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80年代映画「ベスト・キッド」続編が最強のワケ

10/31 11:11 配信

東洋経済オンライン

Netflix、Amazon プライム・ビデオ、Huluなど、気づけば世の中にあふれているネット動画配信サービス。時流に乗って利用してみたいけれど、「何を見たらいいかわからない」「配信のオリジナル番組は本当に面白いの?」という読者も多いのではないでしょうか。本記事ではそんな迷える読者のために、テレビ業界に詳しい長谷川朋子氏が「今見るべきネット動画」とその魅力を解説します。

■アメコミ原作ドラマを抑えトップを飾る空手道ヒーロー

 空手ブームに火をつけた80年代のヒット青春映画『ベスト・キッド』が今、中年の男心を焚きつける作品に生まれ変わって再び注目されています。タイトルは『コブラ会(原題:Cobra Kai )』。

 1984年の少年カラテ選手権大会から30年後の世界が描かれ、少年だったダニエル・ラルーソ―(ラルフ・マッチオ) と、かつての対戦相手ジョニー・ロレンス (ウィリアム・ザブカ)は人生後半戦の50代に。師匠のミヤギ(パット・モリタ)のように「センセイ!」と呼ばれる道を自ら作っていくストーリーが展開されています。

 『ベスト・キッド』のリブート版(続編)として、YouTube Red(現在の名称はYouTube プレミアム)に登場すると、アメリカの辛口映画レビューサイト「Rotten Tomatoes(ロッテン・トマト)」で肯定的なコメントを集めまくり、2018年のベストドラマに選ばれます。テレビ版アカデミー賞であるエミー賞ではノミネートを果たす実力派。

 さらに今年から配信先をNetflixに引っ越すと、配信直後の8月31日から9月6日までの週間ストリーミング番組ランキング(アメリカ・ニールセン調査)でトップを獲得。2位と3位のいずれもアメコミ原作の人気作『ルシファー』(Netflix)と『ザ・ボーイズ』(Amazonプライム・ビデオ)を大きく引き離し、1週間で21.7億分の視聴時間を記録したことがわかりました。

 空手道のヒーローが上回った理由には、映画版のダニエル役とジョニー役の2人の役者がそろって続投したことが大きく影響しています。

 80年代の当時をダニエルとジョニーが振り返るシーンで映画『ベスト・キッド』の映像が頻繁に流れるのですが、青年が中年になったビフォーアフターを見比べる興味以上に、本人だからこそ年輪を重ねたことに生々しさを感じるのです。

 「ぬぐいきれない悔しさ」や「いまだ残るライバル心メラメラ」の気持ちの込め方にも説得力が増します。だから「そうか、ダニエルは、ジョニーは、実はあんな気持ちでいたのか」「そんなサイドストーリーがあったのか」と感情移入を容易にさせ、人気を得ているのです。

 ドラマ版もソニー・ピクチャーズ・テレビジョンが製作を担ったことで、映画版のアーカイブ映像からミヤギ先生とダニエルの感動の未公開シーンまで盛り込まれています。往年のファンに向けたサービスショットとしてだけでなく、知らない世代には背景がぐっとつかみやすい。そんな効果を作り出していることにも感心です。

■負け犬ジョニーが「情け無用」の空手道場で再起を図る

 そもそも一般的にリブート版は往年のファンと同時に、新世代ファンの両層を獲得できることに大きなメリットがあります。ただし、往年のファンの期待を裏切らないものを作ることが必須条件。ハードルは必然的に上がります。これまで30年にわたって『ベスト・キッド』のリブート版などの企画が多方面で立ち上っていたようですが、今回の『コブラ会』以上に役者2人が納得できる脚本とタイミングはなかったとか。

