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コロナで留学中止「学生派遣できず」苦しい現実

10/25 10:11 配信

東洋経済オンライン

 日本の大学生の留学生数は2020年に至るまで順調に伸びてきました。大学も文部科学省の方針の下、グローバル化を強力に推し進めてきたのです。しかし、新型コロナウイルスにより、留学を予定していた大学生は中止を余儀なくされました。

 世界が一変したコロナ禍の今、日本の大学では留学や国際教育についてどのように考え、実際に動いているのでしょうか。また現在中止している派遣留学はいつから再開するのでしょうか。グローバル化を進めてきた3つの大学の国際化のキーパーソンから話を聞くことができました。

■協定校へ派遣数1位の関西学院大学

 日本学生支援機構(JASSO)の調査によると、「協定等に基づく日本人学生派遣数の多い大学」で1位は関西学院大学(1833人)。協定校への留学は大学の努力によるものが大きいため、同大が海外への学生派遣を積極的に推進してきたことが推察されます。コロナ禍でどのような影響が出ているのでしょうか。

 同大の国際連携機構事務部の御法川卓爾氏によると、3月以降、海外に派遣していた約140名の学生全員に対して帰国指示を出しました。4月には、8~9月の短期プログラムの募集を中止(2019年度は約700名以上を派遣)。

 さらには、交換留学など1セメスター以上のプログラム参加決定者約320名の派遣中止を決定。この記事を執筆している9月30日現在に至るまで、派遣中止が続いています。

 春休み中の帰国指示をしたことで、学生からは「留学が途中で中断しとても残念」「海外で不安だったので帰国できて安心した」「学費や滞在のキャンセル費用がかかり経済的に苦しい」などの声が上がったようです。

 留学先からの帰国で経済的損害を被った学生には、手厚いサポートを実施。「井谷憲次奨学金」を活用し、留学を中止して緊急帰国した学生や、出発直前に派遣中止になった学生などの「追加的に発生した費用」を支援しています。

 コロナ禍における大学の取り組みとしては、募集説明会、帰国者報告会、留学フェアなどすべて対面からオンラインに移行。中でも帰国者報告会は、Zoomでオンライン配信され、活動報告も動画で閲覧できます。

 今までクローズドでの実施だったのが、オンライン化でオープンに発信されることになった1つの事例といえるでしょう。

 現在は、国際教育の機会を継続的に提供することを目的として、協定校とのオンラインプログラム(夏季休暇期間は海外11大学のプログラムを実施)を学生に提供したり、従来は対面で実施していた英語運用能力試験対策講座をオンラインで実施したりしているそうです。

 ポストコロナ時代に向けての取り組みとして、御法川氏は現時点で次の3点を考えているといいます。

①オンラインと海外渡航とを組み合わせた「Hybrid/Blended」型のプログラムを開発予定
②COIL型の授業の推進
③海外派遣の再開に向けた学生の安全管理体制の整備(COVID-19に対する渡航前、渡航後の安全管理を徹底したうえで派遣を再開する)
 「COIL」とは、ICTを用いてオンラインで海外大学との双方向の交流を行う教育手法。文部科学省が「大学の世界展開力強化事業」で支援しているのもあり、コロナ渦の新しい学びの形として注目されています。

■「全員留学」を推進してきた千葉大学

 2020年度から「千葉大学グローバル人材育成“ENGINE”」を始動して、国立大学では初となる学部・大学院生の「全員留学」を実現すると発表した千葉大学。現在はどのような状況なのか、渡邉誠理事(教育・国際担当)に話を聞きました。

 同大も海外への渡航者に対して3月に帰国を要請。一部の学生は在留を強く希望したものの、5月末までには全員が帰国したそうです。大学で実施している留学プログラムは、2月までは実施できましたが、3月以降については現在に至るまですべて中止。10月1日からの第4ターム以降も当面は中断する予定といいます。

 ただ、来年2月・3月の春休みのプログラムについては感染状況を見極めながら、キャンセルが可能なリミットである11月まで催行を検討。大学側の早く留学を再開させたいという意向がうかがえます。

 コロナ禍での大学としての取り組みとしては、まずは「オンライン留学」です。海外の協定校でのオンライン留学を、2年生以上を対象に9月から試験的に導入し、単位認定についてもその効果を検証しながら今後検討を進めていくということです。

 また、留学先からネットを介して千葉大の授業を受けられるシステム「スマート・ラーニング」を2年前から導入していました。コロナ禍の今は、そのICT学習支援環境を最大限活用して乗り切ることができたそうです。当初100科目くらいで準備していたところ、前期は1500科目ほどに拡大して提供。全員留学を進めてきた効果が、意外なところで発揮できた結果となりました。

