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「世界最低水準」続ける起業小国・日本のリアル

10/30 7:11 配信

東洋経済オンライン

アクセンチュア元会長兼CEOのウィリアム・D・グリーン、ペプシコの元会長のロジャー・エンリコ 、日本に目を向ければ、村田機械会長の村田純一、イオン社長の岡田元也、スパークス・グループ創業者の阿部修平、トヨタ自動車社長の豊田章男、佐藤製薬社長の佐藤誠一など――実に世界中の名だたる実業家や大富豪が学んだビジネススクール。それが、27年連続、起業家教育(MBA)で全米1位に輝き続けるバブソン大学だ(U.S. News & World Report)。

このバブソンで10年以上にわたって教鞭をとる日本人・山川恭弘准教授が、同校で教える起業道を、平易にまとめ、脚本家の大前智里とタッグを組んで執筆したのが、『全米ナンバーワンビジネススクールで教える起業家の思考と実践術』だ。ストーリー形式で、アントレプレナーシップが学べる本となっている。

同書では「失敗はラッキー。小さな失敗が成功を生む」とするDr. Failureなるメンターが登場するが、それは実際にバブソンで、「失敗博士」(Dr. Failure、Failure Guy)として、失敗を成功に導く「失敗学」を教える山川氏の姿を彷彿とさせる。本稿では、同書でも触れられている起業小国日本の失敗への恐怖心とその克服の仕方を解説していきたい。

■社会を変える「やる気」も「自信」もない日本人

 起業にまつわる日本のランキングを見る限り、日本は積極的に社会を変えていこうという起業家精神に乏しいようだ。

 【指標】  【日本の順位】
起業機会に対する認識 最下位
⇒ 世界一、起業のタネを探してない

 起業に対する自信 最下位 
⇒ 世界一、起業家になる自信がない

 起業失敗への恐怖 9番目 
⇒ 世界最高レベルに失敗を恐れる
(49の国・地域への調査による)

 上の順位は、「GEMレポート 2018-2019」に掲載されているものだ。GEMレポートとは、起業家教育で全米1位(U.S. News & World Report)の評価を受けるバブソン大学が中心になって作成している世界各国の起業活動に関する統計レポートだ。

 1番目の「起業機会に対する認識」とは、「仕事をしている間に、何か新しいビジネスのアイデアとなるものに気づきましたか?  探していますか?」という問いに対する指標。つまり、起業のチャンスに目が向いているかどうかを示す。日本はこれが49の国・地域の中で最下位である。

 なぜチャンスに目がいかないのか。

 その理由は、次の問いにある。「自分は起業するだけの器かどうか、自信がありますか?」この問いに対する指標が「起業に対する自信」だ。これも最下位。

 そして、3番目の指標「起業失敗への恐怖」は起業機会を見つけたにもかかわらず、失敗への恐怖を感じて起業を思いとどまる人の割合だ。これはロシアと並んで9番目に高い。最下位ではないので、前の2つの指標に比べてずいぶんよいと感じる人も多いかもしれない。上位3カ国、1位のモロッコ(64.2%)、2位のタイ(58.9%)、3位のギリシャ(57.8%)は飛び抜けて高く、それ以降の4位のイタリア(51.7%)から同率9位の日本・ロシア(46.4%)までは団子状態だ。約5ポイントの中に7カ国がひしめき合っている。つまり、ワーストグループだ。年によって変動があるものの、日本はこのワーストグループの常連だ。

 失敗を恐れ、自信ももてない、だから、起業の機会を探そうともしない。これが起業小国・日本の現実であろう。

 ちなみに、このGEMレポートには、国ごとの起業活動の活発さを示す、総合起業活動指標TEA(Total early-stage Entrepreneurial Activity)が掲載されている。日本は下から5番目とやはり世界最低水準にある。1999年の統計開始以来、日本の総合起業指数は先進国・発展途上国を含めた中で、最低水準であり続けている。この起業活動指数が低迷し続ける国というのは、イノベーションによる問題解決が起こらない、起こせない国ということにほかならない。

