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森山裕「菅首相の特長は辛抱強く進めることだ」

10/30 6:11 配信

東洋経済オンライン

 自民党国会対策委員長として歴代最長の連続在職日数となった森山裕氏。野党と信頼関係を築き、安定した国会運営に定評があり、菅義偉首相を誕生させたキーマンの1人と目されている。その森山氏に菅政権誕生の舞台裏や評価、今後の展望などについて聞いた。

■一度は自民党を離れた身だったが

 塩田潮(以下、塩田):安倍晋三前首相が突然、辞意を表明したのは8月28日でした。

 森山裕・自民党国会対策委員長(以下、森山):夢にも思っていませんでした。あのころ、体調は回復されているように思いました。28日の閣議で「引き続き頑張る」と言っていただけると思っていました。前日の27日の夜中に、「そうでもないのでは」という話も入ってきましたが、まさかそんなことないだろうと思っていたんです。

 28日、閣議の後、安倍総理は菅義偉官房長官を呼んで辞意を表明され(肩書はいずれも当時)、大騒ぎになった。昼の12時すぎ、党本部に入り、二階俊博幹事長とお会いになられ、私も党本部におりましたので、その後、お目にかかってお話をお伺いしました。本当に総理として苦渋の選択をされ、責任の重さをしっかり受け止めて決断されたんだなと思いました。

 塩田:もともと安倍前首相とは、何がきっかけで、どんな交流を。

 森山:私は2005年の小泉純一郎内閣時代の郵政民営化問題で一度、自民党を離れましたが、次の第1次安倍内閣のとき、安倍総理の英断で党に戻していただいた。あのとき、離党組の復党で、内閣支持率が7ポイントくらい落ち、大変、迷惑をかけた。ですが、復党してみんなで党本部でお目にかかったとき、安倍総理からのお言葉は「お帰りなさい」でした。本当にお世話になった。政治家としての懐の深さを学んだ。

 塩田:今年の8月28日の辞意表明の後、9月14日の自民党総裁選で、菅・現首相が岸田文雄前政調会長と石破茂元幹事長を破り、菅内閣が誕生しました。森山さんは辞意表明の翌日に二階俊博幹事長、林幹雄幹事長代理とともに菅さんと会談し、そこで総裁選への菅擁立が決まったと報じられました。

 森山:私は国対委員長ですから、いつ臨時国会を開くか、その課題に取り組まなければなりませんが、自民党で総裁決定の手続きがいつ終わるかが決まらないと、次の国会の日程は定まらない。それで8月29日の土曜日、赤坂1丁目のANAインターコンチネンタルホテル東京の中の寿司屋で、私と二階幹事長と林幹事長代理と3人で話をしました。そこに菅官房長官もいたという報道もありましたが、それは間違いです。

 国会日程のこともあるので、3人で話し合う前に、私は菅さんに一言、「今日、6時から二階さん、林さんと3人で日程などについて協議します」と申し上げた。そのとき、菅さんから「8時ころには議員宿舎に帰るので、お会いできませんか」という話があった。菅さんの政治姿勢から見て、安倍総理が辞任の話をする前には、そんなことは絶対に言わない方だと私はわかっていましたので、これは大事なお話があるかもしれないと思いました。

 私は「二階幹事長も一緒ですが、どうしましょうか」と申し上げたら、菅さんは「できたら幹事長も一緒に4人で」ということでした。人目につかないところでということで、「衆議院赤坂議員宿舎内の応接室で8時から」という話になりました。

 4人の話で、菅さんが「安倍政治を継承していくという意味から、総裁選に頑張ってみたいと思う」という話をされた。二階さんが「それはいちばんよいことだな」と言われた。私も「安倍政治の継承を考えても、あなたが頑張ってくださるのがいちばん」と述べました。

 二階さんは「自分のムラは、しっかりまとめていかなければ」という話を、同じ派の林さんにされていました。私は石原派です。数は少ないんですが、「石原伸晃会長とよく話をして、石原派をまとめなければいけませんね」と申しました。

