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「河井夫妻裁判」と「オウム裁判」の奇妙な共通点

10/29 5:31 配信

東洋経済オンライン

 昨年7月の参議院選挙をめぐり、大規模な買収で公職選挙法違反の罪に問われている参議院議員の河井案里被告(47)が10月27日に保釈された。

 夫で元法相の河井克行被告(57)と一緒に起訴され、今年8月25日の初公判では、2人が並んで法廷に立って無罪を主張していた。

 ところが、9月15日の公判が終了した直後に、弁護人を全員解任した克行被告の審理が止まってしまう。法定刑の上限が懲役もしくは禁固で3年を超える事件の裁判は、弁護人が就かないと審理が進められない。そこで、分離された案里被告の公判だけが淡々と続いていた。

 その案里被告の裁判に、克行被告が証人として出廷したのは、10月22日のことだった。克行被告は、昨年の参議院選挙で案里被告を当選させるために、地方議員や後援会員ら100人に2901万円を渡したとされる。

 長くなった前髪を垂らして、少し痩せたのか、スーツが身体よりひとまわり大きく見える克行被告は、裁判長から名前を訊かれてはっきりと答え、職業を尋ねられると、「衆議院議員です!」と大きな声で答えていた。

 そこから検察官の尋問がはじまる。

■裁判での態度が「麻原彰晃」とそっくり

 「あなたの職業は衆議院議員ですね」

 「はい、そうです」

 最初の質問まではよかった。そこから地元広島の選挙区についての質問がはじまると、証言を拒否しはじめた。

 「裁判長!」と最初に声を張り上げ、弁護人を一昨日に選任したこと、打ち合わせが十分でないこと、自身が刑事被告人であることなどを理由に挙げ、さらには憲法や刑事訴訟法の条項までを述べて「必要なことは自身の法廷でお答えしたいと思います」と、証言を拒否する。

 それでも検察官が質問を続けると、そのたびにまわりくどく説明して証言拒否を表明する。検察官もこうした事態に慣れていないらしく、返答に窮するような曖昧な趣旨の質問が飛び出す。

 すると裁判長が割って入り、質問の仕方を指示したり、被告人に説明したりする。さらには弁護人も異議を差し挟んで、それで法廷が混乱する。

 そんな法廷を傍聴席から観ていて、かつてのある裁判を思い重ねていた。この裁判のやり方や態度は、まるでオウム真理教教祖の麻原彰晃(本名・松本智津夫)元死刑囚や、その弟子たちとそっくりなのだ。

 地下鉄・松本両サリン事件や坂本弁護士一家殺害事件など、一連のオウム事件の首謀者として裁かれ、2年前の7月に死刑が執行された麻原。その初公判は、逮捕から5カ月後の1995年の10月26日に予定されていた。

 ところが麻原はその前日の夜になって、1人だけだった私選の弁護人を突如、解任。裁判の開始は延期となり、世間を騒がせた。そうして裁判を先延ばししている。このとき、裁判所は国選による弁護人を12人選任して、それから半年後の1996年4月24日に初公判を開いた。

 公判がはじまったはいいが、今度は開廷ペースをめぐって、麻原側と裁判所がもめる。

 月に6回のペースで審理を進めたい裁判所に対して、それでは準備ができない、十分な弁護活動ができないとして、麻原の弁護団が反発。ついには開廷期日に弁護人が全員出廷しないというボイコットまでして審理を止めて抵抗した。結局は月に4回のペースで裁判が進むことになる。

■期日をめぐってもめるのも一緒

 河井夫妻の裁判は「百日裁判」として進められてきたはずだった。選挙効力の有無にかかわるため、起訴から20日以内に初公判を開き、100日以内に判決を出すように努力しなければならないことが公職選挙法で定められている。

 そのため、週に3~4回のペースで公判が開かれることになっていたが、それでは証人尋問が過密で、準備をする時間がない、十分な弁護活動ができないと不満を募らせた克行被告が、弁護人を解任している。

 期日をめぐってもめるのも麻原と一緒だ。しかも、克行被告の場合は一旦解任した6人のうち4人を再任している。理由ははっきりしないが、「被買収者」の証人尋問を前に審理を止めさせているのだから、意図的なものがあったと勘繰りたくもなる。