 仕事や日常生活で、「こうすればもっと便利になる」「こんな不条理はおかしいから変えよう」などという改善のタネを見つけようともしない。そうして自ら未来を変えていくことに自信もない。そのうえ、失敗するのも怖い。それでは、世界を変えようにも変えられない。

■「失敗を許さない社会」は、負のスパイラルを生む

 とくに筆者(山川)が、注目するのは、日本の「起業失敗に対する恐怖」の指標が継続的に高いことだ。日本は、失敗を恐れて起業を思い止まる傾向が強いのだ。

 「失敗はオーケー。だが、失敗を恐れることはノットオーケーだ。失敗は必然。大切なのはその失敗から学び、成功につなげていくことだ」と、筆者は「全米ナンバーワンビジネススクールが教える起業家の思考と実践術」でも、失敗博士に繰り返し言わせている。

 それでも、日本の失敗を恐れる文化は根深い。

 確かに、起業した場合は、どうしても失敗するリスクは高い。事業会社として新規登録した会社は、5年以内に、約50%の会社が登録抹消(吸収合併を含む)になると言われており、起業の世界ではこれを「5-50ルール」と呼んでいる。要するに、起業家一人ひとりが成功を目指しても、残念ながらその大半は失敗してしまうのだ。

 こうした事実に強い恐怖心を抱けば、終身雇用で社員としての地位が保障されている企業を辞めるまでして、起業する人は少なくなるのは仕方のないことかもしれない。給料や待遇のよい大企業なら、なおさらだ。

 企業の中でも同じ傾向がある。新規事業もやはり失敗するリスクは高く、失敗をすれば組織内でのキャリアが絶たれてしまう。そのような状況では、新規事業に挑戦する人はほとんどいなくなる。

 そのうえ、日本は、失敗に対して厳しい、失敗を容易に許さない社会ともいえる。

 失敗への恐怖心に打ち勝ったとしても、周囲の失敗への寛容度の低さとも対峙しなくてはならない。起業をしようと考えた日本人が頻繁に直面する3つのブロックがある。

親ブロック:子どもが起業すると言えば親が猛反対
嫁ブロック:夫が起業すると言えば嫁が猛反対(逆の「夫ブロックもあり」)
子ブロック:親(とくにシニア世代)が起業すると言えば子どもが猛反対
 起業した人ならば、どれかひとつは体験しているのではないだろうか。もし、どれも体験していなかったならば、とても幸運だ。日本では、自らの持つ失敗への恐怖心が高じて、人の失敗に対する寛容度も低くなっている。起業家を応援する投資家にすら、その傾向が見られる。

 日本の失敗に対する不寛容さを知る、よい例がある。

 起業家は、資金調達する際に、投資家から「過去にどんな失敗経験があるのか?」と質問を投げかけられることが多い。ここに日本とそれ以外では違いがある。

 アメリカにおいては、失敗経験は学習効果を期待されて、ポジティブに働くことが多いので、起業家は恥じることなく失敗経験について堂々と語る。逆に、失敗したことのない起業家は、ネガティブな印象をもたれてしまうくらいだ。

 一方、日本では失敗経験を語ると、「また失敗するのではないか」とネガティブなイメージが強くなり、2度目のチャンスが与えられにくくなる。起業には失敗がつきものなのに、失敗経験によって資金調達が困難になるというのであれば、この不寛容さは起業を阻害する以外のなにものでもない。

 失敗を許さない社会では、失敗を「恐れる」「責める」「隠す」だから「学べない」……だからますます失敗を「恐れる」。そうした負のスパイラルが生まれている。では、どうしたら、この負のスパイラルから抜け出せるのか。

