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なぜ2度あることは3度あると思ってしまうのか

10/24 13:01 配信

東洋経済オンライン

 世の中は、馬鹿馬鹿しいほど明らかな間違いにあふれている。今回はアメリカ大統領選挙を例に取りながら、簡単な行動経済学的視点で「なぜ間違いが生まれるのか」を解説してみよう。

■バイデン氏優勢なのに日本では「まだわからない」の謎

 いよいよアメリカの大統領選挙は大詰めを迎えている。10月22日夜、最後の「一騎打ち」の討論会が行われた。

 PBSという公共放送主催で行われたために第1回目よりも冷静に行われ、ドナルド・トランプ大統領に有利な初回のセッティングよりも、民主党のジョー・バイデン大統領候補に結果的に有利になったようだ。

 バイデン氏とトランプ氏の支持率の差は、トランプ氏のコロナ感染以後の1カ月で大きく開いた。足元ではやや差が縮まったが、この討論会も無風であったため、大統領はほぼバイデン氏で確定だ。

 同国での調査もすべて「バイデン氏ほぼ確実」を示しているし、かんべえ氏(吉崎達彦・双日総合研究所チーフエコノミスト)の好きなリアル・クリア・ポリティクスの「大統領選挙賭けサイト」でのオッズも、バイデン氏が圧倒的に優勢だ。

 そして金融市場もバイデン大統領を織り込んで、再生エネルギー銘柄が上昇。一方で債券市場は民主党による財政支出拡大を前提にアメリカ国債の利回りは上昇している。

 それにもかかわらず、日本国内では「まだわからない」という記事や専門家のコメントが目立つ。なぜなのだろうか。

 理由は2つある。第1に、日本人の専門家は民主党が大嫌いだからである。

 このバイアスは驚くほど広く存在する。外務省の官僚が書いたといわれる「YA論文」でも、民主党政権の外交政策は日本に望ましくないことが背景にあり、勢いあまって「トランプ政権は日本の安全保障にとって悪くない」ようなことをのたまってしまう。

 なぜ、民主党が嫌なのか。

 それは、アメリカの東部エリート層が伝統的に持つ「弱者の味方である自分に陶酔する思想」が嫌いだからである。

 日本人から見ると、自分たちは苦労したこともなく、その痛みもまったくわからないくせに、偽善的に振舞っているような印象となるようだ。これはアメリカの低所得者層にもある程度共通で、前回の「アンチヒラリー(・クリントン)」、今回のトランプ氏への根強くかつ熱狂的な支持、さらには「エリートとワシントンとメディアの連合が生み出すフェイクニュースという都市伝説」を信じる土壌ともなっている。

 アメリカや日本のアンチ民主党の是非はともかく、この結果、日本の知識層、官僚、保守寄りのメディアは、願望を込めて「民主党バイデンが負けることもありうるんじゃないか?」と予想している。

 これは、行動経済学でいうところの確証バイアスである。

 しかし、トランプ氏が勝つかもしれないと、ありえないことをまともな人々が言っている最大の理由は、前回トランプ氏が事前の予想に反して勝利を収めたことが一種のトラウマになっていることだ。前回もそうだったから、今度もありうるんじゃないか。そういうことである。

■8人に1人は「為替の神様」になれる

 普通は、人間は一度の意外な出来事では見方を変えない。1回目は偶然、いわば、まぐれである。しかし2回続くと、それはこれまでの見方を変更する動きにつながる。3度起これば、もうそれが必然になる。

 「為替相場の神様」などと呼ばれる人はよく現れる。なぜなら、為替は上がるか下がるか、2択に過ぎないからである。「円高になる」と予言して、1回当たると、それはたまたま。2回連続で当たると、彼は天才。3回連続となると、彼は為替の神様になるのである。

 しかし、これは2の3乗で確率8分の1だから、少なくとも8人に1人は神様がいることになる。「2度あることは3度ある」というのは、2度ありえないことが起きると「2回連続のショックは大きすぎて、その例外事象が、普通に起こるような気がしてくる」ことを表す。

