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手本はルイ・ヴィトン、松屋社長が描く百貨店像

10/26 5:21 配信

東洋経済オンライン

1869年に創業した松屋は、東京都内の銀座と浅草に店舗を構える老舗百貨店だ。2020年2月期の百貨店事業売上高816億円のうち9割以上を占めたのが銀座店だった。訪日外国人客が大きな支えとなり、免税品売り上げの比率は約25%にも上った。
しかし、新型コロナウイルスの影響でインバウンド需要が雲散霧消し、松屋を取り巻く経営環境は激変した。
10月15日に発表された2020年3~8月期決算は、売上高が前年同期比54%減の205億円、営業利益は22億円の赤字(前年同期は3.8億円の営業黒字)に沈んだ。「ウィズコロナ」時代の百貨店ビジネスはどうあるべきなのか。秋田正紀社長に聞いた。

■外商顧客向け販売会で「手応え」

 訪日客需要が蒸発した「銀座の百貨店」はどのような状況なのか。銀座店の月次売上高推移を見ると直近9月も前年比37.9%減と、依然として前年割れが続いている。しかし意外にも、秋田社長の表情は明るかった。

秋田社長
「土日の銀座にはかなり人が戻ってきている。テレワークのため平日は自宅にいる人は、外出したいという気持ちから土日に外に出るのではないか。コロナという制約が今後解消されていく中では、人と会うことのよさが再認識されてくる。

海外からの顧客が来られないということは、国内の人も基本的に海外に出られない状態。国内旅行がもっと自由にできるようになれば、地方の顧客も来店できるので、買い物需要を掘り起こすチャンスはまだまだある」
 秋田社長の自信の裏には堅調な「外商」の存在もある。外商とは、購入金額の大きい優良な顧客に対して、顧客を担当する社員が買い物の相談や商品の提案などをするサービスだ。

 松屋では「松美会」という外商顧客向けの販売会を年に2回行っている。そこでたしかな手応えを感じているようだ。

「外商顧客の売上高はかなり前年に近い数字となっている。9月初めの『松美会』は入場客数を抑制して開催したが、買い物をするという気合いで来ていただいているので、客単価が非常に上がった。
売り上げが好調なのはラグジュアリーブランド。以前は海外で買っていたという顧客が国内で購入しているというケースもあるのだろう。今のところ株式市場も安定しているので、資産を持つ顧客にとっては買い物をしたいという気持ちが強いのではないか」

 集客の抑制などコロナ禍で制約が課されたからこその発見もあった。うさぎの人気キャラクター「ミッフィー」の原画などを展示する展覧会を7~8月に開催した際は、事前予約制で入場者数を従来の3分の1に絞らざるをえなかったが、グッズ販売での客単価は以前の展示会での実績と比べて1.5~2倍に上がった。その要因を秋田社長は次のように分析する。

「これまでは人が多いのでグッズの購入を諦めたり、ゆっくり見られずに買えなかったりした顧客がいたのではないか。つまり、今まではお客さまのニーズに応えられてなかったということだ。

百貨店業界では多くの顧客を呼ぶ薄利多売の側面が長らくあったが、もう一度考え直さなければいけない」

■消化仕入れにも利点あり

 コロナ禍によって考え直すどころか、一足飛びに「改革待ったなし」となったのが衣料品売り場だ。テレワークが進み、スーツの需要が縮むなど、アパレル業界を取り巻く環境は一段と厳しくなっている。

 「23区」などを運営するオンワードホールディングスや「ポールスチュアート」などを展開する三陽商会は、百貨店から多くの店舗を撤退させる方針を打ち出している。

 百貨店業界では、「婦人服に3フロア、紳士服は1フロア」など、衣料品の売り場面積を大きく割く形が定番だが、アパレルメーカーの店舗撤退で売り場に穴が空くおそれもある。その点を秋田社長はどう考えるのだろうか。

「1フロアを紳士服売り場として百貨店が持つ必要があるのか、といった議論にはなると思う。百貨店での購入ニーズは一定程度あるのでしっかり対応すべきだと思う反面、完全にライフスタイルが変わりつつあるのも事実だ。

ただ、松屋はコロナ前からすでにアパレルの面積を減らしていたので、(コロナ禍を受けて)大きく見直すことは今考えていない」
 百貨店の衣料品販売では、大量陳列・大量販売のために生まれた「消化仕入れ」という特殊な商慣習がある。

 百貨店が商品を仕入れて顧客に販売する「買い取り」と違って、消化仕入れではアパレル企業が在庫リスクを負いながら販売員も用意して商品を売る。アパレル企業にとっては、百貨店の集客力を使って大量に販売できるメリットがあった。

 しかし、百貨店での衣料品売り上げが減少し続ける現在では、時代遅れと見られがちな商慣習となっている。秋田社長の評価はどうか。

「消化仕入れは一概に悪いことばかりでもない。(店頭に多くの商品を並べ、商品が売れて)つねに在庫が回ることによって、店頭が『キープフレッシュ』であるという利点があった。
今は売り上げが止まっているために、その利点が見えづらい。厳しいときは悪いことばかり見えてくるが、いいところがあったからこそお互いやっていたはず」

 2020年も百貨店の破綻・閉店が続いている。1月に山形県で地元百貨店・大沼が経営破綻。8月にはそごう徳島店が閉店し、百貨店の「空白県」が誕生した。

 コロナ禍で都心店でも客足の戻りが鈍い中、基幹店など収益の高い店舗だけしか生き残れないのではないのか。

「各都道府県で県庁所在地に必ずあった百貨店がなくなったというだけでも話題になるわけなので、それぞれの役割はあると思う。
ただ、いざ店がなくなって、『なくても別に問題なかったな』と思われるなら、その店には個性がなかったということ。われわれとしては、そうならないようにしたいと思っている。どこにでもあるような店だとネットでもいいと思われるので、個性を磨きあげて、店のイメージや個性を発信することが重要だ」

■ルイ・ヴィトンのように突出したい

 秋田社長が強調するのは「百貨店としての個性」だ。「この店で買い物をしたい」「この店に行ってみたい」と思われるように個性を確立していきたいとする。そのため、松屋銀座の上層階に独自のセレクトショップを置くなど、「熱烈な松屋ファン」を増やす取り組みを行っている。

 とはいえ、「選ばれるブランド」まで魅力を高めることは容易ではない。お手本であり目標とするのが、フランスLVMHグループの著名ブランド「ルイ・ヴィトン」だ。

「ルイ・ヴィトンのすごいところは、ルイ・ヴィトンの商品を持っている人がこれだけいるのに、トップブランドとしての個性や情報をつねに発信して維持しているブランディング。あれこそまさに『キープフレッシュ』だ。
ブランドというのは商品だけではなく、ストーリーがあるかどうか。百貨店は顧客も商品群も幅広いが、店のブランディングという意味では、突出したところをどれだけ作れるかが重要になる」
 近年はインバウンド需要に大きく支えられてきた松屋だが、秋田社長は「日本のお客さまにどれだけ支持されるかという原点に執着してきた」と力説する。

 高級感やおしゃれな街といった銀座のイメージを体現し、銀座にふさわしい店として、個性を改めて示すことができるか。「ウィズコロナ」時代を見据えた模索は続く。

東洋経済オンライン

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最終更新:10/26(月) 5:21

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