■小さく失敗して大きな成功につなげていく

「起業に失敗はつきもの。だから失敗を恐れるな。とはいえ、なにもむやみに失敗をしろというのではない。まずは、自分にとっての失敗をあらかじめ定義することだ。なにをもって失敗とし、どこまでなら失敗しても大丈夫、という定義と許容範囲を明確にする。ある程度のミスはありきとして設定しておくということだ。それは使える資金の限度額だったり、費やせる時間だったり、信用だったりする。そうして自分にとって失敗がなにかを定義づけし、失敗を事前に予期し、認識することによって、リスクを支配することが大切だ」

 本書の中で、失敗博士が、失敗を警戒する登場人物たちに、こうした内容のアドバイスをするのに、筆者はカジノの例を挙げている。

 カジノへ行くことのリスクを、例えば「500ドル以上使ってしまう」「やめられなく、一晩中入り浸って依存してしまう」などと定義づけてみる。そして、そのリスクを支配するとは、カジノへは500ドルの現金のみを持参し、ここまでなら負けてもOKとすることだ。あるいは時間制限をかけて、3時間は自由に遊ぶが、それが過ぎたらすっぱりやめる、といったようにするのだ。そうしてリスクを管理することで、より安心して、ギャンブルを楽しめるようになる。

 決められた金額、あるいは決められた時間を使い切ったタイミングで振り返る。もう一度、ここに来たいか、もっと楽しむにはどうすればよかったか、何がうまくいかなかったのかを振り返り、そこから学び、次に生かすのだ。

 起業においても同様。とれないリスクはとらない。むしろとれるリスクを見極め、行動し、失敗から学ぶ。その繰り返しでリスクを掌握したうえで、前に進むのだ。そうして取りうる小さな失敗を積み重ねて大きな成功に結び付けていくことが大切だ。

 決して「失敗=悪(避けるもの)」ではない。

 かくいうバブソン大学でも、失敗を必然として歓迎し、そこからなにをどう実践的に学ぶかを重要視している。筆者も「Failure is Good(失敗はすばらしいもの)」 として、学生が「失敗から、何を、どれだけ学んだか」を重視して評価を与えるようにしている。すると学生たちは、失敗に遭遇してもそれをチャンスとして受け入れ、学び、さらに進んだ挑戦を繰り返せるようになる。そうした学生たちが卒業したのち、あらゆる業界のゲームチェンジャーとして、世界をよりよく変える活躍をしていることはもはや言うまでもない。

■起業三原則を実践し世界を変える

 起業というのはスナップショットではない。つねに変化するものだ。つねに挑戦し続けることが必要で、挑戦には失敗がつきもの。失敗を恐れていては何もできない。「究極の失敗は、失敗を恐れて行動しないこと」ともいえる。

 成功を保証する起業のバイブルなどないが、行動から得た知見をもって、何度も何度も修正を繰り返していくしか大きな成功に近づく道はない。

 バブソン大学の「世界を変える」起業道の基本も、自分がこうしたいという欲望(情熱)をもとに、「行動ありき」「失敗ありき」「人を巻き込む」の起業三原則をひたすら繰り返すことだ。

行動ありき
必要なものをリストアップする前に、今、現実にもっているもので始める。何事もやってみないとわからない。やってみないと何も学べない。

失敗ありき
失敗は必然。起業すればミスを犯すことは日常茶飯事。メンバーと失敗の定義や許容範囲を共有しておく(それ以上のリスクはとらない)。

人を巻き込む
さまざまな人(ステークホルダー)を巻き込む。課題やソリューションが大きければ大きいほど、ひとりでは実現できない。時には人に頼る強さをもつ。潮流を生む。

 この三原則に基づき、行動(試行錯誤)⇒学習(仮説検証)⇒改善(軌道修正)を反復演習する。そしてその過程をトコトン楽しむ。それが、世界を変える力、不安定な世の中を生き抜く力を培ってくれる。

 次回記事では、この起業の三原則について、解説していきたい。

東洋経済オンライン

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最終更新:10/30(金) 7:11

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