■二階幹事長が察した菅氏の真意

 塩田:この場面での話し合いは、なぜこの4人の顔ぶれに。

 森山:実は前哨戦があり、通常国会閉会の翌日の6月18日に、同じ4人で、東麻布の高級中華料理店に集まって話をしました。林さんが電話か何かで部屋を外していたとき、二階さんが菅さんと私の前で「ポスト安倍は安倍だと私は思っている」と口にされ、菅さんに「あなたもそう思っているだろう」と言われた。菅さんの答えは「そうです」という話でした。

 二階さんは「しかし、安倍さんが来年9月にもし総裁選に出ないと言ったときは、あなたも少し考えておかなきゃいかんよ」という意味の話を菅さんにされた。菅さんは、にこっと笑われただけで、直接のコメントはありませんでしたが、否定はされなかった。

 菅さんが先に席を立った後、二階さんが私に「あれ、大丈夫だな」「まんざらでもないような感じだったな」と言われた。そのときが来たら、決意してくれるかもしれないな、と二階さんは直感されたと思います。でも、それは来年9月の話で、そのときには菅さんは総裁選に出ると二階さんは思われたのでしょう。

 塩田:森山さんは、安倍前首相の健康状態の異変に気づいたのは、どのへんからですか。

 森山:つらそうだなと思ったのは、お盆の前後からですね。少しおやせになられたなと。

 塩田:菅さんは安倍さんの異変に気づいていたのでしょうか。

 森山:辞任は予想されていなかったみたいです。8月28日、閣議が終わって、党本部で、初めてお聞きになったのではないでしょうか。

 塩田:総裁選では、党内の多数が菅支持に回りました。なぜこういう流れに。

 森山:菅総理の同期生の議員の人たちは本当に仲がいいですね。

 塩田:菅首相は現在の小選挙区・比例代表並立制が初めて実施された1996年の衆院選が初当選です。この1996年総選挙で一緒に初当選した同期組ですね。

 森山:そうです。お互いに助け合ってやっている。ほかの同期生にはあまりない文化ではないかと思います。各派閥にいる菅さんの同期生の人たちの思いが1つになり、各派の会長に影響を与えたのが大きかったと思いますね。菅さんは自民党で無所属・無派閥ですが、同じ無派閥で菅さんを慕っている人たちもかなりの数、おられます。それが短い時間でまとまった。

 塩田:「菅擁立の仕掛人は森山国対委員長」という見方もあります。自民党の中で、森山さんが菅擁立で動き、流れを作ったのでは。

 森山:いえいえ、それはまったくないです。国対委員長としていろいろな会議に陪席したのは事実ですが、私にはそんな力はありません。

■菅首相は「日本の地方をよく理解している」

 塩田:森山さんは鹿児島県生まれで、地元の夜間高校を卒業し、鹿児島でビジネスに成功して、鹿児島市議7期(議長を5期)、参議院議員を経て衆議院議員となりました。一方、菅首相は秋田県で生まれ、高校卒業後に単身で上京し、働きながら大学を出た後、衆議院議員秘書、横浜市議、衆議院議員という歩みです。地方出身で、たたき上げ人生を歩んだ非世襲政治家という点が共通していますが、菅首相を政治家としてどう評価していますか。

 森山:私は国対委員長4年目ですが、官房長官として、すべてのことで安倍総理に忠誠を誓っておられる姿をずっと見てきて、政治家として大成される方だなと思っていました。

 塩田:菅さんと何かの場面で一緒に仕事をした経験は。

 森山:それは特別ありませんでした。ただ、同じ地方議会の出身です。そういう意味で、総務大臣としてふるさと納税制度などで頑張っていただいた。本当に日本の地方をよく理解しておられます。高校まで秋田の田舎で過ごしたことが今の菅総理の人間形成に非常にプラスになっていると思います。生きてきた地域、そこで吸った空気が人間を形成していく。同じく地方で生まれ、育ちましたから、よくわかるような気がします。私もそれぞれの地方の発展は非常に大事だと思っています。

 塩田:これから菅内閣にどんな点を期待していますか。

 森山:当たり前のことですが、国民のためになる政治をしていく。この当たり前のことをしっかりやっていくことだと思います。世論に左右されることなく、やるべきことをやって積み上げていく。そのときに反対した人がいても、結果的に正しい政策だったと国民の皆さんにわかっていただけるような政治が大事です。

