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2020年の為替相場を検証し今後の投資を考える

10/26 4:51 配信

東洋経済オンライン

 新型コロナウイルスに振り回され続けた2020年も残すところ、あと2カ月強になった。実体経済は深手を負ったままだが、未曽有の規模の財政・金融政策を背景として金融市場、とりわけ株式市場の勢いはもうコロナ前に戻ったかのようである。一方、為替市場の動きは穏やかであり、市場で話題になることが少なくなった。しかし、年初来の動きをフォローしてみると特筆できる論点が見えてくる。

■やはりスイスフラン、円は強い

対ドルでの主要通貨の推移を見てみよう。なお、最近は人民元の騰勢が目を引くが、ここではあえて入れていない。過去の記事『為替のバイデントレードをどう考えるべきか?』でも議論した政治的要因のほか、上昇する中国金利や需給(蓄積する経常黒字や貿易黒字)という事実を踏まえれば人民元の上昇は当然である。しかし、政治的な恣意性も影響する人民元の値動きは、今回、とりあえず脇に置いて話を進めたい。

 多くの市場参加者が感じているとおり、リーマンショック後の状況と比較すれば、「リスクオフの円買い」や「リスクオフのスイスフラン買い」の迫力は薄れたように感じられる。とはいえ、新型コロナウイルスの不安が市場を支配し始めた2月以降、円やスイスフランが対ドルで下落したのは3月上旬の一瞬のみで、このときは世界中でドル調達コストが上がっただけという事実も見逃せない。

 この種のドル買いはリーマンショック直後にも見られた急性的な反応であり、金融市場における脊髄反射のようなものだ。消費者がマスクの購入に殺到して価格が高騰したのと同じで、購入対象の本質的な価値を示すものとはいえない。金融機関は実際にドルが不足しているから調達したいわけではなく、「不足しそうだから」調達を試みたもので、一過性の動きで直ぐに収束した。

■ユーロも経常黒字の定着でリスクオフ通貨に

 また、5月に入ってからはユーロ相場の復調が目立ち始め、6月以降、はっきりと年初来上昇圏に復帰、足元に至るまで騰勢が続いている。この間、域内の新型コロナウイルスの感染動向には紆余曲折があり、これに応じて実体経済への懸念も変化したが、ユーロ相場は大きな動揺もなく現在に至っている。

 「ユーロは今後リスクオフ通貨としてのポジションを確立していくのではないか」という主張は、2014年に刊行した拙著『欧州リスク:日本化・円化・日銀化』で展開したものだが、ここにきて本当にそうなりつつあるようにも感じる。

 やはり世界最大の経常黒字(および貿易黒字)や長年続くディスインフレ状況は通貨高の理由として正当なものであり、実体経済の強弱とは無関係に威力を発揮する。政治や経済の強弱と通貨の強弱がリンクしないことは日本がどの国よりも痛感した事実である。ユーロ圏は政治的には常時不安を抱えているが、「永遠の割安通貨」を擁するドイツがコンスタントに外貨を稼ぎ続けることから「需給面では堅調なユーロ」という論点が崩れることはない。

 こうした需給の強さは現在のような「金利のない世界」では尊重される側面であり、これは欧州大陸が現在、本格的な感染第2波に見舞われている中でユーロ高が進んでいることからも明らかである。こうした動きはリーマンショック後、ユーロ圏の経常黒字が安定していなかった時代では見られなかったものだ。当時はリスクオフ時にユーロは売られやすい通貨だった。

 次に、足元の動き(10月22時点)に限って、年初来の対ドル変化率を比較してみよう。対ドルで上昇している通貨は上述した円・スイスフラン・ユーロ以外ではスウェーデンクローナ、デンマーククローネ、台湾ドル、人民元、韓国ウォン、オーストラリアドルである。これらはすべて経常黒字国の通貨であるという共通点がある。

 オーストラリアは経常赤字国のイメージが強いが2019年は均衡(やや黒字化)しており、今年は黒字幅が広がる見込みだ。経常黒字が長年積み上がると、対外純資産になり、日本の場合は29年連続で世界最大、近年ではドイツが世界第2位の座から日本の背中に近づいているのが現状である。円やユーロが対ドルで買われているという事実は、「需給面で見て買える通貨だから」というごくシンプルな理由もあるはずだ。

 ところで、現在のような不安定な局面では新興国通貨は総じて敬遠されやすい印象もあるが、例えばメキシコペソなどは経常黒字でなおかつバイデントレードにより選好されやすい通貨とも考えられ、今後の上昇余地に期待したい通貨である。メキシコペソに限らず、トランプ政権に冷遇されていた国の通貨は買われる可能性がある。

 片や、ノルウェーやロシアはまとまった幅の経常黒字があるのだが、値動きが冴えない。これはコロナ禍を受けて実体経済が癒えるまでは、原油需要も復元されず、産油国の通貨は軟調な値動きを余儀なくされるという含意になるだろう。この意味ではメキシコペソにも原油相場で振れる危うさは残る。

■円のボラティリティが小さくなった

 近年、円相場は市場参加者の関心が薄れていることからそもそも取引量自体が細っており、「終わった通貨」のように評価する声もある。正直、それを全否定できないような状況ではあるように思う。だが、「有事において対ドルでの価値が安定している」という事実は地味ながらも前向きな事実とも言える。金融市場において「ボラティリティが小さい」ことは予見可能性が高く、リスク量が小さい「価値が安定した資産」という評価につながる。

 そのような通貨が自国通貨であるという事実は国、経済、ひいては国民にとって僥倖(ぎょうこう)と言えるものだ。往時のような迫力はないため注目は薄れがちだが、「やっぱり円は危機に強い通貨だった」という整理は誤りではないと強調しておきたい。

東洋経済オンライン

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最終更新:10/26(月) 4:51

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