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子連れキャンプの危うい一瞬、山岳救助のプロが解説する行楽の意外な落とし穴

10/24 13:11 配信

東洋経済オンライン

 北日本を中心に紅葉のシーズンを迎えている。朝晩は冷え込む日が増えたが、3密を避けることができるキャンプ場には例年以上に人が集まり、子連れで野外活動を楽しむ人も多い。だが、ときとして子どもは予想もしない行動をとり、楽しい秋の行楽が暗転してしまう危険が潜む。

 山岳救助のプロや自然学校のスタッフ、キャンプ愛好家に親子連れの遭難や迷子の事例を取材すると、想像もしないケースが見えてきた。

■黒の洋服に青い靴 闇に紛れた5歳児

 涼しくなり、虫が少なくなる秋はキャンプに最適な季節で、週末は多くの子連れキャンパーでにぎわう。しかし、少しの油断が一大事に発展することもある。

 「最初は名前を呼べばすぐに出てくるだろうと思っていた」。東京都内に住むフリーランスの女性(34)は、東海地方のキャンプ場での自身の経験をこう振り返る。

 女性は昨年5月、夫と当時5歳の長男と2泊3日の日程でキャンプに出掛けた。キャンプ場には昼過ぎに到着。しかし、雨天でぬかるんでいる場所が多かったため、テントの設営場所を決めるのに予想以上に時間がかかってしまった。設営を始めたのは午後遅い時間になっていたという。

 最初こそ長男は設営を手伝ったが、次第に飽きてテントに入りスマートフォンで遊んでいた。女性は夫と日差しや雨を遮るためのタープの設営に移った。風向きを考えながらテントに背を向けて作業し、気付いた時には、テント入り口に置いてあった子どもの靴がなくなっていた。

 活発な長男は、普段からスーパーなどでもどこかへ行ってしまうことが多かった。女性は「過去にも2、3回来たことがあるキャンプ場で、トイレの場所などは長男も知っていた。名前を呼べばすぐに出てくるだろうと思った」と話す。

 だがトイレや他のテントの周辺、隣接する林も探したが長男は見つからなかった。姿が見えなくなって20分ほど経過した時点で、女性はキャンプ場の管理棟に電話をかけてパトロールカー出動を要請した。

 午後7時近くになり、周囲は暗くなり始めていた。女性は「長男は当時、上下黒の洋服に青い長靴と目立たない服装だった。なぜこんな色の服を着せたのか激しく後悔した」と話す。長男は約1時間後にテントから数百メートル離れた場所にいたところをキャンプ場のスタッフが見つけた。

 姿が見えなくなった約1時間、男児は何をしていたのか。女性が長男から聞き取ったところ、長男はトイレに行って、テントに戻る途中に水たまりで遊んでいるうちに再びトイレに行きたくなり、離れた別のトイレで用を足した。暗くなってしまい自分のテントがわからなくなって歩いていたところを、他のキャンパーが気付き付き添ってくれたという。

 「探している間は林でケガをして動けなくなっているのではないか、連れ去られたのではないかなど最悪のケースばかりを考え、生きた心地がしなかった。今は設営にどんなに時間がかかっても、キャンプ場では目を離さないようにしている」と女性は話す。

■キャンプ場に着いたら設営の前にまず「探検」

 野外のキャンプやイベントを主宰するNPO法人千葉自然学校の小松敬事務局長は、「キャンプ場に着いたら『さあ、テントを張ろう』とすぐに設営を始める人が多いが、まずは家族でキャンプ場を歩いて探検してほしい」と呼び掛ける。

 キャンプ場の範囲はどこまでか、迷い込みそうな林やスズメバチの巣はないかなど危険なものを確認し、「なぜ危ないか」という理由も子どもに伝える。「好奇心旺盛な子どもは、想像もしない行動をとる。でも危険な理由を理解すれば、無茶はしない」(小松事務局長)。

 当然ながら子どもは面倒くさいことは嫌がるので、テント設営の時は指示をするだけではなく、完成イメージを伝え、今どの部分を組み立ているか興味を持たせながら作業するとよいという。

 キャンプは親が作業に夢中になり、子どもから目を離してしまう場面が少なくない。筆者にも経験があるがグループキャンプでは、子どもたちだけで遊びに行ってしまうこともある。昨年9月には山梨県道志村のキャンプ場で当時小学1年生の女児が行方不明になった。報道によると、女児は先に遊びに出かけた友人たちの後を追って行方がわからなくなった。

 野外に限らず子どもから目を離さないことが最も重要だが、最近は子どもの位置情報を知らせる製品開発も進む。キャンプ用品メーカーのスノーピークは9月から、Bluetooth発信機「ライフビーコン」のレンタルを始めた。

 幼児の手の平に載る大きさで、子どもに発信機を持たせておくとスマートフォンでは最大200m、専用受信機では同1.4kmの電波が受信可能で、子どもが離れた時にアラートが出る仕組みだ。

 協業したオーセンティックジャパン(福岡市)は、登山者を想定した会員制のヘリ捜索サービスを手掛ける。会員証代わりの小型発信機を持った人が登山中に遭難すると、捜索ヘリで発信機からの電波をたどり居場所を特定する。

