IDでもっと便利に新規取得

ログイン

不器用な子が「暴走する大人」になる1つの経緯

10/26 10:21 配信

東洋経済オンライン

“あおり運転”で事故を起こす大人や、コロナ禍の中で不適切な言動をする大人など「どうしていい年をした大人が、こんなことをしてしまうのか?」という事件が多々ある。そんないわゆる“厄介な大人”たちは、実は「生きづらさ」を持った子どもたちがそのまま大人になった可能性もあるかもしれないというのは、『不器用な子どもがしあわせになる育て方 コグトレ』を上梓した児童精神科医の宮口幸治氏だ。

■あおり運転をする大人たち

 ニュースを見ていると、何度も万引きを繰り返す大人、ちょっとしたことでいきなりキレる大人、近年のあおり運転事件、新型コロナウイルスで自粛が求められる中での不適切な行動など、「どうしてそんな馬鹿なことをするのだろうか?」と不思議に思うような事件が時々あります。

 こういったよくわからない行動をする大人が生まれる背景には、次のような原因も考えられるかもしれません。

 世の中には、「生きづらい人々」がいます。「境界知能」(「知的障害グレーゾーン」ともいう)という、かつて「軽度知的障害者」と定義されていたIQ70~84までの、さまざまな困難さを抱える人々のことです。この「知的障害グレーゾーン」は、実に人口の約14%(日本では、約1700万人)に相当します。

 この障害程度の軽い軽度知的障害やグレーゾーンは、日常生活でさまざまな困難に直面しているにもかかわらず、健常人と見分けがつかず、さらに軽度といった言葉から「支援もあまり必要でない」と誤解されるため、支援を受ける機会を逃してしまうのです。

 もし、この「生きづらい人々」が、子どものうちになんの支援も受けずにそのまま大人になったら、いったいどうなるのか……。つまり、冒頭のよくわからない大人のように、さまざまな局面で、次のようなトラブルにつながる大人になってしまう可能性があるかもしれません。

 「認知力の弱さ」から……

・仕事のミスが多い
・仕事が覚えられない
・仕事が続かない
・時間を守れない
 「対人力の弱さ」から……

・上司や同僚の気持ちが想像できない
・カッとなって取引先とトラブルになる
・失敗しても反省できない
・うまい話に流されやすい
・他者からのアドバイスが聞けない
・プライドだけは高い
 「身体力の弱さ」から……

・細かい作業ができない
・物を作ったり、うまく運んだりできない
・力加減ができず物をよく壊す

 こういった大人があなたの職場や近くにいたらいかがでしょうか?  大人のくせに、もっとしっかりしてほしい、と思わないでしょうか。生きづらかった子どもたちは、そのまま大人になるとこのように“不器用な大人たち”と見えてしまうことがあるのです。

 子どもが学校にいる間は先生の目がまだ行き届き、なんらかの支援を受けられる可能性もありますが、学校を卒業するともう誰も目をかけてくれません。

 「大人になっても生きづらさのある人なら、周囲が気づいてくれて、支援を受けられるのではないか?」と思われるかもしれません。しかし、それは大きな誤解です。たとえ「生きづらさ」を持っていたとしても、日常生活を送るうえでは、一般の人たちとなんら変わった点が見られないのです。

 友人とショッピングや飲食をしたり、コンサートに行ったり、運転免許を取ったり、簡単な仕事はできたり……と、通常の生活はできるため、「生きづらさを持っている人」として気づかれることはほとんどありません。

 しかし何かトラブルやいつもと違うことが起こったりすると、様子が変わります。例えば、「これまでやっていたやり方を変えて」と言われても、「いつもこうやってきたので」と頑として譲らなかったり、いきなりキレたり、他者から親切心で言われたことを「小馬鹿にされた」と感じて不機嫌になったり、簡単にうまい話に乗ってだまされたりしてしまうなど、うまく対処できなかったりするのです。

 困ったことに遭遇して柔軟に対応できる力は、ある意味「知恵」と言えるものです。逆に、困ったことさえ起こらなければ普通に生活できるので、普通の人と見分けがつかず、生きづらさを持った人たちは「気づかれずに忘れられてしまう」可能性があるのです。

