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日本好きな米国の富裕層が国内旅行で得た視点

10/30 5:31 配信

東洋経済オンライン

 新型コロナの国を越えた感染を防ぐために、世界的な「鎖国」は依然として続いている。その結果、自国内での旅行を楽しむ人々が増えている。日本のインバウンド消費に貢献してきた、外国人富裕層も例外ではない。彼らの旅行に対する選択基準も変わってきている。

 アメリカのサンフランシスコに住む、弁護士のミッシェル(妻、仮名)と会計士のジェーソン(夫、仮名)は、日本旅行が大好きな40代の外国人富裕層だ。コロナ感染拡大以前は、年2回来日。年間で少なくとも200万円以上、日本で消費していたという(訪日アメリカ人の平均1人当たりの消費額は20万円/人程度)。

 夫妻は、秩序があることや、清潔感も保たれていること、そして礼儀正しい日本人の姿を見て、日本をすぐに気に入った。身長が小さなミッシェルにとっては、自分に合うサイズの服を見つけやすく、細部まで追求する丁寧な作りの服が多いため、日本は最高の観光地だと感じているという。

 夫妻はアメリカに帰国後も、日常の買い物を比較的高額な日系のスーパーで済ませ、親しい友人には日本への観光と買い物も勧めるほど、日本にハマったという。さらには日本語の勉強もしているそうだ。

■国内旅行を気に入った3つの理由

 日本に頻繁に旅行に行っていた夫妻は、アメリカの国内旅行にはそれほど関心を持っていなかった。だが、1月の台湾・日本旅行以来どこにも行けず、夏休みにどこかに行きたい気持ちが高まったため、アメリカの観光地をイチから調べ直し、結果的に居住地近くのナパバレーを3泊4日の旅行先として選んだ。その理由は次の3点だという。

 1つ目は、簡単に予約可能な、ミシュランで評価の高いレストランが付近にあったことだ。ミッシェルとジェーソン夫婦のいちばんの狙いは、ナパバレーエリアのミシュラン3つ星のレストランで食べまくることだった。

 ナパバレーのミシュラン3つ星のレストランは、コロナ以前だと、3カ月前からの予約も難しく、3日連続で予約をスムーズに取ることがほぼ不可能だった。しかし、レストランが再開すると、思ったより予約も簡単だったそうだ。そのため、旅行の夕食はぜんぶミシュラン3つ星のレストランを予約することができた。

 2つ目は、店や地域全体が徹底した安全対策を行い、サービス内容も積極的に発信している点だ。

 カリフォルニアのレストランやホテルは、予約の際、必ず安全対策のリンクを送ってくる。カリフォルニア州政府やCDCが策定したガイドラインに沿って、従業員のモニタリング、施設の消毒、テーブル設置の距離などがこまごま書かれており、実際に食事をする際に、さまざまな面で対応しているのがわかったため、夫妻は安心することができたという。

 また、コース料理と一緒に予約したワインのリストも事前に電子メールで送られてくるので、メニューに接触する感染リスクも減る。支払いも、予約するときに登録したカードで行い、レシートは紙ではなく電子版でもらうことができる。

 食事中は、店員はマスクと手袋はもちろん、記念写真でさえ、客のスマホを使わず、店員のスマホで撮ってエアドロップ(WiーFiなどを介したコンテンツ共有機能)してシェアをするそうだ。もちろん、客はテーブルにいるとき以外は必ずマスクを着用しなければならない。

■レストラン、宿泊先も感染対策を徹底

 宿泊先も同様だ。夫妻は国際的な高級チェーンに泊まったが、入り口のドアを触れるときに使うティッシュと消毒液も常備されていたという。またバレーパーキング(駐車を係員にまかせるサービス)がなくなったり、部屋の掃除回数を減らす、次の客が泊まるときには24~27時間空けた部屋を使う、室内ではHEPAフィルター(高性能エアフィルター)の空気清浄機を設置することが徹底されている。