 2016年の「トランプショック」の場合は、実は伏線はブレグジット(イギリスのEU離脱)ショックにあった。ブレグジットは、金融市場も想定外の出来事で、当日地域ごとに票が開くにつれて、「意外、あれ、あれれ、あれれれれ、まさか!」となって、そこからドカーンと英ポンドが大暴落し始めた。

 もっともブレグジットの場合、事前の世論調査では、ほとんどの調査で五分五分だった。それにもかかわらず、金融市場は「ブレグジットなどありえない」という予想で、完全に国民投票の結果は「紆余曲折があるも、否決になる」と勝手に決めてかかっていた。

 これも前述の確証バイアスであるが、仕方がない面もあった。サプライズとなった理由は主に2つだ。

 第1に、そもそもブレグジットなどという誰にとっても得にならないうえに、イギリスの運命としては壊滅的な結果、歴史が終わってしまいかねないような選択肢を、あえて国民が結果として選ぶというのは、どう考えても合理的でない。「あまりに不合理だ」というのが、現実を直視できなかったもっとも大きな原因であろう。

 第2の理由は、国民投票というのは、ほぼ初めての出来事だったからだ。国民投票はめったに行われないし、行われたとしても毎回議決すべき事項は異なる。したがって、客観的な予測をしようにも、データどころか、1度の前例もない。確率分布が描けないという意味で、リスクではなく、ナイトの不確実性に近いイベントだったと捉えられる。歴史的に一度きりの事件であるから、客観的な予測をしようにもどうしていいかわからない、ということだ。

■ブレグジット後にトランプ当選のサプライズがあった

 この結果、ブレグジットはあまりに衝撃的な結果をもたらした。この衝撃が大きすぎて、人々、とりわけ市場と専門家たちの間には強いトラウマとして「世論調査などの予測は当てにならない」という印象が深く刻みこまれたのである。

 そして、トランプ氏が大統領に当選するという、この年2度目のサプライズが、その4カ月後に起きた。

 こちらも、ブレグジット以上のサプライズだったことは、4年前になるが誰もが覚えていることだろう。理由はブレグジットと同様だ。

 トランプ氏はこれまでも大統領選挙に出馬しようとしていて、ほぼ泡沫候補扱いだったのが、共和党にほかにはろくな候補がいなかったので、あれよあれよという間に共和党の候補になってしまった。共和党内部からも強い反対が残り、一枚岩でないどころか誰もワシントンでは支持しないという有様だった。結果からすると、それが逆に効果的で、ワシントンの外にいて「これまでのエリートたちとは違う」、という保守的な低所得層の支持を受けて当選してしまった。

 「トランプ大統領」が想像できない以上「そんなことは起こるわけがない、と信じていた、いや希望していた。両者が混乱したまま、思考停止になっていたのだ。

 その中で、前述の確証バイアスで「ヒラリー有利」の情報だけを受け入れていた。事前調査では「拮抗している」という情報もかなりあったのに、それは無視された。さらに、この場合は「ある種の想定外」、ということで「現実に悲惨なことになるシナリオに目をつぶる」「臭いものに蓋」「想定外の事象を過小評価する」という現象とも言えるだろう。ブラックスワンである。

■「言論ギャンブラー」の私でさえ怖くなる

 しかし、ここで問題なのは、トラウマになるような現象が2度続けて起きたことである。これで有識者と言われてきた人々はすっかり自信をなくしてしまった。

 それで「トランプの逆転はありうる」というあり得ない予想に、「それはありえない」と言えなくなってしまっているのである。私も「もしトランプが当選したら、もうこのコラムの執筆は辞める!」と言いたいところだが、「言論ギャンブラー」の私でさえ、少し怖い。

 なぜトランプ氏が負けると自信を持って言えるのか。それは、事前調査の結果がそうなっているからである。それはみんな知っている。ブレグジットも、前回のアメリカ大統領選挙も、それで結果は違ったではないか。ではなぜ今度だけ自信を持てるのか。そういう疑問を多くの方がお持ちだろう。

