発展に大いに貢献したから、常磐線はいわば首都圏発展の礎となった鉄路といってもいい。いずれにしてもそれくらいの重要路線である。

 今も常磐線には2種の特急が走っている。「ときわ」と「ひたち」で、いずれも多くが上野東京ラインに乗り入れて品川発着。「ときわ」はおおよそ勝田駅発着で茨城県内止まり、「ひたち」は福島県内のいわき、さらには一部が仙台まで走破する。

 言葉の意味ではときわ(常磐)とは常陸国と磐城国の合成地名でつまりは茨城県と福島県東部全体を指す。ひたち(常陸)は旧常陸国、茨城県のことだ。つまり、本来の言葉の意味と列車名がまるで正反対。どうしてこうなったのかはよくわからない、おかげでだいぶまぎらわしい。「ときわ」では福島県のいわきまでは行けないので、ご注意を。

 常磐線の特急は現在残っている国内の在来線特急の中ではかなり運転本数が多い部類だ。日立製作所の企業城下町である日立などへのビジネス需要に応えてのことだろうか。さらにこの特急はホームライナー的な役割も持っており、東京通勤圏内を茨城県南部まで広げるのに大いに貢献してきた。やはり、茨城県の鉄道は常磐線を中心に巡っているのだ。

■茨城が誇る私鉄

 茨城県の地図にこの常磐線をまず線で引く。しかし思いのほか茨城県は広いもので、鉄道空白地帯がずいぶんとできてしまう。ただし、わが国の鉄道網は都心に近づけば近づくほどに充実するようになっている。だから茨城県の中でも東京に近い南部には、他にもいくつもの鉄道が通っている。そのひとつが、関東鉄道常総線だ。

 関東鉄道常総線はその名からもわかるとおり茨城県が全国に誇る私鉄の1つ。取手駅を起点にまっすぐ北に伸び、守谷・水海道・下妻などを経て下館へ。すぐ西には鬼怒川が流れ、東側には筑波山を見る。水海道以南は都心への通勤の役割を担っており、運転本数もお客の数も比較的多い路線だ。だから取手―水海道間は複線なのだが、電化は未達でディーゼルカーの走る非電化路線。

 これは、近隣の石岡に気象庁地磁気観測所があるから。都心の鉄道で一般的な直流電化方式ではどうしても地磁気の観測に影響を与えてしまう。そのため、常磐線は取手から先で交流電化になっているし、関東鉄道は“非電化複線”という方式を選択しているのだ。結果、関東鉄道常総線は首都圏で最も東京に近い非電化路線、汽車が走る路線の1つになっている。

 こうしたわけで非電化ながらも通勤路線としての顔を持つ関東鉄道常総線だが、水海道以北は田園地帯の中を走るばかりのローカル線の趣が強くなる。終点の下館駅にはJR水戸線のほか、蒸気機関車の「SLもおか」で知られる真岡鐵道が乗り入れる。真岡鐵道はもともと国鉄真岡線だったところが赤字によって第三セクター化された。この経緯からも、関東鉄道常総線の終点側のひなびた雰囲気が想像できるところだろう。

 また水戸線は、栃木県の小山駅からほぼ真っすぐ東に走って友部駅で常磐線と接続する。小山駅以外のすべての駅が茨城県内にある、いわば生粋の“茨城の鉄道”。

 県中央部の交通の軸で通勤時間帯には常磐線に乗り入れて水戸・勝田発着の列車もある。交直流電車のE531系が活躍し、小山駅で接続する両毛線とあわせて北関東横断線の一部までを構成しているのだ。……と、こういえばかなり立派に感じられるが、実際には友部・水戸に近づくまではローカル色が圧倒的に強い。

 茨城県内のローカル線といえば、この水戸線や関東鉄道常総線の水海道以北などをはるかに凌駕するローカル線がある。それは、水戸から内陸部を通って北に走り、福島県の郡山を目指すJR水郡線だ。地磁気観測も関係なく最初からの非電化路線で、奥久慈清流ラインという名の通り久慈川沿いを走る区間も多い。途中の名所は袋田の滝。昨年の台風19号で被災してしまい、現在も袋田―常陸大子間で運転を見合わせている。