■軽度の知的障害や境界知能は気づかれないことも多い

 かつての「生きづらかった子ども」が刑務所に入ったケース(個人が特定できないよう一部内容を変更)もあります。

<ケース>「刑務所ではじめて“生きづらさ”に気づかれた」

 Qさんは、子どもの頃から勉強ができず、友だち付き合いも苦手でした。中学を卒業してすぐに土木関係の仕事に就きましたが、なかなか仕事を覚えられず仕事を転々としていました。景気が悪くなると仕事がなくなり、その日に食べる物にも困るようになりました。そこで悪いとはわかっていつつも、スーパーで食料品を万引きしてしまい、とうとう警察に捕まってしまったのです。

 しかし刑務所でも作業がなかなか覚えられないため知能検査を受けたところ、「軽度知的障害」と診断されました。Qさんは出所後、福祉サービスを受けながら生活しています。「もっと早くにわかっていたら……」と、Qさんも支援者も思っています。

 受刑者の中には、Qさんのように生きづらさを抱えた人たちがかなりの割合いるのではないでしょうか。この問題は山本譲司氏の『獄窓記』(新潮文庫)にも詳しく書かれています。刑務所の中は凶悪犯罪者ばかりと思っていたのが、実は「福祉のサポートが必要な受刑者がたくさんいた」というのです。法務省の矯正統計表を見ると、半数近くは認知機能に問題があるのではと推測さえできます。

 アメリカ知的・発達障害協会から出版されている『知的障害定義、分類および支援体系(第11版)』の第12章にはまさに認知力が弱い、生きづらさを抱えた人たちについて、次のように書かれています。

・一般集団と明確に区別できない
・多くの支援が必要にもかかわらず、より要求度の高い仕事を与えられる
・失敗すると非難され、自分のせいだと思ってしまう
・自らも「普通」であることを示そうとして失敗する
・必要な支援の機会を失うか、拒否する
・所得が少ない、貧困率が高い、雇用率が低い
・運転免許証を取得するのが難しい
・栄養不足の比率や肥満率が高い
・友人関係を結んで維持することが難しい、孤独になりやすい
・支援がないと問題行動を起こしやすい

 これは、「生きづらさ」を持った子どもたちがそのまま大人になった姿ではないでしょうか。不器用な子どもたちは、成功体験が少ないため、なかなか自信を持てません。そのため彼らの心はガラスのように繊細で、傷つきやすい存在でもあります。

 そんな大切に守ってあげないといけない子どもたちが、学校や社会の中で気づかれないどころか、反対に傷つけられ、いじめ被害にあったりして、引きこもりや心の病になったり、場合によっては犯罪者になったりしてしまうケースもあるのです。

■「生きづらい子ども」を見逃さないために

 私が勤務していた少年院はまさにそういった少年たちの集まりでした。「こんなひどい状況が続けば非行化しないほうがおかしい」といった過酷な状況下にあった少年たちもいたほどです。

 学校で気づかれないことと同様に恐ろしいのは、大人が心配して病院を受診させ、診察や検査を受けても、医師から「問題ありません」と言われた場合です。

 一度「問題がない」と診断されてしまうと、教師や保護者はそれを信じます。すると通常の子どもたちと同じ扱い・評価をされてしまいますが、実際にはなかなかついていけません。

 そういった子どもが問題を起こすと、「やる気がない」「怠けている」「ずる賢い」「気を引きたい」「親の愛情が足りない」といった残酷な判断が下されてしまうのです。

 非行少年たちも、出院後は社会で真面目に働きたいという気持ちを持っています。そこで支援者は、「やる気があるなら仕事を紹介する」と、期待して仕事を紹介します。

 しかし、たいていが1カ月、長く続いても3カ月くらいで仕事を辞めます。やる気はあっても、働き続けられないのです。なぜなら、これまでに述べた通り、認知力の弱さ、対人力の弱さ、身体力の弱さなどから、言われた仕事がうまくこなせない、覚えられない、職場の人間関係がうまくいかない、時間通りに行けないなどのトラブルメーカーとなり、雇用主から何度も叱責を受けて辞めてしまうのです。

 職がなくなったあとは……お金がなくなるので、生活ができません。その結果、簡単にお金が手に入る窃盗などをして再非行に走ってしまうのです。

 つまり、「トラブルを起こす大人」は、実は「生きづらい大人」であり、かつて「生きづらかった子ども」だったかもしれません。「生きづらい大人」を相応の支援につなげるとともに、今現在の「生きづらい子ども」たちへの理解を進め、誰もが適切な支援を受けられる社会を実現させるべきだと考えます。

東洋経済オンライン

関連ニュース

最終更新:10/26(月) 10:21

東洋経済オンライン

投資信託ランキング