 今後は「ブレンド・オンライン・プログラム」という千葉大学としてのハイブリッド型のオンライン留学を推進。メディアでの事前学習とその後のディスカッション、ZoomやMicrosoft Teamsなどでの講義に加えて、「学生が学生を教える」というTA(ティーチングアシスタント)制度を取り入れたオンライン学習システムを考えている、と渡邉理事は言います。

■グローバル教育に力を入れる「国際教養大学」

 秋田県にある国際教養大学は授業がすべて英語で、1年間の交換留学が卒業に必須なことで知られています。イギリスの教育専門誌とベネッセグループによる「Times Higher Education 世界大学ランキング日本版2020」の教育充実度で1位(総合では国内10位)です。

 「世界標準」の国際教養教育を実践する大学として、どう対応しているのでしょうか。熊谷嘉隆副学長によると、同大も今年の1~2月に提携校に出発した100名以上の学生は、現地大学でクラスター感染のリスクがあることから緊急帰国。

 ただし、そのまま協定校が提供するオンライン科目を、海外の春学期(1~5月)を通して履修可能に。そして同校に関しても、秋学期は派遣も受け入れもどちらも中止という状況です。

 そのため、秋学期に関しては提携校のオンライン科目を継続して受けるか、同大のオンライン授業を受けるかの選択制にしています。これは、学生に寄り添った柔軟な大学側の対応と言えるでしょう。

 帰国した学生の中には「もう一度チャレンジしたい」という学生の声もあり、そういった学生には大学が再チャレンジのオプションも用意。4年間で卒業しなくてはいけない経済的事情がある学生には、「1学期の留学+帰国後のオンライン授業の履修」で留学として認める特例措置をとることを決定しました。

 熊谷副学長は「この状況もいつまでも続くものではない。しかるべきタイミングで1年間のフル留学は必ず再開するし、そのスタンスは今後も変わらない」と語ります。しかし、オンラインでの学習に関しては、意外な返事が返ってきました。学問的なことに関してはオンラインで十分学べる状況にあり、実際に対面の時よりも成績が上がった科目もあるといいます。

 一方で、「ただ、本学はリーダーの育成を掲げており、実際に人と会って壁に当たりながら物事を進めていくとか、友情を育むとか、異国の地に降り立ってまったく違う文化・社会規範の中で揉まれる経験は、絶対外せない要素であると再認識したこの半年でもありました」と語ります。

 それを踏まえたうえで、さらなる留学の強化をする予定。具体的には、1年間の留学のほかに、通常授業から提携校のオンライン授業を受講できる仕組みを強化し、今回のような不測の事態にも対応できるようにする考えです。

 前述の大学と同様に国際教養大学でも、協定校とのオンラインライブ授業を進めるほか、実験的にオンラインで世界の大学の授業を受けることができるMOOCs(ムークス)を導入する予定。

 MOOCsとは、大規模公開オンライン講座(MOOCs=Massive Open Online Courses)とも訳される教育プラットフォームで、世界のトップ大学や機関の授業が無料で受講することができる仕組みです。

 「今は苦しいだろうけども永遠に続くわけじゃない。人類史的にもまたと遭遇できないような時代にめぐり合っているのだから、何ができるかをお互い考えよう」(熊谷副学長)

■留学は今後どう変わっていくのか

 今回、留学に積極的な3つの大学にインタビューしてわかったことがあります。

 1つ目は、留学に代わる価値の提供に苦しみながらも、オンライン留学やCOILなど新しい可能性を見いだしつつある教育現場の奮闘ぶりです。とくに協定校とのオンラインによる共同学習は、今後はいかに日常的な教員レベルでの交流を拡充できるのかがポイントとなりそうです。

 2つ目は、危機管理体制の見直しです。大学は将来想定される事態に関しても危機感を募らせています。

 外務省の感染症危険情報によると、現在のところ留学先の多くの国は「レベル3(渡航中止勧告)」。レベルの引き下げが検討されているとの報道もありますが、仮にレベルが下げられたとしても、第2波・第3波を想定した柔軟な危機管理体制がポイントとなりそうです。

 3つ目は、留学の価値の再発見です。オンラインでの学習効果は高いと認める一方で、異文化の理解や困難を乗り越えることによる学生の成長、日本のよさの再発見などは、留学でしか経験できないという点は、3大学とも共通していました。

 コロナで留学中止という世界的な困難をどう乗り越えるか、大学の挑戦が続いています。

東洋経済オンライン

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最終更新:10/25(日) 10:11

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