 克行被告は、弁護人を解任するまでの公判で、証人を恫喝することもあった。9月4日の裁判には、案里被告の公設第1秘書が出廷。検察の取り調べに関する弁護側からの質問の答えに窮すると、検察官に助けを求めるように視線を送っていた。

 そこに克行被告の太い声が響く。

 「なんで検察のほうを向くんだ!」

 それを裁判長が不規則発言として注意している。

 不規則発言による証言妨害は、麻原が繰り返したことだった。事件について証言するかつての弟子たちに、証言台の真横の被告人席から「地獄に堕ちるぞ」なとど聞こえるようにささやいて、証言を止めてしまうことすらあった。そのたびに裁判長の注意が飛んだ。

 麻原に限らず、かつての弟子たちも自身の公判で証言の妨害をしている。取り調べ状況を証言する検察官に向かって、いきなり「嘘つき!」と怒鳴って手前の長机を両手で思い切り叩いて立ち上がったり、共犯者の曖昧な証言に不満を抱いたのか、喉から絞り出すような声で「なに、ニヤニヤしてんだよぉ」と威嚇したりする被告人がいたほどだ。

 夫の克行被告が法廷に姿を見せなくなって、単独での審理が進む案里被告が、法廷で号泣することもあった。10月13日、克行被告から現金を受け取ったとする広島市議が出廷。「以前、元法相から恫喝されたことがあり、現金を断れなかった」と証言すると、案里被告が大泣きして、「主人のご無礼を許してください」と発言している。

 それに重なるのは、地下鉄サリン事件の実行犯たちの法廷での姿だ。高学歴だった実行犯たちは罪を認めて、事件の一部始終を法廷で証言している。そこでは必ず被害者遺族への謝罪の言葉を口にしていた。「弟子が勝手にやったこと」として無罪を主張している教祖に代わって謝る。号泣する者もいた。

 今回の公職選挙法違反事件でも、選挙事務所スタッフなどの証言から、細部にわたって指示を出し、全体を統括していた責任者は克行被告であることで一致している。その首謀者が事件に向き合わずに、共犯者の妻が泣いて謝る。皮肉にも、河井夫妻が裁かれる場所も東京地方裁判所104号法廷で麻原と一緒だ。

 同じ法廷で、麻原も証言拒否を続けた。一部の弟子たちも共犯者の法廷で証言拒否をしたことがあった。麻原は不遜な態度で黙り込んだまま、一切なにも語らなかった。宣誓すら拒否した。

 弟子たちはもっと要領を得ていて、検察官の尋問に理由を述べたあと「証言を拒否します」とのみ答えて、30分ほどで終了していた。克行被告の証人尋問のように、半日をかけて証言は得られないような混乱もなかった。

■克行被告と麻原の違い

 結局のところ、麻原は事件と向き合うことを避けた。そこには裁判が自分の望むようにならない強い不満がある。オウム真理教という組織の中で、絶対的な権力を握り、思うがままに無理も押し通して振る舞ってこられたからこそ、裁判では自由にならないことがどうしても受け入れなれない。

 河井克行という人物も、安倍晋三前首相の首相補佐官を務め、法務大臣にまでなった。今の菅義偉首相に重用されたとも言われる。地元選挙区では、自分の意向に首を振る人物はいなかったのだろう。恫喝されたという市議の証言もある。

 思うところはほとんど叶った。妻を参議院議員にすることにも成功した。それが一転して裁かれる立場となったとき、望むような展開が見えてこない。だから納得がいかないのだろう。それを弁護能力のせいにする。十分な弁護活動ができないという環境のせいにする。それで法廷が混乱する。

 おそらくは、克行被告も起訴事実を認めることなく、裁判は終結に向かうはずだ。判決はどうあれ、すでに審理を止めていることからしても、結果的に裁判は長引くことになる。麻原はそれで少しでも長く生き延びることができた。

 一方で、克行被告はいまでも国会議員だ。案里被告共々、自民党を離党しても議員辞職はしていない。議員であり続ければ、議員報酬と文書通信交通滞在費、それに6月と12月にボーナスを受け取れる。その額、年に数千万円。裁判が長引いても、やがて政治生命が絶たれるとしても、いまも現金だけは入ってくる。

 麻原と克行被告の大きな違いは、そこにある。

東洋経済オンライン

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最終更新:10/29(木) 5:31

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