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サザエさん「5連続パー」を奇跡だと感じる理由

10/29 13:21 配信

東洋経済オンライン

脳科学者で、テレビ番組のコメンテーターとしても活躍する中野信子氏と、ベストセラー著作を多く抱える行動経済学者の真壁昭夫氏が、共著『脳のアクセルとブレーキの取扱説明書 脳科学と行動経済学が導く「上品」な成功戦略』を出版しました。

「成功者」の脳の中で起こる現象や行動のポイント、さらには子育て・外見・人間関係といった多くの人が抱える悩みに対し、脳科学と行動経済学の観点から対処法を示しています。
本稿では、同書から一部を抜粋しお届けします。

 中野:テレビアニメの「サザエさん」(2020年6月7日放送回)で、次回予告の後に行われるジャンケンにおいて、サザエさんが「5回連続で同じ手」を出していると話題になりました。

 私は、まったくありえる話なのに、皆が奇跡だと思っていることこそが面白い、と感じました。

 これは統計の誤謬。これには皆さんもだまされてしまうようで、株式市場などマーケットの世界でも、同じようなことは起こるそうです。

 今回はマーケットの動きについて、行動経済学と脳科学の分野から分析していきたいと思います。

■株が3日連続で上昇すると翌日は下がる? 

 真壁:日経平均株価が3日連続で上昇したとしましょう。では、4日目もこのまま上がるのか、それとも下がるのか? 

 「3日も連続で上がったから、そろそろ下がるかもしれない」 ――。株式投資をやっている人ならば、こんなふうに思った経験があるのではないでしょうか? 

 また、連騰が続いたので、そろそろ下がるだろうと思って買いポジションを処分したところ、まだまだ上がって悔しい思いをした、そんな経験がある人も多いかもしれません。

 これは行動経済学でいうところの、「ギャンブラーズ・ファラシー(ギャンブラーの誤謬)」というテーマです。

 株価が3日続けて上がる話と同じように、例えばルーレットを回して赤が3回続けて出たとします。そうすると、多くの人が「4回目は、そろそろ黒が来るだろう」と思い込んでしまいがちなのですが、実際に次のルーレットで出る色の確率は変わっていません。

 真壁:その前に3回連続して赤が出ていたとしても、次にルーレットを回したとき、赤が出る確率も黒が出る確率も半分半分、変わりはありません。すなわち、赤が3回続こうと10回続こうと、その次にルーレットを回したときに黒が出る確率は、やはり半分なのです。

 このことを裏付ける「大数の法則」というものがあります。これは統計学の考え方なのですが、ルーレットを合計3万回まわしたとすると、だいたい1万5000回くらいは赤が出て、残りの1万5000回くらいは黒が出るというもの。つまり、何度も何度も数多く試行を重ねることで、その事象の出現回数が理論上の値に近づいていく定理のことをいいます。

 ルーレットで赤と黒が出る確率は、それぞれ2分の1ずつなので、ルーレットを回す回数を増やせば増やすほど、赤と黒が出る確率は、それぞれ2分の1に近づいていくわけです。

 話を元に戻しますと、赤が続けて3回出た場合、これまで3回しかルーレットを回していないので、3回まで赤が出たからといって、4回目で黒が出るという理屈は成り立たないのです。

 中野:こうした統計の誤謬は、人間が引っかかりやすい典型ともいえるものです。ルーレットでも「次はこの色が出るに違いない」と決めつけてしまうと、統計学上では同じ確率になるはずにもかかわらず、ついつい4回連続で同じ色が来るはずがないなどと思い込んでしまうのですね。

■シンメトリーに安らぎを感じる理由

 真壁:人間は左右対称なもの、すなわちシンメトリーなものに安らぎを感じるところがあるのです。

 例えば木。さまざまな形をしたものがあり、広葉樹などは自由に枝を広げています。

 しかし、例えば針葉樹の杉や檜を見ると、「ああ、立派な木だなあ」と、安定感を覚えます。

 考えてみると、杉や檜といった針葉樹は、基本的に左右対称に成長するので、人間は安らぎを感じやすいのでしょう。こうしたシンメトリー的なものを、とくに人間は好むのです。

 ルーレットで考えた場合も、赤と黒が最終的に2つ並べば、左右対称でシンメトリーといった感じがするから、赤が来れば次は黒が来るだろうと思い込む。いや、そもそも思い込みたいだけなのかもしれません。それで安らぎを感じようとしているのではないでしょうか。

 マーケティングでは、最初に提示された数字や条件が基準となって、その後の判断が無意識に左右されてしまうことを利用した「アンカリング」という手法があります。それに近い状態なのかもしれません。

 真壁:ルーレットで赤が出るか黒が出るか、これは、それまでの結果とはまったく関係がありません。それでも、そもそも先入観のようなものがあるので、心理的に自分が望む「シンメトリーな結果」になってほしいと思うのではないでしょうか。

■エネルギーの大食漢・脳が好む美人の条件

 中野:いまのご指摘は極めて鋭く、人間の本質的な部分を突いた話ではないかと思います。人間は「シンプルなものこそが美しい」とイメージしてしまう傾向があります。例えば美人といわれる人の顔は左右対称であることが多いと言われています。では、なぜ左右対称の顔を美しいと感じるのでしょうか? 

 その人が健康であり、それが顔に表れているから、結果、左右対称であることに美しさを感じる、というふうに考えがちですが実は脳に理由があるのです。

 これは、脳の「認知負荷」の問題です。脳という器官は、実はものすごく楽をしたがっています。そのような状態では、左右対称の顔のほうが楽に認知できるので、ついついそうしたタイプを美人だと感じてしまうわけです。

 では、なぜ、脳は楽をしたがるのでしょうか?  それは、脳がものすごいエネルギーの大食漢であることに関係しています。人間の脳は、物事を考えたり、何かを認知したりするだけで、膨大なカロリーを使うのです。

 ところが人間の脳は、ほかの動物と比べれば相当な重量があるのですが、人間の体全体から見ると、実は3%程度の重量しかない。この3%の重量で、カロリーや酸素は、体全体の必要量の4分の1ぐらいを使ってしまうのです。

 会社内に社員全体の3%ぐらいの人数しかいない部署があり、もしその部署が予算の4分の1を使い切るとなると、これは大変なことになります。社内から猛反発を食らうでしょう。あるいは社内全体に対し、非常に丁寧な説明が必要になるかもしれません。ほかの部署からは、いずれにしろ「なるべく節約しなさい」と言われるはずです。

 これは脳の場合も同じであり、つねにほかの器官から節約を求められているわけです。ゆえに、なるべく節約しながら脳を動かしたいのです。

 結果、節約しながら脳を動かせるような刺激があれば、それを好ましく感じるのは当たり前のことで、左右対称の顔を美しいと感じるのは、脳が使用カロリーを低く抑えるためなのです。こうして認知負荷も低く抑えることができるのでしょう。

 人間が左右対称なもの、シンメトリーに安寧を求めてしまうのは、認知負荷を低く抑えたいからだということです。

 美しいことと正しいことは、必ずしも論理的に一致しているとは言いがたいのですが、私たちはこれを混同してしまう傾向を持っています。例えば、誰もが論理的であると思うような有名な物理学者でも、「その方程式はなぜ正しいといえるのですか」と問われたとき、「美しいからだ」と答えたというエピソードが知られています。

 美しさを判断することと正しさを判断することは、脳の同じ領域で処理が行われているので、脳の中ではこれらを峻別することが難しいのです。

東洋経済オンライン

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最終更新:10/29(木) 13:21

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