 半径16kmをカバーし、34都道府県の警察や消防が電波をキャッチする専用の受信機を導入。ライフビーコンは日常使いを想定した製品で、久我一総代表は「携帯する習慣をつけることで、災害などで役立ててほしい」と語る。

 小学校高学年の男児が父親と縦走中、父親が約100m滑落。手足などを骨折した父は、身動きがとれなくなった。男児は何とか父親のもとにたどり着き、携帯電話を受け取って電波の通じる場所まで約100m移動し110番通報した――。これは実際に長野県内の山で起こった遭難事例だ。

 「親自身が遭難することを想定せずにグレードの高い山を選んでしまった。子どもの技量や行動力が高かったために助かったが、子どもが動けなかったり、救助要請できなかったりした場合は親子とも生命の危機にさらされていた」。長野県警山岳遭難救助隊の櫛引知弘隊長はこう説明する。

 このケースは男児の110番通報によって救助隊がヘリで現場に急行したが、悪天候のためヘリでの救助が困難だった。隊員3人が降下してその日は安全な場所まで移動しビバークし、翌朝ヘリで救助した。

■有名な山より、低い山や里山のほうが難易度が高い

 櫛引隊長は「最も大事なことは、トレッキングや登山は冒険要素の高いスポーツだということを認識してほしい」と強調する。登山はトラブルも含めて自己責任、自己完結することが原則だ。入念な準備や計画がなければ、標高が低い山であっても子どもを危険にさらしてしまう可能性が高い。

 低い山や里山など登山者が少ないルートは、危険な場所に鎖やロープが取り付けられていないなど整備が行き届いていない場所も多い。有名な山よりもかえって難易度が高い場合もある。

 子どもとの登山の基本は、最初から最後まで一緒に行動することが大原則。とはいえ、迷ったときを想定して子どもには何を教えたらいいだろうか。櫛引隊長は4つのポイントを挙げる。

 (1) 助けがくるまで動かない

 (2) 近くに風雨をしのげる場所を探す

 (3) 着られるものはすべて着て、保温と体力を温存する

 (4) 食料や水は少しずつ大事にとる。明るいうちはホイッスルを定期的に吹く

 万が一、子どもの姿が見えなくなった時に大人がとるべき行動も聞いた。道迷いは初動対応が極めて重要だ。救助要請は早いほうが発見率は高い。迷った子どもが動き、さらに迷いこむリスクを低減できるためだ。落ち着いて110番、119番通報して救助を要請する。

 電話が通じない場合は他の登山者に救助要請を依頼する。グループでの登山など子どもが複数人いる場合は、引率者を決めて他の子どもは下山させる。

 櫛引隊長は「登山の準備段階で想定されるトラブルへの対処法も考えてほしい」と言う。トイレ場所の確認、ハチやうるし、野生生物にどう対処するか、悪天候や下山が遅れて夜間になった場合を想定して、ヘッドライトなど装備も万全にしたい。

 危険なのがスマートフォンのGPS機能への過信だ。「街の中と違い、山にはほぼ目印がない。GPSで自分の位置がわかってもポイントになる地名や地形がわからなければ、救助要請するときに自分がいる場所の説明ができなくなる」(櫛引隊長)。

 紙の地図は故障や電池切れの心配がない。計画段階で子どもを含め、全員が紙の地図を見てコースタイムや危険な場所、迷いやすい場所を確認する。山の中は一本道の場所だけではなく、獣道があり登山道と間違うこともある。登山中もこまめに紙の地図を確認する習慣をつけることが大切だ。

■SNS上の成功体験、鵜呑みは危険

 グラフは過去10年、長野県で発生した山岳遭難者数の推移だ。
(外部配信先では図表やグラフを全部閲覧できない場合があります。その際は東洋経済オンライン内でお読みください)

 子どもの遭難は毎年1、2件で推移しているが、遭難者全体ではある変化がみられるという。死者・行方不明者は減少傾向、負傷者はほぼ横ばいの一方、けががなく無事救出された人の数だけが増加傾向だ。

 そして無事救出された人の多くは、疲労や道に迷って遭難しているという。櫛引隊長は「遭難者から話を聞くと『こんなに厳しいと思わなかった』などと、実力以上の山を選んでしまったケースが多い。

 疲労や道に迷う人が増えているのは、インターネットやSNSの影響ではないか」とみる。他の登山者の成功談を鵜呑みにして軽い気持ちで登山し、遭難するケースが増えていると考えられるという。

 インターネット上で見る登山の体験談は景色が良かった、意外と簡単だった、コースタイムより早かったなどと成功談が多い。体験談を書いている人の体力や知識、経験値もわからないまま、「自分も登れる」と錯覚することは非常に危険だ。

 秋の山は日を追うごとに日没時間が早くなる。日中は暖かくても朝晩は氷点下まで冷え込むことも。北アルプスなど標高の高い山では氷が張ったり、雨が雪に変わったりすることも珍しくない。

 「子どもを自然に触れさせたいという気持ちは、私も一人の父親として理解できる。ただ、自然のリスクも考えずに無理な行動をすることは親のエゴで正しい情操教育ではない。自然に潜む危険もしっかりと教育することが大事だと思う」(櫛引隊長)。SNSの華やかな体験に惑わされず、子どもの年齢や体力、体調を考えたうえでアウトドアを楽しみたい。

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最終更新:10/24(土) 13:11

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