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南アジアでフリーランスがじわり増えている訳

10/31 9:11 配信

東洋経済オンライン

デジタル技術の進化は、新興国・途上国の姿を劇的に変えつつあります。そんな中、インド、バングラデシュといった南アジアの国と地域では、プラットフォームを活用した、特定の企業に所属しない、フリーランス経済が広がっているようです。東京大学社会科学研究所准教授の伊藤亜聖氏の新著『デジタル化する新興国――先進国を超えるか、監視社会の到来か』を一部抜粋・再構成し、背景事情を紐解きます。

 プラットフォームが介在することで、個人レベルで海外に仕事を発注できるようにもなってきた。こうしたプラットフォームの1つに、オーストラリア発の「フリーランサードットコム」がある。例えばデータ入力、ホームページの作成、翻訳、校正、そしてソフトウェア開発までが取り扱われている。

 具体的な流れを紹介しよう。まず英語で、委託したい業務の概要と予算、そして作業完了日を提示して投稿する。

 1つのプロジェクトに対して複数のフリーランサーから受託の提案(オファー)がくる。筆者が2019年に投稿したデータ入力作業のときには、約1時間で30人以上から受託提案があった。

 候補者のリストは、プラットフォーム側が提示価格と過去の評価を総合したうえで、順位づけされた形で表示される。

 そして候補者とは即座にチャットでやりとりが可能となり、実際の作業について詳細を提示し、過去に類似プロジェクトを経験したことがあるかを確認できる。

■グーグルのサービスが常識的なインフラに

 日本にも類似のサービスはあるが、「フリーランサードットコム」には世界中のフリーランサーが登録している。筆者のプロジェクトには、とくにバングラデシュやインドなどの南アジアのフリーランサーが多く応募してくれた。何人かとチャットをするなかで、気が付いたことがあった。

 それはグーグルが提供するオンラインのクラウド文書作成サービスである「グーグル・ドキュメント」や「グーグル・スプレッドシート」が彼らにとっては常識的なインフラとなっていることである。

 グーグル・ドキュメントは、オンライン上で文書を作成でき、複数のユーザーが1つのファイルを閲覧したり修正したりできるものだ。グーグル・スプレッドシートは、その表計算版である。わかりやすくいえば、マイクロソフトのワードとエクセルが、オンライン上にあり、同時に複数のユーザーが手を入れられる、といった具合だ。

 例えばデータ入力の業務の場合、発注側としては、意図した通りのデータが作成できているか、早い段階で確認したい。そのサンプルを見せてもらう際には、グーグル・スプレッドシートのURLをチャットで共有すればよい。

 これで彼または彼女が行っている作業をリアルタイムで確認しながら、「いや、入力の仕方が違う」であるとか、「それはX列目に入力してほしい」といったやりとりができる。こうした確認をしたうえで、実際に特定のフリーランサーに仕事を発注するわけだ。

 フリーランサーへの発注の際にも、約束した金額がすぐに送金されてしまうと、「送金したのに作業してくれない」という問題が発生しかねない。受託する側からすれば、「作業したのに送金されない」という心配もある。

■不当な業務要求には評価を下げられる

 そこで、まずフリーランサーへの業務内容を通知し、作業締め切りと支払い金額を示したうえで提示(オファー)する。フリーランサー側が受託すれば実際に作業開始である。

 そして依頼された作業が完了したときに、発注主が「依頼業務完了、支払い」を選択することで、プラットフォーム側に保管されていた金額がフリーランサーに送金される。プラットフォームはここで仲介手数料を徴収するのだ。

 この過程で、フリーランサーは発注側を、発注側はフリーランサーをお互いに評価する。フリーランサーは当然高い評価を得なければやがて業務が受注できなくなるために努力するし、発注側も不当な業務要求をした場合には評価を下げられる。「ブラック」な発注者だと特定されれば、業務を発注できなくなるのである。

 オックスフォード大学インターネット研究所は、主要なフリーランサー向けプラットフォームから情報を収集し、その結果、プロジェクトへの応募状況から見てフリーランサーの数が最も多いのは南アジアである。

 図表には、2017年6月から2019年7月までの2年余りの間にプロジェクトに対して応募された総数を示している。

 インドからは約3900万件、バングラデシュからは約2800万件の応募があった。とくにインド、バングラデシュ、パキスタンといった国々のエンジニア、そして主婦も英語能力やその他の技能を活かしてフリーランサーとして活動している。

■個人間のリスクをコントロールできる時代に

 このデータは、英語のフリーランスマッチングサービスの登録データをもとに集計されているため、英語話者が多い地域が上位に入っているが、それ以外の国々でも国内のマッチングサービスでの利用は増加している。

 トーマス・フリードマンは、『フラット化する世界』で国境を越えたサービス業務の委託が広がっていることに注目した(フリードマン、2006)。

 当時はアメリカの大企業が、インドの大手受託会社に委託する例がその典型であった。しかしこうした国境を越えた業務委託が、個人と個人の間で、なおかつリスクをコントロールしてやりとりできる時代に入っている。

 特定の法人企業に所属して業務を行い、月給をもらうことを現代社会の特徴の1つだと考えると、南アジアで広まっている特定企業に所属しないフリーランス経済は「ポストモダン」的である。

東洋経済オンライン

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最終更新:10/31(土) 9:11

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