 「ここまで対応してくれるなら、旅行に行ってもいいと思った。思ったよりすごくきちんと対応してくれたので、安心したし見直したわ」とミッシェルは口にする。

 さらに、夫妻は、街一体となって支え合う「イミ消費」にも感動したそうだ。イミ消費というのは、モノ・コト消費を超え、自分の消費行動によって世の中に役立つと思うことができる消費を指す。夫妻はナパバレーが、街一丸となって、万全を期して観光客を迎えようとしており、地域全体が支え合っていると感じたそうだ。

 例えば、安全対策では、高級なレストランや宿泊先だけではなく、普通のレストランやワイナリーでも同じように対策を徹底。厳格なソーシャルディスタンス、検温、(万一の場合の追跡のための)住所と連絡先の記入なども観光客に求めている。

 観光客も必ずマスクを着用するようにしているため、以前に比べると不便なところがあるが、新しい情勢において、現地の人も観光客も乗り越えようとしている「好循環」が生まれ、お互いに安心して過ごすことができる。

 さらに、ミシュランで評価が高いレストランなどは、地元の農場やパートナー企業を支えるための活動もしている。お手頃な価格のランチを提供することにより仕入れ量を増やしたり、SNSや店舗でも「Too Small to Fail(中小企業の助けをする法案)を支持する」などの発信により、政府と民間の関心を喚起したりしている。

 こうした「一体感」が生まれていることに、夫妻は心を動かされ、来年も行きたいと考えているようだ。

 以前の記事でアメリカでは赤の他人にも投資するエンジェル投資家が多い理由に、「奉仕」「助け合う」などの宗教上のバックグラウンドがあると分析したが、今回の富裕層夫婦の旅行にも、実は同様の理由があるとも考えられる。

■国や地域の取り組みを積極的に発信

 また、中国の富裕層でも、日本に来たくても来られない多くの富裕層が、ミッシェル夫妻と同様に国内旅行を楽しんでいる。それに伴い、中国国内の観光資源(高級感があり、さまざまなニーズに合うホテル、観光スポット)のレベルアップも急速に進んでいるようだ。

 各国で自国内での旅行が進む中、Withコロナ時代の日本の観光産業は、どうすればいいのか。観光に詳しい三菱総合研究所の観光立国実現支援チームリーダーの宮崎俊哉氏は「今こそ日本観光産業の新陳代謝のタイミングだ」と主張する。

 例えば、日本でも地域やサプライヤーを巻き込んだ対策と発信を強化する必要がある。星野リゾートグループが提案しているマイクロツーリズム(3密を避けながら近場で過ごす旅のスタイル)や、ホームページで自社施設内のコロナ対策を紹介している事例、コロナで困った農家や生産者の商品を個人向けに販売するサイトの事例はあるが、国や地域、そして業界全体の取り組み施策を発信している事例はまだまだ少ない。

 海外の富裕層も、今すぐ日本に行けると言われても、新型コロナの検査も対策も緩い日本への旅行を不安に思うであろう。以前取材した年収2億円の30代女性は、「もしかしたら今行くと、訪日外国人に対し不安感を抱く日本の人々も多いかと思う。いつまた楽しく行けるかは不安だ」と本音を漏らしていた。

 そこで、海外へ積極的に情報発信することも大事になってくる。「店から地域全体の取り組み」「イミ消費の促進」といった内容を、積極的に発信するのも重要だ。こうしたことの積み重ねにより、日本への旅行を希望する富裕層への情報ギャップを減らし、コロナ後のインバウンド観光をスムーズに再開することができる。

■経営難の旅館を買収する富裕層も

 今は観光産業の暗い時期だが、今後インバウンドが回復する兆しも見えている。インバウンドに詳しいクロスシーの執行役員の山本達郎氏は、日本に来られないが、経営難の旅館を手頃な価格で買収している富裕層もいると言う。

 今後の日本観光の回復と発展に備えたうえでの投資だとみられるが、地域全体の努力および積極的な情報発信に踏み出す価値があることを示す、1つの動きとも考えられるだろう。

東洋経済オンライン

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最終更新:10/30(金) 5:31

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