■三セクローカル線の双璧

 JR以外のローカル線では第三セクターの鹿島臨海鉄道大洗鹿島線とひたちなか海浜鉄道が双璧。前者は水戸を起点に太平洋側を走って大洗や鉾田を経由、鹿島アントラーズの本拠地である鹿嶋市を目指す。アニメ『ガールズ&パンツァー』でも注目された観光路線でもある。

 終点の鹿島サッカースタジアム駅はサッカーの試合当日以外は営業しない臨時駅で、JR鹿島線の鹿島神宮駅が事実上の終点。で、鹿島線に引き継いで乗ると河口近くの利根川を渡って千葉県へ。中間にあるのはあやめ祭りでおなじみの潮来だ。

 もう1つのひたちなか海浜鉄道は、勝田―阿字ヶ浦間の14.3kmを結んでおり、全線全駅がひたちなか市内の小さな路線。もともとは茨城交通が営業する鉄路だったところ、廃止の危機を第三セクター化することで生きながらえた。

 三セク転換後は地道な営業活動や最終列車繰り下げなどの利便性向上策が功を奏し、今では夢の延伸計画の実現が視野に。終点のさらに先にはネモフィラやコキアの花が咲き乱れるひたち海浜公園があることも、このローカル線の存在感を増す助けになっている。

 こうした県内の路線はいずれも“常磐線接続”によって力を得ているといっていい。圧倒的な重要路線で東京につながる常磐線は、県内鉄道網のまさしく幹そのもの。多少の遠回りがあっても常磐線に接続することでお客がやってくる。常磐線とうまく接続したダイヤを組むことでお客の満足度も高まる。多少なりとも常磐線が遅延したらこちらも合わせて列車を待つ。とにかく、茨城県の鉄道網は“常磐線に始まり常磐線に終わる”のだ……。

 ところが、そんな茨城県の鉄道事情、すでに過去のものになってしまった。というのも、2005年に開通したつくばエクスプレスが県南部の鉄道事情を一変させたのだ。それまで、茨城県の人々が東京都心に出ようと思ったら常磐線一択だった。水戸線で小山に出てそこからJR宇都宮線(東北本線)に乗ってもいいし、鹿島線から成田線に乗り継ぐこともできる。だが、大半は常磐線を目指す。それが茨城県の鉄道だった。

 しかし、つくばエクスプレスは自ら一直線に東京に向かってひた走る。筑波山塊の南に広がる学園都市・つくばと東京を結ぶことを目的に開通したこの路線は、常磐線と関東鉄道常総線に挟まれた交通空白地を埋め、沿線をベッドタウン化することに貢献した。

 そして途中の守谷駅で関東鉄道常総線と接続。おかげで関東鉄道沿線の人たちは、常磐線ではなくつくばエクスプレスで都心に出ることができるようになったのだ。これは千葉県内に入ってもそうで、東武野田線や流鉄のあり方を変容させた。

■鉄道の魅力度はかなり高い

 つくばエクスプレスの利用者数は右肩上り、沿線住民も増加しており、茨城県の鉄道の主役の座を常磐線から奪いつつあるといっていい。茨城県にとって、つくばエクスプレスは待望の「第二の都心直結路線」なのだ。

 これで一通り、茨城県の鉄道の旅を終える。まとめてみれば、歴史も格式も立派な常磐線が太い幹として君臨し、個性豊かなJRのローカル線や第三セクター、私鉄が獅子奮迅。そうした中、21世紀にやってきた新参者のつくばエクスプレスが急成長して地図を書き換えようとしている……と、なんともドラマチックな鉄道事情を抱えているのである。

 日立電鉄や茨城交通、鹿島鉄道などの廃線も県内各所に点在する。最下位だったり42位だったり、“魅力なし県”扱いの茨城県だが鉄道においてはまったく違う。1つ足りないのは新幹線がないことくらい。そういえば東北新幹線はほんのわずかに茨城県をかすめている。そこに駅ができれば、茨城の鉄道は完全体になれるのだ。

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最終更新:11/5(木) 0:21

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