 塩田:菅首相は「安倍路線継承」と唱える一方、菅流と言ってもいい独自路線を明確に打ち出しています。経済政策では、安倍政権はアベノミクスを掲げてきましたが、「3本の矢」の「第3の矢」の成長路線は半ば看板倒れの感がします。

■菅首相は「本当にこつこつ確実にやってきた」

 森山:成長戦略については、菅さんはきちっとわかっています。規制改革を含めて、どう成長戦略を推し進めるか、考えておられるだろうと思います。

 例えば牛肉の輸出。これを伸ばそうということになっていますが、屠畜場の問題があった。これは国際的なルールがあり、農林水産省の予算で作るのですが、検査の権限は厚生労働省が持っている。省が違うと、国が違うぐらいややこしい。それで菅さんが官房長官のとき、厚労省が持っていた権限を農水省に移して農水省で一括してできるようにされた。

 もう1つ、水害のときのダム管理。全国のダムには、経済産業省が管理する発電用のダム、農水省は利水ダム、それと国土交通省の治水ダムがあり、それぞれ方向が違うから、水をどう放流させるか、非常に難しいんです。それを官房長官のときにちゃんとまとめてそれぞれの省庁と協議をしながら、国交省がやっていくことにされた。

 そういうことを1つひとつ積み上げていく。重要なことは、目線がどこにあるかです。国民のためにどういう選択をすべきか、そこに尽きると思うんです。菅さんの特長は辛抱強く進めていくところでしょう。本当にこつこつ確実にやってこられました。政治の場合、こつこつと進めていくのが到達は早いと菅さんはみておられると思います。

 塩田:森山さんから見て、菅さんと二階さんのコンビはどういうふうに見えますか。

 森山:「ポスト安倍を考えなさい」と言われたくらいですから、二階さんは菅さんを評価しておられると思いますよ。2人はあうんの呼吸で通じ合っておられるのではないでしょうか。

 塩田:幹事長・国対委員長という関係でお付き合いして、二階幹事長はどう映りますか。

 森山:私は幹事長の指揮下にありますが、とてつもなく大きな政治家ですね。国会対策や国会運営について何もおっしゃらない。じっと見ていて、任せていただいている。任せてもらったほうからすると、これは必死に応えなければいけないと思う。注文や指図はほとんどない。「それは委員長の考えでいい」とおっしゃる。

 塩田:安倍内閣時代、政府と自民党の関係は「首相官邸主導」「政高党低」と、よく言われました。実態もそのとおりでしたか。

 森山:決してそうではないと思います。よく連携していた。官邸主導と見えたかもしれませんが、菅さんと二階さんは、相互扶助の関係であられた。

 塩田:昨年から今年前半にかけて、安倍さんが岸田さんを後継者と見立てて、昨年9月の党役員人事では「岸田幹事長説」に傾き、そのときに菅さんが「二階幹事長留任」を強く主張して「岸田幹事長起用」に難色を示した、という解説が流れました。

 森山:それもいくらか人為的な話のような気もしますが。安倍総理は当時、党運営について二階幹事長に全幅の信頼を置いておられたと思う。そうでないと、上手に回らない。われわれは連立を組んでいますから、公明党ともしっかり連携をしていくことが大事です。

 塩田:菅内閣となって、自公関係に変化が生じる可能性は。

 森山:変わることはないでしょう。同じくしっかり自公連携でということだと思います。

■「派閥の関係にも気を配ることが大事」

 塩田:この先、菅内閣が気をつけるべき点は。

 森山:菅総理は非常に新しい形の総理です。第1に派閥に属していない。現実には派閥は自民党政治の中で一定の役割を果たしているのは間違いありません。各派に総理と個人的に非常に親しい方々や、先ほど申し上げた同期の方がいます。いろいろなつながりのある人たちが総理と派閥の関係にも気を配っていくことが大事ではないかと思います。