 あなたは、すでに行動経済学でいうところの罠にはまっている。

 それまでの2回と今回は、まるで違うのである。

 第1に、2回のサプライズはサプライズでもなんでもなかった。かなり拮抗していて、ブレグジットなどは、完全に五分五分の事前調査だったのに、信じなかっただけだ。今回は、明らかに差がついている。

 第2に、ブレグジットの事前調査は予測精度が高くなかったと思われる。国民投票はほぼ初めてだったし、事前調査に答えるサンプル有権者たちも自分がどう行動するか、よくわかっていなかったと思われる。

 したがって、回答者がよくわかっていないのだから、回答があまり役に立たないのは当然で、結果がサプライズだろうが、調査予測としてはサプライズではない。予測しようがなかったからだ。

 それに対し、アメリカ大統領選挙は長年の伝統と蓄積がある。データとして積み重ねがあるということは、データとして絶対的に重要だ。そして、答えるほうも、大統領選挙のベテランが多い。何度も投票に行っているから、答えは決まっているし、アメリカのほとんどは事前に民主党か共和党か決まっているから、事前調査はかなり正確だ。気分で投票先が変わることは、ほぼない。

■サプライズはなくても、予測できないことが1つある

 しかし、これが前回の落とし穴だった。

 トランプ氏の支持者は、これまで選挙に行ったことがないような人々も投票した。さらに、共和党、民主党という枠組みを超えた、アンチエリート、アンチワシントン、アンチヒラリーの票が多すぎて、事前の予想がこれまでの大統領選挙の予測と異なり、構造変化が起きていたことを捉えられなかったのだ。

 今回は違う。トランプ氏の2回目の大統領選挙だ。しかも、前回のサプライズで懲りているから、調査会社も有権者もかなり慎重になっているし、分析も慎重だ。「慎重に見積もって、バイデン」なのだから、今度はサプライズはないはずだ。

 バイデン当選は確実だが、予測できないことが1つある。

 新型コロナの影響だろうって?  まさか。

 そんな些細なことではない。それはトランプ氏が敗戦を認めずにどう行動するかだ。

本連載ではかんべえ氏が「米大統領選、開票日に絶対見るべき1州はどこか」でかなり詳しく、調査・分析しているから、この連載の読者にとっては、サプライズではないだろう。だが、世の中にとってはサプライズだし、それを利用して投資家たちは自分たちの都合がよいように、混乱に解釈をつけ、乱高下で儲けようとするだろう。

 怖いのはコロナなどではなく、トランプ氏のわがままぶりと、投資家たちの強欲さだけだ(本編はここで終了です。次ページは競馬好きの筆者による週末の競馬予想や競馬論のコーナーです。あらかじめご了承ください)。

 競馬である。

25日の日曜日は、菊花賞(G1、京都競馬場、距離3000メートル、第11R)。3歳牡馬の3冠レースの最終関門である。そして今年は無敗の2冠馬コントレイルが登場し、シンボリルドルフ、ディープインパクトに続く、3頭目の「無敗の3冠馬」を目指す。

 先週(18日の秋華賞)のデアリングタクトは「無敗の3冠牝馬」となり、こちらは史上初。競馬界は、2週連続の無敗の3冠馬達成はすでに確定したかのようなお祭り騒ぎで、すでに11月29日のジャパンカップや12月27日の有馬記念がどのようなメンバーになるかを議論しているし、元騎手で予想も抜群の的中率を誇る安藤勝己氏も「デアリングタクトよりも固い」と太鼓判だ。

■日本の競馬ではなぜ無理筋の馬主や調教師がいるのか? 

 しかし、である。トランプ氏の波乱を予想する専門家たち以上に、狂っているとしか思えない馬主や調教師たちがいる。菊花賞へのエントリーはフルゲートの18頭を上回り、獲得賞金の少ない馬は抽選に勝っての出場となった。なぜ勝てないレースに参戦しようとするのか。他の勝てるレースに回るのが普通なのに、なぜこんなことになっているのか。

