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肺炎が人の命をあっさりと奪う恐怖のカラクリ

10/25 14:01 配信

東洋経済オンライン

この10年で日本人の平均寿命は10年以上延びている。それに伴い、誤嚥性肺炎で亡くなられる方が増え、85歳以上では直接死因のトップになった。
また新型コロナウイルス感染症でも、肺炎を起こすことで重症化して亡くなられるケースがある。これから気温や湿度が下がるにつれ呼吸器感染症が増えていく傾向にあるが、そこから肺炎につながるケースも多い。
このウイルス性の肺炎が、なぜ起こるのか、どうして重症化するのかについて、ハーバード大学やソルボンヌ大学、日本では東京大学などで最先端の医学研究を行いつつ、その成果をいち早く診療に生かす医師、根来秀行氏の新刊『ウイルスから体を守る』から一部を抜粋、再構成してお届けする。

■激しすぎる炎症は体の機能を停止させる

 気温や湿度が下がるにつれ、インフルエンザなどのウイルス性呼吸器感染症患者は増える傾向にあります。とはいえ、感染者が発するウイルスを吸い込んだとしたら、すぐに感染するわけではありません。体に備わっている免疫機能が体内への侵入を阻みます。しかし、100%防げるわけではありません。こうして体内に入ったウイルスも、その多くは免疫細胞の活躍によって倒されます。しかしウイルスとの戦いで免疫細胞が劣勢になると、症状は悪化する一方に。

 鼻の粘膜から侵入を許した場合、鼻で戦っているうちは鼻水が出て鼻詰まりになるだけですむでしょう。しかしウイルスがのどにたどり着くと、のどの腫れや痛み、せきが生じます。さらに全身へ広がると、発熱などといった全身症状があらわれるのです。

 ここで最も気になるのは、体内にどの程度の炎症が起きるかです。

 炎症が起きた部位によっては、命に関わるリスクがあります。

 肺に生じた場合を見てみましょう。肺は、肺胞という小さな袋が約3億個集まってできた臓器です。肺胞のまわりには毛細血管、リンパ管と、それらを支える間質があり、毛細血管を介して酸素と二酸化炭素の交換が行われます。

 ちなみに肺に炎症を起こす症状の多くは「細菌性肺炎」です。細菌が鼻や口から入り、気管支を介して肺胞に入り込むことで発症します。その細菌とマクロファージなどの白血球が戦った結果として「浸出液」が出ますが、浸出液の量が多いと肺胞内が満たされてしまう。すると肺胞内に酸素が入れなくなり、毛細血管にも酸素が入らなくなって呼吸が苦しくなるのです。

 一方で「ウイルス性肺炎」は、直接的なウイルスと白血球の戦いでは起こりません。まず、ウイルスが体内に侵入したことに白血球などが反応し、サイトカインなどの炎症性物質を大量に出す「サイトカインストーム」を起こします。

 この免疫の暴走によって広範囲の毛細血管や間質に炎症を起こすのが、ウイルス性肺炎です。激しい炎症は間質や毛細血管を傷つけ硬くし、呼吸による肺胞がふくらむ動きを邪魔します。その結果、酸素が取り込まれなくなり呼吸不全に至ってしまうのです。

 新型コロナウイルスによる肺炎もこのパターンで、両肺に激しく炎症を起こして血栓ができるなどし、急激に症状が悪化すると呼吸不全を起こしてしまいます。

 ウイルスが増殖を始める前に免疫細胞がウイルスを倒せれば、このような問題は生じません。発症に至らず、ほとんど症状が出ないうちにウイルスとの戦いが終わることすらあるでしょう。しかし免疫機能が落ちていたり暴走したりすると、症状がひどくなるおそれが。同じようにウイルスと接触しても、感染する人と感染しない人、すぐ治る人と重症化する人がいるのは、このためです。

■重症化を防ぐカギはサイトカインが握る

 新型コロナウイルスは新種のため、まだ全貌は明らかになっていません。世界ではまだまだ感染が拡大している国があるため、ハーバード大学をはじめ最先端の研究をしている世界中の研究室で新型コロナウイルスに関する研究が日夜続けられ、数々の新たな知見が発信されています。私の研究室でも、これまでの分子生物学的手法を活用して解析をし、治療メカニズムの研究を継続中です。

 そのなかでわかってきた治療法が、いくつかあります。1つは、細胞内で新型コロナウイルスが転写され増殖するメカニズムにアプローチし、それを阻害する方法です。一時期話題となったアビガンなどは、これに当たります。ほかにも感染自体を抑制する「感染阻害分子」を探索する方法も模索中です。

 そしてB細胞が産生する炎症性サイトカイン、IL-6などが重症化を呼ぶサイトカインストームに関与していることも判明しているため、その産生を抑える方法も考えられます。私の研究室では、細胞のミトコンドリア内で酸素と栄養素を使ってエネルギーを生み出す「細胞呼吸」の研究で得た知見を応用し、ヘム合成系の産物がウイルス増殖を抑え、炎症性サイトカインを抑制する治療メカニズムを研究中です。

 こうした研究の初期段階から、持病のある方や高齢者は重症化リスクが高いことがわかっています。子どもや若者は無症状だったり風邪と変わらないような軽い症状ですんだりする傾向が見られた一方で、持病のある方や高齢者は死亡率が非常に高い傾向が確認されました。厚生労働省のまとめでは、基礎疾患のない方に比べ、がん、高血圧、糖尿病の方は5倍ほど、心疾患の方は10倍もの重症化リスクがあり、40代以下に比べ60代は10倍、80代以上は100倍以上の重症化リスクが確認されています。この背景には何があるのでしょうか。

■持病のある人が重症化しやすい決定的理由

 まず白血病や免疫疾患などの持病がある方は、そもそも感染に対する防御システムに問題を抱えています。ウイルスを駆逐する部隊の数が少なかったり、足りていてもウイルスの居場所にたどり着けなかったりしたら、感染した細胞は増える一方に。重症化しやすいのは、ある意味当然です。

 日本人にもかなり多い糖尿病も免疫機能が低下しやすく、どのウイルスにも感染のリスクが高い傾向にあります。血液中にブドウ糖が増えすぎると白血球などの免疫に関わる細胞の機能が低下し、抗体をつくる機能まで低下するからです。その状態が続いて全身の毛細血管が劣化することも、重症化リスクを高めます。

 毛細血管が劣化すると、酸素や栄養素が体のすみずみまで行き渡りにくくなって全身の細胞の機能が低下するだけでなく、感染部位に免疫細胞が届きにくくなってしまうのです。高齢者も同様に、高血圧などによって起きる生活習慣病によって毛細血管が劣化しがちな傾向にあるため、重症化リスクは高いと言えます。

東洋経済オンライン

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最終更新:10/25(日) 14:01

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