 つまり、ダニエルとジョニーが50代になったことで成立するストーリーで、なおかつリブートでありながら新しい視点があるのが『コブラ会』なのです。

 その新しい視点とはダニエルだけでなく、ジョニーの視点も重視されたことを指します。昔ながらの「正義がダニエルで、悪がジョニー」という対立構造ではなく、「ジョニーが1984年の少年カラテ選手権大会の出来事をどのように見ていたのか」「なぜ悪の道の空手を選んだのか」など本質論で解き明かしていくのです。

 登場シーンのジョニーの負け犬っぷりは悲惨そのもの。そんな彼が再起をかける場所に選んだのが「情け無用」を掲げる空手道場「コブラ会」でした。理由を知れば知るほど、応援したくなり、彼の償い方を見届けたいがために見進めていくことになるでしょう。

 一方、ダニエルは妻と二人三脚で、地元トップシェアの自動車販売会社の社長を務め、2人の子どもにも恵まれて家庭も充実の勝ち組人生を歩んでいます。

 唯一の悩みは、亡き師匠ミヤギの指導を受けられなくなって久しいこと。ミヤギに教え込まれた「バランスの取れた生活とは何だろう」と自問を繰り返すなか、ジョニーとの思いがけない再会によって、中年男の輝きを取り戻していく。そんなダニエル視点のストーリーも展開されていきます。

 新鮮味のある『ベスト・キッド』リブート版に成功したシーズン1と比べて、続くシーズン2の評価は正直なところ分かれます。ロングランのドラマシリーズを目指してか、視点が増えます。

 ダニエルの娘とジョニーの息子がよりフォーカスされ、映画『ベスト・キッド』にも出演した「コブラ会」の先生、ジョン・クリース役のマーティン・コーヴまで登場します。散漫気味の印象を受けますが、間延び感を拭うのが80年代のメタル、アリーナ・ロック曲の数々。ここぞという場面で流れ、シーズン2の完走を手助けする効果がありそうです。

■YouTubeが最強コンテンツを手放した理由

 YouTubeのイチオシ作品だった『コブラ会』が、Netflixに移籍しても再生回数を増やしていることも注目に値します。もともとNetflix、Amazon、Huluなどを含む複数のネット配信事業者の入札合戦を経て、YouTubeが勝ち取った経緯があるほど強力作品なのです。

 ではなぜYouTubeは手放したのか。その理由はYouTubeがオリジナルドラマ製作から撤退したことが要因です。ネット配信サービスのオリジナルコンテンツはNetflix、Amazonプライム・ビデオ、そして昨年ローンチした(日本での展開は今年から)Diversity +の3強が独走するなか、オリジナルコンテンツ戦略に苦戦していたYouTubeは年間数億ドルかけていた予算を見直し、方向転換せざるをえなかったというわけです。

 よって、Netflixが念願作品の『コブラ会』を手に入れることができたというのが事の経緯になります。再度Huluも手を挙げたことが報じられており、再び入札合戦が行われたようです。ティーンから中年までカバーでき、なおかつ腐りにくい最強コンテンツは加入のきっかけと継続加入につながる大きなメリットがあります。だから、各社共にこれぞというコンテンツがあったら、獲得に必死なのです。

 一方、コンテンツクリエーターにとっては移籍の理由が何であれ、『コブラ会』の継続が最も重要なことだったのかもしれません。脚本と製作総指揮は独立系の製作会社Counterbalance Entertainmentを通じて、ジョシュ・ヒールド、ジョン・ハーウィッツ、ヘイデン・シュロスバーグの3人のクリエーターが担当しています。彼らが少年だった頃に出会い、憧れた『ベスト・キッド』の世界をいつか新たな形で実現したいという思いを数十年にわたって温め続け、夢がかなった企画だけにシーズン2だけで終わりにしたくはなかったはずです。

 Netflixでの配信が始まると同時にシーズン3の製作が進められていることが発表され、その後、配信日も決定。2021年1月8日からNetflixオリジナルとして配信される予定です。ダニエルもジョニーも、そして演じる役者も作り手も、かつての少年たちの空手ヒーローの夢が続いていきます。

東洋経済オンライン

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最終更新:10/31(土) 11:11

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