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全国の京急「ウソ電」、知らぬ間にリアルに変貌

10/30 5:41 配信

東洋経済オンライン

 鉄道ファンの中には、車両の写真を画像編集ソフトなどによって架空のデザインに仕上げる「ウソ電」の作成に力を入れる人たちがいる。「赤い電車」で知られる京浜急行電鉄は、実際に全国各地のモノレールや路面電車で、自社のウソ電のようなラッピング車両を走らせている。

 2017年10月に大阪モノレールで運行開始してから3年。京急のウソ電は、南は沖縄都市モノレール「ゆいレール」から、北は北海道の北都交通が運行する空港連絡バスまで、複数の地方の主要都市に進出して存在感を徐々に増してきた。だが2020年に入って、そのデザインが変化したことに気づいている人は多くなさそうだ。

■京急線の利便性をアピール

 もともと京急になじみが薄い地方都市では、飛行機で東京に向かう場合「羽田に着いたらモノレールに乗って都心へ」というイメージを持つ人が多い。京急の全面ラッピング広告は、2018年11月に羽田空港国内線ターミナル駅(現在の羽田空港第1・第2ターミナル駅)が開業20周年を迎えるのを機に、自社線の空港線、とくに羽田空港―東京都心間の利便性をアピールする狙いがあった。

 そのため、出発地の空港にアクセスするモノレールや、羽田便の利用者が比較的多い都市の路面電車で展開。その数は大阪を皮切りに地方では那覇、鹿児島、熊本、長崎、高松、広島、札幌の8事業者に上る。首都圏でも多摩モノレールや都営バス、国際興業バスで羽田アクセスをPRする車両を走らせている。

 第1号の大阪モノレールこそ外観のインパクトに反して地味なデビューだったが、ゆいレールやことでん(高松琴平電気鉄道)では、それぞれ地元で出発式を開催して知名度向上を図った。ゆいレールの式典では京急の動力車操縦者養成所で教習を受けた運転士が、指導した京急元運転士と再会。ことでんでは、譲渡した元京急車両の「1000形」について両社の整備担当社員が語る、といった場面を用意して盛り上げた。

 2018年までに各地に登場した京急ラッピング車両は、2006年から“京急アンバサダー”を務めるお笑いコンビ「くりぃむしちゅー」の上田晋也さん、有田哲平さんの姿とともに「都心へビュン。京急!」の文字を車体にデザインしていた。だが、2020年の春、世間が新型コロナウイルスという未知の脅威に気を取られている間に、いずれも少し異なるデザインに衣替えした。

■担当者「本物のウソ電らしく」

 同社は2019年7月に「KEIKYU for YOU」をコンセプトにした新たな広告キャンペーンを開始。女優の黒島結菜さんを起用して三浦半島の魅力を発信するテレビCMの放映を始めた。同年10月1日には消費増税に伴う運賃改定に合わせて、空港線の天空橋―羽田空港国内線ターミナル駅間と、ほかの区間をまたがって乗車する場合に設定していた加算運賃を引き下げた。品川駅まではきっぷの場合、従来の410円から300円へ110円安くなった。

 これらを反映して、2020年2~3月に全国各地のラッピング車両を「KEIKYU for YOU」のデザインに順次リニューアルした。車体に女子受けもしそうな手書き風の書体で「京急なら、都心へお得でスピーディー。」「羽田へまっすぐ for YOU」と書き入れ、羽田空港―品川間が最速11分、300円で乗車できることを強調した。

 同社営業企画課の担当者、大場優樹さんは「当社の電車の色に近くなるように変え、より『本物のウソ電』にしたかった」と説明する。そのうえで「地方に住む人が東京に来たときに『家の近くでも走っている赤い電車だ』と思って京急を利用してもらえれば願ったり叶ったりだ」と話す。

 ラッピング車両は走る地域によって条例などの制限があるため、色合いやデザインは少しずつ異なっているが、リニューアルに伴いやや明るい印象だった車体色を修正、クリーム色をした窓周りの帯の形状なども本物により近づけたという。が、一見するとキャッチコピーやくりぃむしちゅーの2人以外はどこが変更になったか、わからないほどの細かなこだわりだ。

 また最初から新デザインでデビューした熊本市電の場合は、他地域の路面電車とは違い、前面中央に大きな前照灯が陣取る古いタイプの車両。このため、本来の前照灯をヘッドマークに見立てられるよう工夫をし、逆にダミーの前照灯を窓の上にオレンジ色でなんとか2つ配置した。

 大場さんは「SNS上で『熊本でも京急が走った』と話題になったときはうれしかった」と振り返る。熊本市はくりぃむしちゅーの2人の出身地でもあり、地元の人たちの思い入れも強いようだ。

■転機となるはずが…

 2020年は京急だけでなく、ライバルの東京モノレールにとっても大きな転機の年となるはずだった。東京五輪の開催を控えて航空需要が大幅に拡大することを見据え、羽田空港はターミナルを再編。3つのターミナルのうち、主に全日本空輸(ANA)が国内線の拠点とする第2ターミナルからも国際線が発着できるように機能を強化した。

 再編にともなって3月14日、国際線ターミナルが「第3ターミナル」に改称。東京モノレールと京急の駅名も同時に変更した。東京モノレールは羽田空港第1ビル、同第2ビル、同国際線ビルの3駅を、それぞれ羽田空港第1~第3ターミナル駅へ改名。京急の羽田空港国際線ターミナル駅は「羽田空港第3ターミナル駅」に、羽田空港国内線ターミナル駅は「羽田空港第1・第2ターミナル駅」へ名称が変わった。

 ところが同じ頃、新型コロナの感染拡大が深刻化。海外の主要都市と結ぶ国際線は渡航制限や運航休止の影響がすでに出ていた。国内線もテーマパークの休園や出張の見合わせで利用者減の傾向にあったが、4月以降は緊急事態宣言の発出、県境を越えた移動自粛要請などにより、ビジネス・レジャー両面の需要が急速に縮小した。

 航空旅客の急減は京急の空港線を直撃。同社の月次営業成績によると、羽田空港第1・第2ターミナル駅の輸送人員は2020年1月まで300万人を超えることがあったにもかかわらず、5月には前年同月比75%減の74万人まで落ち込んだ。月90万人台で推移していた第3ターミナル駅も、5月には80%減の18万人を記録している。

■厳しい状況が続く空港駅

 京急線全体の通勤・通学利用は6月以降持ち直しの動きが見られたものの、空港2駅は厳しい状況が継続。同社が8月7日に発表した2020年4~6月期の連結決算で、鉄道事業の営業損益は55億円の赤字(前年同期は47億円の黒字)に陥った。

 空港線の車内や都内のホテルからは、大きなスーツケースを携えた外国人観光客の姿が消えた。羽田空港を利用する日本人の海外旅行者も当面の間、回復が見込めそうにない。半面、注目が高まっているのが国内旅行だ。

 なにかと話題の「GoToトラベルキャンペーン」などを追い風に、国内線には旅客が戻ってきている。東京発着の旅行が割引対象になって1カ月。多くの地方からの旅行者が地元を走るラッピング車両をきっかけに京急空港線に親しみを感じて利用するようになれば、3年前から各地で種をまいてきた努力が実を結ぶことになりそうだ。

東洋経済オンライン

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最終更新:11/5(木) 0:21

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