 理由は2つ。日本人が情緒的であることと、JRAの深慮遠謀だ。

 まず、日本人は競馬がもっとも経済合理性が最優先される産業だということを理解していない。菊花賞に自分の馬が出ると嬉しい。勝つ可能性ゼロのレースに出走登録料を払い、厩舎も騎手もカネにならないレースに、わりと強い馬(菊花賞に出られるということは、上のクラスに所属する強い馬たちで、レースを選べば必ず勝てるのだ)を出すのに、文句も言わずに付き合うのである。要は「夢を見たい」ということである。

 実際、日本の競馬産業が、世界的な競馬不況にも関わらず、活況なのは、この日本人の情緒性を利用した「1口馬主制度」が1つの理由である。そもそも私もかんべえ氏も、もう1人の連載者である経済評論家の山崎元氏もこれを楽しんでいるし、この連載の編集者もやはり所有している。

 馬を持って、自分の馬を応援するのは、馬券を買って「当たれー」と叫ぶのとは違う喜び、遥かに深い喜びが(そして哀しみが)あるのである。
世界的には、欧州貴族の経済的没落から馬主不足気味であり、欧州競馬は、アラブの石油王一族でもっているようなものだ。だが、日本は別世界。1口馬主が活況で、これにより馬主不足などはなく、世界一高いレベルの馬が集まるようになっている。

 もう1つは、JRAの戦略が、私は賛成しないが、ビジネスとしては成功した、ということである。

 日本の競馬会は互助会である。負けてもあらゆる手当が出る。調教師も厩務員も、組合に守られており、いわば「世界一の社会主義世界」だ。

 騎手も以前はそうだったが、ここは自由競争が進み、外国人騎手が世界中から集まるようになった。馬は出走すれば出走手当が出る。1着だけでなく、事実上8着まで「賞金」が出る。レースで故障すれば見舞金が出る。至れり尽くせりだ。

 そして、出走のための登録料が破格に安い。世界的には1着賞金の数%が相場だが、日本はかつて1万円だった。1億円の1万円だから、0.01%だ。現在は多少の改善がなされ、大きなレースなどは異なるが、全体的には同じようなやり方で行われている。

 この結果、弱くても、勝てなくても、馬は出走してくる。そうなると、強い馬たちの進路を妨害したり、妨害でなくとも、展開に左右されやすいレースが増え、強い馬が必ず勝つ、という能力検定レースとしての役割が果たせないことが多くなる。スポーツとしての競馬としては最悪だ。

■菊花賞はコントレイルから「馬単1点勝負」

 しかし、ビジネスとしての競馬としては最高なのである。

 まず、馬券が売れる。例えば6頭立てのレースは欧州では普通だが、それだと馬券の買う点数が少なくなる。大穴が出ない、というか存在しない。ギャンブルとしてつまらない。馬券が売れない。馬券が売れなければ、競馬界のタネ銭がそもそも入ってこない。競馬産業が発展しなくなる。

 さらに、大穴を増やすために、欧米では単勝が主流だが、日本では馬連(枠連)だったし、さらに3連単を流行らせて、馬券の売り上げを維持した。特に3連単は荒れる。なぜなら、スポーツとしては、騎手は1着を目指して乗るために、有力な2~3番手馬は勝ちに行って本命馬に敗れ、バテたところを無欲の弱い馬が後ろから直線だけ追い込んで3着に入る、ということが良く起こるようになるのだ。だから、穴党は面白い。馬券が売れる。

 このためには、6頭立てなどよりも18頭立てのフルゲートの方が断然良いのである。

 かくして、JRAのおかげで、日本の競馬は世界一になり、25日は「世界一の日本競馬での最強馬」に、勝てるはずのない17頭が参戦し、日本の競馬は平和に発展していくことになった。

 かくいう私も幸せだ。なぜなら、そういう穴馬券を買ってくれる人が居るから、私の本命馬券もオッズが付く。2枠3番のコントレイル1着で2着には相手を絞って、1800メートルでも2200メートルでも同じようなスタミナで走る6枠11番のバビットが3000メートルでも粘りを発揮する、という予想にする。馬単1点。6頭立てなら、2.8倍ぐらいだったろうが、24日朝の時点では8倍台だ。JRAに感謝する。

東洋経済オンライン

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最終更新:10/24(土) 13:01

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