 塩田:菅首相は長期に官房長官を務め、内政面では実績が見えますが、外交・安全保障の面で少し不安があるのでは、という見方もあります。

 森山:それは違うと私は思います。官房長官のとき、政策決定には全部、携わってきています。外交は二元外交になるといけないので、総理中心という形が正しい方向だと思います。そこを外務省がどう支えていくか。ですが、私は心配ないと思っています。

 塩田:菅首相の自民党総裁任期は来年9月まで、衆議院議員の任期満了も来年10月です。向こう1年間に自民党総裁選、次期衆院選、1年延期となった夏季東京五輪があり、そのうえ、コロナは未終息です。4つの大きな壁を背負い、困難な政権運営が予想されます。

 森山:まず新型コロナウイルス感染症にしっかり対応することです。これはいい方向に進みつつあると思っています。ただ、経済がそうとう痛んでいるので、議論を重ね、来年度予算をしっかり作っておかないと大変なことになる。内閣支持率が高いから解散・総選挙をという話もないわけではありませんでしたが、菅総理はその選択はされませんでした。

 この先も、コロナ対策と経済対策をどうするか、真剣に取り組んでいくと思います。そうすることによって、次の道が開けてくる。まず臨時国会での所信表明演説と各会派からの質問への答弁で、菅政治とは何か、国民の皆さんにわかるようになると思います。

 臨時国会でいちばんの問題はコロナのワクチン対応の2つの法案です。これがないと、ワクチンを打つことも始めることもできないので、急いで成立させなければなりません。日英通商交渉が妥結したので、条約を成立させなければ来年1月からの関税に影響してくる。何としてもやらなければいけない。ほかに、公務員のボーナス給与の問題もあります。

 コロナ対策を含む本年度の第3次補正予算は、臨時国会は無理だと思います。毎年、次の通常国会が始まってからです。今度も1~2月の話だと思っています。

 塩田:次期衆院選について、解散権を握る菅首相の姿勢と方針をどうみていますか。

 森山:理論上、解散・総選挙は、議論して、野党の皆さんから解散の要求があり、そのことで信を問う必要があると総理が判断をされれば、いつ行われてもおかしくないということです。基本的には、菅総理には、いつ解散するとか、目標を定めて政権運営をしていくという気持ちはないと思います。政権を運営していて、信を問わなければいけないことが出たときは躊躇なくやるという政治スタイルだと思っています。

 塩田:コロナの感染状況が全国的に現在のようなレベルの状態で、全国を対象とした衆院選をやることができるかどうか。コロナと総選挙の関係をどうみていますか。

 森山:大丈夫だと思いますよ。私の地元の鹿児島県は、コロナの状況がいちばん厳しい時期に知事選挙をやりました。それぞれ地方自治体が選挙事務について卓越したものを持っていますから、総選挙は可能だと思います。

 塩田:もう1点、夏季東京五輪は来年7月に予定どおり開催できると思いますか。

 森山:予定どおりできるのではないでしょうか。開催できると思います。

 塩田:予定どおり来年7月の五輪開催という前提に立てば、解散・総選挙は結局、通常国会開幕後の来年1~2月か、五輪閉幕後の9~10月のどちらかしか選択肢はないのでは。

 森山:解散・総選挙は、総理の専権事項ですから、誰にもわかりません。

■議員の成り手がいない地方議会の課題

 塩田:政治家として、森山さんが、これだけは、と思っている挑戦テーマは何ですか。

 森山:われわれがあまり口を挟めないところがありますが、地方議会の出身者として、どうしたら地方議会を活性化できるか、それを考えています。町や村では議員に立候補する人がいなくて大変です。無投票が増えていて、ぎりぎりの段階です。

 市議でも町議でも、議員になれば、ずっと議員としての仕事をしなければいけませんが、議員の報酬だけでは、なかなか生活ができない。そういう現実があります。ここをどう考えるかが大事ではないかと私は思います。地方民主主義のいちばんの危機です。

 地方自治、地方分権といっても、いろいろな地方の現状がありますので、どういう政策と予算を向けるかは、もうちょっと仕組みから考えていく。その必要があるという気がしますね。

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最終更新:10/30(金) 6:11

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